文献情報
文献番号
201326013A
報告書区分
総括
研究課題名
東京電力福島第一原子力発電所における緊急作業従事者の放射線被ばく量と水晶体混濁発症に関する調査
課題番号
H25-労働-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 洋(金沢医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 初坂奈津子(金沢医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
3,925,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所での緊急作業従事者における水晶体への影響について調査する。本研究では厚生労働省が構築したデータベースを活用し、外部被ばく者を対象に、被ばく後3~5年における累積被ばく量と水晶体混濁発症の関係について、細隙灯顕微鏡所見および撮影画像を分析し検討する。平成25年度は健診施設におけるシステムの構築および水晶体混濁判定基準を策定する。また水晶体徹照撮影用簡易型カメラを開発し、地方眼科健診機関に簡易カメラを設置する。健診機関の医師が簡易カメラにより徹照像撮影を行うことでより詳細な水晶体所見の検出を図る。
研究方法
震災による東電福島第一原発における緊急作業従事者約13,000名の内、水晶体混濁に関するデータが収集可能であった者について水晶体混濁と累積被ばく量の関係を検討する。年1回の眼科検診(散瞳下細隙灯顕微鏡検査および水晶体撮影)が義務付けられているが、本調査では前眼部解析装置(EAS-1000、ニデック)でも水晶体徹照画像・スリット画像撮影を行う。水晶体混濁病型評価は細隙灯顕微鏡所見および画像判定から申請者である佐々木が全て行う。白内障判定はWHO分類および金沢医科大学分類を用い行う。水晶体撮影法は受診医療機関ごとに異なる可能性があるため、下記指針に準じた混濁評価法・撮影法を受診医療機関に依頼し、判定の精度向上を目指す。核、皮質、後嚢下白内障の3主病型に関してはWHO分類を使用し、程度0~3の4段階。皮質白内障に関しては瞳孔領3mm以内の混濁有無についても判定する。視機能に影響する副病型Retrodotsについては金医大分類を用いて0~4の5段階評価を行う。Water cleftsは撮影画像判定が困難なため、今後細隙灯顕微鏡による高再現性評価が行えれば金医大分類を用いて評価する。放射線による後嚢下白内障の初期病変として重要なVacuolesは徹照画像判定が可能であり、後嚢下にみられたVacuolesの個数により評価する。統計解析については加齢白内障の危険因子を調整した上で、被ばく量と白内障との関連を検討する。本調査ではコントロール群がないため、極めて被ばく量の少ない者をコントロール群として、多被ばく量群との比較も行う予定である。統計解析は初坂が担当する。
結果と考察
本年度は受診者の多い施設である東電本店職員および福島第一原発職員の検診を行い、計330名の水晶体撮影を行った。対象は全て男性で、20代54名 (108眼)、30代80名 (160眼)、40代108名 (216眼)、50代84名 (168眼)、60代4名 (8眼)であった。水晶体混濁有所見率は皮質白内障1.51%、瞳孔領皮質白内障0.45%、核白内障0%、後嚢下白内障0%、Retrodots 0%、Vacuoles 2.27%であった。Vacuolesを認めた症例に関しては、累積被ばく量との関係を確認することで、その影響の有無を判定する必要がある。累積被ばく量と各種水晶体混濁発症の関係については、年度内にデータベースにアクセスできなかったため、次年度に行う。
本年度は水晶体徹照撮影用簡易型カメラを開発し、その有用性を白内障症例53名100眼について検討した。現在水晶体撮影装置として国内で使用されており、信頼性が最も高いEAS-1000との徹照画像との比較を行った。皮質白内障ではWHO判定1-3および瞳孔領内の判定で一致率0.81、カッパ係数0.73、後嚢下白内障では一致率0.81、かっぱ係数0.72と両者とも高い結果が得られた。混濁程度の判定で問題となる角膜反射については、装置と被検眼との距離の調整により縮小化することが可能であり、混濁の判定への影響は少ないと考えて良い。また、EAS-1000の徹照画像は焦点深度が浅いため前嚢から後嚢までの約3.5mm~5mmの厚みの水晶体内にある混濁を記録するためには少なくとも2断面以上の撮影が必要になるが、簡易カメラでは撮影深度が深く1断面の撮影でほとんどの混濁を捉えることが可能であった。Retrodotsの混濁面積の比較ではEAS-1000の18.4%に対し簡易カメラでは22.0%であった。EAS-1000では前後深層皮質に生じるRetrodotsを全て1断面に撮影することはできないのに対し、簡易カメラではそれを1画像内で捉えることが可能であったため、混濁陰影面積に差が出たものと考えている。以上の結果から、簡易型徹照撮影用カメラは放射線白内障の評価に有用であると考えられた。来年度以降の調査では、東電本店および福島第一以外で受診者数が多い健診施設に本カメラを設置し、新たに健診システムを構築したい。
本年度は水晶体徹照撮影用簡易型カメラを開発し、その有用性を白内障症例53名100眼について検討した。現在水晶体撮影装置として国内で使用されており、信頼性が最も高いEAS-1000との徹照画像との比較を行った。皮質白内障ではWHO判定1-3および瞳孔領内の判定で一致率0.81、カッパ係数0.73、後嚢下白内障では一致率0.81、かっぱ係数0.72と両者とも高い結果が得られた。混濁程度の判定で問題となる角膜反射については、装置と被検眼との距離の調整により縮小化することが可能であり、混濁の判定への影響は少ないと考えて良い。また、EAS-1000の徹照画像は焦点深度が浅いため前嚢から後嚢までの約3.5mm~5mmの厚みの水晶体内にある混濁を記録するためには少なくとも2断面以上の撮影が必要になるが、簡易カメラでは撮影深度が深く1断面の撮影でほとんどの混濁を捉えることが可能であった。Retrodotsの混濁面積の比較ではEAS-1000の18.4%に対し簡易カメラでは22.0%であった。EAS-1000では前後深層皮質に生じるRetrodotsを全て1断面に撮影することはできないのに対し、簡易カメラではそれを1画像内で捉えることが可能であったため、混濁陰影面積に差が出たものと考えている。以上の結果から、簡易型徹照撮影用カメラは放射線白内障の評価に有用であると考えられた。来年度以降の調査では、東電本店および福島第一以外で受診者数が多い健診施設に本カメラを設置し、新たに健診システムを構築したい。
結論
被ばく後3年では視機能に影響する放射線白内障の症例は非常に少ない可能性が高い。
公開日・更新日
公開日
2015-06-22
更新日
-