文献情報
文献番号
201328018A
報告書区分
総括
研究課題名
違法ドラッグに関する分析情報の収集及び危害影響予測に関する研究
課題番号
H24-医薬-一般-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
花尻 瑠理(木倉 瑠理)(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
研究分担者(所属機関)
- 合田 幸広(国立医薬品食品衛生研究所 薬品部)
- 栗原 正明(国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部)
- 関野 祐子(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
- 内山 奈穂子(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
- 豊岡 利正(静岡県立大学 薬学部)
- 裏出 良博(筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構)
- 和田 光弘(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
18,500,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関変更
分担研究者 裏出 良博
旧所属 財団法人大阪バイオサイエンス研究所 分子行動生物学部門
新所属 筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は,指定薬物制度に対応し,具体的な化合物や植物を指定薬物として指定する際に考えられる問題点を科学的に解決し,規制化に必要な評価手法及び科学的データを監視指導・麻薬行政に提供することを目的とする.厚生労働省は,深刻化する違法ドラッグ問題に対し規制強化を行い,合成カンナビノイド及びカチノン誘導体を対象に,指定薬物の包括規制を導入した.その結果,指定薬物は1370物質となった(平成26年5月時点).しかし,すでに包括範囲を逸脱した新規違法ドラッグが次々と出現しており,その対応が求められている.本研究では,これら違法ドラッグ問題に対応するために,より迅速にかつ的確に危害影響を予測しうる迅速分析法及び活性評価手法の検討に主点をおいた.
研究方法
違法ドラッグ製品の流通実態調査を行うと共に,新規流通違法ドラッグの構造決定,分析用標品の調製及び迅速分析法の開発を行った.また,ヒト肝ミクロゾームを用いた代謝実験を行った.活性未知成分については,in silico, in vitro及びin vivoによる活性評価法を検討した.さらに,いわゆる脱法ハーブ製品に使用される植物の遺伝子解析による基原種識別を行った.
結果と考察
違法ドラッグ流通実態調査を行い,38種類の新規流通違法ドラッグ成分を同定した(そのうち18化合物が平成25年度内に指定薬物に指定).包括規制前後の流通変化を調査した結果,合成カンナビノイドについては,包括規制導入後に規制範囲内の構造を有する化合物の新たな出現は認められなかったが,カチノン誘導体は,規制後も市場に一部が残留して流通する傾向が見られた.違法ドラッグの簡易識別法検討を目的として,152化合物についてTLC及び呈色反応結果を取りまとめるとともに,卓上型NMRの有用性を検証した.また,包括範囲内カチノン誘導体66化合物及び異性体について機器分析データを取りまとめ,識別法を検討した.ヒト肝ミクロゾーム画分を用いて,違法ドラッグ6化合物の代謝実験を行い,LC-MS/MS分析により代謝物を予測した.一方,QSAR(定量的活性相関)により活性未知包括規制範囲外新規流通カチノン誘導体8化合物の活性予測を行った.新規流通合成カンナビノイド12化合物についてカンナビノイド受容体に対する親和性を測定した結果,2化合物を除き,麻薬JWH-018と同等以上の親和性を有し,特に5F-QUPICやFUB-PB-22に強い親和性が認められた.また,新規流通合成カンナビノイド22化合物について,マウスに及ぼす作用を調べた結果,19化合物において自発運動量が有意に減少した.さらに,合成カンナビノイド3化合物においてラット脳波を検討した結果,JWH-018と類似の変化が認められた.マウス脳スライス標本におけるシナプス伝達の反応性を指標とした薬効評価を検討した結果,MAM-2201は小脳の運動機能ならびに運動学習機能に影響を及ぼす可能性が示され,中枢神経作用はJWH-018よりも強いことが示唆された.今年度から新たにマウスの全脳を用いて,薬物の大脳における神経活動マーカー遺伝子(c-fos m-RNA)の発現に及ぼす作用評価を開始した結果,delta9-THC投与マウスでは,扁桃体や分界条床核における神経活動マーカー遺伝子の発現が上昇するが,大脳では発現が低下する傾向が認められた.また,マウスにエトカチノン及びペンチロンを投与し,マイクロダイアリシス法により脳透析液中のドパミン及びセロトニン量の変化を検討した結果,両化合物は側坐核において両モノアミン量を上昇させ,依存性を有する可能性が示唆された.脱法ハーブ21製品中の植物片について,遺伝子分析により基原植物の同定を行った結果,向精神活性を有する植物の混在は認められなかった.また,Salvia divinorumの簡易識別法開発を目的として,LAMP法により,目視での判定が可能な比色検出法を用いて検討を行い,その有用性を検証した.
結論
包括規制の範囲を逸脱した新規合成カンナビノイドやカチノン誘導体とともに,新たなタイプの違法ドラッグも出現しており,引き続き,違法ドラッグ流通に対する厳重な監視体制が必要である.また,薬事法が改正され,平成25年10月より麻薬取締部による指定薬物取り締まりが可能となり,平成26年4月からは指定薬物の所持使用も規制対象となった.今後は生体試料中薬物分析にも着目していく必要がある.本研究成果の一部は,平成25年度に5回行われた薬事・食品衛生審議会指定薬物部会の審議資料として用いられ,また分析データは監視指導・麻薬対策課長通知として発出された.今後も問題となる薬物を随時指定薬物として指定し規制していくことになるが,本研究結果はこれらの規制化に有用な情報を提供し,国の監視指導行政に直接貢献するものである.
公開日・更新日
公開日
2015-06-25
更新日
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