生鮮食品を共通食とする原因不明食中毒の発症機構の解明 

文献情報

文献番号
201327005A
報告書区分
総括
研究課題名
生鮮食品を共通食とする原因不明食中毒の発症機構の解明 
課題番号
H23-食品-一般-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
大西 貴弘(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究分担者(所属機関)
  • 小西 良子(麻布大学 生命・環境科学部)
  • 鎌田 洋一(岩手大学 農学部)
  • 野崎 智義(国立感染症研究所 寄生動物部)
  • 黒田 誠(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析センター)
  • 八幡 裕一郎(国立感染症研究所 感染情報センター)
  • 佐藤 宏(山口大学 農学部)
  • 久米田 裕子(大阪府立公衆衛生研究所 細菌課)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
16,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、生鮮魚介類もしくは獣肉を共通食とする原因不明食中毒が増加している。これまでの研究から、生鮮魚介類の場合ではKudoa septempunctata(以下、クドア)が、獣肉、特に馬肉の場合ではSarcocystis fayeri(以下、ザルコシスティス)が原因微生物の一つであることを明らかになっている。本研究ではこれらの寄生虫の毒性メカニズムを明らかにし、原因不明食中毒の発症防止策を策定するうえでの基礎的データーの構築を行った。
研究方法
ヒト腸管培養細胞およびマウスを用いてクドアの毒性メカニズム解明を試みた。また、本食中毒事例における疫学的調査・解析を実施した。さらにクドアの全ゲノム解析を行った。専門知識および特別な機器を必要としない誰にでも使用できる迅速検査法の開発もあわせて行った。ヒラメ以外の魚にもクドア属に属する粘液胞子虫が寄生していることが知られているため、クドア以外のクドア属の寄生実態を確認も行った。
ザルコシスティスの構成タンパク質およびその遺伝子を解析し、病原性を担う物質を同定、さらにその組換え体を作出し、病原性を検討した。野生動物肉の食肉転用に伴い、同動物に寄生する住肉胞子虫の寄生率や、病原性因子の保有性について検討した。ザルコシスティスのゲノム解析を行った。
結果と考察
胞子原形質による腸管上皮細胞の透過性亢進、および胞子の腸上皮細胞への直接的な作用により下痢を発症させると考えられた。また、クドアは腸管上皮に存在するエンテロクロマフィン細胞を直接あるいは間接的に刺激し、セロトニン産生を引き起こすことが明らかになった。この結果から、クドア刺激によるセロトニン産生が下痢発症メカニズムであることが示唆された。クドアのゲノム配列を用いた分子疫学解析を行ったところ、クドアにはAとBの二種類の系統が存在し、国内養殖ヒラメでは両タイプが混在しているが、韓国産は全てAタイプであった。この方法を用いることにより、クドアの産地特定が可能になることが示唆された。RNAを用いた核酸クロマトグラフィーとDNAを用いたLAMP法の2種類を簡易迅速検査法確立し、5機関で妥当性試験を行い、良好な結果を得た。日本近海産ウマヅラハギに4極嚢のK. lateolabracisとともに7極嚢(範囲6~8)でK. septempunctata胞子と区別できない種の寄生を確認した。また、リキッドフリージング法がクドア食中毒予防に有用であることを見出した。
野生シカにはSarcocystis属が広く寄生していた。シカに寄生する住肉胞子虫はウマに寄生するそれと異なるSarcocystis属だったが、病原タンパク質と抗原性が一致するタンパク質を持っており、食用動物一般に、住肉胞子虫危害の可能性があることが明らかになった。
結論
今年度の研究ではクドアおよびザルコシスティス食中毒発症防止のための基礎的なデーターを収集することができた。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201327005B
報告書区分
総合
研究課題名
生鮮食品を共通食とする原因不明食中毒の発症機構の解明 
課題番号
H23-食品-一般-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
大西 貴弘(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究分担者(所属機関)
  • 小西 良子(麻布大学 生命・環境科学部)
  • 鎌田 洋一(岩手大学 農学部)
  • 野崎 智義(国立感染症研究所 寄生動物部)
  • 黒田 誠(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析センター)
  • 八幡裕一郎(国立感染症研究所 感染情報センター)
  • 佐藤 宏(山口大学 農学部)
  • 久米田 裕子(大阪府立公衆衛生研究所 細菌課)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究ではクドアおよびザルコシスティスフェアリーによる食中毒の発生を防止するために、食中毒発症機序を明らかにするとともに、疫学調査、ゲノム解析、簡易迅速検査法の作成、分類など多角的にクドアおよびザルコシスティスフェアリーの解析をおこなった。
研究方法
クドアおよびザルコシスティスフェアリーによる食中毒に関して以下の研究を行った。

1.クドアの食中毒発症機序の解析
2.クドアに対するヒト免疫応答の解析
3.クドアによる食中毒の疫学的解析
4.クドアのゲノム解析
5.クドアの簡易迅速検査法の確立
6.糞便からのクドア検査法の確立
7.ヒラメの肉質に影響を与えないクドア不活化法の検討
8.クドア属粘液胞子虫の種同定の拡充
9.ザルコシスティスフェアリーの病原性タンパク質の解析
10.ザルコシスティスフェアリーのゲノム解析
11.シカ肉を喫食しての有症苦情事例の解析
結果と考察
胞子原形質の細胞内侵入、胞子の直接作用および極糸の細胞内貫通など様々な要因による腸管上皮細胞の傷害がクドアによる下痢発症メカニズムであることが示唆された。また、クドアが直接EC細胞を刺激しセロトニン産生を引き起こすが明らかになった。このセロトニン産生がクドアによる嘔吐につながる可能性が示唆された。
クドア刺激を受けたマクロファージはIP-10、MIP-1β、MIP-2、TNF-αを産生することが明らかになった。また、クドアはマクロファージ上のTLR2に認識されることが明らかになった。よって、クドアの感染防御には自然免疫系が重要な役割を果たしていることが示唆された。
疫学調査の結果、10の7乗オーダーでの摂取がクドアによる下痢あるいは嘔吐の少なくともいずれかの消化器症状を呈することが示唆された。
ミトコンドリア遺伝子多型により、クドアを二つの系統に分類できることが分かった。国内養殖場からはST1, ST2両型が検出されたが、韓国産成魚の殆どはST1であった。ミトコンドリア遺伝子多型はヒラメに寄生するクドアの由来の追跡に有用であると考えられた。
リキッドフリーザーによる凍結はヒラメ筋組織を比較的変性させずにクドアを失活させる方法として有用であることが示唆された。
クドアに対する簡易迅速検査法として核酸クロマト法と、LAMP法を確立した。また、糞便からのクドア検査法を確立した。
ザルコシスティスフェアリーの毒性タンパク質を同定し、クローニングを行った。また、この毒性タンパクは馬だけでなくシカに寄生する住肉胞子虫も産生することが明らかになった。このことから、シカ等、食用に転用される動物肉の安全性確保を考える際、寄生虫性食中毒も、重要な検討項目となることが示唆された。



結論
クドアとザルコシスティスフェアリーの食中毒発症機序をほぼ明らかにすることができた。また、疫学的解析、検査法の確立、ゲノム解析、食中毒予防法の提案などを行った。これらの研究成果は本食中毒の発生予防に大きく寄与するものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201327005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
クドアによる下痢発症には腸管上皮細胞の微絨毛の崩壊、ミトコンドリアや小胞体の膨化、および細胞崩壊がクドアによる下痢発症メカニズムのひとつであることが示唆された。また、嘔吐発症には腸管で産生されるセロトニンが関与していることが示唆された。クドアのミトコンドリアゲノムと核ゲノムの配列解読を行い、クドアのゲノムサイズが83mbで3本の染色体からなることが分かり、また二倍体であることを明らかにした。
臨床的観点からの成果
ヒラメ喫食による下痢または嘔吐の発病との関連はヒラメの個体の重量とヒラメの喫食量が発病と関連することを明らかにした。
ガイドライン等の開発
LAMP法および核酸クロマトグラフィー法によるクドアの迅速検査法を開発した。養殖場での出荷時検査または検疫業務における輸入検査に適用可能であると考えられた。コラボラティブスタディを行い、通知法での収載を進める。
その他行政的観点からの成果
クドアのミトコンドリア遺伝子の多型から国産ヒラメ由来のクドア株と韓国産ヒラメ由来のクドア株を区別できることを明らかにした。新しいリキッドフリーザ法がヒラメの肉質変化を最小限に抑えながらクドアを不活化できることを明らかにした。この方法はクドア食中毒予防法として利用できる可能性が示唆された。
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
10件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
15件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
1件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
寄生虫の検出方法、及び、キット
詳細情報
分類:
特許番号: 5830771
発明者名: 菊池 裕、小西 良子、大西 貴弘
権利者名: 公益社団法人ヒューマンサイエンス振興財団
出願年月日: 20110810
取得年月日: 20151106

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Li Y-C, Sato H
Two novel myxosporean species (Myxosporea: Bivalvulida), Myxobo-lus marumotoi n. sp. and Cardimyx-obolus japonensis n. sp., from the dark sleeper, Odontobutis obscura, in Japan.
Parasitol Res  (2014)
10.1007/s00436-014-
原著論文2
Kamata Y., Saito M., Irikura D. et al.
A toxin isolated from Sarcocystis feyeri in raw horsemeat may be re-sponsible for food poisoning.
J. Food Prot. , 77 (5) , 814-819  (2014)
10.4315/0362-028X.JFP-13-351
原著論文3
Ohnishi T, Oyama R, Furusawa H et al.
Kudoa septempunctata was recognised by toll-like receptor 2 produced by a RAW 264 macrophage-like cell line.
Food Addit Contam Part A , 30 , 1365-1369  (2013)
原著論文4
Ohnishi T, Furusawa H, Yoshinari T et al.
Electron microscopic study of Kudoa septempunctata infecting Paralich-thys olivaceus (olive flounder).
Jpn J Infect Dis , 66 , 348-350  (2013)
原著論文5
Kikuchi Y, Ohnishi T, Furusawa H et al.
ELISA Detection of Kudoa sep-tempunctata in Raw Paralichthys olivaceus (Olive Flounder) using a Chicken Anti-Kudoa Antiserum.
Biocontrol Sci , 18 , 193-197  (2013)
原著論文6
Li Y-C, Sato H, Tanaka S et al.
Characterization of the ribosomal RNA gene of Kudoa neothunni (Myxo-sporea: Muyltivalvulida) in tunas (Thunnus spp.) and Kudoa scomberi n. sp. in a chub mackerel (Scomber japonicus).
Parasitol Res , 112 , 1994-2003  (2013)
原著論文7
Ohnishi T, Akuzawa S, Furusawa H et al.
Inactivation of Kudoa septempunctata in Olive Flounder Meat by Liquid Freezing.
Biocontrol Science , 19 (3) , 135-138  (2014)
原著論文8
大西 貴弘,古沢 博子,佐古 浩 その他
クドア食中毒およびKudoa sep-tempunctataの季節による特徴
日本食品微生物学会雑誌 , 30 , 125-131  (2013)
原著論文9
原田誠也、古川真斗、徳岡秀亮 その他
馬肉中に含まれる住肉胞子虫の危害性消失条件の検討による生食用馬肉を共通食とする食中毒事例の発生防止対策に関する研究
食衛誌 , 54 , 198-203  (2013)
原著論文10
Sugita-Konishi Y et al.
New Validated Rapid Screening Methods for Identifying Kudoa septempunctata in Olive Flounder (Paralichthys olivaceus).
Jpn J Infect Dis , 68 , 145-147  (2015)
原著論文11
Yahata Y et al.
Kudoa septempunctata induced gastroenteritis in humans after flounder consumption in Japan: A case-control study.
Jpn J Infect Dis , 68 , 119-123  (2018)
原著論文12
Ohnisi T. et al.
Molecular Epidemiological Analysis of Kudoa septempunctata by Random Amplified Polymorphic DNA Analysis
Jpn J Infect Dis , 68 , 235-238  (2018)

公開日・更新日

公開日
2014-06-02
更新日
2018-06-20

収支報告書

文献番号
201327005Z