障害児(者)地域療育等支援事業の推進方法に関する研究

文献情報

文献番号
199800284A
報告書区分
総括
研究課題名
障害児(者)地域療育等支援事業の推進方法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
宮田 広善(姫路市総合福祉通園センター)
研究分担者(所属機関)
  • 嘉ノ海令子(姫路市総合福祉通園センター)
  • 渡辺幹夫(横浜市中部地域療育センター)
  • 松本知子(あさけ学園)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
障害児(者)の生活や療育への援助を施設の枠を越えて提供するオープン化策は
様々な事業によって試みられてきたが、「施設に付加された事業」の枠を越えられなかった。
しかし、「障害児(者)地域療育等支援事業(以下『支援事業』と略)」は、生活支援と療育
支援の二本の柱をもち、施設の活動に対して「出来高払い」で補助額を決定したり、事業を
療育等支援施設事業と療育拠点施設事業に分けて療育や生活支援機能の重層化を図るなど
従前の施設のオープン化事業とは異なる。この事業は措置制度の次なる障害福祉施策の制
度モデルになり得る重要な事業であるが、平成9年度末で132ヶ所の指定を終えた時点で
は求められる成果を上げられていない。本研究では、事業の推進を阻害する問題点を明確
にし、「支援事業」がその機能を充分に発揮できるための解決策を探ることを目的とした。
研究方法
「支援事業」受託施設(平成9年度末132施設)、都道府県・指定都市・中核市(以
下都道府県等と略)にアンケートを実施し、その分析によって「支援事業」実施上の問題点
を検討した。アンケートは平成10年9月21日に送付、11月30日までの回収分について
分析した。回収率は、療育等支援施設事業受託施設(以下支援施設と略)114施設(86%)、
8療育拠点施設事業受託施設(以下拠点施設と略)中8施設(100%)、47都道府県中44
ヶ所(92%)、12指定都市中11ヶ所(92%)、21中核市中21ヶ所(100%)であった。
結果と考察
第1に都道府県等および市町村の問題について。都道府県等のうち37ヶ所
(49%)が「支援事業」を障害者プランの中に位置付けていた。しかし、平成14年までに「支
援事業」の整備目標を定めているのは22都道府県(50%)、7指定都市(64%)、7中核市(33%)
のみであり、33都道府県等(43%)が「適当な施設が不足している」と回答している。ま
た、整備目標達成後、支援施設が担当する対象面積や人口に不均衡が生じる場合も多い。
都道府県等による市町村への指導状況については、事業の事前説明が21ヶ所(28%)にと
どまっていた。そのため、市町村との連携がとりにくい等「事業実施に支障があった」と
する施設が19施設(17%)あった。都道府県等の指導性の欠如は処遇困難事例の対処が施
設のみにまかされ地域・施設間格差を生む原因になる可能性がある。第2に障害保健福祉
圏域(以下圏域と略す)について。設定にあたって生活支援事業との連携を考慮したのは
7道府県(17%)、4指定都市(40%)にとどまり、老人福祉圏域や二次医療圏と同地域を
指定したところが多く、障害児(者)の生活実態にあった施策展開に支障がでる可能性が
あった。圏域が事業実施対象地域と一致している施設は65施設(57%)のみであり圏域設
定が障害児(者)のニーズと一致していない事が示唆された。圏域外の支援施設同士の連
携は78施設(68%)と進んでいたが圏域内の支援施設以外の施設との連携は低調であった。
この理由は、支援施設の消極性だけでなく従来の施設内援助の枠を出ない他施設の意識の
問題でもある。第3に支援施設の設置状況について。施設形態については、民立、知的障
害、入所の施設が多かった。これはわが国の施設設置状況を反映しているだけでなく、知
的障害者入所施設が多かった「心身障害児(者)地域療育拠点施設事業」の受託施設がス
ライドして「支援事業」を受託したためであり、これが「支援事業」の実施上の混乱を招い
たことは否定できない。第4に地域生活支援事業について。コーディネーター(以下CO
と略)の専任配置は93施設(82%)のみで20施設で兼任、1施設で配置していなかった。
兼務の内容はすべて指導員などの直接処遇であった。専門性については社会福祉士の配置
は30名のみであり、個別援助プログラムの作成の方法がわからないとの回答が16施設
(14%)もあった。今後、COの専門性確保のために研修体系を整備する必要がある。ま
た、8施設(7%)で施設外に常駐場所を置いており地域の事業としての立場を提起するも
のとして興味深い。第5に在宅支援訪問療育等指導事業・在宅支援外来療育等指導事業・
施設支援一般指導事業について。これらの事業を実施するにあたって、CO以外の職員を
専任や兼任で配置した施設は78施設(68%)のみであり、他の施設ではCOが直接療育や
生活援助に携わっている可能性があった。在宅支援訪問療育等指導事業は111施設(97%)
で実施されていたが件数は全般に少なかった。訪問スタッフは施設種別によって特徴があ
り従来から施設に配置されている職員を中心に、従来の利用者を援助している状況である
ことが示唆された。地域巡回の件数も少なく、巡回場所は保健所、学校、デイサービス、
保育所などが多かったが、この点は施設支援一般指導事業との区別を明確にする必要があ
る。訪問健康審査はさらに実施率が低く、実施していない施設が76施設(67%)もあった。
在宅支援外来療育等指導事業は108施設(95%)で実施されていたが件数は全般に少なか
った。医療機関を併設している施設では保険診療との関係で報告件数が少なくなる事も考
えられるが、実際には医療系施設の方が件数が多かった。実施内容はCOによる指導や受
託施設の利用援助など本来地域生活支援事業で実施するべきものも多かった。施設支援一
般指導事業は104施設(91%)で実施されていた。概して肢体不自由、重症心身障害関係
施設が多く、支援内容としては処遇困難例に対する助言が多かった。支援先は、児童施設
は保育所などの児童対象施設、成人施設は作業所などの成人対象施設が多く受託施設の従
来の連携状況が反映しているものと考えられた。第6に療育拠点施設事業について。調査
対象は8施設のみであったが、今後委託施設を増やしていく時、総合施設のない都道府県
等での委託先の問題、ひとつの拠点施設が受け持つ支援施設数の不均衡など解決されるべ
き問題は多い。拠点施設の機能について、職員は医療職を中心にほとんどの職種が配置さ
れているが、提供できる施設機能としてショートステイやホームヘルプなどの生活支援機
能が弱い傾向があった。これは、拠点施設が心身障害児総合通園センターなどの児童期中
心の施設に委託されているためと考えられる。対応困難な障害は視覚障害、精神障害など
であり、今後盲学校や精神病院、保健所などとの連携を考える必要がある。対応困難な相
談内容は、日中活動の場の提供、性の相談、法律相談など成人期への対応の問題が多かっ
た。支援施設が拠点施設に求める役割は、処遇困難例に対する職員派遣など専門的な支援
や行政機関を巻き込んだ広域的な調整機能が大半を占めた。施設支援専門指導事業の実施
状況は低調で9年度実績は1から8回であり、事例検討会を実施しているのは4施設で都
道府県等が参加しているのは1施設のみであった。在宅支援専門療育指導事業についても
全般的に少なかった。紹介内容としては、医療・訓練、診断・検査、多職種の関わりが必
要なケースなどであった。件数の少ない理由として、拠点施設と支援施設の連携の悪さだ
けでなく、従来圏域内外の病院などから拠点施設へ直接紹介される経路があり、本来この
事業で対応すべき事例が在宅支援外来療育等指導事業で対応されている可能性が強い。そ
のため圏域外のケースのフォロー状況をみると、拠点施設でのフォローが75%であり個別
援助プログラムを作成して支援施設に返す施設は0%という結果であった。これでは地域
から遠く離れた拠点施設に通わざるを得ない障害児(者)の状況は変わらず、「地域での支
援」を目指す「支援事業」の主旨が達成されない危険性がある。
結論
「支援事業」を実施、展開していく上での様々な問題点が明確になった。今後その
解決策が示され、具体的な実施マニュアルや事例集が提示される必要がある。

公開日・更新日

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