リスクコミュニケーションにおける情報の伝達手法に関する研究 

文献情報

文献番号
201327043A
報告書区分
総括
研究課題名
リスクコミュニケーションにおける情報の伝達手法に関する研究 
課題番号
H24-食品-指定-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
緒方 裕光(国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 山口 一郎(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 奥村 貴史(国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター)
  • 藤井 仁(国立保健医療科学院 政策技術評価研究部)
  • 鳥澤 健太郎(独立行政法人情報通信研究機構 ユニバーサルコミュニケーション研究所 情報分析研究室)
  • 大竹 清敬(独立行政法人情報通信研究機構 ユニバーサルコミュニケーション研究所 情報分析研究室)
  • 川田 拓也(独立行政法人情報通信研究機構 ユニバーサルコミュニケーション研究所 情報分析研究室)
  • 乾 健太郎(東北大学大学院 情報科学研究科)
  • 岡崎 直観(東北大学大学院 情報科学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 東日本大震災により生じた東京電力福島第一原子力発電所の事故により、環境中に大量の放射性物質が放出された。この事故による公衆への健康影響は十分に解明されていないものの、明らかな健康被害が生じる被曝線量ではないと推定されている。しかしながら、前例の無い規模の放射能汚染が生じたことに加え、公的機関による情報提供上の問題もあり、放射能に関する正誤のあいまいな情報や伝聞による健康情報がインターネットを中心として蔓延し、国民の間には食品の安全性に関する問題は今なお存在している。
 このような状況において食品並びに食品安全行政への信頼を確保するために、現在、科学的知見に基づく食品の安全性に関する情報を正確かつ分かりやすく国民に伝える「リスクコミュニケーション」が求められている。しかしながら、従来のリスクコミュニケーションは、専門家から一般人への一方通行な情報伝達、または、専門家と一般市民における双方向の情報交換のいずれかを前提としており、現在のように放射能に関する正誤のあいまいな情報がネットに溢れる状況を想定していなかった。
 本研究では、ネットが普及した現在における食品安全に関するリスクコミュニケーションを確立するため、食品中の放射性物質汚染を事例として取り上げ、ネット時代に求められるリスクコミュニケーションのあり方を明らかとすることを目的とする。
研究方法
 上記の目的のために、1) 社会およびネット上に存在するさまざまな情報を効率的に分析し、どのような情報が国民から求められているかを把握したうえで、2) 消費者が食品の安全性を判断するための情報を効果的に関係者や国民に提供する手法を検討する。さらに、3) ネットと実社会との関係についてアンケート調査等の手法を用いて分析することにより、ネットを用いたリスクコミュニケーション手法の信頼性、妥当性の検証を試みる。
 平成24年度には、自然言語処理技術を用いて、食品安全や放射線リスクに関するネット上の意見や発言の解析を行った。また、食品安全に関する情報提供策の改善について検討すると共に、アンケート調査を実施し、ネットと社会の関わりについての分析を行った。平成25年度においては、ネット上の意見や発言の解析技術に関する基礎研究、並びに、情報提供手法についての検討を継続すると共に、ネットと実社会との関係に関する検証をより精緻化し、ネット時代におけるリスクコミュニケーションのあり方についておよその概念を整理したうえで、ガイドライン案をまとめた。
結果と考察
 上記の結果、1) 一般住民を対象としたアンケート調査結果とネット情報解析の結果にはある程度の共通性がみられること、2) ネット情報における意見の多様性や意見の構造など、定性的分析には意味があること、3) 信頼を得るためには合理的な根拠(数値データを含む)を効果的な媒体・方法を通じて発信することが重要であること、4) 行政広報のあり方として、従来からの方法に加えてソーシャルメディアを用いた方法も有効である可能性があること、などがわかった。
 本研究では、主にインターネット上の情報に関する自然言語処理、従来型の社会調査、文献調査の3つの手法を用いて、インターネットが普及した現代におけるリスク情報の伝達手法のあり方を検討した。とくに自然言語処理技術を食品安全に関するリスクコミュニケーションへ応用した点は本研究の最大の特徴であり、インターネット上における各種意見と実際の社会調査により得られる意見の関係を明らかとし、ネット調査の信頼性、妥当性を検証する手法は確立されていない。本研究により、正確な情報伝達の方法や風評被害対策など行政による情報伝達のあり方を考える上でのいくつかの重要な根拠を提示することができた。
結論
 インターネット情報の解析は、意見の多様性や意見の構造などの定性的分析に意味があると思われることから、これらのネット情報の分析結果は、正確な情報伝達の方法や風評被害対策など行政による情報伝達のあり方の根拠となりうるものである。
 また、ネット情報は多くの人々に受け入れられているものであり、行政からの情報伝達方法として、従来からの方法に加えてソーシャルメディアを用いた方法も有効であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201327043Z