血液製剤の安全性確保と安定供給のための新興・再興感染症の研究

文献情報

文献番号
201328002A
報告書区分
総括
研究課題名
血液製剤の安全性確保と安定供給のための新興・再興感染症の研究
課題番号
H23-医薬-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
倉根 一郎(国立感染症研究所 国立感染症研究所  )
研究分担者(所属機関)
  • 横山 直明(帯広畜産大学原虫病研究センター)
  • 津田 良夫(国立感染症研究所)
  • 百瀬 俊也(日本赤十字社 関東甲信越ブロック血液センター)
  • 岡田 義昭(国立感染症研究所 )
  • 田島 茂(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、ヒトや物の国際間の頻繁な移動によって感染症が拡大し、これまで日本には存在しなかった病原体が国内に持ち込まれる可能性がある。国内でウエストナイル熱やデング熱等が発生した場合、スクリーニング法の導入の他に、早期に適切な献血制限地域を設定する必要が出る可能性がある。これらの感染症は蚊が媒介するため、蚊の種類や行動範囲、蚊の生態などを基盤に献血制限地域を設定する必要も出てくる。シャーガス病は南米に流行する慢性の感染症である。南米居住歴を有する献血者の抗体保有率等の実態を明らかにすることで輸血の安全性に貢献する。バベシア症については検査法の確立を進める必要が生じている。異常プリオンに関しては、定量性の良い異常プリオンの培養系を確立し、さらに血液からの簡便な除去法の確立と評価系を作る必要がある。本研究は、以上のように、種々の病原体に関して、検査法開発や検査情報を科学的知見から検討することによって献血血の安全性確保と安定供給に貢献することを目的とした。
研究方法
献血血の安全性確保と安定供給のため、変異型プリオン病、シャーガス病、およびウエストナイルウイルス等のフラビウイルスを対象として検査・スクリーニン グ法等の開発と献血制限に関する研究を行った。
結果と考察
本研究班では研究代表者とウイルス、衛生昆虫、寄生虫、血液製剤の専門家である6名の研究分担者が参加し行なった。研究は、当初の研究計画に基づき行われた。異常プリオン研究については、エキソソーム精製試薬を用いてプリオンのみならず感染性を有した状態でウイルスを濃縮することができた。濃縮前の10μLの溶液に含まれるウイルス量と同じ溶液10mLから濃縮した沈殿のウイルス量を検討したところ、約1000倍濃縮されていた。また、10%FCS入りの培養液を用いても同様な結果であった。シャーガス病については中南米地域からの定住者が多い東海4県で、中南米諸国で生まれた、又は育った献血者に対して、同意を得た上で、Trypanosoma cruzi抗体検査とシャーガス病に関するアンケート調査を行うパイロットスタディを実施した。対象者457人のうち1人が抗体陽性であった。T.cruzi抗体陽性リスクを推計すると、全国で1年間にT.cruzi抗体陽性となる献血者は5人以下と考えられた。バベシア症については、マウスモデル系を用いた開発された遺伝子診断法のLAMPおよび簡易・迅速血清診断法であるイムノクロマト法(ICT)について、人血液試料を用いてその有用性を確認した。LAMP法については抗体陽性を示した61検体中、LAMPで陽性を示した検体は5検体であった。IFAテストで陰性であった50検体中、LAMPで陽性を示した検体が1例認められた。フラビウイルス関連研究においては重要なフラビウイルス媒介蚊の再捕獲実験を行った。ヒトスジシマカの再捕獲率は0.21で、オオクロヤブカの0.09よりも有意に高かった。またヒトスジシマカの再捕獲率を放逐場所間で比較したところ有意に異なっていた。放逐された蚊の動きを分析した結果、大きな緑地の内部はヒトスジシマカとオオクロヤブカの潜伏や吸血動物の探索に好適であり雌成虫が周囲の生息場所から集まってくることが示唆された。フラビウイルス遺伝子検出法の感度を増加させる目的でデングウイルスをモデルとして、Flap RT-PCR法の開発を行った。
結論
プリオン研究について、変異型プリオン病の検出感度を上げるための基盤研究を行った。血清や血漿では添加するエキソソーム精製試薬の量を適正化することによってウイルスを効果的に濃縮することが可能になった。濃縮したウイルスは感染性を有し、検出法としてだけではなく、ウイルスの不活化•除去法の評価用の高力価のウイルス調整法としても有用な方法であった。シャーガス病については東海四県において同意を得た中南米居住歴を有する献血申込者に対しT. cruzi抗体検査を実施した。対象者は457人であり1人がT. cruzi抗体陽性であった。バベシア症については、マウスモデル系を用いた開発された遺伝子診断法のLAMPおよび簡易・迅速血清診断法であるイムノクロマト法(ICT)について、人血液試料を用いてその有用性を確認することを行った。ウイルス媒介蚊について、ヒトスジシマカの移動分散に関する実験を行った。ヒトスジシマカの再捕獲率はオオクロヤブカよりも有意に高かった。またヒトスジシマカの再捕獲率を放逐場所間で比較したところ有意に異なっていた。フラビウイルス遺伝子検出法の感度を増加させる目的でデングウイルスをモデルとして、Flap RT-PCR法の開発を行った
以上の研究より、安全な血液の供給のための科学的基盤が進展した。

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-

文献情報

文献番号
201328002B
報告書区分
総合
研究課題名
血液製剤の安全性確保と安定供給のための新興・再興感染症の研究
課題番号
H23-医薬-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
倉根 一郎(国立感染症研究所 国立感染症研究所  )
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、ヒトや物の国際間の頻繁な移動によって感染症が拡大し、これまで日本には存在しなかった病原体が国内に持ち込まれる可能性がある。国内でウエストナイル熱やデング熱等が発生した場合、スクリーニング法の導入の他に早期に適切な献血制限地域を設定し、一方で必要な献血量を確保しなければならない。これらの感染症は蚊が媒介するため、蚊の種類や行動範囲、蚊の生態などを基盤に献血制限地域を設定する必要も出てくる。シャーガス病は南米に流行する慢性の感染症である。南米居住歴を有する献血者の抗体保有率等の実態を明らかにすることで輸血の安全性に貢献する。バベシア症については検査法の確立を進める必要が生じている。異常プリオンに関しては、定量性の良い異常プリオンの培養系を確立し、さらに血液からの簡便な除去法の確立と評価系を作る必要がある。本研究は、以上のように、種々の病原体に関して、検査法開発や検査情報を科学的知見から検討することによって献血血の安全性確保と安定供給に貢献することを目的とした。

研究方法
献血血の安全性確保と安定供給のため、変異型プリオン病、シャーガス病、バベシア症およびウエストナイルウイルス等のフラビウイルスを対象として検査法・スクリーニング法等の開発、媒介蚊に関する研究を行った。
結果と考察
本研究班では研究代表者とウイルス、衛生昆虫、寄生虫、血液製剤の専門家である6名の研究分担者が参加し、それぞれの専門分野を有機的に結合させた形で共同研究を行なった。変異型プリオン病研究について、白血球除去フィルターによる異常プリオンの除去効果を検討した。また、エキソソーム精製試薬を用いて異常プリオンが濃縮された。貯留前白血球除去法と初流血除去に関し、報告データを用いた解析を行った。シャーガス病については東海四県において同意を得た中南米居住歴を有する献血申込者に対しT. cruzi抗体検査を実施した。シャーガス病の感染リスクのある環境にあった献血者が存在することも明らかとなった。また、T. cruzi抗体陽性者の存在が明らかとなった。バベシア症については、遺伝子診断法のLAMPおよび簡易・迅速血清診断法であるイムノクロマト法を開発し、動物検体を用いて基礎研究を行った。さらに、ヒト血液試料を用いてその有用性の確認を行った。ウイルス媒介蚊については、ヒトスジシマカとアカイエカの分散範囲を推定した。ヒトスジシマカは、観察された1日の最長移動距離は92mであった。ヒトスジシマカの最大分散範囲を,野外調査により得られた成虫の最長余命40.8日と1日当たり最大移動距離92mの積によって,3,753.6mと推定した。一方、アカイエカは吸血後数日間に少なくとも350m移動した。フラビウイルス遺伝子検出法の感度を増加させる目的でFlap RT-PCR法の開発を行った。Flap RT-PCR法が、フラビウイルス共通プライマーやアルファウイルス共通プライマーでは検査法の感度を増加させた。
結論
本研究では変異型プリオン病、シャーガス病、バベシア症およびフラビウイルスを対象として検査とスクリーニング法等の開発と献血制限に関する研究を行った。白血球除去フィルターは輸血のアレルギー反応に関する副作用を減少させた。また、実験的には異常プリオンをある程度除去できることが示された。エキソソーム精製試薬を用いる事によって異常プリオンを簡便に濃縮できることを明らかにした。シャーガス病については東海四県において同意を得た中南米居住歴を有する献血申込者に対しT. cruzi抗体検査を実施した。対象者は457人であり1人がT. cruzi抗体陽性であった。一方、これとは別に在日ラテンアメリカ人居住地域においての抗体検査を行った。平成24年度195名の抗体検査を行ない、5名が抗体陽性であった。平成25年度272名の抗体検査を実施し、抗体陽性者は2名であった。バベシア症については、開発された遺伝子診断法のLAMPおよび簡易・迅速血清診断法であるイムノクロマト法について、人血液試料を用いてその有用性を確認することを行った。ウイルス媒介蚊について、献血制限に関わるヒトスジシマカの最大分散範囲を,野外調査により得られた成虫の最長余命40.8日と1日当たり最大移動距離92mの積によって3,753.6mと推定した。TMA法のWNV-NAT試薬とTaqMan PCR法のWNV-NAT試薬の感度試験を実施し、両者とも各社が示している感度とほぼ同等であった。フラビウイルス遺伝子検出法の感度を増加させる目的でデングウイルスをモデルとして、Flap RT-PCR法の開発を行った。以上の研究より、安全な血液の供給のための科学的基盤が進展した。

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201328002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
白血球除去フィルターは異常プリオンをある程度除去できることが示された。エキソソーム精製試薬を用いる事によって異常プリオンを簡便に濃縮できることを明らかにした。バベシア症については、遺伝子診断法のLAMPおよび簡易・迅速血清診断法であるイムノクロマト法を開発し、動物検体を用いて基礎研究を行った。さらに、ヒト血液試料を用いてその有用性の確認を行った。
臨床的観点からの成果
シャーガス病については東海四県において同意を得た中南米居住歴を有する献血申込者に対しT. cruzi抗体検査を実施した。シャーガス病の感染リスクのある環境にあった献血者が存在することも明らかとなった。また、T. cruzi抗体陽性者の存在が明らかとなった。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
ウイルス媒介蚊について、ヒトスジシマカとアカイエカの分散範囲を推定した。ヒトスジシマカは、観察された1日の最長移動距離は92mであった。ヒトスジシマカの最大分散範囲を,野外調査により得られた成虫の最長余命40.8日と1日当たり最大移動距離92mの積によって,3,753.6mと推定した。一方、アカイエカは吸血後数日間に少なくとも350m移動した。
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Krayukhina E,Uchiyama S,Nojima K,et al
Aggregation analysis of pharmaceutical human immunoglobulin preparations using size-exclusion chromatography and analytical ultracentrifugation sedimentation velocity.
J.Biosci Bioeng , 115 (1) , 104-110  (2013)
原著論文2
Baylis SA,Blumel J,Mizusawa S,et al
World Health Organization International Standard to harmonize assays for detection of hepatitis E virus RNA.
Emerg.Infect.Dis , 19 (5) , 729-735  (2013)
原著論文3
Kazuo Imai, Takuya Maeda , Yusuke Sayama, et al
Mother-to-Child Transmission of Congenital Chagas Disease, Japan
Dispatch , 20 (1)  (2014)
原著論文4
Tsuda, Y. and Kim, K.S.
Ecology of mosquitoes inhabiting a park in urban Tokyo, Japan: density of biting Aedes albopictus and laboratory estimation of the residual longevity.
Medical Entomology and Zoology , 63 , 223-230  (2012)
原著論文5
Kato, F., Kotaki, A., Yamaguchi, Y.et al
Identification and characterization o the shor variable region of the Japanese encephalitis virus 3’ NTR.
Virus Genes , 44 , 191-197  (2012)
原著論文6
Yamaguchi, Y., Nukui, Y., Kotaki, A.,
Characterization of a serine-to-asparagine substitution at position 123 in the Japanese encephalitis virus E protein.
Journal of General Virology , 94 , 90-96  (2013)
原著論文7
Imai, K., Maeda, T., Sayama, Y.,et al
Mother-to-child transmission of congenital Chagas disease, Japan.
Emerging Infectious Diseases , 20 (1) , 146-148  (2014)
原著論文8
岡田 義昭
輸血用血液における病原体不活化技術の現状と新規技術の開発
検査と技術 , 42 , 4-7  (2014)
原著論文9
今井一男、前田卓哉、三木田馨、その他
シャーガス病における遺伝子学的診断法の開発と検討
臨床寄生虫学会雑誌 , 23 , 41-45  (2013)
原著論文10
前田卓哉、南雲盛親、佐山祐輔、その他
ベンズニダゾールにより治療を行ったシャーガス病の2症例
日本臨床寄生虫学会誌 , 24 (1) , 33-  (2013)

公開日・更新日

公開日
2021-05-28
更新日
-

収支報告書

文献番号
201328002Z