文献情報
文献番号
199800287A
報告書区分
総括
研究課題名
精神薄弱者に対する適正な医療、リハビリテーション等の提供に関する研究-重い知的障害を持つ人たちへの入所施設でのリハビリテーションのあり方-
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
飯田 雅子(鉄道弘済会弘済学園)
研究分担者(所属機関)
- 中島洋子(旭川荘旭川児童院)
- 大場公孝(侑愛会第2おしま学園)
- 三島卓穂(鉄道弘済会弘済学園)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
70,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
強度行動障害への援助を検討することを総合的な研究目的とした。サブテーマに、児童施設での強度行動障害改善への療育援助研究、更生施設での強度行動障害改善の療育援助研究、強度行動障害判定基準の改訂、強度行動障害への医療的研究、児童施設における学校教育との連携のあり方、抑制具の使用についての検討を設けた。
研究方法
強度行動障害改善への療育援助研究は、事例研究を通じて必要で有効な療育の要件を求めた。強度行動障害の判定基準の改訂は現行基準との整合性を保ちつつ強度、頻度の区分を増やす評価表を作成した。次に現行基準と新規作業版とでの評価を同一対象に行い比較対照した。医療研究は障害種別の異なる知的障害関連施設で一定以上の行動障害をみせる対象者について、障害特性・療育ニードの調査を行い、援助方法、療育システムの違いを分析した。児童施設における学校教育との連携は改善をみた連携実践を分析し改善に必要な条件を抽出し調査項目に反映させた。抑制具の使用は問題のありかを法的な側面から検討した。
結果と考察
第1部その1.児童期の強度行動障害への療育要件の検討。3例の実践を検討し療育の要件を検討した。いずれも自閉症にトゥレット障害を合併して強迫性が顕著な強度行動障害であった。強迫性に対しては不安をどのように軽減するかが各実践で共通に指摘され様々な技法が発表された。強迫性の強い服破りを示す第1例では、有効なのは①日常生活の変化がストレスとなり服破りとなるので構造化する②ストレス低減のため、言葉遊びや笑顔を伝えるなどで安心できる人間関係をつくる。④所属母集団の安定と集団・担任を意識させる⑤次の行為を教示するなど具体的なことに目を向けさせる⑥強迫性には一定の枠内の行為は許容し折れあう⑦服の視覚的なイメージに縛られているので綻んだ時すぐに補修しイメージをこわさない、⑧コミニュケ-ション障害への援助であった。強迫的に飛び出したり固執が強くなる第2例で有効な方法には、①強迫性が強い時グループ行動は強要しない。②受容をして、おんぶ、追いかけっこ等で楽しく過ごす、③極端に強迫性が強まる外出時には写真カードで伝える。④今するべき行為を強要しない。⑤ストレスの少ない構造化とコミュニケーション援助をする ⑥強迫性を誘発する不安には笑いながら係わり安心感を伝える。⑦医療連携を進めるであった。強迫的な反復行動が非常に強く動けない第3例に有効な方法には、①構造化の手法。②プログラムの一部を飛び越えて先のプログラムに進むという対処行動が強迫の「ねばならない」葛藤を軽減する。③人が自分を脅かす存在であるので本人に視線をむけない ④薬物療法の活用などが指摘され、概括すると強迫性についての職員の許容的関わりと不安の軽減についての指摘があり、技法が開発されていた。
その2.成人期の強度行動障害への療育援助要件の検討について。大場分担研究者が担当したのは、強度行動障害の多数を占める自閉症の障害に対しTEACCHの手法を緻密化させて適用し強度行動障害が軽減した実践であった。多動で、ガスレンジを点火する、近所中の玄関チャイムを押すなどがみられたが家庭復帰に成功した第1例で、有効だった手法には、①「見てわかる環境づくり」の評価をする、②「見通しをもって生活できる、自分で判断して自立的に行動する」ための情報を視覚的にスケジュールで呈示する。③できる活動を準備する、④「○○手伝って」など楽になる表現方法を教える。⑤家庭へつなぐ手伝いをスケジュール化する。⑥終わりの概念を補助するワークシステムを使うなどがあった。ごく一部の食べ物しか食べない拒食を主訴とする第2例に有効だった方法には、①個別プログラムを作成し、構造化して生活に見通しをつける。②目の前で食べ物を作り、目で見て得体を確認できる情報提供をする。③キーパーソンを決め、統一した対応をする ④「褒められる経験」を積み重ね人への期待感を育てる ⑤ワークシステム内にてフラストレーション耐性と集中力をたかめる等があった。「だいじょうぶ」などの言葉にも、激しい頭突き、蹴るなどの他害がある第3例で有効だった援助は、基本はTEACCHプログラムを中心とした個別プログラムであり、①空間的・物理的構造化をし1部屋では1活動とした。②日課を構造化しシンプルに変化を避けた。カードシステムを利用し視覚的表示をした。③日常生活や作業課題の構造化。何をこれから行なうのか、どの位の量の作業かをワークシステムで示した ④人的構造化と指導形態。担任は利用者のキーパーソンとなる⑤1年目は個別・小集団の活動、2年目に大集団での活動としたなどが指摘された。概括すると、本人に分かりやすい納得のいく情報提供をすることになり、そのための技法が開発された。
第2部 強度行動障害判定基準の改訂の検討について。現行の強度行動障害評価尺度に比べ、評価者間の一致度を高め、評価精度をあげ、しかも現行版との整合性を失わないことを目標に作業版を作成した。作業版では、強度を3段階に分け、頻度を3段階から5段階に分けた。その際、強度の基準は、現行版の「強度行動障害の例示」を各項目での最強の段階とし、以下順次弱い段階を設定した。強度の基準軸には、①本人の身体生命に対する危険性、②行為の結果としての医療対応のニーズ、③関わる人及び周囲の人々への危険性や迷惑さ、④行為の結果としての経済的損失をおいた。背景となる本人の障害特徴と環境記述は次年度に別項目で扱った。記述には行動障害の例示を多くし、強度理解のしやすさと評価の正確さを求めた。作業版と現行尺度との整合性を求めるため、両評価を試行し、表現の適切性や、読み取りやすさ、評価のしやすさ、等に関し評価者に意見を求めて修正した。評価結果を比較対照し現行版と作業版との得点の異常値を分析して現行版との整合性を高めた。その多くは作業版の精度が高まったことに起因していた。
第3部 強度行動障害をもつ精神遅滞児の精神科医療ニード調査。強度行動障害への医療からの接近に関しては、医療機関での入院医療と外来医療のほかに知的障害施設の嘱託医による施設内医療の3つの形態がある。入院医療としては重症児施設に入所中の歩行可能者いわゆる「動く重症児」の問題、第1種自閉症施設の問題、さらには一般精神病院や児童精神科病棟での入院医療を必要とする精神遅滞児者の問題がある。今年度は知的障害施設における行動障害について対象者の障害特性の分析および医療・療育ニードの調査を行い次年度に向けて、精神遅滞児のニード調査の予備研究を実施した。
第4部 児童施設と学校教育との連携のあり方。第1に、入所施設と学校教育との連携の実態把握の調査票作成に必要な、強度行動障害への援助ポイントを抽出した。資料は弘済学園での養護学校との連携での援助実践2例である。抽出された援助ポイントには、医学診断の認識を持つ、記録や認識を共有する、職員同士のミーティングを持つ、構造化された環境、薬物療法を活用する、過剰刺激がなくリラックスできる環境、キーパーソンを軸にする等々が得られ質問票に反映させる資料を得た。第2に、自閉性障害への早期療育から初等教育への移行時に、専門性を認めつつ協力する連携スタイルを検討した。結果は、教育内容が教師自身の教育技術に依存し一定水準の平等な教育サービスがない、予想外の不適応に対し問題をあいまいにし誰も責任をとらない、行動障害の発生因や治療方針に正しい共通理解がなく増悪させやすいと指摘された。特殊教育の専門性を高めるために、スーパーバイズシステム、現任訓練の充実、教育効果の評価と関係者間の連携の共通シートとしてIEP(個別教育計画)の導入実施が必要とされた。
第5部 知的障害施設における抑制具使用の検討 強度行動障害への対応で用いられることのある、運動・行動を制限する抑制具は、その使用規準に不明確な事例が多い。医学的診断名である精神遅滞を精神障害の範疇でとらえた場合、強度行動障害療育における抑制具使用は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第36条第3項、並びに、第37条第1項に基づく規定に、その法的根拠を求めることができるかどうかについて検討を加えた。
その2.成人期の強度行動障害への療育援助要件の検討について。大場分担研究者が担当したのは、強度行動障害の多数を占める自閉症の障害に対しTEACCHの手法を緻密化させて適用し強度行動障害が軽減した実践であった。多動で、ガスレンジを点火する、近所中の玄関チャイムを押すなどがみられたが家庭復帰に成功した第1例で、有効だった手法には、①「見てわかる環境づくり」の評価をする、②「見通しをもって生活できる、自分で判断して自立的に行動する」ための情報を視覚的にスケジュールで呈示する。③できる活動を準備する、④「○○手伝って」など楽になる表現方法を教える。⑤家庭へつなぐ手伝いをスケジュール化する。⑥終わりの概念を補助するワークシステムを使うなどがあった。ごく一部の食べ物しか食べない拒食を主訴とする第2例に有効だった方法には、①個別プログラムを作成し、構造化して生活に見通しをつける。②目の前で食べ物を作り、目で見て得体を確認できる情報提供をする。③キーパーソンを決め、統一した対応をする ④「褒められる経験」を積み重ね人への期待感を育てる ⑤ワークシステム内にてフラストレーション耐性と集中力をたかめる等があった。「だいじょうぶ」などの言葉にも、激しい頭突き、蹴るなどの他害がある第3例で有効だった援助は、基本はTEACCHプログラムを中心とした個別プログラムであり、①空間的・物理的構造化をし1部屋では1活動とした。②日課を構造化しシンプルに変化を避けた。カードシステムを利用し視覚的表示をした。③日常生活や作業課題の構造化。何をこれから行なうのか、どの位の量の作業かをワークシステムで示した ④人的構造化と指導形態。担任は利用者のキーパーソンとなる⑤1年目は個別・小集団の活動、2年目に大集団での活動としたなどが指摘された。概括すると、本人に分かりやすい納得のいく情報提供をすることになり、そのための技法が開発された。
第2部 強度行動障害判定基準の改訂の検討について。現行の強度行動障害評価尺度に比べ、評価者間の一致度を高め、評価精度をあげ、しかも現行版との整合性を失わないことを目標に作業版を作成した。作業版では、強度を3段階に分け、頻度を3段階から5段階に分けた。その際、強度の基準は、現行版の「強度行動障害の例示」を各項目での最強の段階とし、以下順次弱い段階を設定した。強度の基準軸には、①本人の身体生命に対する危険性、②行為の結果としての医療対応のニーズ、③関わる人及び周囲の人々への危険性や迷惑さ、④行為の結果としての経済的損失をおいた。背景となる本人の障害特徴と環境記述は次年度に別項目で扱った。記述には行動障害の例示を多くし、強度理解のしやすさと評価の正確さを求めた。作業版と現行尺度との整合性を求めるため、両評価を試行し、表現の適切性や、読み取りやすさ、評価のしやすさ、等に関し評価者に意見を求めて修正した。評価結果を比較対照し現行版と作業版との得点の異常値を分析して現行版との整合性を高めた。その多くは作業版の精度が高まったことに起因していた。
第3部 強度行動障害をもつ精神遅滞児の精神科医療ニード調査。強度行動障害への医療からの接近に関しては、医療機関での入院医療と外来医療のほかに知的障害施設の嘱託医による施設内医療の3つの形態がある。入院医療としては重症児施設に入所中の歩行可能者いわゆる「動く重症児」の問題、第1種自閉症施設の問題、さらには一般精神病院や児童精神科病棟での入院医療を必要とする精神遅滞児者の問題がある。今年度は知的障害施設における行動障害について対象者の障害特性の分析および医療・療育ニードの調査を行い次年度に向けて、精神遅滞児のニード調査の予備研究を実施した。
第4部 児童施設と学校教育との連携のあり方。第1に、入所施設と学校教育との連携の実態把握の調査票作成に必要な、強度行動障害への援助ポイントを抽出した。資料は弘済学園での養護学校との連携での援助実践2例である。抽出された援助ポイントには、医学診断の認識を持つ、記録や認識を共有する、職員同士のミーティングを持つ、構造化された環境、薬物療法を活用する、過剰刺激がなくリラックスできる環境、キーパーソンを軸にする等々が得られ質問票に反映させる資料を得た。第2に、自閉性障害への早期療育から初等教育への移行時に、専門性を認めつつ協力する連携スタイルを検討した。結果は、教育内容が教師自身の教育技術に依存し一定水準の平等な教育サービスがない、予想外の不適応に対し問題をあいまいにし誰も責任をとらない、行動障害の発生因や治療方針に正しい共通理解がなく増悪させやすいと指摘された。特殊教育の専門性を高めるために、スーパーバイズシステム、現任訓練の充実、教育効果の評価と関係者間の連携の共通シートとしてIEP(個別教育計画)の導入実施が必要とされた。
第5部 知的障害施設における抑制具使用の検討 強度行動障害への対応で用いられることのある、運動・行動を制限する抑制具は、その使用規準に不明確な事例が多い。医学的診断名である精神遅滞を精神障害の範疇でとらえた場合、強度行動障害療育における抑制具使用は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第36条第3項、並びに、第37条第1項に基づく規定に、その法的根拠を求めることができるかどうかについて検討を加えた。
結論
強度行動障害への援助について、自閉症にトゥレット障害を合併して強迫性の強い行動障害をみせる例、自閉症で行動障害の強い例、それぞれに一定の視点と技法が開発された。強度行動障害判定基準も作業版が作成された。学校との連携の調査票の質問項目が確認された。
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