東日本大震災における疾病構造と死因に関する研究

文献情報

文献番号
201325042A
報告書区分
総括
研究課題名
東日本大震災における疾病構造と死因に関する研究
課題番号
H24-医療-指定-036
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
小井土 雄一(独立行政法人国立病院機構災害医療センター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 本間 正人(鳥取大学医学部)
  • 大友 康裕(東京医科歯科大学大学院)
  • 森野 一真(山形県立中央病院救命救急センター)
  • 鶴和 美穂(独立行政法人国立病院機構災害医療センター)
  • 島田 二郎(福島県立医科大学)
  • 松本 尚(日本医科大学千葉北総病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は東日本大震災における疾病構造と死因の実態調査を行うことにより、急性期災害医療の問題点を抽出する。その上で、本震災での問題点を次の災害に活かすべく、マニュアルやガイドライン等を具体的に示し、急性期災害医療全体の改善を図ることを目的とする。本震災後、被災地からの報告では、防ぎえる災害死があった可能性を指摘している。全ての傷病者を対象とした疾病構造の把握と死亡原因の実態調査を行い、今後の災害医療体制見直しに必要な問題点を抽出し、災害医療全体のあり方に関する具体的な行動計画を示す。
研究方法
被災4県における防ぎえる災害死に関する研究においては、以下の手法で傷病者動態の実態把握、及び防ぎえる災害死の抽出を試みた。被災県警本部への調査・被災4県の全病院(563病院)へのアンケート調査・岩手県、宮城県の基幹病院への聞き取り調査・福島第一原発事故による病院入院患者の避難搬送に関わる予後調査・茨城県における平時の年間死亡数・死因との比較検討この結果から、本震災における災害医療体制の問題点を抽出する。それらの問題点を整理し、次の災害に活かすべく、災害医療全体を通して包括的な具体的な成果物を作成する。
結果と考察
被災県警本部への調査においては、被災3県の年齢階層別死亡数をみたところ、高齢者ほど死亡数が高く、10歳未満の小児もやや高い死亡数であった。即ち、災害弱者と呼ばれる年齢層での死亡数が高くなる結果であった。患者動態の調査では、岩手県、宮城県の全入院患者数(8,076人)のうち約15.3%(1,241人)に転院搬送が実施されていた。患者の転院搬送先に関しては、県内被災地外への搬送が全転院搬送の8割以上を占めており、県外搬送は少なかった。転院搬送手段に関しては、県外への患者搬送の約8割がヘリによって実施された。これらの調査の結果、阪神淡路大震災においては、初動期の後方搬送の遅れが大きな問題となったが、東日本大震災においては、初期から多くの後方搬送が実施され、防ぎえた災害死の抑止だけでなく、被災地の負担軽減の点でも有効であったことが分かった。防ぎえた災害死の調査では、宮城県においては4.8%(15/315)の防ぎえた災害死の存在が明らかとなった。岩手県においては、8%(14/173)の防ぎえた災害死の存在が明らかとなった。その原因として、病院インフラの破綻、後方搬送の遅れ、病院前における医療介入の遅れが可能性として考えられた。福島県においては、DMATが関与した病院避難の搬送実績は514例であり、これらの症例に搬送中の死亡はなかった。このうち調査対象となった症例は411例あり、これらの症例は県内および周辺5県の病院へ搬送が実施された。転帰(平成25年12月31日地点)に関しては、退院となった患者はわずか12名(2.9%)、また搬送元に戻った患者は48名であり、殆どの患者は搬送元の病院に帰還していないことが明らかとなった。茨城県においては、2011年の死者数は震災がなかったときに予測される死者数より2.1%(620人)増加していた。疾患としては心疾患と呼吸器疾患が増加していた。BCPに基づいた病院災害マニュアル作成手引書及びチェックリストを作成した。災害拠点病院と中小病院に分類して、必須項目と望ましい項目を提示した。災害医療コーディネーターに関しては、養成カリキュラムおよび研修コースを提示した。また、研究結果の総括をもとに基本的なガイドライン「災害医療コーディネートに係るガイドライン v.1.0」を作成した。ドクターヘリ運航動態監視システムの関する研究においては、今年度はドクターヘリと同様にDMATカーにも搭載し、その有効性を大規模訓練で検証した。また、双方向通信のシステムを立ち上げた。
結論
今回の研究班の結果において、防ぎえた災害死の存在が明らかとなった。本研究におけるlimitationもあるが、防ぎえた災害死の存在が、明らかとなったことは意義がある。阪神淡路大震災後の災害医療体制は500人の防ぎえた災害死をいかにしたらゼロにできるかということで進歩してきた。本震災における防ぎえた災害死の原因を究明することは、急性期災害医療に留まらず、亜急性期以降の災害医療の改善にも役立ち、予想される首都直下、南海トラフ地震の対応に貢献すると考えられる。本研究班の目的は、「災害時における医療体制の充実強化について」(厚生労働省医政局長通知 平成24年3月)で示された目標を具現化していく上で必要なマニュアル・ガイドラインを提示していくことでもあるが、BCPに基づいた病院災害マニュアル作成手引書、災害医療コーディネートに係るガイドラインを提示した。また被災地における複数のドクターヘリを安全に運航させるための運航動態システム検証も行った。本研究成果物が、国の施策に寄与することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201325042B
報告書区分
総合
研究課題名
東日本大震災における疾病構造と死因に関する研究
課題番号
H24-医療-指定-036
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
小井土 雄一(独立行政法人国立病院機構災害医療センター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 本間 正人(鳥取大学医学部)
  • 大友 康裕(東京医科歯科大学大学院)
  • 森野 一真(山形県立中央病院救命救急センター)
  • 鶴和 美穂(独立行政法人国立病院機構災害医療センター)
  • 島田 二郎(福島県立医科大学)
  • 松本 尚(日本医科大学千葉北総病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は東日本大震災における疾病構造と死因の実態調査を行うことにより、急性期災害医療の問題点を抽出する。その上で、本震災での問題点を次の災害に活かすべく、マニュアルやガイドライン等を具体的に示し、急性期災害医療全体の改善を図ることを目的とする。本震災後、被災地からの報告では、防ぎえる災害死があった可能性を指摘している。全ての傷病者を対象とした疾病構造の把握と死亡原因の実態調査を行い、今後の災害医療体制見直しに必要な問題点を抽出し、災害医療全体のあり方に関する具体的な行動計画を示す。
研究方法
被災4県における防ぎえる災害死に関する研究においては、以下の手法で傷病者動態の実態把握、及び防ぎえる災害死の抽出を試みた。被災県警本部への調査・被災4県の全病院(563病院)へのアンケート調査・岩手県、宮城県の基幹病院への聞き取り調査・福島第一原発事故による病院入院患者の避難搬送に関わる予後調査・茨城県における平時の年間死亡数・死因との比較検討この結果から、本震災における災害医療体制の問題点を抽出する。それらの問題点を整理し、次の災害に活かすべく、災害医療全体を通して包括的な具体的な成果物を作成する。
結果と考察
被災県警本部への調査においては、被災3県の年齢階層別死亡数をみたところ、高齢者ほど死亡数が高く、10歳未満の小児もやや高い死亡数であった。即ち、災害弱者と呼ばれる年齢層での死亡数が高くなる結果であった。患者動態の調査では、岩手県、宮城県の全入院患者数(8,076人)のうち約15.3%(1,241人)に転院搬送が実施されていた。患者の転院搬送先に関しては、県内被災地外への搬送が全転院搬送の8割以上を占めており、県外搬送は少なかった。転院搬送手段に関しては、県外への患者搬送の約8割がヘリによって実施された。これらの調査の結果、阪神淡路大震災においては、初動期の後方搬送の遅れが大きな問題となったが、東日本大震災においては、初期から多くの後方搬送が実施され、防ぎえた災害死の抑止だけでなく、被災地の負担軽減の点でも有効であったことが分かった。防ぎえた災害死の調査では、宮城県においては4.8%(15/315)の防ぎえた災害死の存在が明らかとなった。岩手県においては、8%(14/173)の防ぎえた災害死の存在が明らかとなった。その原因として、病院インフラの破綻、後方搬送の遅れ、病院前における医療介入の遅れが可能性として考えられた。福島県においては、DMATが関与した病院避難の搬送実績は514例であり、これらの症例に搬送中の死亡はなかった。このうち調査対象となった症例は411例あり、これらの症例は県内および周辺5県の病院へ搬送が実施された。転帰(平成25年12月31日地点)に関しては、退院となった患者はわずか12名(2.9%)、また搬送元に戻った患者は48名であり、殆どの患者は搬送元の病院に帰還していないことが明らかとなった。茨城県においては、2011年の死者数は震災がなかったときに予測される死者数より2.1%(620人)増加していた。疾患としては心疾患と呼吸器疾患が増加していた。BCPに基づいた病院災害マニュアル作成手引書及びチェックリストを作成した。災害拠点病院と中小病院に分類して、必須項目と望ましい項目を提示した。災害医療コーディネーターに関しては、養成カリキュラムおよび研修コースを提示した。また、研究結果の総括をもとに基本的なガイドライン「災害医療コーディネートに係るガイドライン v.1.0」を作成した。ドクターヘリ運航動態監視システムの関する研究においては、今年度はドクターヘリと同様にDMATカーにも搭載し、その有効性を大規模訓練で検証した。また、双方向通信のシステムを立ち上げた。
結論
今回の研究班の結果において、防ぎえた災害死の存在が明らかとなった。本研究におけるlimitationもあるが、防ぎえた災害死の存在が、明らかとなったことは意義がある。阪神淡路大震災後の災害医療体制は500人の防ぎえた災害死をいかにしたらゼロにできるかということで進歩してきた。本震災における防ぎえた災害死の原因を究明することは、急性期災害医療に留まらず、亜急性期以降の災害医療の改善にも役立ち、予想される首都直下、南海トラフ地震の対応に貢献すると考えられる。本研究班の目的は、「災害時における医療体制の充実強化について」(厚生労働省医政局長通知 平成24年3月)で示された目標を具現化していく上で必要なマニュアル・ガイドラインを提示していくことでもあるが、BCPに基づいた病院災害マニュアル作成手引書、災害医療コーディネートに係るガイドラインを提示した。また被災地における複数のドクターヘリを安全に運航させるための運航動態システム検証も行った。本研究成果物が、国の施策に寄与することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201325042C

収支報告書

文献番号
201325042Z