労働者の健康状態及び産業保健活動が労働生産性に及ぼす影響に関する研究 

文献情報

文献番号
201326016A
報告書区分
総括
研究課題名
労働者の健康状態及び産業保健活動が労働生産性に及ぼす影響に関する研究 
課題番号
H25-労働-一般-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
森 晃爾(産業医科大学 産業生態科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 荒木田美香子(国際医療福祉大学 小田原保健医療学部)
  • 林田賢史(産業医科大学 産業保健学部)
  • 柴田喜幸(産業医科大学 産業医実務研修センター)
  • 永田智久(産業医科大学 産業生態科学研究所)
  • 永田昌子(産業医科大学 産業医実務研修センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
2,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
労働人口の高齢化が進むわが国では、労働者の健康への投資は、企業や社会が活力を維持するために重要な取組みと考えられるが、その負担を誰が行うべきかについては、議論が分かれるところである。特に、厳しい競争環境にある日本企業の状況を考えると、企業による法令を超えた積極的な産業保健活動への投資を促すためには、労働者の生産性の向上への貢献など、経営上の視点での効果が示されることが不可欠である。しかし、我が国の経営環境や雇用形態等の諸条件における知見はほとんど得られていない。今後、我が国における労働者の健康状態や事業場等における産業保健活動が労働生産性に及ぼす影響について検証することが必要である。
研究方法
初年度は、基盤となる生産性をアウトカムとした産業保健研究の方法や課題等について検討した。まず、経済学や経営学を含む書籍や文献による調査を行い、労働生産性と産業保健分野で測定されるabsenteeismおよびpresenteeismとの関係について整理した。その上で、労働者の健康に伴う生産性測定の限界等について考察した。また、労働者の疾病による損失をabsenteeismおよびpresenteeism、医療費等の合算と位置づけた上で、多様な疾患シナリオを用いて、それらの損失の負担構造について検討を行った。併せて、次年度以降に具体的な測定を行うことを前提に、既存のプレゼンティーイズムスケールの項目を精査するとともに、より広範囲な影響について定量的および定性的に評価可能な日本版プレゼンティーイズムスケールの作成を進めた。さらに、産業保健プログラム介入による生産性への影響に課する介入研究をデザインする必要があることを前提に、生産性をアウトカムとした介入研究の課題を整理した。

結果と考察
生産性の概念については、産業保健および経営学の分野間で、その概念に差異があることが明らかになった。生産性とは産出/投入にほかならないが、その中でも測定・評価の対象によりさまざまな指標がある。一方、産業保健の世界で生産性を取り上げる時、absenteeism(疾病休業)やpresenteeism(出勤している労働者の健康問題による労働遂行能力の低下)がよく用いられており、それらは機会損出を何らかの形で数値化したものである。しかし、生産性の定義や測定の実施においては様々な課題が存在しており、研究の遂行および成果の活用においては、それらの課題を理解することが重要と考えられた。
疾病による労働者の生産性の低下の負担構造の特徴を明らかにするために、就業年齢において一般的に罹患し労働者や企業、医療保険者等に相応の経済的損失を発生させる疾患・病態のシナリオを作成し、それを分析した。疾病による休業時の補償方法が複雑であり、疾病の種類や長さによって、負担分担が異なることが明らかとなった。
日本の労働環境に合った、かつ製造業およびサービス業で活用できるpresenteeism尺度の開発するために、今年度は尺度の項目を洗い出しその妥当性を検討することとした。100人以上の従業員を有する企業に勤務する労働者835名を対象にWeb調査を行った。その結果、因子分析や健康レベルや不調との関係性から、presenteeismに関する質問項目はほぼ出尽くしており、妥当なものであると考えられた。
労働生産性を向上させる健康介入プログラムを評価においては、信頼性の高いランダム化比較試験が最も望まれるが、実施については様々な困難が伴う。第一に対照群を設定すること、第二に介入群と対照群のランダム化、対照群への効果の波及などによる研究の限界点が挙げられる。対照群の設定については、wait-list-trial法、対照群に他の介入を実施する方法、crossover法、介入群と対照群を地理的に離れた集団を選択する等影響が少ない群を選ぶなどの方法が考えられた。健康介入プログラムに対する投資を促すためには、経済評価を行ない、投資に対する効果を示す評価が必要である。具体的には、absenteeismやpresenteeismなどの労働生産性を効果指標とし、費用効果分析、費用便益分析を実施することになると考えられた。直接的に生産性に効果を与える疾患として、腰痛・うつ病・アレルギー・頭痛などが挙げられた。
結論
最終年度において、「産業保健活動の生産性への貢献を意識したプランニングのための指針」と「生産性への貢献を目指す効果的な産業保健活動のあり方に関する提言」の作成を目指している。そこで初年度において、その基盤や課題の整理を行った。

公開日・更新日

公開日
2015-06-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
201326016Z