精神薄弱者施設における援助技術の体系化に関する研究

文献情報

文献番号
199800281A
報告書区分
総括
研究課題名
精神薄弱者施設における援助技術の体系化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
手塚 直樹(静岡県立大学短期大学部)
研究分担者(所属機関)
  • 玉井弘之(日本知的障害者愛護協会)
  • 小沼肇(武蔵野短期大学)
  • 渡辺勧持(愛知県コロニー発達障害研究所)
  • 山本進(国立秩父学園)
  • 横沢敏男(みのわ育成園)
  • 三島卓穂(弘済学園)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、精神薄弱者が自身のニーズを満たし、可能性を最大限に発揮し豊かな生活を築くための援助プログラムを作成することを目的としている。
本研究では、ニーズに基づく生活課題を「生理的基盤への援助」、「身辺自立への援助」、「社会関係の維持・回復への援助」、「自己実現への援助」、「地域生活移行への援助」に分類整理し、このニーズに基づく事例を分析評価することとしている。また、手法として類型化できるものは類型化し、対象者の特性に応じた改善の蓋然性の高い援助の仮説をたてていくこととしている。
記述は、「援助の実際における計画、方法、手順など」とし、援助の実際を順を追って述べる。
なお、収集事例のうち、対象者の主体性を尊重した事例を選択し、事例集としてまとめる。
研究方法
1)課題別の分類
課題別の分類は、目的の項でも述べたように「生理的基盤への援助」、「身辺自立への援助」、「社会関係の維持・回復への援助」、「自己実現への援助」、「地域生活移行への援助」の5領域に分類し整理をした。
2)事例の分析・評価
事例は以下の3点に着目して分析・評価を行った。
① 生活上の問題や課題をどのように把握し、判断したか。日常的援助を行う際の援助対象者の生活に着目した客観的判断がなされているか。
② 援助は対象者の主体性や選択性、自己決定を尊重したものとなっているか。
また、生活の質や生活の豊かさを指向したものとなっているか。
③ どのようなニーズに対して、どのような仮説を立て、どのような手法、手順のもとに援助を行ったか。
課題別に、上記①から③に基づき分析・評価を行うよう依頼した。
なお、その際、事例記載用紙に「生理」、「生活」、「安全」、「人間関係・自己実現」、「地域移行」、「その他」の見出しを付け、あらかじめ課題別に分類してもらうよう依頼した。
援助プログラム作成のための実践事例を72事例選択した。
結果と考察
1)結果
(1)72事例については前述の①から③の基準に基づき抄録を作成した。
(2)課題ごとの援助プログラムを作成した。
援助プログラムは、課題ごとに以下のような項目を選択し作成した。記述は、援助項目、内容、方法とし、援助の実際を順を追って述べた。
① 生理的基盤への援助は、拒食・肥満・偏食、食欲・不眠・健康回復の項目をプログラム化した。6事例を選択した。
② 身辺自立への援助は、歩行訓練・排泄・破衣の項目をプログラム化した。8事例を選択した。
③ 社会関係の維持・回復への援助は、人との交流・多動・異食・自傷・興奮・徘徊・生活リズム・固執・他害の項目をプログラム化した。26事例を選択した。
④ 自己実現への援助は、新たな生活プログラム・長期入院からの回復・社会活動・余暇活動・生きがいの項目をプログラム化した。5事例を選択した。
⑤ 地域生活移行への援助は、社会生活能力を高める援助方法という観点から援助プログラムを作成した。25事例を選択した。
2)考察
収集した355事例の援助に共通する考え方をみると、対象者の生活の豊かさを指向することや主体性の尊重、個別援助があげられる。特に以下に述べる4っの視点が大切である。
(1)ADLの向上
ADLは、毎日の生活を自分の意思で自立して行えるようにとの目的をもち、ADL能力の向上は、生活圏の拡大や自主性や生活意欲の獲得が図れる。また、ADL能力を観察することで、その対象者が必要とする援助内容の検討が可能となる。
(2)ADLからQOLへ
従来の施設における処遇は、ADLの自立が目標となっているが、この考え方の根底にはADLの自立が達成されてはじめて、その次の段階である社会的自立が図れるということを含意している。ADLの自立は、人間としての自立性にとってきわめて望ましことであるが、それにとどまってはいけないと考えられるようになった。
QOLは、その時代における政策やサービスの基本理念や思想、あるいは市民生活に関連している。つまり、障害を持つ人々に対するサービスが、地域生活をしている市民の生活状態に近づけば近づくほど、QOLは高まる。
援助の対象者をトータルにみてその幸福感を高めようとすることが、援助の質を決定し、対象者のQOLを高めることにつながる。
(3)自立する主体ととらえるサービス
施設におけるサービスで今問われているものは、QOLをいかに高めるかということである。すなわち、QOLの内面的要素である自己選択・自己決定による自己実現の尊重が求められているといえる。
(4)自己実現に向けてのサービス
自己実現へ向けてのサービスは、対象者主体のサービスを個別化し、援助プログラムの設定をすること、そのサービスやプログラムにできる限り選択肢を用意することが必要である。
また、個別プログラムを設定する場合には、対象者一人ひとりの個性を尊重し、ゆとりある生活という視点の配慮がなされるべきである。
結論
施設におけるサービスや援助は、人としての尊厳を重んじ、対象者の特性に応じた自己実現をどのように図るかが課題である。
これを実現するためには、援助の質のあり方とその対象者の主体的自立のあり方の相互について、援助者が理解を深めることが重要である。

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