精神医療の機能分化に関する研究

文献情報

文献番号
199800282A
報告書区分
総括
研究課題名
精神医療の機能分化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
浅井 昌弘(慶應義塾大学医学部精神神経科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 吉川武彦(国立精神・神経センター)
  • 黒澤尚(日本医科大学附属千葉北総病院)
  • 計見一雄(千葉県精神科医療センター)
  • 小池清廉(京都府立洛南病院)
  • 中山茂樹(千葉大学工学部デザイン工学科)
  • 守屋裕文(埼玉県立精神保健総合センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
19,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ストレス社会の中で日本国民の保健・医療・福祉の向上を計るには、心の健康増進及び精神障害の予防と治療をより綿密に行わねばならない。そのために精神医療各分野での専門的発展の成果を充分に取り入れて、効果的な機能分化を計り、それらを統合して医療経済的視点からも医療資源の有効活用を目指すべきである。
本研究ではそのような観点から「精神医療の機能分化に関する研究」を行う。精神医療は巾広い拡がりがあり、専門的単科の精神科病院のみならず、多くの診療科を有する地域中核病院(特定機能病院、地域支援病院、従来の総合病院を含む)における精神医療のあり方も機能分化の視点から検討の必要があり、精神科と他の診療科との相互協力態勢が良好に確保されるべきである。診療形態からも入院期間の短縮を目指し、社会参加を促進するために外来診療(デイ・ナイトケアを含む)が重視され、それらを支える精神科救急医療の充実が大切である。初発と再発の急性増悪を早期発見と早期治療により短期間で改善させるための精神科救急医療資源の効果的配置も研究する必要がある。地域的にみて大都市における精神医療のあり方の特徴を検討したり、設置母体が国公立等の公的病院における精神医療のあり方の実際的特徴についても現状を把握して検討する必要がある。
以上のような種々の角度から(1)厚生省が行って来た「精神科救急医療システム整備事業」をより一層効果的に展開しうること、(2)精神科と身体疾患診療各科とのより円滑な協力と連携を可能にして心身両面からの総合的診療を充実すること、(3)精神医療の機能分化と統合を有効に行って貴重な医療資源を人的及び物的に活性化して医療経済の観点からも社会に貢献する厚生行政の実現に資すること、を目的とした精神医療の機能分化に関する研究を行うこととした。
研究方法
(A)(A-1)守屋裕文が「精神科救急医療に関する研究」を担当し、1)精神科救急医療システム整備事業未実施の府県における準備の進捗状況調査、および2)精神科救急医療システム整備事業を開始した都道府県における実施状況調査を行った。
(A-2)計見一雄は「急性期精神病の入院医療における医療資源の適正基準及び予後予測因子に関する研究」を担当し、精神病急性期入院患者をコホートとして、患者特性、入院時重症度、病状推移、急性期身体管理度、必要な回復期間及び医療資源の調査を行った。また入院1年後の受療状況、生活形態、病状、薬物投与量、社会的機能水準を調査し、精神病急性期患者のプロフィール、病状のスコアリングと回復に伴う推移、精神病急性期患者の予後予測因子等を検討した。
(A-3)中山茂樹は「急性期医療を指向する精神病院の建築基準に関する研究」で、建築ガイドライン作成のため急性期病棟の適正な空間構成の開発と治療促進への用件解明を目的に既存資料検討と実態調査実施により、療養環境としての病棟建築条件を整理した。
(B)(B-1)黒澤尚は、「精神科医療と他科医療の連携に関する研究」を担当し、アトピ-性皮膚炎の患者の精神医学的評価を行って皮膚科と精神科の連携可能性を検討し、総合病院でのリエゾン活動の仕事量および他診療科と精神科の連携可能性を検討した。
(B-2)吉川武彦は、「大都市における精神医療のあり方に関する研究」を担当し、大阪府精神科救急入院患者の分析と精神医療情報センター機能等の検討を行った。
(B-3)小池清廉は、「公的病院の機能に関する研究」を担当し、6機能達成度評価の基盤となる全国水準の設定を目的として「国・公立有床精神科医療機関調査票Ⅱ」を用いた全国184カ所の国公立有床精神科医療機関にアンケート調査を実施し、6機能の達成度を自己評価するマクロプログラムを作成した。
結果と考察
(A-1)「精神科救急医療に関する研究」では、精神科救急医療事業未実施14府県の調査から、他の都道府県との情報交換(ネットワーク)が有意義とわかった。精神科救急医療事業を開始した都道府県の調査結果からは救急の需要に応じきれておらず、搬送体制の整備や精神科救急情報センターへの関心が高いことが分かった。
(A-2)「急性期精神病の入院医療における医療資源の適正基準及び予後予測因子に関する研究」では、423例の精神病急性期を入院患者調査し、自発的受診意志のない患者の4人に1人が警察の援助を受けていることが示された。
(Aー3)「急性期医療を指向する精神病院の建築基準に関する研究」では、患者の生活は、ベッドと周辺、少人数で過ごすスペース、食事など病棟全体のスペース、病棟外レクやリハビリなどの広い空間など、段階的に拡大する病棟空間構成の重要性が分かった。
(B-1)「精神科医療と他科医療の連携に関する研究」では、アトピ-性皮膚炎患者調査で、他科診療医に対する精神医学の卒後研修の重要性が判明した。精神科医がリエゾン活動で費やす時間と、精神科医数の充実に見合う診療報酬の必要性が示唆された。高次機能がある一般病院に精神病棟を設置し、地域連携の中で身体合併症医療と精神科救急医療のシステム整備の重要性が明らかになった。
(B-2)「大都市における精神医療のあり方に関する研究」では、住民からのアクセスに適切に対応するため、精神科救急システムの情報センター機能の設置、移送と適正な精神科救急医療の確保(重症合併症治療を含む)の必要性が指摘された。情報センター機能は、夜間・休日にも精神科救急へアクセス可能なシステムで、スタッフは「診断を含む判断と振分け」ができる常勤精神保健福祉士、精神保健指定医、看護職員等の確保が必要である。空床情報等をリアルタイムに把握できる救急輪番制とリンクしたネットワーク及び救急診療室等も必要である。精神科救急システムでは、他臨床科での合併症治療とリハビリ、長期腎透析等で精神障害者に不利益が生じないよう環境整備が必要である。
(B-3)「公的病院の機能に関する研究」では、6機能に関する調査項目の分析から、国立総合病院の精神科は基本的診療機能と身体合併症治療機能に、国立単科精神病院は教育・研修機能に、自治体総合病院の精神科は基本的診療機能に、自治体単科精神病院は救急・急性期対応機能と地域精神保健活動機能に優れており、将来像をみると、こうした個々の基本的診療機能、教育研修機能を発展させていくことを志向していることがわかった。こうした4群の将来像はお互いの不備を補い合う関係にあり、国公立精神科医療機関総体としての役割を考えると望ましい選択と言える。
結論
(A-1)精神科救急医療事業未実施の14府県では他の都道府県との交流や情報交換が有意義であると判明した。包括的な「精神科救急医療ネットワーク」を指向する意見が多数を占めた。(A-2)精神病急性期の治療のスタンダードと予後検討のために、精神病急性期入院患者の背景データを集計した。(A-3)患者の生活は段階的に拡大構成され、精神病院建築基準の検討にはこれらを意識した空間構成を考慮する必要がある。(B-1) 精神医学の卒後研修、適切なリエゾン精神科医の数と診療報酬、高次機能を有する一般病院への精神病棟の設置の重要性が指摘された。(B-2)大都市では精神科救急システムにおける情報センター機能の設置、移送と適正な精神科救急医療の確保が必要である。(B-3)国公立精神科医療機関の調査票分析からその特徴が判明し、各医療機関の評価を可能とするプログラムが作成された

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