歯科医療機関における効果的な院内感染対策の促進に関する研究

文献情報

文献番号
201325048A
報告書区分
総括
研究課題名
歯科医療機関における効果的な院内感染対策の促進に関する研究
課題番号
H24-医療-指定-044
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
泉福 英信(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 高柴 正悟(岡山大学 歯周病態学)
  • 苔口 進(岡山大学 口腔微生物学)
  • 小澤 寿子(鶴見大学歯学部 歯内療法学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
2,471,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成21年度に起こった新型インフルエンザパンデミック、22年度は多剤耐性菌による院内感染等、歯科医療においても感染対策の難しさおよびその重要性を改めて認識させられた。歯科医療は、治療の際の患者との近接、唾液血液の飛び散りなどから病原体に曝されるリスクが高いためスタンダードプレコーションを徹底して行う必要がある。しかしスタンダードプレコーションの理解率は低いままである。新型インフルエンザを含めSARS, HIV, HBV, HCV等の感染症の問題は後を絶たず、また近年では、多剤耐性菌による院内感染も起こり、全ての歯科医師にスタンダートプレコーションを導入させることは急務である。そこで我々の研究活動で明らかになった評価指標をもとに、院内感染防止システムをいかに普及させていくかを本研究の目的とし、検討を行った。
研究方法
以下の4つの研究班を組織して研究を行った。
1.「一般開業歯科医療における院内感染対策の評価指標の標準化とその歯科医師への導入プログラムの作成」では、院内感染対策普及事業を積極的に行っているF県歯科医師会にてアンケート調査を行い、以前1年おきに行ったA県との調査結果の比較を行った。「全国における院内感染対策研修会開催システムの構築および院内感染対策普及のための書籍作成」では、講習会講師育成システムの構築および書籍の発刊の検討を行った。「ATP法による院内環境汚染状況の測定システムの構築」では、ATP測定キットを一般歯科診療所へ渡し、汚染状況の測定を行った。「歯科医療における院内感染対策普及のためのシンポジウムの開催」では、各都道府県歯科医師会の院内感染対策担当歯科医師を集め、それぞれの取り組みをシンポジウム形式で発表を行った。2.「給水汚染防止システムを取り入れたデンタルチェアユニットの微生物汚染除去システムの開発」では、H2O2や微酸性電解水を使用したクリーンシステムの有効性の検証を行った。3.「病院歯科における院内感染対策促進のための科学的な評価指標の分析」では、病院歯科で有効な微生物汚染検査法の考察を行った。4.「評価指標を利用した院内感染対策促進のための細菌学的検査の確立」では、一般歯科診療所でのタバコシバンムシ生息状況調査を行った。
結果と考察
都道府県単位で行われる歯科医師会主催研修会の方法や講義の違いが院内感染対策の普及および自院でのHIV感染者の歯科医療行為に現れることが明らかとなった。その効果は、自分の歯科医院に積極的に投資できる歯科医師および卒業年度が近年である歯科医師に強く現れることが明らかとなった。このような効果の違いをなくし、より効果的な院内感染対策普及システムを構築するためには、各歯科医師会の院内感染対策を推進する担当者を集めた定期的な院内感染対策に関するシンポジウムや連絡会議が必要であることが明らかとなった。このような会議で意見交換をすることにより、標準化された院内感染対策普及システムが迅速に行われると考えられた。デンタルチェア内給水系の汚染防止として、H2O2や微酸性電解水を使用したクリーンシステムが有効であることが示唆された。それぞれ、H2O2では63ヶ月間,微酸性電解水では43か月間、DUWL水の汚染対策としての有効性が保たれていた。また,安価で迅速なATP法を用いて各診療所の汚染状況をモニタリングを行うことは感染対策には有用であり,motivationの向上につながることが示唆された。新しい歯科医療環境の汚染調査として、タバコシバンムシ生息状況調査を示した。地球温暖化また節電、猛暑などの影響で国内でも病害昆虫も発生が懸念されている状況でこの方法は有用となる可能性がある。研修会に参加できない歯科医師や歯科医師会に所属していない歯科医師に上述した情報を提供するには、書籍の発行やホームページが有効である。定期的な情報の更新をしていくことで、motivationの向上につながることが考えられた。
結論
 講習会の開催方法や講義の内容でその院内感染対策の普及効果に違いが出てくることが明らかとなった。歯科診療所の汚染状況のモニタリングを行うATP法、デンタルチェア内給水系の汚染防止としてのH2O2や微酸性電解水を使用したクリーンシステム、新しい歯科医療環境の汚染調査として、タバコシバンムシ生息状況調査、これらの情報や都道府県単位で行われる各歯科医師会主催研修会の取り組みやそれらの効果の情報を交換する会議やシンポジウムが必要であることが明らかとなった。研修会に参加することができない歯科医師や歯科医師会に所属していない歯科医師には、書籍発行やホームページの運営が有効な院内感染対策の普及手段であることが考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201325048B
報告書区分
総合
研究課題名
歯科医療機関における効果的な院内感染対策の促進に関する研究
課題番号
H24-医療-指定-044
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
泉福 英信(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 高柴 正悟(岡山大学 歯周病態学)
  • 苔口 進(岡山大学 口腔微生物学)
  • 小澤 寿子(鶴見大学歯学部 歯内療法学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成21年度に起こった新型インフルエンザパンデミック、22年度は多剤耐性菌による院内感染等、歯科医療においても感染対策の難しさおよびその重要性を改めて認識させられた。歯科医療は、治療の際の患者との近接、唾液血液の飛び散りなどから病原体に曝されるリスクが高いため全ての歯科医師に対応できるスタンダートプレコーションを導入させることは急務である。
平成24年度の研究課題は、構築された院内感染防止プログラムをさらに発展させいかに普及させていくかである。インターネットの活用や講演会の開催を推進し、紙(本の作製)や電子媒体(ホームページつくりPDF file作製およびダウンロードシステムの構築)が有効と考える。本研究は研究期間内でそれらの課題を達成することを目的とする。
平成25年度の研究課題は昨年度と同様に、構築された院内感染防止プログラムをさらに発展させていかに普及させていくかである。これらの成果を総合的に検討し、研究期間内で院内感染対策普及プログラムを検討していくことを目的とする。
研究方法
平成24~25年度の2年間、以下の4つの研究班を組織して研究を行った。
1.「一般開業歯科医療における院内感染対策の評価指標の標準化とその歯科医師への導入プログラムの作成」「全国における院内感染対策研修会開催、書籍化したプログラムおよびPDF fileの配布」「ホームページ作製と院内感染対策導入プログラムのPDFファイルダウンロードシステムの構築」「ATP法による院内環境汚染状況の測定システムの構築」「歯科医療における院内感染対策普及のためのシンポジウムの開催」
2.「歯科用チェアユニット内微生物汚染除去法システムを利用した院内感染対策促進のための検討」「給水汚染防止システムを取り入れたデンタルチェアユニットの微生物汚染除去システムの開発」
3.「病院歯科における院内感染対策促進のための科学的な評価指標の分析」
4.「評価指標を利用した院内感染対策促進のための細菌学的検査の確立」
結果と考察
年齢が50歳以上、口腔外科の標榜しない、一日の患者数が35名以下の歯科医療機関は、院内感染対策の導入が難しいことが統計学的に明らかになった。これらのグループに対して、いかにスタンダードプレコーションを理解させていくかが、院内感染対策を普及していく上で鍵となる。そのために、ホームページを作成、指導者育成の講習会、院内感染対策の書籍発刊を企画した。また、各都道府県の歯科医師会所属院内感染対策普及ならびにHIV感染者歯科治療ネットワーク事業の担当者を集め、討論する機会をつくることが重要であることも明らかとなった。まとめると、院内環境の汚染を瞬時に評価できるATP法、情報発信、シンポジウム、各都道府県歯科医師会との連絡会議の開催、講師育成研修会の開催、研修、実習システムの整備などの活動が今後とも重要であった。
歯科用チェアユニットの給水管路(DUWL)の水汚染の対策として、過酸化水素水や微酸性電解水による新しい水回路クリーンシステム搭載の歯科用チェアユニットが水の汚染対策として有効であることが明らかとなった。また、易感染状態の患者に対する歯科治療において、スタンダードプレコーションに加え、医科との検査データの共有と、患者の日和見菌、あるいは薬剤耐性菌の保有状況を把握が重要であることが明らかとなった。
歯科医院における日本の家屋における代表的な病害微小昆虫タバコシバンムシを対象に薬剤耐性遺伝子を指標にし検討を行った。歯科医院からタバコシバンムシが捕獲された。しかし、そのタバコシバンムシからは各種薬剤耐性遺伝子は検出されなかった。日本の温暖化に影響して、タバコシバンムシが捕獲されるようになったことから、今後の注意が必要であると考えられた。
結論
正しい知識の植え付け、新しい情報の共有、安価でより簡単な院内感染対策法の開発と普及を定期的に行い、院内感染対策のmotivationの向上につなげていくことが重要と考える。そのために定期的な院内感染対策に関するシンポジウムや連絡会議の開催、講習会講師の育成、書籍の発刊やホームページの運営が重要であることが示唆された。また、今後も増える易感染状態の患者の対策、水回路クリーンシステム搭載の歯科用チェアユニットの使用、院内環境のATP法による汚染検査、タバココバンムシの調査が必要であることも明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201325048C

成果

専門的・学術的観点からの成果
50歳以上の歯科医師、一般歯科のみを標榜している歯科医師、一日の患者数が35人以下の歯科医師は、院内感染対策の導入が不十分であることが明らかとなった。それらの歯科医師に、スタンダードプレコーションを理解させると、患者ごとのタービンヘッドの交換ができる歯科医師の割合が急激に上昇することが明らかとなった。
臨床的観点からの成果
院内感染対策を導入した歯科医師の数が増えてきている。これは、歯科医師と患者との信頼関係が生まれ医療の向上につながると考えられる。読売新聞で取り上げられ、タービンヘッドを滅菌するオートクレーブの導入が進んでいる。患者ごとのタービンヘッドの交換ができる歯科医師が増えつつある。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
平成26年5月24日厚生労働省は、歯を削る医療機器の滅菌を求めた日本歯科医学会の指針を徹底するように日本歯科医師会に近く通知することを決めた。平成28年4月1日に歯科診療報酬改定が行われ、院内感染防止対策の施設基準が新設され、届けると初診料、再診料が以前より3点上昇、届け出が無い場合は、8点の減少になった。
その他のインパクト
平成26年3月2日に歯科医療における院内感染対策普及のための公開シンポジウムを開催した。平成26年5月18日読売新聞朝刊の1面に取り上げられた。5月24日読売新聞朝刊の社説に取り上げられた。これらの記事は、学会等でも取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
17件
その他論文(和文)
15件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
27件
学会発表(国際学会等)
12件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
院内感染対策の研修会を行った。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Norihiko Kanaguchi, Naoki Narisawa, Tatsuro Ito, et al.
Effects of salivary protein flow and indigenous microorganisms on initial colonization of Candida albicans in an in vivo mode.
BMC Oral Health , 12 (1) , 36-  (2012)
10.1186/1472-6831-12-36
原著論文2
Xi Zhang and Hidenobu Senpuku.
Dynamic changes in the initial colonization of Actinomyces naeslundii and Streptococcus gordonii using a new animal model.
Japanese Journal Infectious Diseases, , 66 (1) , 11-16  (2013)
原著論文3
Akio Tada, Masaomi Watanabe, Hidenobu Senpuku
Factors affecting changes in compliance with infection control practice by dentists in Japan.
American Journal of Infection Control, , 43 (1) , 95-97  (2015)
原著論文4
Toshiaki Arai, Yosuke Kinoshita, and Hidenobu Senpuku
Persistent colonization of Candida albicans yeast on the tongue in NOD/SCID.e2f1-/- mice.
Journal of Infection and Chemotherapy , 21 (5) , 370-375  (2015)
10.1016/j.jiac.2015.01.001.

公開日・更新日

公開日
2017-06-07
更新日
2018-06-19

収支報告書

文献番号
201325048Z