GCIRMS及びLCIRMSを利用した農薬類の安定同位体比の高精度分析方法の確立

文献情報

文献番号
201327054A
報告書区分
総括
研究課題名
GCIRMS及びLCIRMSを利用した農薬類の安定同位体比の高精度分析方法の確立
課題番号
H25-食品-若手-019
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
川島 洋人(秋田県立大学 システム科学技術学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
3,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年,ガスクロマトグラフィーと安定同位体比質量分析計の融合・実用化が行われた。その結果,個別化合物に含まれる安定同位体比の測定が可能となった。しかし,農薬類を対象とした鑑識学的な応用事例は,研究代表者が行った原因不明の殺虫剤ダイアジノンの識別に利用したのみである(Kawashima and Katayama, Environmental Forensics)。
本研究では,不純物同定法に取って代わる画期的かつ革新的な新しい技術である安定同位体を用いた農薬類の識別方法の確立を目指す。安定同位体比は既に石油や石炭の原産地や生成過程等によって特徴を有すことが示されており,農薬自体の生産場所を特定する新たな方法となる可能性は非常に高いと思われる。25年度は,酸化炉の変更を行い,またクライオフォーカス部を導入し,炭素安定同位体比の高精度分析方法を確立することを目指す。
研究方法
多くの農薬類は複雑な夾雑物が混在し,また燃焼の効率性を下げる硫黄成分で構成されている。そこで本研究では研究代表者所属機関が所有するGC/IRMSを用いて高精度分析方法を開発する。最終的には農薬標準液,農薬製品を繰り返し分析で標準偏差が炭素0.2‰程度になる条件を確立する。これらは国内外においても極めて高い測定精度である。まず対象農薬としては,秋田県内の使用量等考慮し,15種程度選定する。酸化炉は酸化剤(酸化銅,ニッケル,白金など担持)の消耗試験を実施する。また液体窒素を用いたクライオフォーカス部を導入し,シャープなピークにして,高精度分析を行う。また,最後に2次元GC部を導入する。
結果と考察
(1)EA/IRMS とGC/C/IRMSの検証
12種の農薬試薬をGC/C/IRMSオンカラム法,クライオ法にて測定を行った。濃度ごとのEA/IRMS とGC/C/IRMSを図2に示した。オンカラム測定500ppm,1000ppmでは平均標準偏差それぞれ0.23‰,0.13‰と高精度で分析することができた。
(2)クライオフォーカスシステムの導入
燃焼後にCO2になった農薬類を液体窒素にてフォーカスする技術(クライオフォーカス)を用いた。その結果,テーリングしているクロマトグラムのピーク形状を大幅に改善すること,ピークが二つに分かれてしまったものすべてトラップすることができた。
(3)クライオフォーカシング技術の応用
二種類の農薬1000ppmを以下のA~Dの4通りに混合させて,クライオフォーカシング技術ですべてトラップさせて,一つのピークとして検出させる実験を行った。混合液はそれぞれ1000ppmの溶液を1:1で混ぜ合わせたので,それぞれのEA/IRMSの結果から理論値を求めた。
(4)マラソン乳剤中のマラチオンの測定結果
マラソン乳剤中に含まれるマラチオン(50%)のδ13C測定を行った。9サンプルのδ13Cは-30.63‰~-29.54‰とほぼ1‰の幅に収まっており,また分析はそれぞれ3回測定で標準偏差(1SD)が0.1%以内となり,実際に販売している乳剤において高精度に分析することが出来た。乳剤に農薬有効成分と共に含まれている有機溶剤のδ13Cを測定したところ,エチルベンゼンのδ13Cは-28.20‰~-20.84‰,キシレンのδ13Cは-28.69~-25.15‰であった。最終的には,エチルベンゼンはδ13Cの値からAとB・Cに分けられ,比率からBとCが分けられる。例えばAの3.日産化学工業は乳剤の製造を住友化学に委託しているため,1.の住友化学(500mL)と同じに分類になっており,矛盾しない結果となった。
結論
各種分析法(EA/IRMS,GC/C/IRMSオンカラム測定,GC/C/IRMSクライオフォーカシング測定)において高精度分析方法を確立することができた。また,分解性の高い農薬にも対応できるよう,クライオフォーシング技術を用いて分解したものをすべて一つにトラップして検出することが可能となった。実環境では微生物分解や化学反応を伴う分解で大きな同位体分別が生じる可能性があるため,その場合にクライオ技術は有効な手法になる可能性高いと考えられる。
マラソン乳剤の測定では,有効成分マラチオンの原体が同じ場合でも,一緒に含まれている有機溶剤のδ13Cから商品の異同識別が可能だと示された。今回は,炭素の安定同位体比のみ測定を行ったが,窒素や水素の同位体比を測定することで,更に高確度な識別が可能になると考えられる。また,食品中の残留農薬分析のために,前処理技術などを確立していく必要が考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
201327054Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,847,000円
(2)補助金確定額
3,847,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,846,475円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 525円
間接経費 1,153,000円
合計 5,000,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
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