血液製剤への核酸増幅検査(NAT)の実施及びその精度管理に関する研究

文献情報

文献番号
201328003A
報告書区分
総括
研究課題名
血液製剤への核酸増幅検査(NAT)の実施及びその精度管理に関する研究
課題番号
H23-医薬-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
内田 恵理子(国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子細胞医薬部)
研究分担者(所属機関)
  • 山口 照英(国立医薬品食品衛生研究所 生物薬品部)
  • 岡田 義昭(国立感染症研究所/埼玉医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
8,500,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関の異動 研究分担者2 岡田 義昭 国立感染症研究所(平成25年9月30日まで)→埼玉医科大学医学部(平成25年10月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
血液製剤のウイルス安全性のさらなる向上と合理的な技術適用を図るため、平成16年に制定された「血液製剤のウイルスに対する安全性確保を目的とした核酸増幅検査(NAT)の実施に関するガイドライン(NATガイドライン)」の改定に寄与するための研究と、そのガイドラインへの適合を評価するための技術開発を行うことを目的とする。特に、最新のNAT関連技術の向上に対応するため、新たな技術を導入する際の評価方法の提示やバリデーションの要件を明らかにすると共に標準パネルの作製を含めた検討を目的とする。
研究方法
1)NATガイドラインの改定に向けた検討として、血液製剤のウイルス検出のためのNAT関連技術の進歩や欧米の規制当局の最新のガイドラインに関して初年度に実施した調査結果及びNATガイドラインの見直しのための作業グループ(WG)で昨年度提案された改正事項についてさらに詳細に検討し、ガイドラインの改正案を作成した。
2)NATの評価に用いる参照パネルに関する検討として、Parbovirus B19 (PV B19)のGenotype 1, 2の高濃度及び低濃度サンプルから構成される参照パネル候補品について、国内外11施設による共同検定を実施し、定量NAT又は定性NATにより国際標準品の力価に基づいて参照品の力価を算出した。
3) PV B19の感染性を簡便に測定法する方法として、従来の nested RT-PCRによる定性法を改良し、リアルタイムRT-PCR法による感染性の評価系を構築した。
結果と考察
1)WGでの検討に基づき、ガイドラインの改正案を作成した。改正案に記載された主な事項としては、(1)全体の記載をコピー数表示からIU表示に変更すること、(2)適用するウイルスの範囲としてHBV、HCV、HIVのみならず、現在試験的に検査されているウイルスや、今後導入されてくる可能性のあるウイルスも含めること、(3)NATに用いられる機器等の自動化が進んでいることから、汚染防止のための施設・設備要件について、記載事項の整備や自動化機器を使う場合でも廃液等からの汚染のリスクがあることに関する記載の追加、(4)定量的PCRにおけるカットオフ値の設定、(5)Multiplex PCRなどの最新技術の導入にあたっての注意点、(6)NATの高感度化により低濃度のランコントロール設定にあたっての注意点、(7)検出機器のシステム適合性、(8)ウイルスの変異について適切なモニタリングを行うことの必要性や対応策、などが挙げられた。
2)ウイルスゲノムのNATによる検出では、そのバリデーションを行うために目的とするウイルスの標準品や参照パネルを用いた評価が必須である。そこで、PV B19検出のためのNATの精度評価に必要となる参照パネルの樹立を行った。共同検定で得られた結果より参照パネル候補品の力価を次の通り決定した。Genotype 1高濃度サンプル:6.6×10^10 IU/ml、Genotype 1低濃度サンプル:6.6×10^5 IU/ml、Genotype 2高濃度サンプル:7.1×10^10 IU/ml、Genotype 2低濃度サンプル:8.3×10^5 IU/ml。
3) PV B19は、一過性の高いウイルス血症を呈するため血漿分画製剤の原料血漿の品質管理の上から重要なウイルスである。その一方で供血者の40-50%がPV B19の感染性を阻止する中和活性を有していることから血漿分画製剤の原料基準は中和抗体の存在を考慮することが重要である。そこで中和活性や病原体不活化の評価等に必要なPV B19の感染性を簡便に測定法する方法としてリアルタイムRT-PCR法による感染性の評価系を構築した。従来法では結果が得られるまでRNA調製後6時間を要したが、リアルタイムRT-PCR法では2.5時間で結果を得ることができ、感染性の検出感度も従来法に比べて同等であった。昨年度報告したB19Vに対して高感受性を示す人白血病細胞株を用いることで PV B19の感染性を高感度で簡便に評価できるようになった。
結論
NATガイドライン改正案を作成し、NAT小委員会に提案した。またPV B19参照パネルを樹立し、NAT小委員会に報告した。さらにリアルタイムRT-PCR法によるPV B19の感染性の評価系を構築し、高感受性細胞株との組合せによりPV B19の感染性を高感度で簡便に評価できるようになった。以上の成果は、血液製剤のウイルス安全性確保、血液製剤のさらなる安全性の向上に寄与することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201328003B
報告書区分
総合
研究課題名
血液製剤への核酸増幅検査(NAT)の実施及びその精度管理に関する研究
課題番号
H23-医薬-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
内田 恵理子(国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子細胞医薬部)
研究分担者(所属機関)
  • 山口 照英(国立医薬品食品衛生研究所 生物薬品部)
  • 岡田 義昭(国立感染症研究所/埼玉医科大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
所属機関の異動 研究分担者2 岡田 義昭 国立感染症研究所(平成25年9月30日まで)→埼玉医科大学医学部(平成25年10月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
血液製剤のウイルス安全性のさらなる向上と合理的な技術適用を図るため、平成16年に制定された「血液製剤のウイルスに対する安全性確保を目的とした核酸増幅検査(NAT)の実施に関するガイドライン(NATガイドライン)」の改定に寄与するための研究と、そのガイドラインへの適合を評価するための技術開発を行うことを目的とする。特に、最新のNAT関連技術の向上に対応するため、新たな技術を導入する際の評価方法の提示やバリデーションの要件を明らかにすると共に標準パネルの作製を含めた検討を目的とする。
研究方法
1)血液製剤のウイルス検出のためのNAT関連技術の進歩や欧米の規制当局の最新のガイドラインに関して調査研究を実施した。
2)NATガイドライン見直しのために専門家を含めた研究班(WG)を組織し、現行指針の課題を抽出した。1)の海外動向等も踏まえながらガイドライン改正に向けた検討を行った。
3) Parbovirus B19 (PV B19)の参照パネル候補品の力価を共同検定で決定した。また、作製後長期にわたって保存されてきた既存のHBV、HCV、HIVの各参照パネルの安定性を確認した。
4) 血液製剤におけるPV B19の規格値に関する研究として、PV B19の感染性をnested RT-PCR法とリアルタイムRT-PCR法を用いて評価できる評価法を確立した。
結果と考察
1)NAT関連技術の最新動向とその規制について、米国食品医薬品局(FDA)のガイドライン案と米国薬局方(USP)のGeneral Chapter等を中心に調査研究を行い、両者の位置付けの違いを明らかにするとともに、血清学的試験とNATをどのように組み合わせて合理的にドナーの適格性を判断するのか、検査対象となった輸血バック等の使用に当たっての基準、NATの精度管理やバリデーション法などを含め、米国における血液製剤のNATを用いたウイルス安全性確保の動向を明らかにした。
2) NATガイドラインの改定に向けた検討として、NATガイドライン見直しのためのWGで抽出された課題と、1)で明らかにした海外動向等を踏まえてガイドライン改正に向けた検討を行い、NATガイドラインの改正案を作成して、NAT小委員会へ提案した。改正案の主なポイントとして、(1)最終製品でのNAT検査に関する記載の削除、(2)ガイドラインの適用となるウイルスの範囲、(3)市販プレミックス反応キットや自動化機器の利用による施設・設備要件に関する記載の整備、(4)定量的PCRやMultiplex PCRなどの最新技術導入の注意点、(5)低濃度のランコントロール設定にあたっての注意点、(6)検出機器のシステム適合性、(7)ウイルスの変異に関する適切なモニタリングの必要性と対応策、などを盛り込んだ。
3) NATの評価に用いる参照パネルに関する検討として、PV B19のGenotype 1, 2の高濃度及び低濃度サンプルから構成される参照パネル候補品について、国内外11施設による共同検定により国際標準品の力価に基づいて参照品の力価を次の通り決定し、参照パネルを樹立した:Genotype 1高濃度サンプル:6.6×10^10 IU/ml、Genotype 1低濃度サンプル:6.6×10^5 IU/ml、Genotype 2高濃度サンプル:7.1×10^10 IU/ml、Genotype 2低濃度サンプル:8.3×10^5 IU/ml。また、2004年に厚生労働科学研究費で作製されたHBV、HCV、HIVの各参照パネルについて力価の再測定を行い、極めて低濃度の検体以外は安定に保存されていることを確認した。
4) 血液製剤におけるPV B19の規格値に関する研究として、PV B19の感染性をnested RT-PCR法とリアルタイムRT-PCR法を用いて評価できる評価法を確立した。ヒト免疫グロブリン製剤中には高力価の中和活性が存在していることが判明し、原料血漿等でPV B19の規格値を決める際には、中和活性も考慮する必要がある。原料血漿の基準を10^4 IU/mL以下にすることは、過去の感染例や我々の感染実験から妥当な規格値であると考えられた。
結論
NATガイドラインは、改正案を作成してNAT小委員会に提案した。近くガイドラインとして発出される予定である。参照パネルは、PV B19参照パネルを樹立し、NAT小委員会に報告した。また以前作成されたHBV、HCV、HIVの参照パネルの長期保存安定性が確認された。これらのパネルは公開されることで広く活用が期待される。さらにPV B19の規格値の研究では、原料血漿の基準の妥当性が示された。これらの成果は、血液製剤のウイルス安全性確保、血液製剤のさらなる安全性の向上に寄与することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201328003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
パルボウイルスB19 (PV B19)のgenotype 1及び2からなる参照パネルを樹立した。また、2004年に作製したHBV、HCV、HIV参照パネルの長期保存安定性を示した。これまで国内になかったパルボウイルスB19の参照パネルが樹立されたことにより、NATの精度管理が可能となった。
臨床的観点からの成果
ヒト免疫グロブリン製剤中には高力価のPV B19中和活性が存在していることを明らかにした。原料血漿等でPV B19の規格値を決める際には、中和活性も考慮する必要があり、FDAが示しているように原料血漿の基準を10^4IU/mL以下にすることは、過去の感染例や我々の感染実験から妥当な規格値であると考えられた。 
ガイドライン等の開発
血液製剤のウイルスに対する安全性確保を目的とした核酸増幅検査(NAT)の実施に関するガイドライン(改正案)及びQ&Aを作成した。また、パルボウイルスB19 NATの精度管理に必要となる参照パネルを樹立した。これらは平成26年度第1回血液事業部会安全技術調査会(平成26年6月4日)に報告された。今後、血液製剤の個別NATの実施も予定され、本ガイドラインは個別NAT導入にあたって求められるべき感度やコントロールサーベイの実施に関する審議での活用が期待される。
その他行政的観点からの成果
ガイドライン改正案は、薬食発0730第1号、平成26年7月30日厚生労働省医薬食品局長通知別添「血液製剤のウイルスに対する安全性確保を目的とした核酸増幅検査(NAT)の実施に関するガイドライン」及びQ&Aとして発出され、活用されている。パルボウイルスB19参照パネルの樹立に関する報告書は、2014年3月19日のNAT小委員会資料として提出され、パルボウイルスの精度や感度設定において活用されることが期待される。
その他のインパクト
本研究で提案した血液製剤のウイルス安全性のためのNATガイドラインの考え方は再生医療製品等のウイルス検査の確立においても利用できるものであり、広く医薬品のウイルス安全に寄与することが期待される。本研究成果の一部は、論文発表、雑誌への総説の掲載、公開シンポジウム等での講演により、医薬品業界関係者及び一般国民への研究成果の普及・啓発を行う予定である。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
9件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
20件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
5件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Baylis,SA, Blumel,J, Mizusawa,S, Matsubayashi,K, Sakata,H, Okada,Y, Nubling,CM, Hanschmann,KM
HEV collaborative Study Group.: World Health Organization International Standard to harmonize Assays for detection of hepatitis E Virus RNA
Emerg.Infect.Dis. , 19 (5) , 729-735  (2013)
原著論文2
Krayukhina E, Uchiyama S, Nojima K, Okada Y et al.
Aggregation analysis of pharmaceutical human immunoglobulin preparations using size-exclusion chromatography and analytical ultracentrifugation sedimentation velocity.
J.Biosci. Bioeng. , 115 , 104-110  (2013)
原著論文3
Odaka C, Kato H, Ostubo H, Takamoto S, Okada Y et al.
Online reporting system for transfusion-related adverse events to enhance recipient haemovigilance in Japan,A pilot study
Transfus Apher Sci. , Sep.3  (2012)
原著論文4
Miyauchi K, Urano E, Takeda S, Murakami T, Okada Y, Cheng K, Yin H, Kubo M, and Komano J.
Toll-like receptor(TLR)3 as a surrogate sensor of retroviral infection in human cells
Biochem Biophys Res Commun. , 424 (3) , 519-523  (2012)

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
2018-06-21

収支報告書

文献番号
201328003Z