周産期医療の質と安全の向上のための研究

文献情報

文献番号
201325056A
報告書区分
総括
研究課題名
周産期医療の質と安全の向上のための研究
課題番号
H25-医療-指定-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
楠田 聡(東京女子医科大学 母子総合医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 藤村正哲(大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター)
  • 松田義雄(国際医療福祉大学)
  • 池田智明(三重大学医学部産科婦人科)
  • 細野茂春(日本大学医学部小児科)
  • 米本直裕(国立精神・神経医療研究センター、精神保健研究所)
  • 河野由美(自治医科大学小児科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 周産期医療の進歩により、ハイリスク児の救命率は向上している。しかしながら、さらに改善する余地が存在することも事実である。特に、ハイリスク児の予後には、施設間差が存在し、この差を是正することでさらに予後が向上する。そこで、周産期母子医療センターの診療行為に対してガイドラインに基づく標準化のための介入を行い、ハイリスク児の予後が対照群の児に比べて向上するかどうかを検証する目的で比較介入試験を行う。また、ハイリスク児の予後の改善には、診療行為を標準化する施設の組織文化の改善も重要である。そこで、この組織文化の変化についても検討を行う。
研究方法
全国の総合周産期母子医療センターあるいは地域周産期母子医療センター40施設を対象とした。対象施設を施設別に介入群19施設と非介入群21施設にクラスターランダム化して比較試験を行う。介入群では、ガイドラインに基づく標準的な診療行為を作成して提示し、治療の標準化を行う。一方、非介入群では従来から施設で実施している診療行為を続ける。介入する診療行為は、予後改善に繋がる5つの診療行為(出生時の蘇生、肺合併症の予防、動脈管開存症および脳室内出血の予防、敗血症の予防、栄養管理)とした。さらに、介入が必要な診療行為は施設別に異なる可能性があるため、その施設の予後の改善に直結する診療行為を解析して抽出し、その診療行為に効率良く介入を行った。介入効果の1次的評価は、介入群と対照群に入院した極低出生体重児の1.5歳および3歳時の予後とした。発達予後についても、標準的な評価が可能なように、体制の整備を行った。さらに一部の予後に関しては、国際比較が可能な指標を取り入れた。一方、副次評価項目は、組織文化尺等の評価とした。なお、目標症例数は両群で2800例とした。
結果と考察
平成23年11月25日に参加40施設を決定し、同年12月5日ランダム化割り付けを完了した。そして、平成24年2月11日に症例の登録を開始した。そして、平成26年2月28日で、目標症例数である2800例に達したので、登録を終了した。平成25年9月からは、登録症例の修正1.5歳時の神経発達評価を開始した。したがって、当初の研究計画に従い、比較介入試験が実施された。
 一方、今回の介入試験での診療行為は、出生後のハイリスク児の管理が対象であるが、出生前の診療行為も標準化により予後改善に繋がる。そこで、どのような産科領域での診療行為がハイリスク児の予後を改善できるかを検討するために、産科の診療行為に関するデータベースを作成し、今回の介入試験に登録された児の予後から、後方視的に産科の介入方法を検討する。そのための母体情報に関するデータベースが構築されたので、研究参加施設で、産科側からの母体データならびに新生児の短期予後データの収集を行い、その結果を分析する。
 また、すでに蓄積されたハイリスク児のデータベースを用いて、ハイリスク児の予後改善に寄与する因子を後方視的に解析し、将来の診療行為への介入試験の候補を検討した。その結果、出生前母体ステロイド投与群において、新生児死亡率は有意に減少した。また、投与群で、脳室内出血、未熟児網膜症の割合は有意に低かった。一方、NICU退院時に在宅酸素療法を要する慢性肺疾患の割合は、逆に有意に高かった。これは、生存率が向上した結果と考えられる。したがって、母体ステロイド投与は、わが国の周産期医療現場でも、重要な予後改善のための診療行為であると言える。次に、NICUに勤務するスタッフとその施設に入院した極低出生体重児の予後を検討した。その結果、施設別の修正死亡率は、新生児専従医師数、看護師数、NICU病床数、分娩数と逆相関する傾向があった。すなわち、大規模施設で低い傾向があった。さらに、新生児因子と予後の解析では、在胎24週から27週児の生存率は在胎期間が増加するにつれて有意に生存率は改善した。合併症に関しては、脳室周囲白質軟化症(PVL)以外の疾患頻度は、在胎期間が増加するにつれて低下した。生存に関わる因子は、母体ステロイド投与は死亡率を低下させ、空気漏出、頭蓋内出血、壊死性腸炎、特発性腸穿孔、敗血症等の合併症は死亡率を高めた。一方、呼吸窮迫症候群の有無は生存率に影響を与えなかった。したがって、再度母体ステロイド投与の重要性が示唆された。
さらに、ハイリスク児の長期予後を評価するシステムがわが国では従来十分に整備されていなかったため、ハイリスク児の長期予後の評価システムを構築した。
結論
介入試験が順調に進み、登録が目標症例数に達した。現在はフォローアップ体制の整備も行い、1次評価項目である、修正1.5歳時の予後データを収集中である。一方、本研究による有害事象の報告は無かった。また、介入研究の遂行に必要な母体情報データベースの構築が完成した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

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2015-06-09
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-

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文献番号
201325056Z