ナノ食品の安全性確保に関する研究 

文献情報

文献番号
201327002A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノ食品の安全性確保に関する研究 
課題番号
H23-食品-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
小川 久美子 (国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 西川 秋佳(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター)
  • 広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 総合評価室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
14,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
モンモリロナイト((Na,Ca)0.33(Al,Mg)2Si4O10(OH)2・nH2O)を主成分とするナノクレイは、加工食品の固化防止や内容物の保存安定性の向上を目的としてPETボトルなどの包装容器への使用が検討されているが、安全性に関する情報は充分とは言えない。本研究は、ラットを用いたナノクレイの経口投与による毒性影響の検討、ナノクレイ中の成分であるアルミニウムを指標とした体内動態の検討および食品・食品容器分野におけるナノクレイの用途調査による暴露評価のための基礎的情報収集を目的としている。
研究方法
より安定的・均一な物性を示す精製物と考えられる合成ナノクレイであるスメクトンおよび精製ナノクレイであるクニピアについて、0.2%、1.0%及び5.0%の混餌投与で雌雄のF344ラットを用いて13週間反復投与試験を実施し、全身諸臓器の毒性評価を実施すると共に、肝臓および糞便中のアルミニウム濃度を ICP-MSを用いて検討し、腸管粘膜への物理的影響を検討するために便潜血も確認した。
また、ナノマテリアルの食品・食品容器分野における使用実態の全体像を把握するために、ナノクレイ以外のナノマテリアルに調査範囲を広げ、近年抗菌作用としての効用が注目されているナノ銀及び白の着色用途として使用されている酸化チタンについてそのナノマテリアルとしての使用実態の調査を行った
結果と考察
経過中、死亡例はみられず、一般状態、最終体重、血液学的検査、血液生化学的検査、臓器重量および病理組織学的検討において、いずれも明らかな毒性は示さなかった。また、糞中のアルミニウム濃度は5%スメクトン投与群および5%クニピア群において、それぞれ、対照群の23および100倍程度であったが、投与終了時の肝臓でのアルミニウム濃度は投与による影響はなく、便潜血や腸管の組織学的変化などの物理的影響も認めなかった。以上より、本試験条件下における無毒性量(NOAEL)は雌雄ともに5.0%(スメクトンの雄:2.91 g/kg 体重/日、雌:3.15 g/kg 体重/日、クニピアの雄:2.89 g/kg 体重/日、雌:3.09 g/kg 体重/日)と判断された。
また、近年抗菌作用としての効用が注目されているナノ銀及び白の着色用途として使用されている酸化チタンについてそのナノマテリアルとしての使用実態の調査を行ったところ、食品に関連するナノ銀としては、用量の総量は把握できなかったが、特に容器・包装用途における抗菌目的の使用が確認できた。銀の形態は、ナノ銀(金属)、銀イオン及び銀コロイドと多様であり、多くは銀イオンを溶出させて抗菌効果を求めていた。二酸化チタンについては、容器・包装に遮光性や抗菌性を付与する目的の使用が確認できた。二酸化チタンナノ粒子製品が食品添加物用として明示的に使用される例は見つけられなかったが、公表研究論文には一般の食品添加物の中にナノ粒子成分も含まれている事が示されていた。銀および二酸化チタンに関してバルクとしての食品用途の数量も把握できない状況であったが、一般工業用と比較すれば食品関連の使用総量は非常に少ないと思われた。しかし、使用されている製品の状況からは、曝露されている人数は意外に多いと考えられた。また、デンマーク環境省より10種類のナノマテリルの経口曝露による体内吸収に関する最新知見が報告されが、現時点では腸管吸収を精査するためにデザインされた試験の報告はかなり限られており、さらなる研究の必要性が示されていた。今後は、使用されている可能性のある製品群の分析調査による正確な実態の把握及び腸管吸収性を定量的に評価するための試験研究が必要であると考えられた。
結論
合成ナノクレイであるスメクトンおよび精製ナノクレイであるクニピアについては、いずれも5%までの混餌投与において、雌雄のF344ラットに毒性影響は示さず、本試験条件下における無毒性量(NOAEL)は雌雄ともに5.0%(スメクトンの雄:2.91 g/kg 体重/日、雌:3.15 g/kg 体重/日、クニピアの雄:2.89 g/kg 体重/日、雌:3.09 g/kg 体重/日)と判断された。また、一般工業用と比較すれば銀および二酸化チタンの食品関連の使用総量は非常に少ないと思われたが、使用されている製品の状況からは、曝露されている人数は意外に多いと考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

文献情報

文献番号
201327002B
報告書区分
総合
研究課題名
ナノ食品の安全性確保に関する研究 
課題番号
H23-食品-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
小川 久美子 (国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 西川 秋佳(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター)
  • 広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 総合評価室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ナノマテリアルの食品や食品容器包装への応用としては種々の素材があり、一般には径が 100nm 以下の物質が含まれるが、ナノ食品ではサブミクロン(1000nm 未満)から凝集も考慮して、1~数μm 程度のものも留意するとされている。2008年 EFSA において通常のリスクアセスメントが適用されるとしていたが、2011年4月に EU ではナノ食品のリスク評価ガイダンスにおいて、(1)食品添加物類・酵素類・香料類・食品接触材料類・新規食品類・飼料添加物類・農薬類に用いる加工ナノマテリアルの物理化学的特性の要件 (2)一般的には、in vitro遺伝毒性・吸収・分布・代謝・排泄・げっ歯類の13週間反復投与経口毒性試験における情報を収集すべきとしており、本邦でも対応が必要と考えられた。ナノクレイは国内で年間250トンの使用が報告されているが、その毒性影響の情報は限られている。本研究では、ナノクレイを中心にナノ食品の安全性確保に関する情報の収集を目的とした。
研究方法
加工食品の固化防止、あるいは PETボトルなど食品保存容器の内容物の保存安定性(ガスバリア性、耐摩擦性など)の向上を目的として使用されているモンモリロナイト((Na,Ca)0.33(Al,Mg)2Si4O10(OH)2・nH2O)を主成分とするナノクレイについて、3種の天然物および1種の合成物を用いてラットへの13週間反復経口投与による毒性試験を実施するとともに、アルミニウムあるいはマグネシウムを指標にICP-MSを用いて生体内への蓄積を検討した。また、ナノクレイの経口暴露情報および近年抗菌作用としての効用が注目されているナノ銀及び白の着色用途として使用されている酸化チタンについて使用実態の調査を行った。
結果と考察
食品添加物規格の天然モンモリロナイトであるベンゲルクリアおよびベンゲルフレークを用い5、1、0.2および0.04% の用量でF344ラット雌雄の各群10匹に13週間の混餌投与による反復投与毒性試験を実施した。経過中、死亡例は見られず、一般状態、体重、血液生化学的検査、臓器重量および病理組織学的検討において、両者ともいずれの組織にも毒性影響を示さなかった。含有されるアルミニウムやマグネシウムによる毒性影響も懸念されたが、強制経口投与1、2、4、6および24時間後の血液および、5%の濃度で4週間混餌投与後の腎臓、肝臓、脳、脾臓および脛骨についてのICP-MS による検討では有意な変化は認めず、各組織への移行や蓄積は否定的であり、経胎盤暴露による懸念は乏しいと考えられた。
 次に、より均一な合成ナノクレイであるスメクトンと対照としての精製天然ナノクレイのクニピアについて、5、1および0.2%の用量で F344 ラットへの13週間の混餌投与を実施した。2物質とも経過中、死亡例は見られず、一般状態、体重、血液学的検査、血液生化学的検査、臓器重量および病理組織学的検討において、いずれの組織にも毒性影響を示さなかった。糞中のアルミニウム濃度は5%スメクトン群および5%クニピア群において、それぞれ対照群の23倍および100倍であったが、投与終了時の肝臓でのアルミニウム濃度は投与による影響はなく、便潜血や腸管の組織学的変化などの物理的影響も認めなかった。以上より、スメクトンおよびクニピアについても、5%までの経口摂取による毒性影響は示さないことが明らかとなった。
 また、使用実績調査において、実用化されている食品分野でのナノクレイの主な用途は、ガスバリア性の向上を主目的とした包装容器材の他、液体農薬の沈降防止剤としてであった。さらに、食品包装として使用されているガスバリア性軟包装フィルムのうち、ナノクレイが使用されている製品の割合は1.3%程度であり、飲料用PETボトル(172.1億本)のうち、ナノクレイが使用されているのは0.06%程度であった。
 一方、ナノ銀は、容器・包装における抗菌目的の使用が確認できた。銀の形態は、ナノ銀(金属)、銀イオン及び銀コロイドと多様であり、多くは銀イオンを溶出させて抗菌効果を求めていた。二酸化チタンは、容器・包装に遮光性や抗菌性を付与する目的の使用が確認できた。二酸化チタンナノ粒子製品が食品添加物用として明示的に使用される例は確認されなかったが、公表研究論文には一般の食品添加物中にナノ粒子成分の含有が示されていた。一般工業用と比較すれば、銀および二酸化チタンの食品関連の使用総量は非常に少ないと思われたが、曝露されている人数は意外に多いと考えられた。
結論
3種の天然物および1種の合成ナノクレイについては、いずれも5%までの混餌投与において、雌雄のF344ラットに毒性影響は示さなかった。また、曝露量からも、ヒトの健康に対する懸念はほとんど無いと考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201327002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
食品添加物規格の天然モンモリロナイトであるベンゲルクリア、ベンゲルフレークおよび精製天然ナノクレイのクニピアを含む3種の天然ナノクレイ並びに合成ナノクレイであるスメクトンについて、雌雄のF344ラットを用いた5%までの混餌による13週間反復投与毒性試験を実施し、生体への蓄積は見られず、毒性影響も示さないことが明らかとなった。また、ナノクレイの食品および食品容器・包装への使用による曝露量からも、ヒトの健康に対する懸念はほとんど無いと考えられた。
臨床的観点からの成果
該当なし
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
該当なし

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
10件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
16件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kubota, R., Tahara, M., Shimizu, K., et al.
Time-dependent variation in the biodistribution of C60 in rats determined by liquid chromatography–tandem mass spectrometry.
Toxicol. Lett. , 206 , 172-177  (2011)
原著論文2
Horibata, K., Ukai, A., Koyama, N., et al.
Fullerene (C60) is negative in the in vitro pig-A gene mutation assay.
Genes and Environment , 33 , 27-31  (2011)
原著論文3
広瀬明彦、高木篤也、西村哲治、他
ナノマテリアルの慢性影響研究の重要性
薬学雑誌 , 131 (2) , 195-201  (2011)
原著論文4
Yamaguchi A., Fujitani T., Ohyama K., et al.
Effects of sustained stimulation with multi-wall carbon nanotubes on immune and inflammatory responses in mice.
J. Toxicol. Sci. , 37 , 177-189  (2012)
原著論文5
Fujitani T., Ohyama K., Hirose A., et al.
Teratogenicity of multi-wall carbon nanotube (MWCNT) in ICR mice.
J. Toxicol. Sci. , 37 , 81-89  (2012)
原著論文6
Matsumoto, M., Serizawa, H., Sunaga, M., et al.
No toxicological effects on acute and repeated oral gavage doses of single-wall or multi-wall carbon nanotube in rats.
J Toxicol Sci. , 37 , 463-474  (2012)
原著論文7
Takahashi, M., Kato, H., Doi, Y., et al.
Sub-acute oral toxicity study with fullerene C60 in rats.
J Toxicol Sci. , 37 , 353-361  (2012)
原著論文8
Takagi, A., Hirose, A., Futakuchi, M,, et al.
Dose-dependent mesothelioma induction by intraperitoneal administration of multi-wall carbon nanotubes in p53 heterozygous mice.
Cancer Sci. , 103 , 1440-1444  (2012)
原著論文9
Xu, J., Futakuchi, M., Shimizu, H., et al.
Multi-walled carbon nanotubes translocate into the pleural cavity and induce visceral mesothelial proliferation in rats.
Cancer Sci. , 103 , 2045-2050  (2012)
原著論文10
Taquahashi, Y., Ogawa, Y., Takagi, A., et al.
An improved dispersion method of multi-wall carbon nanotube for inhalation toxicity studies of experimental animals.
J Toxicol Sci. , 38 , 619-628  (2013)
原著論文11
広瀬明彦
ナノマテリアルの健康影響評価指針の国際動向
薬学雑誌 , 133 , 175-180  (2013)
原著論文12
Xu, J., Futakuchi, M., Alexander, DB., et al.
Nanosized zinc oxide particles do not promote DHPN-induced lung carcinogenesis but cause reversible epithelial hyperplasia of terminal bronchioles.
Arch Toxicol. , 88 , 65-75  (2014)

公開日・更新日

公開日
2014-06-19
更新日
2020-10-02

収支報告書

文献番号
201327002Z