精神薄弱児・者の障害認定の基準と入所判定に関する総合研究

文献情報

文献番号
199800290A
報告書区分
総括
研究課題名
精神薄弱児・者の障害認定の基準と入所判定に関する総合研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 喜篤(社会福祉法人北翔会・総合施設長兼北星学園大学教授)
研究分担者(所属機関)
  • 櫻井芳郎(淑徳短期大学)
  • 本間博彰(宮城県児童相談所)
  • 辰野洋子(大阪中央子ども家庭センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
精神薄弱児・者に関する処遇に関して直接的に関わる法律としては、児童福祉法(1947年制定)と精神薄弱者福祉法(1960年制定、平成11年 4月 1日からは知的障害者福祉法と改称される)があるが、これらの法律のいずれにも精神薄弱の概念ないしは定義は示されていない。また、精神薄弱児・者への福祉的処遇といえば、従来、欧米ほどに隔離的(segregative)・管理拘束的(custodial)ではないにしろ、しばしば一般社会からは隔絶された居住型施設への入所が当然とされ、そこでは実現性の乏しい「社会適応」のための学習・訓練が繰り返されていた。
一方、わが国でいうところの精神薄弱に関する国際的な認識は近年いちじるしい変革を遂げ、精神薄弱から精神遅滞という概念に発展した。わが国でも、漠然とながら、児童相談所や精神薄弱者更生相談所における現実の扱いは、精神遅滞なる概念に基づいて行われることが多い。したがって、この事実からしても、精神薄弱なる用語は死語となっていると考えなければならない。しかし、この10年ほどの間に、障害に関する国際的な認識はさらに大きな発展をとげ、従来のような考え方や社会的処遇のあり方に対しては厳しい批判が向けられるようになった。
おりしも、わが国においては、従来別々に整備されていた身体障害・精神障害・精神薄弱の福祉体系を統合することとなり、これら三障害福祉の相互の整合性が求められるようにもなってきた。周知のように、身体障害と精神障害に関してはすでに法律上の定義が定められており、この点については、精神薄弱が著しく整合性を欠いているといわざるを得ない。
本研究の目的は、精神薄弱に関する今日的な認識に基づく法的概念の確立と、その理念に基づく精神薄弱児・者の社会的処遇のあり方を明らかにすることにある。
研究方法
本研究は、以下のような3つの分担研究によって遂行された。
①精神薄弱の定義および障害認定の基準に関する研究(分担研究者:櫻井芳郎)
②児童相談所における障害認定と入所判定基準のあり方に関する研究(分担研究者:本間 博彰)
③更生相談所における障害認定と入所判定基準のあり方に関する研究(分担研究者:辰野 洋子)
上記の分担研究を担うそれぞれの研究班は、研究単位としてはそれぞれ独自の活動を原則としたが、相互の連携は不可欠と考えられたので、しばしば、主任研究者と3人の分担研究者は研究資料や調査結果を持ち寄って研究会議を開催した。特に、櫻井分担研究者の研究活動は本研究の中核的な位置付けにあるので、精神薄弱の定義・障害認定の基準・療育手帳制度に関しては幅広い議論を重ねた。
分担研究②および③の、児童相談所と更生相談所における障害認定と入所判定基準に着いては、本年度の具体的な課題として、全国の相談所の独自な判断や考え方ならびに問題点が多岐にわたることが予想されたので、現状と課題の整理に主眼をおいて分析・検討を加えた。
結果と考察
本年度の最も中心的な研究課題としてある種の結論的なものを求められたのは、分担研究①の「精神薄弱の定義および障害認定の基準」であった。ここではこれを中心に述べ、分担研究②および③については、来年度に向けての中間的な報告となることをお許し頂きたい。ここでは、必要に応じて、精神薄弱に代わる新しい用語としての「知的障害」を用いることがある。
①知的障害の定義および障害認定の基準について
今後、わが国では、福祉関係法に関する限り精神薄弱のことを「知的障害」と称するが、その内容は、国際的な共通認識となっている「精神遅滞」をさす用語である。また、強調されなければならないのは、学術用語ならびに医学的診断名としては、今後とも「精神遅滞」が用いられるという点である。このような前提で、本研究においては、知的障害の定義(案)として「知的発達に遅滞が認められ、日常生活に支障をきたしているために支援を必要とする状態を指す」を提案した。これは、従来の概念が測定知能の水準に大きく依存していたものを、アメリカ精神遅滞学会の理念と同様に(同時にそれは世界的な理念でもあるが)、日常生活の遂行にどのような支援を必要とするかを重視した概念となっている。「何ができないか、どの程度劣っているか」という視点でなく、「何を必要としているか、何が支援できるか」という視点を重視した定義と言えよう。
このほか、関連する事項として、以下の諸点を提案した。
①障害認定指針(案)の視点、      ②障害認定の指針
③医学的診断の手引き          ④臨床的病理学的検査の手引き
⑤自閉症の判定基準           ⑥乳児期の判定基準
⑦知的障害の程度別判定指標       ⑧障害認定評価表(案)
⑨障害等級(案)
②児童相談所における障害認定と入所判定基準について
児童相談所の障害児に果たす役割を歴史的経緯を含めて整理し、障害児のニーズの時代的推移を明らかにしようとした。また、障害児への援助と障害認定との関係を検討するために、全国の児童相談所を対象としてアンケート調査を行った。その詳細は分担研究報告に委ねるが、アメリカ精神遅滞学会の提唱する新しい定義については必ずしも浸透しているとは言い難いこと、知的障害児の問題と関連する他の障害児問題(自閉症、注意欠陥多動障害、学習障害、重症心身障害など)は密接なつながりがあること、などが明らかにされた。知的障害の定義や障害認定の基準において、こうした分野への配慮が重要である。
③更生相談所における障害認定と入所判定基準について
本年度は、櫻井班への研究協力のほか、更生相談所における実態の把握や問題点の整理に会議体による検討・分析を精力的に行い、同時に精神薄弱者援護施設および生活支援センターへの訪問調査を行った。その結果、以下のような項目についての検討を行った。
①知的障害者福祉を取り巻く今日的状況  ②障害認定の現状
③知的障害についての最近の動向  ④療育手帳制度の現状と課題
⑤障害認定の方法についての提案     ⑥更生相談所の相談・判定等の現状と課題
なお、アメリカ精神遅滞学会による「精神遅滞の定義・分類・支援システム」は1992年に出版され世界各国で広く読まれているにも関わらず、わが国では訳本がいまだにない。辰野班では、アメリカ精神遅滞学会と接触し、その訳出方の了解を求めて交渉中である。
結論
長年の懸案であった知的障害の定義と障害認定基準が、本研究によってようやく現実のものとなったと考えられる。次年度はその普及に向けての課題に取り組みたい。

公開日・更新日

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