精神医療保健福祉に関わる専門職のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199800294A
報告書区分
総括
研究課題名
精神医療保健福祉に関わる専門職のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
藤崎 清道(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 藤崎清道(国立公衆衛生院)
  • 山根寛(京都大学医療技術短期大学部)
  • 武井麻子(日本赤十字看護大学)
  • 柏木昭(聖学院大学)
  • 三村孝一(社団法人日本精神病院協会、医療法人信和会城ヶ崎病院)
  • 石井敏弘(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
精神障害者の医療保健福祉におけるニーズは、疾患の診断・治療に加えて、時代の要請として社会復帰の支援、人権の保護、Quality of Life(QOL)の維持・向上と多岐にわたる。こうしたニーズの充足には身体疾患と異なる環境整備が必要であり、本領域における多くの専門職の役割が重要である。医師、看護職、作業療法士、精神保健福祉士(精神医学ソーシャルワーカー)、臨床心理技術者や保健所、精神保健福祉センター職員など精神医療保健福祉に関わる専門職のあり方について、個別職種の具体的な機能・役割や医療施設および地域における専門職の連携の観点から検討する。これにより、新たな国家資格制度の創設を含む、行政的な対応を検討する基礎資料を提供することを、本研究の目的とする。
研究方法
「精神科看護の新たな原理と方法に関する研究」「精神科作業療法の今後の方向性に関する研究」「精神保健福祉士の今後のあり方に関する研究」「臨床心理技術者の資格のあり方に関する研究」「医療施設における精神医療に関わる専門職の連携に関する研究」「地域における精神医療保健福祉に関わる専門職の連携に関する研究」の6つの分担研究により実施した。各分担研究を進めるにあたっては、他の分担研究の成果が相互に活用され、内容の整合性が確保されるよう留意した。「精神科看護の新たな原理と方法に関する研究」では、身体合併症を持つ引き隠りの強い事例、暴言・暴力の激しい痴呆性老人の事例、家族と葛藤が強く薬物乱用・失禁・事故など多問題を呈する事例、家族への支援により患者の病状が好転した事例、退院患者への関わりをめぐってチーム内の葛藤が現れた事例、激しい自傷他害行為を繰り返す患者に対する身体拘束に関してチーム全体が葛藤状態になった事例などを研究会において検討した。「精神科作業療法の今後の方向性に関する研究」では、東北、北関東、関東、甲信越、中部、近畿、四国、中国、九州の病院、デイケア、授産施設等において聞き取り調査を実施した。疾病障害構造に関する文献レビュー及び改訂中の国際障害分類(ICIDH-2)の動向調査等を参考にして、臨床において基本となる回復段階を検討して提示した。諸外国のチームアプローチにおける作業療法士の関与について文献レビューした。「精神保健福祉士の今後のあり方に関する研究」では、日本精神医学ソーシャルワーカー協会の全国理事及び支部長と現任の精神医学ソーシャルワーカーの中堅者及び初任者を対象とする聞き取り調査を行った。日本精神医学ソーシャルワーカー協会の会員に対するアンケート調査を行った。また、札幌、名古屋、金沢において現地調査を実施した。「臨床心理技術者の資格のあり方に関する研究」では、臨床心理技術者、医師、看護者を研究協力者として協議した。看護婦(士)、保健婦、作業療法士、精神保健福祉士、言語聴覚士の業務と資格のあり方及び今後の課題に関する情報を収集した後、これを参考にして臨床心理技術者の業務と既存の法制度との関係を考察して、業務の質を担保する方法を検討した。「医療施設における精神医療に関わる専門職の連携に関する研究」及び「地域における精神医療保健福祉に関わる専門職の連携に関する研究」においては、医師、看護職、作業療法士、精神保健福祉士、臨床心理技術者、保健婦を研究協力者として、医療施設及び地域における職種間連携の現状を報告し、連携の現状を整理するとともに多職種間で共有できる枠組みの作成を並行して行った。さ
らに比較的典型的な状況を設定して、連携のあり方や各職種の役割について問題点、課題を分析した。
結果と考察
「精神科看護の新たな原理と方法に関する研究」では、強い緊張や葛藤の家族関係や生育歴が現在の病状に強く影響を及ぼしていることが窺われたが、看護アセスメントでこうした情報に関する不備が多く、家族関係や生育歴の視点が看護者に不十分であることが明らかになった。また、看護者による援助を家族が受け入れることで、患者による暴力やコミュニケーション不全といった症状が好転し、病状も改善した事例があった。「精神科作業療法の今後の方向性に関する研究」では、早期作業療法、入院経験の無いケースの作業療法や退院後の外来作業療法やデイケアなどでのサポートと地域生活支援、終末期の看取り作業療法といった精神分裂病の全回復段階にわたって作業療法の実施状況が具体的に明らかになった。精神保健福祉士のスーパービジョン及び研修の体系化を中心に研究を行った「精神保健福祉士の今後のあり方に関する研究」では、①研修は、理念のみならず実際の勤務状況や病院の期待にも対応できるプログラムが必要である ②当事者の自己決定を重視した精神保健福祉士としての関わりに関する最低限のマニュアルが必要である ③病院、診療所、保健所、作業所その他の社会復帰施設等の者を組み合わせて事例検討を行うことが望ましい ④精神保健福祉士のニーズに応えるスーパービジョンの具体的方策を明らかにすることの必要性などが明らかになった。「臨床心理技術者の資格のあり方に関する研究」では、医療チームの一員として臨床心理技術者が提供する業務の質を保障する責任の担保に係る考え方は、つぎの3つに分かれた。①臨床心理技術者の業務は医師とは異なる機能である臨床心理行為であり、医師の指示の下におかれる資格法には賛成できない ②心理行為の一部に医行為に相当する業務があるので、医師の指示が必要な行為であると考えるが、指示のあり方は法制度上の規定の必要性とは切り離して判断すべきである ③医師の指導は馴染まないが、「指導」を「連携」と表現するなら受け入れられる。専門職としてのアイデンティティに関する認識の差異が、一致を妨げている要因と考えられた。「医療施設における精神医療に関わる専門職の連携に関する研究」においては、マンパワー、事例検討の実施状況、病棟の運営体制などに応じて、医療施設では多様な連携を行っているものの、職種毎に各々の観点から連携の工夫を凝らしているに留まっており、有機的連携に不可欠と考えられた治療やリハビリテーションの総体的枠組みを職種間で確認、共有するには至ってないことが明らかになった。また、多職種間で共有できる連携の枠組み作成を試みたところ、“前駆期-急性期-臨界期-回復期初期-回復期後期"といった疾病経過を重視することと、併せて個々人の生活の有様・生き方・価値観・将来の希望などの観点も重要であることが確認された。「地域における精神医療保健福祉に関わる専門職の連携に関する研究」では、リハビリテーションを中心に実際の事例に即してニーズへの対応を検討したところ、既存の職種固有の専門性よりもマネージメント、コーディネートの機能を要する場面が多いことが明らかになった。こうした機能は役割分担が不明確で、施設や職種毎に個別的に提供されているのが現状であったため、多職種で共有できる総体的枠組みの作成を試みた。本年は、わが国の現状を把握し、課題を整理することを中心に研究を実施した。このうした実状を踏まえて、あるべき姿及び課題解決の現実的施策の探究を中心に、次年度以降の研究を発展していくことを考えている。
結論
精神科看護に家族関係、生育歴を容れることの重要性、全回復段階にわたる作業療法の具体的実施状況、精神保健福祉士のスーパービジョン及び体系的研修に必要な内容が明らかになった。医療チームの一員として臨床心理技術者が提供する業務の質を保障する責任の担保に係る考え方が整理された。また、医療施設及び地域における専門職連携の現状が分析、整理された。

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