文献情報
文献番号
201324162A
報告書区分
総括
研究課題名
プリオン病のサーベイランスと感染予防に関する調査研究
課題番号
H25-難治等(難)-指定-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
水澤 英洋(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
- 山田 正仁(金沢大学医薬保健研究域医学系 脳老化・神経病態学(神経内科学) )
- 田中 章景(横浜市立大学医学部神経内科)
- 北本 哲之(東北大学大学院医学系研究科 病態神経学分野 )
- 中村 好一(自治医科大学地域医療センター 公衆衛生学部門 )
- 金谷 泰宏(国立保健医療科学院健康危機管理部)
- 村山 繁雄(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所 老年病理学研究チーム・神経病理学 )
- 佐藤 克也(長崎大学医歯薬学総合研究科・感染分子)
- 原田 雅史(徳島大学ヘルスバイオサイエンス研究部 放射線科学分野)
- 齊藤 延人(東京大学大学院 脳神経外科学 )
- 太組 一朗(日本医科大学武蔵小杉病院 脳神経外科)
- 森若 文雄(医療法人北祐会北祐会神経内科病院 神経内科学 )
- 青木 正志(東北大学大学院医学系研究科 神経内科)
- 西澤 正豊(新潟大学脳研究所臨床神経科学部門 神経内科学)
- 犬塚 貴(岐阜大学大学院医学系研究科 神経内科・老年医学 )
- 武田 雅俊(大阪大学大学院医学系研究科 精神医学教室 )
- 阿部 康二(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 脳神経内科学)
- 村井 弘之(九州大学大学院医学系研究科 神経内科学)
- 田村 智英子(木場公園クリニック)
- 古賀 雄一(大阪大学大学院工学研究科 生命先端工学専攻 物質生命工学講座 極限生命工学領域 )
- 三條 伸夫(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 脳神経病態学(神経内科学) )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
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研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の主な目的は、①我が国におけるプリオン病発生状況や、新たな医原性プリオン病の出現の監視、②早期診断に必要な診断方法の開発や患者・家族へのカウンセリング支援、③プリオン蛋白対応の滅菌法の開発と感染予防対策の周知、④手術器具等を介したプリオン病の二次感染対策とリスク保有可能性者のフォロー、⑤新規プリオン病治療薬の全国規模の治験体体制の構築である。
研究方法
全国を10のブロックに分けて各地区にサーベイランス委員を配置し、画像や髄液検査担当の専門委員も加えてサーベイランス委員会を組織して、各都道府県のプリオン病担当専門医と協力して全例調査を行った。プリオン病の病型ごとに発症年齢、生存期間、家族歴、遺伝子異常、画像所見、髄液異常、手術歴などの情報を収集し、髄液・遺伝子・病理などの必要な検査を無料で提供した。手術を受けている症例は器具の消毒状況等まで詳細な調査を行い、二次感染等の可能性を調査し、状況に応じて個別に指導を行った。新たな病型の出現を監視し、異常プリオン蛋白に有効な消毒法の開発や、開発中の抗プリオン病薬の治験に向けて協力体制を整備し、患者や家族の心理ケアも行った。
結果と考察
年2回委員会を開催し、1999年4月より2013年10月までに4281件を調査し、2162人(男:922人、女:1240人)をプリオン病と認定し全例の詳細な検討を行った。変異型CJDは発生が無く、これまでに1例の報告がある。硬膜移植歴を有するCJDは昨年度から1例増えて84例となった。今年度は、これまでに確認されている硬膜移植歴を有するCJD患者147例を含む調査対象例全体を解析し、高齢者のプリオン病患者が増加している点について、診断技術の向上による見かけ上の増加の可能性があることを明らかにした。長崎大学における髄液検査の感度は、14-3-3蛋白が88.9%、総タウ蛋白が85.3%、RT-QUICが78.9%であった。近年普及しつつある3 Tesla装置では、1.5Tesla装置と比較して、大脳皮質非出の異常高信号の検出感度は低いものの、総合診断能には有意差を認めないことを明らかにした。VV2またはMV2プリオンがコドン129MMのヒトに感染した場合に、MMi型のプリオンが発症することを明らかにし、過去のサーベイランス症例の再評価を開始した。MM2型孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病の臨床診断基準案を作成した。中国四国地方では、全国平均に比較してV180I変異が高頻度(77.8%)であることを明らかにした。稀な遺伝性プリオン病である120dbの5オクタペプタイド挿入変異と、コドン180変異がコドン129Valとリンクしている症例、パーキンソニズムを主症状とするP105L変異のGSSなどの報告があった。今年度は新たなインシデント事例がなかった。好熱性プロテアーゼTKサチライシンがEDTAにより阻害される可能性があり、金属要求性の低い酵素の解析を開始した。プリオン病治療薬開発のための治験にむけて、サーベイランスを通じて全国規模での自然歴調査へ登録を広く呼びかけ、コンソーシアム登録施設は59施設、登録研究者100名以上という、観察研究として国内最大規模のネットワークを構築した。データ管理において、電子登録システム上の診断アルゴリズムの変更をおこない、国の調査システムの精度向上、より正確な疾病把握に貢献した。プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班と協力して「プリオン病診療ガイドライン2014」を作成し全国に配送すると共にHP上に公開した。また、我々が設立したアジア大洋州プリオン病研究学会(APSPR)とその学術集会であるアジア大洋州プリオンシンポジウム (APPS2013)を後援し、欧州を中心とするサーベイランス会議であるEuroCJDにて日本のプリオン病の現状を発表し世界の関係者と意見交換を行うとともに、より大きな国際学会であるPRION2013への参加にも協力した。
結論
プリオン病のサーベイランス体制、およびインシデント管理体制を充実させ、高感度のプリオン病の診断法を開発・提供した。新たな情報を速やかに各都道府県担当者と国民へ周知した。国際共同研究や国際的な学術集会に協力し、積極的に日本からの発信を進めた。新規治療薬の治験の開始に向けて協力体制を整備し、効果的な滅菌法の開発、二次感染対策、患者や家族のケアを引き続き行ってゆく。
公開日・更新日
公開日
2015-06-30
更新日
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