心理学と情報工学を利用した食品リスク情報コミュニケーションツールとその評価手法の開発

文献情報

文献番号
201327049A
報告書区分
総括
研究課題名
心理学と情報工学を利用した食品リスク情報コミュニケーションツールとその評価手法の開発
課題番号
H24-食品-若手-016
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
和田 有史(独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所食品機能研究領域)
研究分担者(所属機関)
  • 湯浅 将英(湘南工科大学 工学部)
  • 木村 敦(東京電機大学 情報環境学部)
  • 小川 真規(自治医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
3,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
情報工学および心理学の知見と技術を応用することで、一般消費者や専門家などの多様なステークホルダーに対して食品のリスクに関する共通理解を促す食品情報開示法を開発する。
研究方法
1.認知傾向ごとのエージェント利用の効果
30、40代の男女672名を対象に調査を行った。残留農薬量の説明に関する文章での説明に合わせて、説明ツールとして、(1)音声、(2)音声+試験管による専門用語の説明、(3)音声+エージェントによる説明、合計3種類のツールの効果を検討した。残留農薬量に関する説明を呈示後、被調査者は農産物に残留している農薬のリスクに関する判断を行った。また、認知傾向調査により、被調査者を直感的思考群と分析的思考群に群分けした。
2.放射性物質に関する消費者態度の類型化と認知特性に関する研究
インターネット調査会社に依頼し、2013-2014年に 30代~60代の日本人男女400名から回答を得た。調査項目には 食品中の放射性物質に対する態度等を問う項目と、回答者のコホートに関する情報を問う項目が含まれた。
また、17名の専門家から得た消費者が不安に思いやすい事項の解説文を理系大学生4名が照査し、合議により複数の解説文をまとめることでわかりやすい解説文の抽出を試みた。
3.リスク情報を説明する擬人化エージェント作成ツールの開発
擬人化エージェント作成ツールの開発のため、まず情報を説明する教師をイメージしたエージェントを作成した。さらに、事前におこなった調査に基づき、エージェントの基本動作を試作した。試作に基づき、それを簡便に作成するツールをエクセルのマクロを用いて開発した。
結果と考察
1.認知傾向ごとのエージェント利用の効果
今回の調査において、エージェント呈示によって直感的思考群のリスク判断が改善される可能性が示され、エージェントは特に直感的思考傾向を持つ人に有効な情報呈示法である可能性が示された。
また、本研究と並行して、WEB環境を模した情報提示環境で商品評価を消費者に行わせると、エージェントを用いた場合には、用いない場合よりもフェアトレード商品に対する購買意欲が増加することを示唆する実験結果を得た。
2.放射性物質に関する消費者態度の類型化と認知特性に関する研究
食品中の放射性物質に対する消費者の知識や態度を幾つかのカテゴリに分類できることが示唆された。認知傾向と子どもの有無が交互作用的に食品中の放射性物質に対する知識や態度に影響を及ぼすことが示唆された。
解説文抽出の結果、被ばくの影響や、我が国の基準値設定、ゼロリスク等に対する客観的かつ消費者にわかりやすいと考えられる解説文を得た。
3.リスク情報を説明する擬人化エージェント作成ツールの開発
開発したツールを用いて、実際に大学生らに動作の作成をしてもらうなどをしてツールを改良し、さらにマニュアルの改善もおこなった。これらにより、より容易にエージェントの作成できるツールに改善したが、操作性や動作のバリエーションを増やすとより有用になると考えられる。また、並行して行った研究により、エージェントの使用や開示する情報の組み合わせを工夫することで、効果的に情報伝達を行う事が可能である事が示唆された。
結論
本研究で開発したエージェントは分析的思考傾向が低い消費者への説明には有効である可能性が示された。
 WEBでの食品のリスクについての説明に利用できるエージェントを、作成者がコンピューターについて高度な知識を持たなくとも、作成者がシナリオ通りにエージェントの動作とアイコンおよび文章の表示が可能な状態になるようにするためのマニュアルを作成した。

公開日・更新日

公開日
2018-06-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201327049B
報告書区分
総合
研究課題名
心理学と情報工学を利用した食品リスク情報コミュニケーションツールとその評価手法の開発
課題番号
H24-食品-若手-016
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
和田 有史(独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所食品機能研究領域)
研究分担者(所属機関)
  • 湯浅 将英(湘南工科大学 工学部)
  • 木村 敦(東京電機大学 環境情報学部)
  • 小川 真規(自治医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
情報工学および心理学の知見と技術を応用することで、一般消費者や専門家などの多様なステークホルダーに対して食品のリスクに関する共通理解を促す食品情報開示法を開発する。
研究方法
1.農薬に関する表示による理解の支援の効果
大学生および大学院生80名、女性900名に、文章、累積正規分布関数のグラフ、イラストの3種類の説明表示を参照してから、農産物に残留している農薬のリスクに関する評定を行わせた。さらに、認知傾向検査を行い、分析的思考傾向が情報理解に与える影響を検討した。
2.放射性物質に関する消費者の情報認識と認知特性に関する調査
一般消費者300名および、放射線に関する情報伝達を行う可能性がある職業従事者が246名、合計546名に、食品と放射性セシウムについての架空の記事を読ませ、関連する事項についての評定を求めた。
3.放射性物質に関する消費者態度の類型化と認知特性に関する研究
日本人男女400名を対象に調査した。調査項目には 食品中の放射性物質に対する態度等を問う項目と、回答者のコホートに関する情報を問う項目が含まれた。
消費者が不安に感じやすい項目について、専門家に理系大学生と児童向けの解説文執筆を依頼した。さらにその解説文を理系大学生が照査し、合議により複数の解説文をまとめることでわかりやすい解説文の抽出を試みた。
4.リスク情報を説明する擬人化エージェント作成ツールと対話ツールの開発
擬人化エージェント作成ツールの開発のため、まず情報を説明する教師をイメージしたエージェントを作成した。さらに、事前におこなった調査に基づき、エージェントの基本動作を試作した。試作に基づき、それを簡便に作成するツールをエクセルのマクロを用いて開発した。
5.認知傾向ごとのエージェント利用の効果
男女672名を対象に調査を行った。残留農薬量の説明ツールとして、文章に(1)音声、(2)試験管による専門用語の説明、(3)エージェントによる説明を付加する効果を検討した。
結果と考察
1.農薬に関する表示による理解の支援の効果
一般消費者を対象とした調査では、文章のみ条件、文章とグラフ条件で分析的思考得点が0点の参加者の正答率は5%未満であり、分析的思考得点が上昇するに従って正答率も上昇した。すなわち、従来の表示は、全体の60%を占める分析的思考傾向が低い群は正しく認識することは難しかった。その一方で、一次元のイラストを用いた場合には、分析的思考得点が0点の参加者であっても20%以上正答し、分析的思考得点の点数による正答率の有意な差が消失した。これは、一次元的なイラストが直感的な思考の消費者の理解をも促進することを意味している。
2.放射性物質に関する消費者の情報認識と認知特性に関する調査
被災地産の食品に対する態度調査では、直感的思考傾向が強いほど、不安感に該当する因子に含まれる項目で高得点を示した。また、情報伝達者と比較して一般消費者の方が,大きな不安を抱いていることがわかった。その一方で、基準値への信頼に関する因子得点に、職業およびCRTスコアの影響はなかった。このことから、消費者の過度な不安と基準値への信頼は別因子であることが明らかになった。
3.放射性物質に関する消費者態度の類型化と認知特性に関する研究
食品中の放射性物質に対する消費者の態度は大きく4類型に分類できることが示唆された。
また、消費者の認知傾向と家族構成が食品中の放射性物質に対する知識や態度に影響を及ぼすことが明らかとなった。
4.リスク情報を説明する擬人化エージェント作成ツールと対話ツールの開発
開発した擬人化エージェント作成ツールにより、多くの人間が馴染みのあるエクセルを使用して、容易にエージェントを作成することが可能になった。
5.認知傾向ごとのエージェント利用の効果
エージェント呈示によって直感的思考群のリスク判断が改善される可能性が示され、エージェントは特に直感的思考傾向を持つ人に有効な情報呈示法である可能性が示された。
結論
認知傾向が消費者のリスク理解に影響を与え、単純な図などが理解の一助になることを示した。
開発したエージェントは,分析的思考傾向が低い消費者への説明には有効である可能性が示された。
さらに、放射線に対する態度から消費者を類型化することができる可能性を示した。
WEBでの食品のリスクについての説明に利用できるエージェントを、作成者がコンピューターについて高度な知識を持たなくとも、シナリオ通りにエージェントの動作とアイコンおよび文章の表示が可能な状態になるようにするためのマニュアルを作成した。
本研究で開発したエージェントは分析的思考傾向が低い消費者への説明には有効である可能性を示した。

公開日・更新日

公開日
2018-06-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201327049C

成果

専門的・学術的観点からの成果
一般消費者を対象にした調査の結果、残留農薬量の安全性についての尺度に適切な評定が行われる確率は分析的思考得点に応じて高くなることが明らかになった。また、その確率はイラストや動画を用いた説明により改善できることを示した。さらに一般消費者および医師や放射線技師などの専門家にセシウムの新基準値に関連する項目を評定させた結果、不安に関する項目の評定は分析的思考得点と職業の両者により異なる一方、新基準値の信頼に関する項目にはそれらによる差がないことが明らかになった。
臨床的観点からの成果
食品中の放射性物質に対する態度等を問う項目と、回答者のコホートに関する情報を問う項目を含むインターネット調査により、食品中の放射性物質に対する消費者の態度や属性について類型化を行った。調査の結果、食品中の放射性物質に対する消費者の態度は大きく4類型に分類できることが示唆された。また、放射線と食品に関して、医師など専門家から収集した説明を大学生らに合議させ、複数の解説文をまとめることでわかりやすい解説文を抽出させることを試みた。
ガイドライン等の開発
食品のリスク情報を擬人化エージェントが説明することで消費者が適切に理解することを目指し、情報提供者側が容易に擬人化エージェントを利用できるツールを開発した。ツールの利用者は一般的な事務処理ソフト(エクセル)を用いて、話す内容を入力し動作を選択するのみで、WEB上で動作するエージェントを作成できるようにした。
その他行政的観点からの成果
今回の調査で行った残留農薬量と安全性に関する評定尺度の評定から算出した正答率から考えると、残留農薬の説明によく用いられるシグモイド関数のグラフを付加しても、文章のみ表示した場合と比べて成績の向上は促されないことがわかった。その一方で、一次元で農薬量を示すイラストを付加することによる成績の向上は顕著であった。
その他のインパクト
本研究の成果は、日本健康教育学会誌、Journal of Food Science、Computers in human behaviorなどの学術雑誌に掲載された。また、日本官能評価学会2013年大会での本研究の一部に関する発表は優秀発表賞を授与される予定である。

発表件数

原著論文(和文)
8件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
朴ソラ・増田知尋・村越琢磨他
イラストを用いた食品中の残留農薬量の理解度の検討
日本健康教育学会誌 , 22 (2) , 100-110  (2014)
原著論文2
Kimura, A., Magariyama, Y., Miyanoshita, A.etal.
Effect of risk information exposure on consumers’ responses to foods with insect contamination
Journal of Food Science , 7 (Nr.2) , S246-S250  (2014)
10.1111/1750-3841.12331
原著論文3
Kimura, A., Mukawa, N., Yuasa, M.et al.
Clerk agent promotes consumers’ ethical purchase intention in unmanned purchase environment
Computers in Human Behavior , 33 , 1-7  (2014)
10.1016/j.chb.2013.12.022
原著論文4
Honda, H., Ogawa, M., Murakoshi, T.,et al.
Variation in risk judgment on radiation contamination of food: Thinking trait and profession
Food Quality and Preference , 46 , 119-125  (2015)
10.1016/j.foodqual.2015.07.014
原著論文5
Honda, H., Ogawa, M., Murakoshi, T.,et al.
Effect of visual aids and individual differences of cognitive traits in judgment on food safety
Food Policy , 55 , 33-40  (2015)
10.1016/j.foodpol.2015.05.010
原著論文6
増田知尋・村越琢磨・木村敦 他
聴講者応答システムを利用した食の安全講義の効果測定
日本官能評価学会誌 , 20 (1) , 22-29  (2016)
原著論文7
湯浅将英, 田中一樹, 土肥紳一 他
授業アンケートの自由記述からの評価情報抽出
工学教育 , 60 (6) , 111-117  (2012)
原著論文8
湯浅将英, 佐藤綾
協力態度を示すエージェントを用いたシステム継続利用 - 協力の原理によるエージェントデザイン指針
電子情報通信学会論文誌 A , 97A (6) , 396-405  (2014)

公開日・更新日

公開日
2014-06-19
更新日
2016-10-03

収支報告書

文献番号
201327049Z