文献情報
文献番号
201326020A
報告書区分
総括
研究課題名
除染等作業における作業環境の線量率・土壌中放射能濃度と労働者の身体汚染の関係に関する研究
課題番号
H25-労働-一般-011
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
辻村 憲雄(日本原子力研究開発機構 核燃料サイクル工学研究所 放射線管理部 線量計測課)
研究分担者(所属機関)
- 斎藤 公明(日本原子力研究開発機構 福島環境安全センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
3,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は,福島第一原子力発電所事故によって環境中に放出された放射性物質の除染等作業において,作業現場の線量当量率及び土壌中放射能濃度と,労働者の身体汚染の程度,すなわち作業服,手袋及び長靴の放射性表面汚染の密度の関係を明らかにするとともに,作業現場での簡易な測定から労働者の身体の表面密度を十分な安全裕度で推定する手法を確立することによって,除染等作業における労働者の合理的な防護対策の立案・実施に資することを目的とする。
研究方法
研究は,(1)線量当量率と土壌中放射能濃度の関係,(2)被服への土壌の付着量,さらに(3)除染等作業における労働者の身体の表面汚染に係る研究の三つからなる。(1)の研究では,日本原子力研究開発機構(以下,「原子力機構」と記す)が文部科学省からの委託研究として福島県内において実施した放射線モニタリングの結果をもとに放射性セシウムの沈着密度と周辺線量当量率の関係を評価する。さらに,モンテカルロ計算シミュレーションによってスポット的な汚染箇所(例えば側溝等)における放射能濃度(Bq/g)と線量当量率の関係を得る。(2)の研究では,一般的な被服(作業服,手袋及び長靴)を黒土(50%粒径0.28 mm,含水比55)に接触させ,適当な荷重(約0.2 kg/cm2)をかけつつ土を擦り付けるなどしたときの土の付着量を前後の質量の差分測定によって評価する。(3)の研究では,茨城県東海村の原子力機構構内の比較的線量率の高い地域及び福島県双葉郡の道路工事現場で作業を行った労働者が着用した作業服,手袋及び長靴に付着した土に含まれる放射能をGe半導体検出器で測定し,作業現場の線量当量率及び土壌中放射能濃度との関係性を調べる。なお,任意の大きさを持つ作業服等の放射能測定にあたって,それぞれの被測定物の大きさに応じた効率をモンテカルロ計算シミュレーションによって評価する。
結果と考察
(1) 生活環境の中で局所的に汚染された箇所等を中心に,放射能濃度と線量当量率の関係を計算シミュレーションによって評価した。その結果,両者の関係は一定ではなく汚染土壌の広がりによって大きく変化するが,線量当量率測定ポイントを汚染土壌に近接させると汚染の広がりによる影響を受けにくくなる。線量当量率の測定を放射能濃度に関連付ける場合は,測定対象物に近接させて測定することが適切であること,幅30 cm以上のスポット状の汚染及び側溝の底にたまった汚染土については,その表面から高さ5 cmでの線量当量率が5 μSv/h未満であれば,放射能濃度は50万Bq/kg(平成26年4月現在)を超えないと推定できることが分かった。
(2) 含水比55の適度な湿り気を備えた黒土を用いて,被服(作業服,手袋及び長靴)への土の最大付着量を質量測定によって評価した。その結果,最大付着量は,表面に撥水加工のなされていない服・手袋で14~17 mg/cm2,撥水加工のなされた服・手袋で0.7~2.8 mg/cm2,長靴(底)で62 mg/cm2であった。
(3) 茨城県東海村の原子力機構構内の比較的線量当量率の高い地域及び福島県双葉郡の道路工事現場で作業を行った労働者が着用した作業服,手袋及び長靴に付着した土に含まれる放射能をGe半導体検出器で測定し,表面密度を評価した。当該作業現場の線量当量率(高さ1 m)は最大で6 μSv/h,土壌中放射能濃度は最大で81 Bq/gであったが,いずれの被服についても表面密度限度(40 Bq/cm2)を超える汚染は観測されなかった。また,これら測定結果から,被服に付着した土の質量とその土に含まれる放射性セシウムの放射能に比例関係があること,さらに,両者の比は土壌中放射能濃度(Bq/g)に直接対応付けることが可能であることが確認された。被服への土の最大付着量(g/cm2)と土壌中放射能濃度(Bq/g)の積から被服の最大表面密度(Bq/cm2)を推定する方法を,作業者が実際に着用した被服に適用したところ,その表面密度を十分な安全裕度で保守的に推定可能であることが示された。ただし,最大付着量は,土の水分量等によって変化すると考えられるので,それらの変動要因をも包含する最大付着量を今後評価する必要がある。
(2) 含水比55の適度な湿り気を備えた黒土を用いて,被服(作業服,手袋及び長靴)への土の最大付着量を質量測定によって評価した。その結果,最大付着量は,表面に撥水加工のなされていない服・手袋で14~17 mg/cm2,撥水加工のなされた服・手袋で0.7~2.8 mg/cm2,長靴(底)で62 mg/cm2であった。
(3) 茨城県東海村の原子力機構構内の比較的線量当量率の高い地域及び福島県双葉郡の道路工事現場で作業を行った労働者が着用した作業服,手袋及び長靴に付着した土に含まれる放射能をGe半導体検出器で測定し,表面密度を評価した。当該作業現場の線量当量率(高さ1 m)は最大で6 μSv/h,土壌中放射能濃度は最大で81 Bq/gであったが,いずれの被服についても表面密度限度(40 Bq/cm2)を超える汚染は観測されなかった。また,これら測定結果から,被服に付着した土の質量とその土に含まれる放射性セシウムの放射能に比例関係があること,さらに,両者の比は土壌中放射能濃度(Bq/g)に直接対応付けることが可能であることが確認された。被服への土の最大付着量(g/cm2)と土壌中放射能濃度(Bq/g)の積から被服の最大表面密度(Bq/cm2)を推定する方法を,作業者が実際に着用した被服に適用したところ,その表面密度を十分な安全裕度で保守的に推定可能であることが示された。ただし,最大付着量は,土の水分量等によって変化すると考えられるので,それらの変動要因をも包含する最大付着量を今後評価する必要がある。
結論
放射性セシウムに汚染された地域の線量当量率及び土壌中放射能濃度と,その環境下で作業を行う労働者の身体の表面密度の関係を実験及び計算によって評価した。その結果,被服への土の最大付着量(g/cm2)と土中放射能濃度(Bq/g)の積によって,被服の最大表面密度(Bq/cm2)を推定可能であることが分かった。土中放射能濃度を直接的に評価できない場合は,汚染土壌の広がりに多少依存するが,線量当量率サーベイメータの指示値から放射能濃度の上限値の見積もりが可能であることも分かった。
公開日・更新日
公開日
2015-06-22
更新日
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