食品添加物における遺伝毒性発がん物質の評価法に関する研究

文献情報

文献番号
201327051A
報告書区分
総括
研究課題名
食品添加物における遺伝毒性発がん物質の評価法に関する研究
課題番号
H24-食品-若手-018
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
石井 雄二(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、平成24年度においてDNAアダクトーム解析による網羅的DNA損傷解析と、レポーター遺伝子導入動物を用いたin vivo変異原性の包括的試験法を確立し、その有用性の明らかにしてきた。平成25年度は構築した「網羅的DNA損傷解析とin vivo変異原性の包括試験」を用いて、ハーブやスパイスに含まれる香料成分であるフェニルプロペノイド系化合物の評価を実施した<実験1>。また、新たな酸化的DNA損傷の評価法の構築を目的として、平成24年度においてヘプタノンエテノ(Hε)付加体のLC-MS/MSによる定量解析法を構築してきた。平成25年度はHε付加体による酸化的DNA損傷評価の有用性を検討するため、昨年度の試験において酸化的DNA損傷を引き起こすことが明らかになったアリザリンを投与したラット腎臓におけるHε付加体レベルの測定を実施した<実験2>。
研究方法
<実験1>雄性6週齢のgpt deltaラットにラット肝発がん性を有するフェニエルプロペノイド系化合物であるエストラゴール(ES)及びメチルオイゲノール(MEG)と、発がん性を示さないオイゲノール(EG)をそれぞれ300、100及び300 mg/kg/dayの濃度で4週間強制経口投与し、肝臓及び腎臓についてLC-MS/MSによる網羅的DNA損傷解析と、gpt及びSpi- assayによるin vivo変異原性の検索を実施した。<実験2>平成24年度の試験で得られたアリザリン(Alz)投与群の腎臓と、対照群の腎臓におけるHεdG、HεdA及びHεdCの測定を実施した。腎臓から抽出したDNAは酵素処理によりデオキシヌクレオシドまで分解し測定試料とした。測定にはLC-MS/MSを用い、測定試料には15Nでラベル化された各付加体の安定同位体を一定量添加し、内標準法による定量解析を行った。
結果と考察
<実験1>網羅的DNA損傷解析の結果、ラット肝発がん性が知られるエストラゴール投与群の肝臓では6種の特異的DNA付加体形成を示すスポットが検出され、MSスペクトラム解析の結果、それらのうち4つスポットは既知の付加体であるES-3'-N2-dG、ES-3'-C8-dG、 ES-1'-N2-dG及びES-3'- N6-dAと同定又は推定された。また、2つの未知の付加体はMSスペクトラム解析の結果、ESとグアニン又はシトシンとの付加体であることが明らかになった。メチルオイゲノール投与群の肝臓では3種の特異的DNA付加体形成を示すスポットが検出され、MSスペクトラム解析の結果、それらのうち2つのスポットは既知の付加体であるMEG-3'-N2-dG及びMEG-3'-N6-dAと推定された。また、未知の付加体はMSスペクトラム解析の結果、MEGとシトシンの付加体であることが明らかになった。これらのスポットは非発がん標的臓器である腎臓でも検出されたが、その大きさは何れも1/20から1/200程度であった。一方、発がん性を示さないEG投与群では肝臓、腎臓ともに付加体の形成は認められなかった。In vivo変異原性の検索ではES及びMEG投与群の肝臓においてgpt変異体頻度の有意な上昇が認められ、変異スペクトラム解析の結果、A:T-G:C transitionの割合の顕著な増加が共通して認められた。一方、ES及びMEG投与群の腎臓と、EG投与群の肝臓及び腎臓ではgpt MFの変化は認められなかった。以上より、フェニルプロペノイド系化合物の肝発がん性には、直接的DNA損傷と、そこから生じるA:T-G:C transitionを特徴とした遺伝子突然変異が寄与することが明らかになった。<実験2>HεdA及び HεdCレベルはAlz投与群において上昇傾向が認められ、Alz投与は脂質過酸化に由来するHε付加体の形成を引き起こす可能性が示唆された。
結論
本研究で構築した網羅的DNA損傷解析とin vivo変異原性の包括試験を用いることで、フェニルプロペノイド系化合物のDNA傷害性及び変異原性を正確かつ迅速に評価可能であった。発がん性を有するフェニルプロペノイド系化合物のDNA付加体の形成パターンとレポーター遺伝子における変異パターンは一致したことから、本法を用いることで化学構造に由来した遺伝毒性物質の分類や、遺伝毒性予測の可能性が考えられた。また、酸化的DNA損傷を引き起こすAlzが脂質過酸化に由来するDNA損傷を引き起こす可能性が示唆されたことから、今後、これらの付加体と化学発がんとの関連を明らかにする必要があると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201327051B
報告書区分
総合
研究課題名
食品添加物における遺伝毒性発がん物質の評価法に関する研究
課題番号
H24-食品-若手-018
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
石井 雄二(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、 DNAアダクトーム解析による網羅的DNA損傷解析と、レポーター遺伝子導入動物を用いたin vivo変異原性の包括的試験法を確立し、その有用性評価を実施した<実験1>。さらに、構築した「網羅的DNA損傷解析とin vivo変異原性の包括試験」を用いて、ハーブやスパイスに含まれる香料成分であるフェニルプロペノイド系化合物の評価を実施した<実験2>。また、新たな酸化的DNA損傷の評価法の構築を目的として、脂質過酸化物4-oxo-2-nonenalから生成するヘプタノンエテノ(Hε)付加体、HεdG、HεdA及びHεdCのLC-MS/MSによる定量解析法を構築し、その有用性を検討した<実験3>。
研究方法
<実験1>被験物質には遺伝毒性物質であるIQ及びサフロール(SFO)と非遺伝毒性物質であるAlzを選定した。雄性6週齢のF344 gpt deltaラットに、IQ、SFO及びAlzをそれぞれ300、5000及び800 ppmの濃度で4週間混餌投与し、肝臓及び腎臓について網羅的DNA損傷解析、8-OHdG測定及び in vivo変異原性の検索を実施した。<実験2>ラット肝発がん性を有するエストラゴール(ES)及びメチルオイゲノール(MEG)と、発がん性を示さないオイゲノール(EG)をそれぞれ300、100及び300 mg/kg/dayの濃度で4週間強制経口投与し、肝臓及び腎臓について網羅的DNA損傷解析と、 in vivo変異原性の検索を実施した。<実験3>構築したHε付加体の定量解析法を用いてAlz投与群の腎臓と、対照群の腎臓におけるHεdG、HεdA及びHεdCの測定を実施した。
結果と考察
<実験1>IQ投与群では、IQ-C8-dGとN6-dAと一致するスポットが検出され、腎臓よりも肝臓でより大きなスポットが認められた。gpt及びSpi- assayではいずれも肝臓、腎臓ともに有意な上昇が認められた。SFO投与群では、SA-3’-N2-dG及びN6-dAと一致するスポットが検出され、腎臓よりも肝臓でより大きなスポットが認められた。8-OHdGレベルは肝臓においてのみ有意に上昇した。gpt及びSpi- assayではいずれも肝臓において上昇傾向が認められた。Alzでは腎臓において8-OHdGレベルの有意な上昇が認められたものの、網羅的DNA損傷解析において付加体の形成を示すスポットは検出されず、gpt及びSpi- assayでは肝臓、腎臓ともに変化は認められなかった。以上より、遺伝毒性発がん物質による特異的DNA付加体の形成と変異原性は発がん標的臓器と一致することを確認した。一方、IQでは発がん性がない腎臓においてもDNA付加体形成と変異原性が認められたことから、本手法は潜在的な発がん性の検出も可能であると考えられた。<実験2>網羅的DNA損傷解析の結果、ラット肝発がん性が知られるES及びMEGではいずれも肝臓において特異的DNA付加体形成を示す複数の特徴的なスポットが検出され、MSスペクトラム解析の結果、各スポットはそれぞれの被験物質とグアニン、アデニン又はシトシンとの付加体と同定された。これらのスポットは非発がん標的臓器である腎臓でも検出されたが、その大きさは何れも1/20から1/200程度であった。in vivo変異原性評価の結果、ES及びMEG投与群においてA:T-G:C transition変異の増加を伴うgpt変異体頻度の有意な上昇と、Spi-変異体頻度の上昇傾向が認められた。一方、腎臓ではgpt及びSpi-変異体頻度の変化は認められなかった。また、EG投与群の肝臓、腎臓ともにDNA付加体形成及び変異原性は認められなかった。以上より、フェニルプロペノイド系化合物の肝発がん性には特異的DNA付加体の形成と、それにより生じるA:T-G:C transitionを特徴とする遺伝子突然変異が寄与することが明らかになった。<実験3>HεdA及び HεdCレベルはAlz投与群において上昇傾向が認められ、Alz投与は脂質過酸化に由来するHε付加体の形成を引き起こす可能性が示唆された。
結論
本研究で構築した網羅的DNA損傷解析とin vivo変異原性の包括試験を用いることで、詳細かつ正確な化学物質の遺伝毒性評価が可能であることを明らかにした。また、発がん性を有するフェニルプロペノイド系化合物のDNA付加体の形成パターンとレポーター遺伝子における変異パターンは一致したことから、本法を用いることで化学構造に由来した遺伝毒性物質の分類や、遺伝毒性予測の可能性が考えられた。また、酸化的DNA損傷を引き起こすAlzが脂質過酸化に由来するDNA損傷を引き起こす可能性が示唆されたことから、今後、これらの付加体と化学発がんとの関連を明らかにする必要があると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201327051C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究で構築したDNA傷害性とin vivo変異原性の包括試験法は、正確かつ迅速な化学物質の遺伝毒性評価が可能であった。さらに、本法を用いてハーブやスパイスに含まれる香料成分フェニルプロペノイド系化合物の評価を実施した結果、ラット肝発がん性を有するフェニルプロペノイド系化合物はDNA損傷と変異パターンに共通の特徴を示すことを明らかにした。これらの研究成果は日本癌学会等で好評され、Anal. Bioanal. Chem.に掲載されている。
臨床的観点からの成果
本研究で構築したDNA傷害性・変異原性包括試験は、迅速かつ正確な遺伝毒性評価に加えて、そのメカニズムに関連する情報が得られることから、ヒトへの外挿性を考慮する上で必要となる基礎的データを提供することが可能である。これらは、今後ますます増加する食品添加物の正確な遺伝毒性評価に貢献できるものと考えられる。
ガイドライン等の開発
特記すべき事項はなし。
その他行政的観点からの成果
特記すべき事項はなし。
その他のインパクト
特記すべき事項はなし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ishii, Y., Ogawa, K., Umemura, T., et al.
Combined application of comprehensive analysis for DNA modification and reporter gene mutation assay to evaluate kidneys of gpt delta rats given madder color or its constituents.
Analytical and Bioanalytical Chemistry , 406 (9-10) , 2467-2475  (2014)
10.1007/s00216-014-7621-2.

公開日・更新日

公開日
2014-06-02
更新日
2018-07-09

収支報告書

文献番号
201327051Z