違法ドラッグの構造類似性に基づく有害性評価法の確立と乱用実態把握に関する研究

文献情報

文献番号
201328017A
報告書区分
総括
研究課題名
違法ドラッグの構造類似性に基づく有害性評価法の確立と乱用実態把握に関する研究
課題番号
H24-医薬-一般-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
舩田 正彦(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 栗原正明(国立医薬品食品衛生研究所、有機化学部)
  • 浅沼幹人(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科神経情報学分野)
  • 富山健一(放射線医学総合研究所)
  • 嶋根卓也(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
違法ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)として流通が確認されているカチノン系化合物の中枢作用および細胞毒性の評価を行い、その化学構造と有害作用発現強度の関連性を検討した。また、違法ドラッグの評価に関する基礎資料を提供する目的で、クラブ利用者を対象に、違法ドラッグを含む薬物乱用実態に関する疫学調査を実施した。
研究方法
カチノン系化合物は覚せい剤と類似の作用を示し乱用の拡大が懸念されるため、カチノンと類似の化学構造を有する物質に関する有害作用予測法の妥当性を検討した。実効性の高い有害作用の評価方法を確立するため、カチノン系化合物の作用点としてドパミントランスポーターに着目して、ドパミントランスポーターに関するドパミン取り込み阻害の強度に関する文献値及びコンピュータシミュレーション法による予測値を効果的に用いることで有害作用の解析を試みた。行動解析:16種類のカチノン系化合物に関して、運動量に対する影響について検討を行った。また、コンピュータシミュレーション法により、カチノン系化合物の化学構造とDATに関するドパミン取り込み阻害強度の相関性を検証した。細胞毒性の評価:カチノン系化合物に関して、ドパミン系培養神経細胞CATH.a細胞およびセロトニン系培養神経細胞B65細胞を用いて細胞毒性を検討した。疫学調査:クラブイベント来場者における脱法ドラッグ使用状況および脱法ドラッグ使用者の特徴を把握するために、ノートパソコンを用いた無記名自記式調査を実施した。計4回のクラブイベントで、307名を対象に解析を行った。
結果と考察
行動解析:すべてのカチノン系化合物において、運動促進作用の発現が確認され、中枢興奮作用を有することが明らかになった。カチノン系化合物によって誘発される運動促進作用はドパミンD1受容体拮抗薬SCH23390およびドパミンD2受容体拮抗薬racloprideの前処置により有意に抑制された。カチノン系化合物による運動促進作用は、ドパミン受容体拮抗薬の前処置により抑制されることから、作用発現にはドパミン神経系が関与していることが確認された。カチノン系化合物による運動促進作用の発現と、ドパミントランスポーターに関するドパミン取り込み阻害強度に関する相関性を検討したところ、正の相関が認められた。カチノン系化合物の作用強度を推測する場合、運動促進作用は行動薬理学的指標として有用である。同様に、コンピュータシミュレーション法によるドパミン取り込み阻害強度の予測値との相関性も良好であり、効果的な推測が可能であると考えられる。細胞毒性の評価: B65細胞およびCATH.a細胞において、カチノン系化合物の添加により、細胞毒性が発現した。疫学調査:脱法ドラッグの生涯経験率は、ハーブ系22.8%、パウダー系7.2%、リキッド系3.3%であり、過去1年経験率は、ハーブ系13.0%、パウダー系1.6%、リキッド系1.0%であった。また、ハーブ系脱法ドラッグの生涯使用経験者の半数以上が過去1年以内にも使用していることが分かった。
結論
本研究では、カチノン系化合物に関する行動薬理学的解析と作用点の一つであるドパミントランスポーターにおけるドパミン取り込み阻害作用の相関性を検証した。その結果、カチノン系化合物の運動促進作用の発現と、ドパミントランスポーターに関するドパミン取り込み阻害強度には正の相関が認められたことから、カチノン系化合物の作用発現強度の予測に、ドパミン取り込み阻害強度の値を利用できる事が示唆された。同様に、コンピュータシミュレーション法によるドパミン取り込み阻害強度の予測値との相関性も良好であり、予測値の算出によりカチノン系化合物の薬理作用の推測が可能であると考えられる。また、モノアミン系培養神経細胞株と化学発光による細胞毒性評価、蛍光指示薬を用いての酸化ストレスの検出法は、低濃度の薬物暴露早期における細胞障害性を迅速かつ感度良く、定量的に評価できる方法として有用であることが確認された。脱法ドラッグに関する実態調査から、生涯経験率はハーブ系22.8%、パウダー系7.2%、リキッド系3.3%であり、過去1年経験率は、ハーブ系13.0%、パウダー系1.6%、リキッド系1.0%であった。また、ハーブ系脱法ドラッグの生涯使用経験者の半数以上が過去1年以内にも使用していることから、依然として脱法ハーブの乱用が継続していることが示唆された。本研究で確立したカチノン系化合物の有害作用強度を解析する評価システムは、違法ドラッグの中枢作用および有害作用発現の迅速な評価法として有用であり、得られる科学データは規制根拠として活用できると考えられる。脱法ハーブを筆頭に、いわゆる脱法ドラッグの乱用拡大は依然として深刻な状況であり、乱用防止のため一層の啓発が必要である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201328017Z