わが国の妊産婦死亡原因の主要疾患に関する研究

文献情報

文献番号
201325035A
報告書区分
総括
研究課題名
わが国の妊産婦死亡原因の主要疾患に関する研究
課題番号
H24-医療-一般-036
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
池田 智明(三重大学 大学院医学系研究科 臨床医学系講座 産婦人科学)
研究分担者(所属機関)
  • 池ノ上 克(宮崎大学医学部附属病院)
  • 金山 尚裕(浜松医科大学産婦人科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
8,850,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は妊産婦の安全を究極まで高めることである。近年の本邦の妊産婦死亡は10万対にて約3~5で推移しており非常に稀ではある。しかし人生の最も幸福な時期の予期しない突然の死は当の妊産婦はもとより家族や医療従事者、社会に与える衝撃は数字で表せないほど非常に大きい。
妊産婦死亡を限りなく0に近づけるためには死亡症例の原因究明と再発防止策を行うことが重要である。妊産婦死亡の全例の詳細なデータの登録を行い、これを症例検討委員会で検討し、問題点を明らかにすることによって妊産婦死亡に対する予防策を打ち出し「母体安全への提言」を毎年発行し、短期間でのフィードバックを行えるシステムを構築することによって妊産婦死亡を減少させることを目標とする。
研究方法
1. データの収集 
 日本産婦人科医会の協力を得て、同会の妊産婦死亡症例届け出システムにより届け出られ同会にて匿名化された報告書が当研究班に提供される。
2. 原因究明 
 毎月開かれる『妊産婦死亡症例検討小委員会』において死因や行われた医療の評価、今後の予防対策などが議論され報告書が作成される。この報告書をもとに4ヶ月に1回開催される『妊産婦死亡症例検討会』にて最終的な症例評価報告書を作成する。
3. 改善策の提案 
 上記検討委員会での検討と分析に基づいて現在の妊産婦死亡を取り巻く状況における問題点を抽出し、毎年『母体安全への提言』として出版し、医会と学会員に周知する。
4. 妊産婦死亡における重要疾患と重要検討項目に対する研究、指針作成。
以下の重要項目について行った。
 1) 羊水塞栓症登録事業の推進
 2) 妊産婦死亡時の剖検と病理検査の指針作成
 3) 妊娠関連の脳血管障害の発症に関する研究
 4) 周産期心筋症全国前向き症例登録研究
 5) 心疾患合併妊娠の前向き調査、登録
結果と考察
1. データの収集 
 平成25年に報告された症例はそれぞれ37例であり、厚生労働省の母子保健統計と同等の症例数が集められている。全例登録システムが確立したと考えられる。
2. 原因究明 
 妊産婦死亡事例の58%は直接産科的死亡であり、37%は間接産科的死亡に分類された。原因で最も多かったのが産科危機的出血で28%を占めていた。次いで心肺虚脱型羊水塞栓症、心血管疾患がともに13%、肺血栓塞栓症10%、脳出血9%であった。
3. 改善策の提案
 母体安全への提言2012を刊行し、以下の5つの提言を行った。(1)産科危機的出血時および発症が疑われる場合の搬送時には、適切な情報の伝達を行いスムーズな初期治療の開始につとめる。(2)産科危機的出血時のFFP投与の重要性を認識し、早期開始に努める。(3)産科危機的出血などの重症例への対応には、救急医との連絡を密にして活用しうる医療資源を最大限に活用する。(4)心血管系合併症の診断・治療に習熟する。(5)妊産婦死亡が起こった場合は日本産婦人科医会への届け出とともに病理解剖を施行する。
4. 妊産婦死亡における重要疾患と重要検討項目に対する研究、指針作成。
1) 羊水塞栓症登録事業の推進
血清事業を拡充すると同時にDIC先行型羊水塞栓症の病理診断所見の提案を行いこの疾患についての病理診断の確立を試みた。
2) 妊産婦死亡時の剖検と病理検査の指針作成
平成22年に妊産婦死亡に対する剖検マニュアルを全国に配布したのに続き2012年より日本病理学会と協同で妊産婦死亡カンファレンスを行った。2013年までに3回開催した。
3) 妊娠関連の脳血管障害の発症に関する研究
脳出血、脳梗塞などに関して全国調査を行った。脳出血は2006年の予後不良率61%に対して今回は32%と大幅に改善していた。脳梗塞は2006年の37%に対して26%とこちらも改善がみられた。脳出血の早期診断率の向上がみられた。
4) 周産期心筋症全国前向き症例登録研究
危険因子は妊娠高血圧症候群合併(36%)、切迫早産治療(24%)、多胎妊娠(7%)であった。心機能の指標である左室駆出率の平均は1年で正常に近い値まで回復していた。抗プロラクチン療法を行い、急性期の新機能改善の効果が期待できる結果であった。
5) 心疾患合併妊娠の前向き調査、登録
先天性心疾患、大動脈疾患、弁膜症、心筋症、機械弁、肺高血圧症、虚血性心疾患、不整脈、川崎病合併妊娠の前向き調査データベースのためのフレームワークを作成した。
結論
継続して調査、症例検討を行っていくことによって最も重要で早急に改善していかなくてはならないことが明るみになってくることが分かった。今後も永続的なものとして調査を続ける必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201325035B
報告書区分
総合
研究課題名
わが国の妊産婦死亡原因の主要疾患に関する研究
課題番号
H24-医療-一般-036
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
池田 智明(三重大学 大学院医学系研究科 臨床医学系講座 産婦人科学)
研究分担者(所属機関)
  • 池ノ上 克(宮崎大学医学部附属病院)
  • 金山 尚裕(浜松医科大学産婦人科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は妊産婦の安全を究極まで高めることである。近年の本邦の妊産婦死亡は10万対にて約3~5で推移しており非常に稀ではある。しかし人生の最も幸福な時期の予期しない突然の死は当の妊産婦はもとより家族や医療従事者、社会に与える衝撃は数字で表せないほど非常に大きい。
妊産婦死亡を限りなく0に近づけるためには死亡症例の原因究明と再発防止策を行うことが重要である。妊産婦死亡の全例の詳細なデータの登録を行い、これを症例検討委員会で検討し、問題点を明らかにすることによって妊産婦死亡に対する予防策を打ち出し「母体安全への提言」を毎年発行し、短期間でのフィードバックを行えるシステムを構築することによって妊産婦死亡を減少させることを目標とする。
研究方法
1.データの収集 
 日本産婦人科医会の協力を得て、同会の妊産婦死亡症例届け出システムにより届け出られ同会にて匿名化された報告書が当研究班に提供される。
2.原因究明 
 毎月開かれる『妊産婦死亡症例検討小委員会』において死因や行われた医療の評価、今後の予防対策などが議論され報告書が作成される。この報告書をもとに4ヶ月に1回開催される『妊産婦死亡症例検討会』にて最終的な症例評価報告書を作成する。
3.改善策の提案 
上記検討委員会での検討と分析に基づいて現在の妊産婦死亡を取り巻く状況における問題点を抽出し、毎年『母体安全への提言』として出版し、医会と学会員に周知する。
4.妊産婦死亡における重要疾患と重要検討項目に対する研究、指針作成。
以下の重要項目について行った。
 1) 羊水塞栓症登録事業の推進
 2) 妊産婦死亡時の剖検と病理検査の指針作成
 3) 妊娠関連の脳血管障害の発症に関する研究
 4) 周産期心筋症全国前向き症例登録研究
 5) 心疾患合併妊娠の前向き調査、登録
結果と考察
1.データの収集 
 平成24年と平成25年に報告された症例はそれぞれ61例、37例であり、厚生労働省の母子保健統計と同等の症例数が集められている。全例登録システムが確立したと考えられる。
2.原因究明 
 妊産婦死亡事例の58%は直接産科的死亡であり、37%は間接産科的死亡に分類された。原因で最も多かったのが産科危機的出血で28%を占めており、出血に対する対策が急務であることが明らかになった。
3.改善策の提案
 母体安全への提言2011、2012を刊行した。2011年版は以下の5つの提言を行った。(1)内科、外科などの他診療科と患者情報を共有し妊産婦診療に役立てる。(2)地域の実情を考慮した危機的産科出血への対応を、各地域別で立案し、日頃からシミュレーションを行う。(3)子宮内反症の診断・治療に習熟する。(4)羊水塞栓症に対する、初期治療に習熟する。(5)肺血栓塞栓症の診断・治療に習熟する。2012年版は以下の5つの提言を行った。(1)産科危機的出血時および発症が疑われる場合の搬送時には、適切な情報の伝達を行いスムーズな初期治療の開始につとめる。(2)産科危機的出血時のFFP投与の重要性を認識し、早期開始に努める。(3)産科危機的出血などの重症例への対応には、救急医との連絡を密にして活用しうる医療資源を最大限に活用する。(4)心血管系合併症の診断・治療に習熟する。(5)妊産婦死亡が起こった場合は日本産婦人科医会への届け出とともに病理解剖を施行する。
4.妊産婦死亡における重要疾患と重要検討項目に対する研究、指針作成。
1) 羊水塞栓症登録事業の推進
血清事業を拡充すると同時にDIC先行型羊水塞栓症の病理診断所見の提案を行いこの疾患についての病理診断の確立を試みた。
2) 妊産婦死亡時の剖検と病理検査の指針作成
2012年より日本病理学会と協同で妊産婦死亡カンファレンスを行った。2013年までに3回開催した。
3) 妊娠関連の脳血管障害の発症に関する研究
脳出血、脳梗塞などに関して全国調査を行った。脳出血は2006年の予後不良率61%に対して今回は32%、脳梗塞は2006年の37%に対して26%と改善がみられた。脳出血の早期診断率の向上がみられた。
4) 周産期心筋症全国前向き症例登録研究
最も頻度の多い危険因子は妊娠高血圧症候群合併(36%)であった。左室駆出率の平均は1年で正常に近い値まで回復していた。抗プロラクチン療法を行い、急性期の心機能改善の効果をみとめた。
5) 心疾患合併妊娠の前向き調査、登録
先天性心疾患、大動脈疾患、弁膜症、心筋症、機械弁、肺高血圧症などの合併妊娠の前向き調査のためのフレームワークを作成した。
結論
継続して調査、症例検討を行っていくことによって最も重要で早急に改善していかなくてはならないことが明るみになってくることが分かった。今後も永続的なものとして調査を続ける必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-03-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201325035C

収支報告書

文献番号
201325035Z