障害者福祉施設の管理運営手法に関する研究

文献情報

文献番号
199800280A
報告書区分
総括
研究課題名
障害者福祉施設の管理運営手法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
松田 修一(早稲田大学アジア太平洋研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 杉田純(三優監査法人)
  • 深谷誠(公認会計士・税理士深谷誠事務所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
身体障害者授産施設、精神障害者授産施設、社会事業授産施設、保護授産施設及び福祉工場は、社会福祉法人でありながら企業的要素が強く、日本産業の構造変化を反映し、ますます、多様化、大規模化の傾向がある。そのため、昭和25年に作成された「授産施設経理要領」は、授産事業の実態に合わなくなっており、新たな経理規程を必要としている。なお、社会福祉法人の会計制度は昭和51年に見直され、「社会福祉施設を経営する社会福祉法人の経理規程準則の制定について」の「経理規程準則」が公布された。これはあくまでも公的助成による社会福祉事業を前提に制定されたものである。しかし、障害者に生活の場を提供すると同時に、収益活動の場を提供する授産施設の会計は、除外されたまま現在に至っている。そこで、本研究の目的は、授産施設の経理制度について調査し、その特性に応じた経理のあり方を研究し、実態に合った、又、将来を見据えた経理規程を研究することにある。
研究方法
研究方法につき、1年目は、まず次のとおりである。
1. 現在の授産施設がどのような経理基準により処理されているか、その実態を調査する。サンプルは、身体障害者授産施設、精神障害者授産施設、社会事業授産施設及び福祉工場等から、規模を勘案して抽出する。
2. 調査の結果を整理・分析し、現在の授産事業の実態に合った収益事業に関する経理規程準則(案)を検討・提案する。
3.同経理規程準則(案)を授産施設に対して意見を聴取するためにアンケートを行う。
2年目は、次の研究方法を採用する。
1.授産施設に対するアンケートを実施した結果を解析・整理し、収益事業に関する経理規程準則(案)の若干の手直しを考える。
2. 検討の結果、1998年度に再作成された経理規程準則(案)を厚生省委託事業モデル実施施設23ヵ所に適用する。選ばれた23ヵ所のモデル施設は、昭和50年のモデル施設・1997年調査施設・協議会から推薦の3種類の授産施設である。
3.モデル施設への適用結果、問題点等を整理し、収益事業に関する経理規程準則(案)の最終案をまとめるとともに、その円滑な移行について検討する。
4.円滑な移行を含めた新経理規程準則についてマニュアルの作成をする。
上記2年間の研究事業にあたり、現地調査と研究調査をおこなう。現地調査は、各授産施設の管理運営状況や経理基準の適用状況を把握、分析し、各授産施設の経理処理・表示の多様性と社会福祉法人に関する経理規程準則を適用した場合の矛盾点を明らかにする。「収益事業に関する経理規程準則(案)」の適用可能性を、各施設ごとに、さらに再検討する。研究調査は、「収益事業に関する経理規程準則(案)」を具体的に適用するための指導をおこなうと同時に、こような考え方が受け入れられるか否かの検討を中心にした調査である。
結果と考察
モデル施設の授産施設の現地調査及び研究調査により、次のような課題が明確になった。
1. 授産施設に関する確立された経理規程準則がないため、各授産施設の採用している経理基準、経理処理、さらに決算報告書に余りにも多様性がある。
2. 昭和25年に作成された「授産施設経理要領」は、教科書的な帳簿体系を前提に作成
されているため、コンピューターを活用しながら経理処理を行なっている多くの授産施設には、不必要と思われる経理処理プロセスがある。
3. 補助金等の公的助成による授産施設の維持を中心とした経理処理を採用している施設も多く、障害者等の雇用の維持を前提としている企業的活動である収益事業の比重が高まっている現実を、決算報告書であらわしていない。特に、収益事業活動を行なっている授産施設の経営実態をあらわすためには、資金取引を中心とした「収支計算書」では不十分なため、多様な収支計算書が作成されている。
4. 社会福祉法人の定款による基本財産の提供,補助金等による建物等の取得については、公的会計独特な処理方法が行われており、減価償却をしていないため授産施設の財政状態をあらわす貸借対照表が、現実の実態価値とは著しく乖離している。
現地調査及び研究調査の結果、以上のような基本的な課題と共に、これに付随する多くの課題が明確になった。ただし、授産施設の決算報告書(案)と経理規程準則(案)を呈示するにあたり、次の事項を考察する必要があると考える。
1. 措置費等の公的助成による活動を明確にするために、施設会計を中心に構築されている社会福祉法人の「経理規程準則」( 昭和51年1月31日の社施第25号通達)と、ある程度整合性を保つことを配慮するが、その目的である財政状態と経営成績を可能な限り表現する決算報告書を提案する必要がある。
2.授産施設の収益活動性を配慮し、企業会計原則で採用されている費用配分、収益費用対応に関するは基準を、できるだけ授産施設の経理規程準則(案)には取り入れる。
3.授産施設は、障害者等のために、補助金等による設備等の確保や将来の雇用の安定性や事業の継続性のため準備が必要である。収益事業は福祉事業の支援のために行うのであるから、その採算性が明確になることが不可欠である。
3. 決算報告書の主たる利用者は、措置費等の公的資金提供者と施設運営管理者自身である。この双方を満足させる決算報告書であることが必要である。
結論
現地調査や研究打合せ調査、さらに考察の結果、次のような結論に達した。
1. 授産施設の収益事業会計の原則:財政状態と経営成績を明示する方法を適用する。
2. 経営成績の報告:事業収支計算書に統一し、勘定式で収益事業、収益事業外、特別収支との3区分とする。各会計単位とも同一形態を使用し、法人合算を容易にする。
3. 複数施設運営の事業報告:複合・同一作業の複数施設は、合算計算書も可能とする。
4. 同一施設の会計単位:本部・施設・授産の3会計単位を原則とするが、施設と授産会計の合算を認める。しかし、福祉事業・収益事業との区分をし、損益を明確にする。
5. 会計単位間の資金移動:施設会計から他の会計単位への資金移動には制約が有るが、他は自由にする。本部勘定・施設勘定・授産勘定間で移動する。
6. 固定資産の減価償却:すべての有形固定資産は償却対象にし、法人税法基準による。 ただし、借入を含む自己資金取得分は費用処理し、補助金等取得は基金と相殺する。7. 有形固定資産の計上会計単位:土地を除き建物・機械装置等の有形固定資産は、個別名称で現実に使用している会計単位に振替え、管理する。
8. 基本金・基金の性格と会計:基本金は資産と負債の差額である正味純財産を意味し、基金・積立金・繰越金からなる。基金は、固定資産取得の補助金等収入からなる。
9. 費用の適正な期間配分:適正な経営成績を計算するため、減価償却費、引当金、未
払費用の計上を行う。
10. 積立金・繰越金の計上・性格:障害者に経済的活動の場を提供しつづけるために、多額な繰越金があった場合には特定目的の積立金を認める。
11.製造原価報告書の作成:受注製造・受託加工の原価計算を行う。
12.重要な会計方針の明示:採用した会計方針をみだりに変更してはいけない。
13.独立第三者の監査:一定規模以上の授産施設は、独立第三者の監査を受ける。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-