食品中の化学物質および食品中の化学物質と医薬品との相互作用による肝毒性ならびに発生毒性の新規評価系の構築

文献情報

文献番号
201327052A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中の化学物質および食品中の化学物質と医薬品との相互作用による肝毒性ならびに発生毒性の新規評価系の構築
課題番号
H24-食品-若手-019
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
中村 和昭(独立行政法人国立成育医療研究センター 研究所薬剤治療研究部実験薬理研究室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
3,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品中の化学物質と医薬品との相互作用は、医薬品との飲み合わせの観点から医薬品相互作用と同様の基準で評価される必要がある。しかし、食品中の化学物質について、医薬品との相互作用の観点に基づいたヒトを試験対象とした実験的な検討は十分に行われていない。また、化学物質暴露に対する脆弱性の高い胎児に対する食品中の化学物質曝露による影響は不明な点が多く、食品の安全の観点から、食品中の化学物質による発生毒性を明らかにする必要がある。本研究では、肝移植手術の際に生じる摘出肝から肝細胞の単離・培養を行い、ヒト肝細胞を用いた食品中の化学物質による肝機能への影響の評価系および食品中の化学物質単独および医薬品との併用による肝細胞毒性試験系ならびに発生毒性試験系を確立し、食品と医薬品の飲み合わせにおける食品の安全性評価系を構築することを目的とする。
研究方法
1)ヒト新鮮肝細胞の継続的な分離・培養・保存;国立成育医療研究センターにおいて実施される肝移植時の摘出肝からの肝細胞の分離・保存を行った。
2)食品中の化学物質による発生毒性試験;イチョウ葉エキスの成分であるビロバリド、ギンコリドAおよびギンコリドCの発生毒性をマウスES細胞を用いた発生毒性試験法であるEST法により検討し、内胚葉、中胚葉および外胚葉分化マーカー遺伝子発現に与える影響を定量PCR法にて検討した。
3)食品中の化学物質と医薬品との相互作用による発生毒性試験;食品中の化学物質と医薬品との相互作用による発生毒性を検討するため、EST法と肝細胞培養系を組み合わせたHep-EST法を用いて、催奇形性が知られているバルプロ酸(VPA)並びに西洋弟切草の活性成分であるヒペルフォリンあるいはギンコリドBとの複合曝露によるES細胞に対する細胞毒性を検討した。
結果と考察
1)ヒト新鮮肝細胞の継続的な分離・培養・保存;本年度、成育医療研究センターにて実施した生体肝移植のうち、32例のドナー余剰肝およびレシピエント摘出肝より、肝組織の保存及び肝細胞の分離・培養・保存を行った。肝移植実施病院と研究機関が連携して、摘出後すぐに検体を研究に利用可能な体制を整えている国内研究機関は限られており、本研究は、今後の肝細胞を用いた研究における手術摘出検体の利用に関しての知見の蓄積に寄与するものである。ヒト肝細胞は創薬研究や毒性研究においてニーズが高く、本研究の知見を活用することにより、正常肝および疾患肝由来日本人肝細胞の研究利用に向けた体制構築が可能であると考えられる。
2)食品中の化学物質による発生毒性試験系の確立;ビロバリド、ギンコリドAおよびギンコリドC曝露によるES細胞に対する毒性を評価した結果、ギンコリドC曝露においては、細胞毒性は認められなかったが、ビロバリドおよびギンコリドA曝露において細胞毒性が認められ、ビロバリドにおいてはギンコリドAよりも強い細胞毒性が認められた。また、ビロバリドおよびギンコリドA曝露によりES細胞分化誘導過程において、内胚葉マーカー遺伝子であるTTR(transthyretin)の発現低下が認められた。これらの結果は、ビロバリドおよびギンコリドはその毒性は低いものの、細胞毒性を有しており、また発生過程において内胚葉分化を抑制する可能性を示唆している。EST法は動物を用いないin vitro発生毒性試験系として注目されており、今後発生毒性の評価が必要とされる分野での活用が期待される。本研究における知見を、今後より精度の高い発生毒性評価系の構築へ応用することにより、食品中の化学物質による発生毒性試験系の構築が可能であると考えられる。
3)食品中の化学物質と医薬品との相互作用による発生毒性試験;VPA並びにヒペルフォリンあるいはギンコリドBとの複合曝露によるES細胞に対する細胞毒性をHep-EST法において検討した結果、いずれの複合曝露においても、、ES細胞に対する細胞毒性が観察された。しかし、ES細胞と肝細胞との共培養において、いずれの複合曝露においても、WI-38細胞との共培養と比べ細胞毒性の増悪は認められなかった。本評価系を他の化学物質へ応用することで、食品中の化学物質と医薬品の相互作用による発生毒性試験系の構築が可能であると考えられる。
結論
本研究の成果により食品中の化学物質による肝機能への影響の評価系および食品中の化学物質単独および医薬品との併用による肝細胞毒性試験系ならびに発生毒性試験系の確立が可能であると考えられ、今後これら試験系をさらに発展させ、より精度の高い評価系の構築を目指すとともに、構築した評価系の活用・提供を通じ、本研究が食品の安全性確保の一助となる事を期待する。

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

文献情報

文献番号
201327052B
報告書区分
総合
研究課題名
食品中の化学物質および食品中の化学物質と医薬品との相互作用による肝毒性ならびに発生毒性の新規評価系の構築
課題番号
H24-食品-若手-019
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
中村 和昭(独立行政法人国立成育医療研究センター 研究所薬剤治療研究部実験薬理研究室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、肝移植手術の際に生じる摘出肝から肝細胞の単離・培養を行い、ヒト初代肝細胞を用いた食品中の化学物質による肝機能への影響の評価系および食品中の化学物質単独および医薬品との複合摂取による肝細胞毒性試験系、ならびに食品と医薬品の飲み合わせにおける発生毒性評価系の構築を試みた。
研究方法
1)ヒト新鮮肝細胞の継続的な分離・培養・保存;国立成育医療研究センター・病院臓器移植センター及び臨床研究センター先端医療開発室と連携し、肝移植時の摘出肝からの肝細胞の分離・保存を行った。
2)食品中の化学物質による肝機能への影響評価法の確立;肝細胞に試験化学物質を添加し、2日間培養を行い、プローブ法による定量PCR法によりヒトにおいて主要な第I相薬物代謝酵素であるCYP1A1、CYP1A2、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4の発現変化を検討した。
3)食品中の化学物質による肝細胞毒性試験系の確立;肝細胞へヒペルフォリン、ビロバリド、ギンコリドA、B、Cを添加し、2日間培養を行い、WST法により細胞生存率を求めた。
4)食品中の化学物質による発生毒性試験系の確立;ヒペルフォリン、ビロバリド、ギンコリドAおよびCによる発生毒性をマウスES細胞を用いた発生毒性試験法であるEmbryonic Stem Cell Test(EST法)により検討した。
5)食品中の化学物質の肝代謝産物による発生毒性試験;化学物質の肝臓による代謝産物に起因する発生毒性を検討するため、従来のEST法を改良し、セルカルチャーインサートを用いてES細胞とヒト肝臓癌由来細胞株HepG2細胞およびヒト繊維芽細胞株WI-38細胞を非接触共培養する試験法(Hep-EST法)を構築し、バルプロ酸(VPA)をモデル物質として、その肝代謝産物による発生毒性を検討した。
6)食品中の化学物質と医薬品との相互作用による発生毒性試験;食品中の化学物質と医薬品との相互作用による発生毒性を検討するため、Hep-EST法を用いて、VPA並びにヒペルフォリンおよびギンコリドBとの複合曝露によるES細胞に対する細胞毒性を検討した。
結果と考察
1)ヒト新鮮肝細胞の継続的な分離・培養・保存;平成24年度、当センターにて施行した小児肝移植症例のうち、ドナー余剰肝ならびにレシピエント肝41例の肝検体より、肝組織の保存及び肝細胞の分離・培養・保存を行った。平成25年度には、32例の肝検体より、肝組織の保存及び肝細胞の分離・培養・保存を行った。
2)食品中の化学物質による肝機能への影響評価法の確立;西洋弟切草の成分であるヒペルフォリンを用いた検討から、ヒペルフォリンによるCYP3A4発現亢進作用が認められた。また、イチョウ葉エキスの成分であるビロバリド、ギンコリドA、B、Cの評価をおこない、ギンコリドBによるCYP3A4発現亢進を認めた。
3)食品中の化学物質による肝細胞毒性試験系の確立;ヒペルフォリン、ビロバリド、ギンコリドA、B、Cは、いずれも健常成人由来肝細胞においては肝細胞毒性を示さなかった。一方、ヒペルフォリンは小児由来肝細胞において細胞毒性を示す可能性が考えられた。
4)食品中の化学物質による発生毒性試験系の確立;ヒペルフォリンによる発生毒性評価を発生毒性試験法であるEST法にて行った結果、ヒペルフォリンは胎児モデルであるES細胞の生存率を減少させた。また、ヒペルフォリンはES細胞の分化を抑制すると考えられた。ビロバリド、ギンコリドA、CによるES細胞に対する毒性を評価した結果、ギンコリドCにおいては、細胞毒性は認められなかったが、ビロバリドおよびギンコリドA曝露において細胞毒性が認められ、ビロバリドにおいてはギンコリドAよりも強い細胞毒性が認められた。
5)食品中の化学物質の肝代謝産物による発生毒性試験;VPAの細胞毒性は肝細胞との共培養により増悪した。
6)食品中の化学物質と医薬品との相互作用による発生毒性試験;VPA並びにヒペルフォリンおよびギンコリドBとの複合曝露によるES細胞に対する細胞毒性を検討した結果、ES細胞とHepG2細胞との共培養においては、いずれの複合曝露においても、WI-38細胞との共培養と比べ細胞毒性の増悪は認められなかった。
結論
 本研究の成果により食品中の化学物質による肝機能への影響の評価系および食品中の化学物質単独あるいは医薬品との併用による肝細胞毒性試験系ならびに発生毒性試験系の確立が可能であると考えられ、今後これら試験系を発展・活用・提供し、食品の安全性確保の一助としていきたい。

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201327052C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究の成果により食品中の化学物質による肝機能への影響の評価系および食品中の化学物質単独および医薬品との併用による肝細胞毒性試験系ならびに発生毒性試験系の確立が可能であると考えられ、今後これら試験系をさらに発展させ、より精度の高い評価系の構築、活用・提供を通じ、本研究が食品の安全性確保の一助となる事が期待される。
臨床的観点からの成果
本研究の成果により食品中の化学物質による肝機能への影響の評価系および食品中の化学物質単独および医薬品との併用による肝細胞毒性試験系ならびに発生毒性試験系の確立が可能であると考えられ、医薬品の処方時における食品との飲み合わせに関して、安全性確保の一助となる事が期待される。
ガイドライン等の開発
本研究の知見は現時点で審議会等で参考にされたことはないが、今後本研究を発展させることにより、食品と医薬品の相互作用等に関する食品の安全性に関するガイドライン等の作成において、重要な情報を提供できると考えられる。
その他行政的観点からの成果
食品中の化学物質と医薬品との相互作用による肝毒性および胎児発育への影響の有無は厚生労働行政上重要な問題のひとつと考えられ、食品中の化学物質と医薬品との相互作用による発生毒性試験系は食品の安全性を示す一つの指標として、今後の利活用が期待される。
その他のインパクト
本研究により得られた成果を含む研究成果を国立環境研究所において講演し、発生毒性試験法についての意見交換を行った。今後さらに本研究を発展させることにより、専門的・学術的ならびに臨床的観点について、より社会的インパクトのある成果を発信できると考える。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
国立環境研究所セミナー

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakamura K, Aizawa K, Yamauchi J., et al.
Hyperforin inhibits cell growth and differentiation in mouse embryonic stem cells.
Cell Proliferation , 46 (5) , 529-537  (2013)
DOI: 10.1111/cpr.12060

公開日・更新日

公開日
2014-06-19
更新日
2018-07-09

収支報告書

文献番号
201327052Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,000,000円
(2)補助金確定額
5,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,710,650円
人件費・謝金 0円
旅費 110,360円
その他 25,990円
間接経費 1,153,000円
合計 5,000,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
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