職場におけるメンタルヘルス対策の有効性、費用対効果等に関する調査研究

文献情報

文献番号
201326001A
報告書区分
総括
研究課題名
職場におけるメンタルヘルス対策の有効性、費用対効果等に関する調査研究
課題番号
H23-労働-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
横山 和仁(順天堂大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 飯島 佐知子(順天堂大学 医療看護学部)
  • 井奈波 良一(岐阜大学 大学院医学系研究科)
  • 中尾 睦宏(帝京大学 大学院公衆衛生学研究科・医学部附属病院)
  • 安藤 俊太郎(東京都医学総合研究所)
  • 原谷 隆史(独立行政法人労働安全衛生総合研究所)
  • 福田 敬(国立保健医療科学院研究 情報支援研究センター)
  • 山崎 喜比古(日本福祉大学 社会福祉学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 わが国では従来不十分であった(1)職場のメンタルヘルス対策のコスト、(2)労働者のメンタルヘルス不調によるコスト、および(3)これらの対策の有効性を明らかにし、「経済効果から見たメンタルヘルス対策のガイドライン」(仮称)を作成することを目的に開始した3年計画の3年めの研究である。
研究方法
 (1)職場環境と精神科受診の意向および精神健康度の関連、(2)事業所のメンタルヘルス対策の費用便益分析および実施状況と効果の関連の検討、(3)情報関係事業場におけるメンタルヘルス改善意識再調査、(4)認知行動療法プログラムによるストレス反応の改善効果に関する定量的評価、(5)職場主導で行われる介入が労働者のメンタルヘルスおよび生産性を含むコストに与える影響:系統的文献レビュー、(6)職場のメンタルヘルス対策に関する最近の動向と費用(7)日本における精神疾患の社会的コストの推計、および(8)ストレス対処力SOCを高める労働職場環境要因の探索的研究を分担し行った。
結果と考察
 企業を対象として行った調査では、回答のあった85社の対策の平均実施割合は22.3%で、対策の1人あたり費用は4,095円、便益は35,326円であった。純便益は31,231円でROI(Return on investment:= 純便益/対象者一人あたり費用)は7.63であった。休業者率は、超過勤務時間と有意な正の相関があり、1人あたり休業日数、1人あたり費用は、休業中対策実施職員割合、復職前対策実施職員割合と有意な負の相関があった。職場復帰率は、職場の意志決定に従業員を参加させているほど、高かった。純便益は超過勤務時間と有意な正の相関があった。ROIは超過勤務時間、労務・人事担当者による面談時間が長いほど高く、人間関係が悪いほど低かった。1人あたり便益と有意な相関のある変数はなかった。これらの重回帰分析の結果では、休業者率は休業前対策実施割合が高いことが有意に高かった。メンタル不調者率が高いと委員会労務費が高いが、人間関係が良好であることと、復職前対策実施職員割合が高いとメンタル不調者率は有意に低かった。1人あたり休業日数は、超過勤務時間が長いと長い傾向にあるが、職場の意志決定プロセスに従業員が参加できる職場であると短かった。復職者率は、メンタル労務時間合が長いほど高く、休業前対策実施職員割合が高いほど有意に低かった。純便益は休業中対策実施職員割合が高いと有意に低かった。
 認知行動療法(CBT)に基づく読書療法を用いた介入研究を行った調査では、CBT群と対照群の介入開始直前、介入終了直後、フォローアップ時におけるSRS(Stress Response)-18の評定値を測定して比べたところ、介入終了直後のSRS-18得点について、介入開始直前時の得点を共変量とした共分散分析を行った結果有意差が認められた。また、フォローアップ時のSRS-18得点について、介入開始直前時の得点を共変量とした共分散分析を行った結果有意差が認められた。
 職場主導の介入が労働者のメンタルヘルスおよび労働生産性を含むコストに与える効果を検討するために行った系統的レビューの結果では、14の研究がメンタルヘルス関連またはコスト関連アウトカムにおける改善を示し、経費効率がよい可能性を示した。15の研究において、労働生産性がコストのアウトカムとして用いられており、介入のコストを測定した研究はほとんどなかった。介入の場所は費用対効果と関係がなかった。介入戦略として、個別的介入は経費効率がよい可能性が高かった。介入手法としては、特に個別的なマネジメントを組み合わせた認知行動療法は、経費効率がよい可能性が高いことが示された。
結論
 メンタル不調者率は、メンタル対策にかける労務時間合が長いほど高く、職場の人間関係が良好で休業中の社員に対応する担当者が高いほど低い傾向が認められた。しかし、純便益は休業中の社員に対応する担当者が高いほど低い傾向があった。
 文献上では、介入が行われる場所は、費用対効果と関係がみられなかったが、手法としては個別的なマネジメントを組み合わせた認知行動療法が、介入戦略として個別的介入が、経費効率がよい可能性が示された。実際の調査においてもストレス反応の改善を目的とした認知行動療法プログラムを開発し、 実地での介入研究を行った結果、費用対効果に優れたCBTに基づく読書療法は、 労働者が抱えるストレスを低減できる可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201326001B
報告書区分
総合
研究課題名
職場におけるメンタルヘルス対策の有効性、費用対効果等に関する調査研究
課題番号
H23-労働-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
横山 和仁(順天堂大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 飯島 佐知子(順天堂大学 医療看護学部)
  • 井奈波 良一(岐阜大学 大学院医学系研究科)
  • 中尾 睦宏(帝京大学大 学院公衆衛生学研究科・医学部附属病院)
  • 西田 淳志(東京都医学総合研究所)
  • 安藤 俊太郎(東京都医学総合研究所)
  • 原谷 隆史(独立行政法人労働安全衛生総合研究所)
  • 福田 敬(国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター)
  • 山崎  喜比古(日本福祉大学 社会福祉学部)
  • 和田 耕治(国立国際医療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 わが国では従来不十分であった(1)職場のメンタルヘルス対策のコスト、(2)労働者のメンタルヘルス不調によるコスト、および(3)これらの対策の有効性を明らかにし、「経済効果から見たメンタルヘルス対策のガイドライン」(仮称)を作成することを目的に行った3年間の研究である。
研究方法
 (1)事業所のメンタルヘルス対策の実情と費用の調査、(2)労働者のメンタルヘルス不調による経済損失(コスト)の分析、(3)各種のメンタルヘルス対策の効果の調査と分析(追跡調査を含む)、および(4)これらの医療経済的評価により、費用-効果(または便益)分析に基づいて対策の有効性の検討についての研究を協力し合い、各々が行い結果を検討しながら進めた。また、それぞれの研究は順天堂大学医学部の倫理委員会で研究計画の承認を受けると共に、疫学研究に関する倫理指針および疫学研究に関する倫理指針の施行についてにもとづいて実施された。
結果と考察
 研究初年度の平成23年度は上記(1)として職域におけるメンタルヘルス対策の実情と費用を調査するための調査項目を検討するため聞き取りによる予備調査を行った。その際、項目を整理するための前段階として、先行文献のレビューを行い、分担・協力研究者による検討を重ねた。それらの結果を基に2年目である平成24年度より全国規模の質問紙調査も開始した。
 上記(2)として初年度より医療費および医療費以外の失われる損失を含む社会的費用算出を各種公表データの分析により開始した。加えて、わが国の実態を把握するため3年にわたり経年的にEAP機関などの外部相談機関や公的に行われている社会サービスの実態調査と経費の算出も同時に行った。
 上記(3)においては初年度(23年度)時点での状況を検討する目的で、医学中央雑誌WebとPubMedなどのデータベースを使用して関連文献の検索とレビューを行った。主なものは①職場のメンタルヘルス対策の有効性および経済評価、②職場主導の介入による労働者のメンタルヘルスおよび労働生産性への効果、③認知行動療法の費用対効果であった。同時に職域での調査および診療現場を通じた休職・メンタル不調労働者への働きかけなどの横断的・縦断的調査研究も進めた。
 最終年度である平成25年度は、これらの結果を各研究者が持ち寄り、議論を行い、上記(4)を踏まえた各種資料を作成した。
 今回我々の研究は、職場のメンタルヘルス対策の費用対効果を探求するといった非常に途方もないテーマに取り組んだ。実際に進めていくと、分担研究者の報告からは、メンタル不調の経済的損失や社会的サービス費用の金額が示された。事業所における調査の結果からは、取り組みが行われている事業者においては、おおむね費用対効果は認められていたようであった。また、このような見地から方法論的として認知行動療法の評価が認められだしてきているようであった。方法として今後見直しが必要ではあるが、このような形で示すことができ、有意義なものになったと考える。
これらのことも踏まえ、事業者や産業保健スタッフにこれらの現状と取り組みの重要性など今回の研究結果を伝えるための資料として「効果的な職場のメンタルヘルス対策」を作成した。さらに、実際に労働者のストレス対処力について理解してもらうための教材として「健康でいきいきと働き続けるために」と「ストレス対処力(SOC)を高める心理教育リーフレット」を作成した。特に「健康でいきいきと働き続けるために」では職場風土チェックシートを取り入れ、職場環境のチェックと改善に目を向けた。加えて我々の調査結果や先行研究においても評価が得られ、費用対効果においても評価され始めている認知行動療法について、労働者に理解してもらうための教材として「健康でいきいきと働き続けるために」を作成した。
 以上、本研究で得られた成果物は、労働者、管理監督者、事業者、産業保健スタッフの今後のメンタルヘルス対策に有用なものであろうといえよう。さらに、そのことで労働者のメンタルヘルスの向上につながることが期待される。
結論
 職場におけるメンタルヘルス対策の有効性、費用対効果等に関する調査研究を踏まえて、次のような成果物(資料)が作成された。
(1)効果的な職場のメンタルヘルス対策
(2)健康でいきいきと働き続けるために
(3)働く人のためのストレスマネジメント 認知行動療法を活用したセルフケア
(4)ストレス対処力(SOC)を高める心理教育リーフレット
 以上の成果物は、今後評価を行い検討していく余地を残すものであり、さらに洗練する必要があるが、労働者、事業所、産業保健スタッフにとって労働者のメンタルヘルス対策に有用なものになることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-06-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201326001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 事業所がメンタルヘルス対策のため投資した費用は最小値33円から最大90,250円と事業所によって異なっていたが、平均では従業員1人あたり約4,000円であった。また、1人あたりの便益がおよそ30,000円であったので、その比を表すROI(Return on investment)は7を超えていた。さらに解析を進めると休職者の休職中の対策を厚く行うほどこれら便益を示す指標が高いとことが示された。
臨床的観点からの成果
 文献検討からは職場で行われる介入の経費効率が良い可能性が示され、その介入場所、戦略や手法別に分析した結果では、場所よりも、戦略としての個々への個別的介入と、手法として特にストレス対応などの個別的マネジメントを組み合わせた認知行動療法が、費用対効果が良い可能性が示された。さらに、実際の調査では認知行動療法プログラムを組んで、仕事のストレスを抱える労働者に試した結果、費用対効果に優れた認知行動療法は、労働者が抱えるストレスやうつ・不安症状を低減できる可能性が示唆された。
ガイドライン等の開発
 職場におけるメンタルヘルス対策の有効性、費用対効果等に関する調査研究を踏まえて、次のような成果物(資料)が作成した。
(1)効果的な職場のメンタルヘルス対策
(2)健康でいきいきと働き続けるために
(3)働く人のためのストレスマネジメント 認知行動療法を活用したセルフケア
(4)ストレス対処力(SOC)を高める心理教育リーフレット
その他行政的観点からの成果
 文献的考察、現状調査および追跡調査を行い、研究成果をまとめ報告書、小冊子ならびにリーフレットを作成した。成果物は、今後評価を行い検討し、さらに洗練していく余地を残すものであるが、これらを発信することで、行政の発信してきた指針「労働者の心の健康の保持増進のための指針(平成18年)」等に加え事業所が講じうる対策の選択の判断材料として活用されるものと考える。また、そのことにより指針等がより有効的に活用されることが予想される。
その他のインパクト
 わが国では従来不十分であった(1)職場のメンタルヘルス対策のコスト、(2)労働者のメンタルヘルス不調によるコスト、および(3)これらの対策の有効性を明らかにし、(4)「経済効果から見たメンタルヘルス対策のガイドライン」(仮称)を作成することを目的として本研究を行ってきた。この成果を発信することで、今後わが国でこのような側面からの検討や取り組みが多くなされていくことが予想される。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
9件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
井奈波良一
わが国の職場のメンタルヘルス対策の経済評価に関する文献研究
日本職業・災害医学会会誌 , 60 , 278-281  (2012)
原著論文2
Wada K, Arakida M, Watanabe R, et al.
The economic inpact of loss of performance due to absenteeism and presenteeism caused by depressive symptoms and comorbid health conditions among Japanese workers
Industrial Health , 51 , 482-489  (2013)
原著論文3
Iijima S, Yokoyama K, Kitamura F, et al.
Cost-benefit analysis of Comprehensive Mental Health prevention programs in Japanese workplaces: A pilot study
Industrial Health , 51 , 627-633  (2013)

公開日・更新日

公開日
2014-06-16
更新日
2019-06-17

収支報告書

文献番号
201326001Z