臨床指標の算出方法の標準化およびリスク調整手法に関わる検討

文献情報

文献番号
201325007A
報告書区分
総括
研究課題名
臨床指標の算出方法の標準化およびリスク調整手法に関わる検討
課題番号
H24-医療-一般-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
伏見 清秀(独立行政法人国立病院機構本部 総合研究センター診療情報分析部)
研究分担者(所属機関)
  • 尾藤 誠司(独立行政法人国立病院機構東京医療センター 臨床研究センター政策医療企画研究部)
  • 岡田 千春(独立行政法人国立病院機構本部 総合研究センター臨床研究推進室)
  • 西本 祐子(独立行政法人国立病院機構本部 総合研究センター臨床研究推進室)
  • 小林 美亜(千葉大学大学院 看護学研究科 看護システム管理学)
  • 本橋 隆子(独立行政法人国立病院機構本部 総合研究センター診療情報分析部)
  • 堀口 裕正(独立行政法人国立病院機構本部 総合研究センター診療情報分析部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
2,585,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、我が国でもDPCデータを活用した臨床指標算出の試みが始まっている。しかし、これらの臨床指標の妥当性検証はほとんど行われていない。また、同じ指標であっても算出方法がそれぞれの医療機関や研究機関によって異なるため、多施設間での比較が困難である。本研究では、1)診療録(カルテ)調査における臨床評価指標の妥当性検証、2)国立病院機構臨床評価指標と共通指標の算出定義に基づく臨床指標の一般化の検証、3)SS-MIX2の標準ストレージ内の情報を利用した指標作成のための課題検討、4)病院情報システムに格納されている患者個票データを用いた交絡因子の調整を検討することを目的とした。
研究方法
臨床指標の妥当性を検証するために、3指標を選択しカルテ調査を行い、カルテ調査で把握された結果をゴールドスタンダートとし、DPCデータで算出した結果の感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率を算出した。また、臨床指標の一般化の検証を行うために、国立病院機構臨床評価指標計測マニュアル(2013年改訂版)と医療の質指標ポータルサイトの共通指標定義プール(PDF)の定義に基づいて、共通する8指標の分母該当症例数、分子該当症例数、施行率(開始率、処方率など)の平均値、標準偏差、中央値などを算出し、両定義の算出結果に有意な差があるかを調べた。次に、SS-MIX2の利用における課題を検討するために、国立病院機構の4病院を対象に、院内の電子カルテで利用している各種マスター類がSS-MIX2のデータのどの部分に反映しているかを調査し、その部分に標準コードが出力されるように作業を行った。また、その際のプロセス及びコストについても調査した。次に、病院情報システムに格納されている患者個票データを用いた交絡因子の調整方法の検証として、3つの仮説を設定し、その仮説を検証する上で必要となる患者の個票データを病院情報システムから抽出し、DPCデータと連結させ二次解析を行い、その有用性や新たな可能性についての検討を行った。
結果と考察
診療録調査における妥当性検証の結果は、3指標(出血性胃・十二指腸潰瘍の内視鏡的治療の施行率、人工関節置換術・人工骨頭挿入術と弁置換術の抗菌薬の3日以内中止率)のDPCデータによる分母・分子の算出精度は高かった。一方で、DPCデータによるアウトカム指標(術後感染症の発生率)の算出精度は、過大評価・過小評価になっていることが明らかとなった。現在は、術後の抗菌薬連続投与日数で感染症の有無を同定しているが、今後は抗菌薬の再開の有無、再開後の投与期間、投与期間中の抗菌薬の種類変更に関する要件などを加えることにより、精度を高めていくことが求められる。次に、臨床指標の一般化の検証の結果では、検証した8指標のうち6指標で両指標の算出結果に有意な差を認めた。その原因として、分母と分子の算出条件や算出方法の違いが考えられる。分母の算出条件の問題点としては、各指標が対象とする傷病名の相違、対象症例や除外症例の臨床的妥当性などがある。分子の算出条件の問題点は、退院時処方の同定方法の相違、薬剤の抽出方法と対象薬剤の種類や数の相違、リハビリテーションの開始時期の臨床的妥当性などがある。次に、SS-MIX2の利用における課題として、複数の医療機関からデータを取得してSS-MIX2で臨床指標に必要な情報を得るためには、薬剤のHOTコード、病名のICD10コード及び病名コード、検査のJLAC10コードが正しく付与されていることが必要不可欠であった。しかし、現在は標準的な各種コード類はほとんど使用されていない。今後は、標準コードの利用が想定されており、その標準マスターの導入/メンテナンスを行うことで付与は可能になることが示唆された。次に、具体的な統合データの二次利用方法として3つの具体的な解析事例を実施した。今回抽出を試みたデータは、DPCデータから抽出することは不可能な患者アウトカムに関するデータも含んでいたが、実際にそれらのデータ(血液検査データや看護記録など)を病院情報システムから抽出することは可能であった。今後、病院で働く医師等の医療専門職が臨床研究を行う上で、これらのデータ活用は研究活動推進に向けて大きな支援手段となることが示唆された。
結論
DPCデータによる分母分子の算出精度は高く、臨床指標の妥当性は高いことが示唆された。今後は、詳細な薬剤投与情報や検査データ、看護記録などをDPCデータに連結させることで、新たな臨床指標の作成や抽出精度の向上が期待できる。また、国立病院機構臨床評価指標と医療の質指標ポータルサイトの定義に基づいて算出した結果には有意な差を認めた。今後は、算出条件や方法の違いによる算出精度への影響の検証やデルファイ法による臨床的妥当性の検討等、算出条件の統一化を図っていく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-05-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

文献情報

文献番号
201325007B
報告書区分
総合
研究課題名
臨床指標の算出方法の標準化およびリスク調整手法に関わる検討
課題番号
H24-医療-一般-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
伏見 清秀(独立行政法人国立病院機構本部 総合研究センター診療情報分析部)
研究分担者(所属機関)
  • 尾藤 誠司(独立行政法人国立病院機構東京医療センター 臨床研究センター政策医療企画研究部)
  • 岡田 千春(独立行政法人国立病院機構本部 総合研究センター臨床研究推進室)
  • 西本 祐子(独立行政法人国立病院機構本部 総合研究センター臨床研究推進室)
  • 小林 美亜(千葉大学大学院 看護学研究科 看護システム管理学)
  • 本橋 隆子(独立行政法人国立病院機構本部 総合研究センター診療情報分析部)
  • 堀口 裕正(独立行政法人国立病院機構本部 総合研究センター診療情報分析部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
諸外国では、臨床指標算出方法の標準化に向け、管理運営データの二次利用により算出した臨床指標の妥当性検証やリスク調整手法の開発が行われている。しかし、我が国では、これらの臨床指標の妥当性検証やリスク調整は十分に検討されていない。本研究では、1)臨床指標の算出方法の検証、2)診療録(カルテ)調査における臨床評価指標の妥当性検証、3)臨床指標の一般化の検証を行い、それに基づき算出方法の標準化を図ること、4)アウトカム指標に関するリスク調整手法を検討すること、5)病院情報システムに格納されている患者個票データを用いた交絡因子の調整を検討することを目的とした。
研究方法
1年目は、国立病院機構144病院の2011年4月1日~2012年3月31日のDPCデータ(様式1、EFファイル、入院外レセプト)とレセプトデータ(入院レセプト、入院外レセプト)を用いて、国立病院機構臨床評価指標計測マニュアルから算出された70指標の中から多角的な評価が必要と判断された19指標の分母・分子の抽出条件の再検討を行った。また、アウトカム指標のリスク調整手法は、平成22年度の「医療の質の評価医療の質評価・公表推進事業」で用いた予測死亡患者数のリスク調整式と同様の変数を投入し、平成23年度のDPCデータによるリスク調整式を再作成し、予測死亡患者数を算出した。また、近年、見直された新Charlsonスコアの変数を用いたリスク調整式からも予測死亡患者数を算出した。これらの予測死亡患者数のリスク調整式の精度はROC曲線下の面積(AUC)により評価を行った。さらに、日々の病院業務で日常的に発生するデータが格納されている病院情報システムから患者個票単位でデータを抽出し、DPCデータと連結させ、リスク調整や交絡変数の調整を行った上でデータ分析を試みた。
2年目には、臨床指標の妥当性を検討するために、診療録(カルテ)調査を行い、カルテ調査で把握された結果をゴールドスタンダートとし、DPCデータで算出した結果の感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率を算出した。また、臨床指標の一般化の検証を行うために、国立病院機構臨床評価指標計測マニュアル(2013年改訂版)と医療の質指標ポータルサイトの共通指標定義プール(PDF)の定義に基づいて、それぞれの分母該当症例数、分子該当症例数、施行率(開始率、処方率など)の平均値・標準偏差・中央値などを算出し、両定義の算出結果に有意な差があるかを調べた。
結果と考察
算出方法の検証結果では、DPCデータやレセプトデータを利用して作成された各臨床指標の施行率には、5つの共通問題があることが明らかとなった。1)死亡退院患者の影響、2)初回入院患者の同定、3)入院時の持参薬の影響、4)逆紹介患者の影響、5)代替検査の影響であった。診療録調査における妥当性検証の結果では、DPCデータによる分母・分子の算出精度は高く、臨床指標の妥当性は高いことが示唆された。一方、アウトカム指標の算出精度は、過大評価・過小評価になっていることが明らかとなった。臨床指標の一般化の検証結果では、臨床評価指標と共通指標の定義に基づいて算出した結果(施行率・開始率・処方率)には有意に異なっていた。その原因として、分母と分子の算出条件や算出方法の違いが考えられる。アウトカム指標に関するリスク調整手法を検討結果では、予測死亡患者数を算出するリスク調整式において、オリジナルのCharlsonスコアを用いた場合と、英国で新たに見直されたCharlsonスコアを用いた場合では、死亡患者数を予測する精度は変わらなかった。今後は、日本人の患者特性を考慮したCharlsonスコアについて検討していくことが必要である。病院情報システムに格納されている患者個票データを用いた交絡因子の調整の検討結果では、病院情報システムから抽出を試みた変数のうち、DPCデータには存在せず病院情報システム上に存在する交絡変数の存在と、病院情報システムからも抽出が困難な変数が複数存在することが分かった。前者においては、特に検査部門システムや定型的に記載される看護記録の有用性を確認することができた。後者については、併存症や、初療時及び入院時にテキストデータとして電子カルテ上に記録されているデータのフォーマット化の必要性が検討された。
結論
DPCデータによる分母分子の算出精度は高く、臨床指標の妥当性は高いことが示唆された。今後は、詳細な薬剤投与情報や検査データ、看護記録などをDPCデータに連結させることで、新たな臨床指標の作成やアウトカム指標におけるリスク調整が可能となり、臨床指標の質の向上と臨床での活用が期待できる。さらに、算出条件や方法の違いによる算出精度への影響の検証やデルファイ法による臨床的妥当性の検討を行い、算出条件の統一化を図っていく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-05-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

総合研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201325007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
DPCやレセプトデータから算出した臨床評価指標の算出定義や測定結果の妥当性を検証し、その結果に基づいて定義の見直しを行うことで、算出される分母・分子の精度が向上し、臨床実態を反映した臨床評価指標となった。また、アウトカム指標に関するリスク調整手法を提示することが可能となった。さらに、臨床指標の一般化の検証により、同じ指標であってもそれぞれの組織で異なる算出条件や算出方法を用いて測定しているため、多施設間での結果の比較は困難であることが明らかとなった。
臨床的観点からの成果
臨床現場の医師や医療専門職が、臨床指標やその測定結果に対して関心を持ち、その結果に基づいて医療の質を改善に結びつけるためには、臨床評価指標の妥当性を担保する必要がある。本研究では、臨床指標の妥当性や算出精度、一般化の検証を行うことで、指標そのものの質が改善し、向上した。その結果、臨床現場におけるPDCAサイクルに基づく医療の質の改善の取り組みに、臨床評価指標が用いられている。
ガイドライン等の開発
ガイドラインとは別な視点で、医療の標準化、一般化をさらに進めることが可能となる。
その他行政的観点からの成果
DPCやレセプトデータから臨床指標を算出する仕組みの整備や臨床指標の算出方法の標準化を図ることで、日本全国の病院間での医療の質の比較が可能となる。また、アウトカム指標に対するリスク調整手法の開発により、バイアスをできる限り除外した多施設間比較と公表につなげることができる。
その他のインパクト
わが国における臨床指標の一般化の検証は行われていない。本研究ではじめて、国立病院機構が作成した臨床評価指標の定義に基づいて算出した結果と病院評価機構が公開している共通指標定義に基づいて算出した結果と算出条件を比較、検証した。本研究は、臨床指標の一般化を進める一歩となっている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-19
更新日
-

収支報告書

文献番号
201325007Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,360,000円
(2)補助金確定額
3,360,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 76,250円
人件費・謝金 449,760円
旅費 483,365円
その他 1,575,625円
間接経費 775,000円
合計 3,360,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-05-19
更新日
-