石綿関連疾患の診断基準及び手法に関する調査研究

文献情報

文献番号
201326004A
報告書区分
総括
研究課題名
石綿関連疾患の診断基準及び手法に関する調査研究
課題番号
H23-労働-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
岸本 卓巳(独立行政法人労働者健康福祉機構岡山労災病院 アスベスト関連疾患研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 青江 啓介(独立行政法人国立病院機構山口宇部医療センター 統括診療部)
  • 芦澤 和人(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科臨床腫瘍学)
  • 荒川 浩明(獨協医科大学病院 放射線科)
  • 荒木 雅史(独立行政法人労働者健康福祉機構香川労災病院 内科)
  • 伊藤 秀美(愛知県がんセンター研究所 疫学・予防部)
  • 井内 康輝(国立大学法人広島大学)
  • 岡本 賢三(独立行政法人労働者健康福祉機構北海道中央労災病院 病理検査科)
  • 加藤 勝也(国立大学法人岡山大学病院 放射線科)
  • 玄馬 顕一(独立行政法人国立病院機構福山医療センター 呼吸器内科)
  • 林 清二(独立行政法人国立病院機構近畿中央胸部疾患センター)
  • 藤本 伸一(独立行政法人労働者健康福祉機構岡山労災病院 腫瘍内科)
  • 本田 純久(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻リハビリテーション科学講座 医学統計学)
  • 水橋 啓一(独立行政法人労働者健康福祉機構富山労災病院 アスベスト疾患センター)
  • 由佐 俊和(独立行政法人労働者健康福祉機構千葉労災病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
職業性石綿ばく露歴のある労働者の検診において、胸部低線量CTが肺癌診断に有用であるかどうかについて検討する。また、石綿肺診断における胸部HRCTの意義について検討する。
研究方法
職業性石綿ばく露歴があり過去3年間に肺癌であると確定診断した30例と背景因子を調整した60例の胸部単純X線写真及び胸部低線量CTを6名の放射線科専門医と6名の放射線科レジデントが別々に読影してその診断率について検討した。読影者の評価としてROC(Receiver Operating Characteristic)解析によるAz値及び感度、特異度、正答率を求めた。2群間の有意差検定にはpaired t検定を用いた。また、臨床上石綿肺と診断されている7例について手術及び剖検によって得られた肺組織を病理学的に石綿肺と診断してよいかどうかの判定を行うとともに、胸部画像特にHRCT所見と対比させるとともに肺内石綿小体数を同時に算定して、画像における石綿肺の特徴所見について検討した。
結果と考察
専門医及びレジデントを合わせた12名において、胸部単純X線写真に比較して低線量CTが感度、特異度、正答率とも有意に高かった。専門医とレジデント別では、胸部単純X線ではレジデントが、低線量CT検診では専門医が高い傾向にあったが、有意差は認められなかった。胸部単純X線写真において偽陽性として肋骨と肺血管の重なり、第一肋軟骨の石灰化などがあったが、胸膜プラークが49.5%を占め、圧倒的に最も多かった。また、偽陽性例についても胸膜プラークが42%と最も多かった。その他肺癌症例中17例はground glass opacityを示す症例や解剖学的死角に肺癌が存在する症例であり、胸部単純X線写真では検出できなかった。職業性石綿ばく露歴のある症例の大半に胸膜プラークを認めることから、胸部単純X線写真では肺癌早期診断に不利益が生じる可能性があり、低線量CT撮影が有用であると考えられる。
 今回病理学的に検討した7例中3例は典型的な石綿肺で、小葉中心性線維化を認めるとともに、1例では完成された蜂巣肺所見を認めた。また、これら所見を呈する症例では肺内石綿小体数が100万本/gを超えるような大量ばく露があることが確認された。一方、3例は小葉中心性肺気腫を伴う非石綿粉じんによる小葉中心性線維化像を認めたが、石綿小体や石綿肺に特徴的な高密度線維化は認められなかった。そして、肺内石綿小体数は3,500~9,800本/gと少なかった。また、画像上では評価できなかったがasbestos airway-diseaseであると病理学的に診断できる症例が1例明らかとなった。本症例では、肺内石綿小体数が66.8万本/gと非石綿肺例より100倍多かった。
 石綿肺の画像所見では、subpleural dots, curvilinear linesが有用であるが、非石綿肺でもこのように見えることがあるので注意する必要がある。また、mosaic perfusionは石綿肺に比較的高頻度に認められる所見であるが、病理学的にも認められたように臨床上石綿肺と診断されるような症例では、非石綿粉じんを吸入していることからこの所見を呈する症例が少なくないことが判った。
結論
職業性石綿ばく露における検診においては、胸部単純X線写真上では胸膜プラークの存在が肺癌の偽陽性あるいは偽陰性の要因となるため、肺癌早期診断のためには低線量CTが推奨される。石綿肺の診断は職業性石綿ばく露歴とともにHRCT上のsubpleural dotsあるいはcurvilinear lineが参考所見として有用であるが、粉じん吸入歴のある症例では類似所見に注意する必要があるため、職業性石綿ばく露歴を詳細に調査しておく必要がある。また、病理学的にasbestos aieway diseaseとなる概念が提唱されていることから、この病態についても把握しておく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201326004B
報告書区分
総合
研究課題名
石綿関連疾患の診断基準及び手法に関する調査研究
課題番号
H23-労働-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
岸本 卓巳(独立行政法人労働者健康福祉機構岡山労災病院 アスベスト関連疾患研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 青江 啓介(独立行政法人国立病院機構山口宇部医療センター 統括診療部)
  • 芦澤 和人(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科臨床腫瘍学)
  • 荒川 浩明(獨協医科大学病院放射線科)
  • 荒木 雅史(独立行政法人労働者健康福祉機構香川労災病院 内科)
  • 伊藤 秀美(愛知県がんセンター研究所 疫学・予防部)
  • 井内 康輝(国立大学法人広島大学)
  • 岡本 賢三(独立行政法人労働者健康福祉機構北海道中央労災労災病院検査科)
  • 加藤 勝也(国立大学法人岡山大学病院 放射線科)
  • 玄馬 顕一(独立行政法人国立病院機構福山医療センター 呼吸器内科)
  • 林 清二(独立行政法人国立病院機構近畿中央胸部疾患センター)
  • 藤本 伸一(独立行政法人労働者健康福祉機構岡山労災病院 腫瘍内科)
  • 本田 純久(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻リハビリテーション科学講座 医学統計学)
  • 水橋 啓一(独立行政法人労働者健康福祉機構富山労災病院 アスベスト疾患センター)
  • 由佐 俊和(独立行政法人労働者健康福祉機構千葉労災病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
職業性石綿ばく露を有する労働者の検討に胸部低線量CTが肺癌検出に有用であるかどうかについて検討するとともに、石綿肺診断における病理診断及び胸部HRCTの意義について検討する。中皮腫確定診断における中皮腫パネルの意義について検討する。
研究方法
H23~25年度までに職業性石綿ばく露歴のある現在および過去の労働者を対象として低線量腹臥位CT撮影を行った。対照群として従来どおり胸部単純X線写真のみの撮影者を選択した。そして、対象群の胸部CT上の石綿ばく露によって発生する胸部所見等の特徴について検討した。また、肺癌と確定診断した44例についてその画像上の特徴所見を検討するとともに、中皮腫診断7例の特徴についても検討した。また、石綿肺と病理学的に確定診断され、HRCTの撮影のある33例について臨床所見画像、病理学的所見及び肺内石綿小体数について検討を行い、慢性間質性肺炎等との鑑別点について検討した。3年間に年2回開催された中皮腫パネルについて提出した10例について、その診断の要点についてまとめた。
結果と考察
職業性石綿ばく露歴のある2,132例の対象者のうち、胸部CT上89.4%に胸膜プラークを認めるとともに間質性変化を26.4%、石綿ばく露に比較的特徴とされるsubpleural dotsまたはcurvilinear lineを13.9%に認めた。また、肺癌44例、中皮腫7例を確定診断した。肺癌発生例については肺の間質性変化及び肺気腫・肺嚢胞がある例に有意に発生が多かった。しかし、年齢、石綿ばく露歴、喫煙指数等には有意差は認められなかった。また、プラークの厚みについても有意差は認められなかった。一方、中皮腫診断例では7例中6例がプラークの厚さが5mm以上であった。また、対照群1,478例中肺癌と診断した症例は11例であったが、その組織型及び生存期間に有意な差は認められなかった。
病理学的な石綿肺の診断を基にして臨床所見、画像所見及び肺内石綿小体数等の指標との関連について検討したところ、CT上の石綿肺らしさ、そのうちでもsubpleural curvilinear linesとともに肺内石綿小体数が非石綿肺との鑑別診断上有意な所見であった。また、病理学的な石綿肺診断としてその線維化をGrade1~4に分類すると、Grade4のみの石綿肺はなく、小葉中心性の線維化が周囲に進展して行く過程であるGrade1,2の変化を伴うことが本診断に必須であることが確認された。過去3年間に中皮腫パネルに提出した10例中2例では胸膜中皮腫早期病変であったため良性病変であるmesothelial hyperplasiaとの鑑別が問題であった。また、骨・軟骨形成型中皮腫と骨外発生の骨肉腫の各1例については画像はいずれも中皮腫類似であったが、病理学的な免疫染色の染色性により診断が大きく変わることから、このような事案を集めてこれら2疾患をどのように鑑別するかについての詳細な検討が必要であることが判った。
結論
職業性石綿ばく露歴のある労働者では、胸膜プラーク、間質性変化、特にsubpleural dots / curvilinear linesを示す症例が多く、間質性変化及び肺気腫・肺嚢胞を示す症例で有意に肺癌の発生が多いことから低線量CTの対象とすべきであると思われる。また、石綿肺の診断においてHRCT上のsubpleural curvilinear linesは重要な所見として必ず確認しておく必要があると思われる。ただし、非石綿粉じん吸入歴のある症例では類似所見を呈することがあるので過去の職業歴を十分に聴取しておく。また、画像上石綿肺が疑われる症例については、可能であれば病理学的な検査を行うとともに、HRCTにて可能なかぎり鑑別しておく必要がある。中皮腫診断は現在でもなお難しいことから中皮腫パネルのように全国の臨床、画像及び病理の専門家が一堂に介した診断会が必要であるとともに、鑑別の難しい症例においては、その診断のためのガイドラインが必要であると思われる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201326004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
職業性石綿ばく露者2,132例を対象として低線量腹臥位CTを施行したところ、肺の間質性変化および肺気腫・肺嚢胞所見のある例では有意(P=0.011)に肺癌発生頻度が高いことが判った。また、肺癌発生症例について同様な背景を持つ対照群と比較読影を行ったところ、従来の胸部レントゲンより低線量CTの方が有用であることが判った。その原因として、胸部レントゲンでは胸膜プラークの存在が偽陽性および偽陰性の大きな要因となることが判った。
臨床的観点からの成果
職業性石綿ばく露者2,132例では、胸部低線量CTにおいて胸膜プラークが89.4%と非常に高率に認められた。また、石綿肺早期病変であるsubpleural curvilinear lines / dots (SCLS/DOTS)が13.9%に認められた。さらに、46%に喫煙に関連の深い肺気腫/肺嚢胞が認められた。特に、SCLS/DOTSは石綿肺と慢性間質性肺炎の鑑別においても重要な所見であるから、石綿ばく露者の胸部CT画像を診る際には留意しておく必要がある。
ガイドライン等の開発
肺癌早期発見のため低線量腹臥位CTを施行した2,132例の年令は48~96才で、観察期間中央値が4.4年であった。そのうち、喫煙あり55才以上の肺癌発生頻度は668.3例/人年であり、アメリカのNational Lung Screening Trial(NLST)のCT検診群の645/人年よりも頻度が高かった。また、肺癌の他に7例の悪性中皮腫を診断した。特に、中皮腫では5mm以上の厚さのある胸膜プラーク症例において高頻度に発生していた。
その他行政的観点からの成果
今回の職業性石綿ばく露2,132例の肺癌発生頻度は551.9例/人年であり、そのうち喫煙ありは664.0例/人年と高率であった。一方、石綿肺癌認定症例の喫煙率は90%以上で、特に重喫煙者が多いことを我々は報告している。石綿と喫煙による肺癌発生機序は独立していること、石綿による肺癌の発生には量一反応関係があることから、50~85歳の職業性石綿ばく露歴があり、現在及び過去に喫煙歴のある労働者には低線量CTを行うことを勧める。
その他のインパクト
中皮腫パネルにおいて中皮腫の正確な診断及び鑑別診断を確実に行うことは患者自身にとって大変有用である。本疾患が労災認定のみならず石綿健康被害救済法により救済対象となり、中皮腫患者の100%が国から医療費等を受けられる。中皮腫の正確な診断の重要性が高いことが朝日新聞2014.3.15日版で取りあげられた。また、石綿ばく露による肺癌、中皮腫等の発生についてはアジア各国において社会問題化しはじめたので、モンゴル(4回)、ベトナム等において石綿関連疾患の診断指導を行った。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
13件
その他論文(和文)
12件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
23件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
由佐俊和、安川朋久、岸本卓巳、他
肺がん手術例を対象とした石綿ばく露の評価-肺内石綿小体数と胸膜プラーク・肺・線維化所見の関連について-
日職災医誌 , 59 (4) , 163-168  (2011)
原著論文2
Kanamori-Katayama M, Kaiho A, Kishimoto T, et al.
LRRN4 and UPK3B Are Markers of Primary Mesothelial Cells.
PLoS One , 6 (10) , e25391-  (2011)
原著論文3
Maeda M, Nishimura Y, Kishimoto T, et al.
Decreased CXCR3 expression in CD4+ T cells exposed to asbestos or derived from asbestos-exposed patients
Am J Respir Cell Mol Biol , 45 (4) , 795-803  (2011)
原著論文4
Aoe K, Amatya VJ, Kishimoto T, et al.
CD26 overexpression is associated with prolonged survival and enhanced chemosensitivity in malignant pleural mesothelioma
Clinical Cancer Research , 18 (5) , 1447-1456  (2012)
原著論文5
Gemba K, Fujimoto N, Kishimoto T, et al.
National survey of malignant mesothelioma asbestos exposure in Japan
Cancer Sci , 103 (3) , 483-490  (2012)
原著論文6
Fujii M, Fujimoto N, Kishimoto T, et al.
Aberrant DNA methylation profile in pleural fluid for differential diagnosis of malignant pleural mesothelioma
Cancer Sci , 103 (3) , 510-514  (2012)
原著論文7
Amatya V.J, Takeshima Y, Kishimoto T, et al.
CD9 expression as a favorable prognostic marker for patients with malignant mesothelioma
Oncology reports , 29 (1) , 21-28  (2012)
原著論文8
Gemba K, Fujimoto N, Kishimoto T, et al.
Treatment and survival analyses of malignant mesothelioma in Japan
Acta Oncol , 52 (4) , 803-808  (2012)
原著論文9
Shinjo K, Okamoto Y, Kishimoto T, et al.
Integrated analysis of genetic and epigenetic alterations reveals CpG island methylator phenotype associated with distinct clinical characters of lung adenocarcinoma
Carcinogenesis , 33 (7) , 1277-1285  (2012)
原著論文10
Fujimoto N, Gemba K, Kishimoto T, et al.
Hyaluronic acid in the pleural fluid of patients with malignant pleural mesothelioma
Respir investig , 51 (2) , 92-97  (2013)
原著論文11
Noguchi K, Fujimoto N, Kishimoto T, et al.
Extrapulmonary small cell carcinoma mimicking malignant pleural mesothelioma
J Clin Pathol , 66 (5) , 450-451  (2013)
原著論文12
Muraoka T, Soh J, Kishimoto T, et al.
The degree of microRNA-34b/c methylation in serum-circulating DNA is associated with malignant pleural mesothelioma
Lung Cancer , 82 (3) , 485-490  (2013)
原著論文13
浅野美智子、玄馬顕一、岸本卓巳、他
非連続性に多発する結節影を呈した胸膜中皮腫の1例
日呼吸会誌 , 49 (12) , 986-989  (2011)
原著論文14
田端りか、岸本卓巳.
岡山労災病院におけるじん肺および石綿健康管理手帳健康診断の検討
日職災害会誌 , 60 (3) , 137-139  (2012)
原著論文15
Morimoto D, Fujimoto N, Kishimoto T, et al.
Malignant pleural mesothelioma localized in the thoracic wall. case report
Journal of thoracic oncology , 7 (10) , e21-22  (2012)
原著論文16
Asano M, Fujimoto N, Kishimoto T, et al.
Brain abscess mimicking lung cancer metastases; a case report
Clin Imaging , 37 (1) , 147-150  (2013)

公開日・更新日

公開日
2023-05-25
更新日
-

収支報告書

文献番号
201326004Z