妊婦における医療用医薬品の安全性に関するエビデンスの構築のための薬剤疫学研究の基盤整備および実践

文献情報

文献番号
201328005A
報告書区分
総括
研究課題名
妊婦における医療用医薬品の安全性に関するエビデンスの構築のための薬剤疫学研究の基盤整備および実践
課題番号
H23-医薬-一般-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
栗山 進一(東北大学 災害科学国際研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 八重樫 伸生(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 眞野 成康(東北大学病院薬剤部)
  • 赤沢 学(明治薬科大学 公衆衛生疫学)
  • 大久保 孝義(帝京大学 医学部)
  • 目時 弘仁(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構)
  • 小原 拓(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
1,950,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、妊婦における医薬品使用に関して、レセプトを用いた薬剤疫学研究の実施可能性について検討することである。
研究方法
『ポピュレーションベースの新規妊婦コホート研究(エコチル調査)』においては、東北大学が宮城ユニットセンターとしてエコチル全体調査に追加して実施する薬剤詳細調査を推進した。平成26年2月12日現在で同意に至っている対象者について、妊娠初期および妊娠中期から後期における医療用医薬品の使用状況を評価した。また、分娩・産後1ヶ月に至っている対象者において、児の身体異常の評価を行った。

『保険組合のレセプトを用いたデータベース研究(レセプト研究)』においては、これまでの検討によって、日本医療データセンターのレセプトデータ等を用いた妊娠中の医薬品使用状況に関する情報(曝露)と出生児の先天奇形に関する情報(アウトカム)の把握が可能となり、妊娠中の医療用医薬品使用と児の奇形との関連に関する薬剤疫学研究の実践を試みることが可能な環境が整った。今年度は、妊娠中の抗てんかん薬処方の詳細の評価、児の先天奇形および変形に関する評価、妊娠中の抗インフルエンザウイルス薬処方と児の奇形との関連を母親の年齢を考慮に入れた上で評価した。
結果と考察
平成26年2月12日現在で、9,027名の妊婦が宮城ユニットセンターを通してエコチル調査に参加し、本研究課題で実施している薬剤詳細調査に関しては、6,069名に対して調査の説明を実施し、3,657名が同意している。データ入力を終えている対象者において、薬剤使用状況を集計した結果、妊娠初期(2,464名)に最も多く使用されている薬剤は市販されている解熱・鎮痛・感冒薬(1,478剤)であり、次いで、病院で処方された解熱・鎮痛・感冒薬(1,130剤)が多く使用されていた。また、妊娠中期から後期(2,380名)にかけて最も多く使用されていた薬剤は葉酸(589剤)であり、次いで、子宮弛緩薬(571剤)が多く使用されていた。また、分娩時及び産後1か月時点の児の身体異常に関する情報収集はそれぞれ2,545名、2,485名まで終えている。分娩時の児の身体異常を集計した結果、身体異常有りは147名であり、最も多く認められた身体異常は「未確定の異常」(48名)、次いで、「その他の異常」(22名)であった。また、産後1か月時点の児の身体異常を集計した結果、身体異常有りは151名であり、最も多く認められた身体異常は、「未確定の異常」(36名)、次いで、「皮膚」(27名)であった。
日本医療データセンターから入手したレセプトデータ等に基づく検討の結果、妊婦7,673名のうち、妊娠中に比較的多く処方されていた抗てんかん薬は、クロナゼパム(細粒:2名、錠:10名)およびバルプロ酸ナトリウム(徐放錠(1):11名、徐放錠(2):1名、錠:3名)であった。
対象児7,673名のうち、出生後7日以内および出生後1年以内の先天奇形および変形の傷病名が付与された児はそれぞれ248名(3.1%)、822名(10.3%)であった。最も多く認められた先天奇形および変形に関する傷病名(小分類)は、出生後7日以内では、動脈管開存(症)(Q250)(102例)が最も多く認められ、次いで、心室中隔欠損(症)(Q210)(43例)、心臓の先天奇形、詳細不明(Q249)(26例)、心房中隔欠損(症)(Q211)(17例)、の順に多く認められた。
また、妊娠初期に一度でも抗インフルエンザウイルス薬を処方されたことのある妊婦の出生児は44名であった。そのうち、先天奇形および変形の傷病名が付与された出生児は4名(9.1%)であった。妊娠初期の抗インフルエンザウイルス薬処方ありの先天奇形および変形に関する傷病名が付与されるオッズ比(95%信頼区間)は0.98(0.46-1.59)であり、妊娠時の母親の年齢調整後のオッズ比も同程度であった。
出生後1年間の医療費が100万円を超え、傷病名にP(周産期に発生した病態)もしくはQ(先天奇形・染色体異常)を含む患児(ケース)は656例で、年間医療費の平均値、中央値はそれぞれ356万円、205万円であった。双子は41件あった。ケースと突合できた母親は605例で、その3割が35歳以上の高齢出産、85%が何らかの薬剤を妊娠期間中に服用していた。薬効分類別には感冒治療剤や漢方薬の使用が比較的高かった。
結論
今年度行った研究の結果、レセプトデータ等に基づいて、妊娠中の医薬品処方状況と児の奇形情報の評価・連結の可能性、および妊娠中の各種医薬品使用による出生児の奇形リスクの評価の可能性を明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
-

文献情報

文献番号
201328005B
報告書区分
総合
研究課題名
妊婦における医療用医薬品の安全性に関するエビデンスの構築のための薬剤疫学研究の基盤整備および実践
課題番号
H23-医薬-一般-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
栗山 進一(東北大学 災害科学国際研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 八重樫 伸生(東北大学大学院医学系研究科)
  • 眞野 成康(東北大学病院薬剤部)
  • 赤沢 学(明治薬科大学 公衆衛生疫学)
  • 大久保 孝義(帝京大学 医学部)
  • 目時 弘仁(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構)
  • 小原 拓(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦の医薬品の安全対策としては、医療機関からの自発報告に基づく副作用報告制度があるが、安全対策としては不十分である。特に、妊婦においては、介入試験が困難であり、妊娠期間中の医薬品服用の安全性の評価方法の構築は急務である。本研究班の目的は、既存の研究基盤である『1.ポピュレーションベースの新規妊婦コホート研究(エコチル調査)』と『2.保険組合のレセプトを用いたデータベース研究(レセプト研究)』に基づいて、妊婦における医療用医薬品使用の安全性に関して、レセプト情報を用いた薬剤疫学研究の実施可能性について検討することである。
研究方法
『1.ポピュレーションベースの新規妊婦コホート研究(エコチル調査)』においては、東北大学が宮城ユニットセンターとしてエコチル全体調査に追加して実施する薬剤詳細調査の推進し、「1-A. 収集されている妊娠中の医薬品使用状況(暴露)の評価」(平成23-25年度)、および「1-B.児の身体異常(アウトカム)の評価」(平成25年度)を行った。
『2.保険組合のレセプトを用いたデータベース研究(レセプト研究)』においては、株式会社日本医療データセンターより提供されたレセプトデータ等に基づいて、「2-A.妊娠中の医薬品使用状況(暴露)の評価」(平成23-25年度)、「2-B.児の先天奇形および変形(アウトカム)情報の評価」(平成24・25年度)、および「2-C.妊娠中の医薬品使用と児の奇形との関連に関する薬剤疫学研究の実践の試行」(平成24・25年度)等を行った。
結果と考察
『1.ポピュレーションベースの新規妊婦コホート研究(エコチル調査)』においては、まず、平成23年5月から9月の間に、妊婦における薬剤調査方法について検証し、その後本格的に薬剤調査を開始し、平成26年2月12日現在で、3,657名が同意に至っており、データ入力を終えている対象者において、妊娠初期および妊娠中期から後期における医療用医薬品の使用状況の評価、および分娩・産後1ヶ月時の児の身体異常の評価が可能であることを確認した。
『2.保険組合のレセプトを用いたデータベース研究(レセプト研究)』においては、最終的に、レセプトデータ等に基づいて、妊娠中の妊娠中の医薬品使用状況に関する情報(曝露)と児の先天奇形に関する情報(アウトカム)の把握が可能となった。その上で、妊娠36週までの医薬品処方状況の評価が可能であった正期産妊婦15,115名の出生児における奇形は1,425名に認められ、妊娠初期に抗てんかん薬のカルバマゼピン、バルプロ酸ナトリウム、フェニトイン、フェノバルビタールを処方されていた妊婦35名の出生児における奇形は4名に認められ、妊娠初期に抗てんかん薬を処方されていた妊婦の出生児における奇形の有病オッズ比は1.21であった。また、妊娠期間全体が保険加入期間に含まれる妊娠8,109件(妊婦7.673名)およびその妊婦の出産年と同年の出生年の情報を有する生産児8,020名(妊娠7,832件)を対象に、妊娠中の抗インフルエンザウイルス薬と出生児の先天奇形および変形との関連を検討した結果、妊娠初期に一度でも抗インフルエンザウイルス薬を処方されたことのある妊婦の出生児は44名であり、そのうち、先天奇形および変形の傷病名が付与された出生児は4名(9.1%)、妊娠初期の抗インフルエンザウイルス薬処方ありの先天奇形および変形に関する傷病名が付与されるオッズ比(95%信頼区間)は0.98(0.46-1.59)であり、妊娠時の母親の年齢調整後のオッズ比も同程度であった。本解析は、暫定的な解析であるものの、妊娠中の医療用医薬品使用と児の奇形との関連に関する薬剤疫学研究の実践を試みることが可能である可能性を明らかにした。
結論
本研究の結果、妊婦における医療用医薬品の安全性に関するエビデンス構築のための薬剤疫学研究の基盤が整備されると同時にその実践の可能性を明らかにすることができた。今後、アウトカムとしての児の奇形に関する情報の精査、および解析手法に関する更なる検討によって、レセプトデータ等を用いた薬剤疫学研究の意義を向上させられると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201328005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
現在、本邦でもその利用可能性が検討され始めているレセプトデータ等に関して、妊娠中の医薬品使用の安全性評価のみならず、医薬品全体の安全性評価への利用可能性をも示唆する結果が得られ、今後のレセプトデータ等の有効活用において大きく貢献することができたと考えられる。学術的には、レセプト傷病名の精度を評価していないという課題が残っている。
臨床的観点からの成果
圧倒的に情報が限られている本邦における妊婦の医薬品使用状況およびその安全性評価の可能性を明らかにしたという点で、産科領域の臨床現場へ大きく貢献することができたと考えられる。
ガイドライン等の開発
本邦のみならず、世界的にも妊娠中の医薬品使用状況およびその安全性に関する情報は圧倒的に不足しており、本研究結果を通して、本邦のみならず、世界的にもこの領域のガイドライン作成に大きく貢献することが期待される。また、レセプトデータの利用に関するガイドライン等の作成においても、本研究のような実践経験の積み重ねは有用な情報であると考えられる。
その他行政的観点からの成果
自発報告に基づかざるを得ない本邦の医薬品の安全性評価体制に対して、レセプトデータを用いた医薬品の安全性評価体制の構築の可能性を明らかにした点で、本邦の医薬品の適正使用を推進する上で有用な情報を提供することが可能となることが期待される。
その他のインパクト
妊娠中の医薬品使用の安全性を評価することは、妊婦自身だけでなく胎児に対する影響が懸念されるため、臨床研究等を行い難い状況にある。その中で、大規模妊婦集団における医薬品使用状況及びその安全性の把握の可能性を明らかにした本研究結果は、国内外に対して大きなインパクトを持つことは明らかである。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
9件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
小原拓、尾崎芙美、吉中千佳、他
妊娠と医薬品使用に関する問い合わせ内容の調査
医薬品相互作用研究 , 35 (3) , 129-133  (2012)
原著論文2
小原拓
本邦の妊婦における医薬品使用の安全性評価
医薬品相互作用研究 , 39 (1) , 1-8  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2018-06-21

収支報告書

文献番号
201328005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,530,000円
(2)補助金確定額
2,530,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 296,242円
人件費・謝金 835,620円
旅費 374,130円
その他 444,025円
間接経費 580,000円
合計 2,530,017円

備考

備考
利息

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
-