大規模自然災害等に備えた血液製剤の保存法と不活化法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201328016A
報告書区分
総括
研究課題名
大規模自然災害等に備えた血液製剤の保存法と不活化法の開発に関する研究
課題番号
H24-医薬-一般-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 義昭(埼玉医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 柴 雅之(日本赤十字社 血液事業本部)
  • 下池 貴志(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 寺田 周弘(日本赤十字社 血液事業本部)
  • 野島 清子(国立感染症研究所 血液安全性研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、大規模自然災害や輸血を介して感染する感染症のパンデミックが発生した場合に備えて、1)赤血球製剤の保存法の開発、2)血小板製剤の低温保存法の開発、3)赤血球製剤の病原体不活化法の開発、4)病原体不活化法評価のための不活化評価法の開発、等の研究を実施し災害時等の輸血用血液の供給と安全性の確保をはかることを目的としている。
研究方法
1)大規模災害時に備えて凍結以外の方法で赤血球を保存する方法を検討した。現状の赤血球製剤は、4±2℃で保存されているが0、4、10、20℃の各温度条件で保存し、pH、ATP濃度、溶血、2,3-DPGを経時的に測定した。2)血小板の低温保存では、低温による血小板の活性化メカニズムを解明するために冷却が血小板形態へ及ぼす影響について低温保存時と37℃に再加温した時のGPIb複合体についてフローサイトメーターで解析した。3)赤血球製剤の病原体不活化法の開発では、紫外線照射による赤血球の劣化を防止するために赤血球保護剤の検討を行ったところ、メチレンブルー(以下MB)に可視光を照射することでウイルスの不活化が赤血球でも可能なことを発見した。そこで、ヘマトクリット40%の赤血球浮遊液を作成し、シンドビスウイルス、牛下痢症ウイルス、仮性狂犬病ウイルスを用いてMB濃度と照射量について不活化効率を検討した。4)実験室用にスケールダウンしたCohn分画法を確立した。血漿にin vitroで増殖可能なC型肝炎ウイルス株(JFH-1)を添加し、 Cohn分画法を行った(fraction 1まで)。クリオ、脱クリオ血漿、フラクション1の沈殿、同上清の各HCVのウイルス力価を測定し、HCVの挙動を解析した。
結果と考察
1)赤血球製剤を現行の保存剤である MAP液で0、4、10、20℃の各温度条件で保存した場合、0℃に保管した場合が最も2,3-DPG濃度が保たれていた。最近、食品の保存法として0℃保存が注目され、4℃保存よりも長期間、品質の低下なしに保存が可能になっている。赤血球製剤において保存中のカリウム値の増加やエルシニア菌の増殖が抑制されることが認められれば、現行よりも優れた保存法になる可能性が示唆された。2)血小板の低温保存法の開発では、高周波散乱光法を用いた血小板の形態変化の解析によって冷却による形態変化は、短期間であれば可逆性があることを昨年度に明らかにした。今年度は、血小板の形態と関係があるGPIb複合体の変化を解析したところ、低温ではGPIb複合体に変化は起らず37℃への加温によって生じることが明らかになった。加温条件を至適にすることで活性化を軽減できる可能性が示唆された。3)赤血球製剤の病原体不活化法の開発では、紫外線からの赤血球保護剤として検討したMBが可視光と組み合わせることによって効果的に赤血球浮遊液中のウイルスを不活化できることを明らかにした。特に1本鎖RNAウイルスに対して効果的であったが、二重鎖の環状DNAを有するウイルスに対しての効果は認められなかった。これまで報告されている多くの新興再興感染症の原因ウイルスは1本鎖RNAウイルスであることから興再興感染症の発生時に有効な方法になることが期待できる。MBは新鮮凍結血漿の病原体不活化で欧州においては以前から使用されており安全性は高いことが臨床的に示されている。4)Cohnの分画法で血漿を分画した場合の感染性を有するHCVの挙動を解析した結果、クリオやフラクション 1の沈殿に感染性HCVは存在したが、大部分は各分画の上清中に存在していた。また、8%エタノール処理ではHCVは不活化されなかった。
結論
 赤血球製剤の保存法として現行よりも低い温度での保存が、品質を保つために有用である可能性が示された。また、血小板の低温保存法の開発では、GPIb複合体の解析から低温保存では変化がなく加温時に構造変化することが明らかになった。低温から37℃に戻す加温条件が重要であることが示された。赤血球の病原体不活化では、MB添加による可視光の照射によって1本鎖RNAウイルスを効率良く不活化できることが示された。さらにHCVの不活化では、Cohnの分画法を評価し、解析したフラクション1までは沈殿よりも上清に多くの感染性のHCVが存在することを明らかにした。また、8%のエタノールではHCVは不活化されなかった。

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201328016Z