文献情報
文献番号
201324151A
報告書区分
総括
研究課題名
スモンに関する調査研究
課題番号
H23-難治-指定-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
小長谷 正明(独立行政法人国立病院機構鈴鹿病院 神経内科)
研究分担者(所属機関)
- 藤木 直人(独立行政法人国立病院機構北海道医療センター 神経内科)
- 千田 圭二(独立行政法人国立病院機構岩手病院 内科)
- 亀井 聡(日本大学医学部 内科学系神経内科)
- 小池 春樹(名古屋大学医学部附属病院 神経内科)
- 小西 哲郎(京都地域医療学際研究所附属病院がくさい病院 神経内科)
- 坂井 研一(独立行政法人国立病院機構南岡山医療センター 統括診療部)
- 藤井 直樹(独立行政法人国立病院機構大牟田病院 診療部)
- 橋本 修二(藤田保健衛生大学医学部 衛生学講座)
- 青木 正志(東北大学大学院医学系研究科 神経内科)
- 朝比奈 正人(千葉大学大学院医学研究院 神経内科)
- 阿部 康二(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 脳神経内科)
- 粟井 是臣(北海道 保健福祉部健康安全局地域保健課)
- 池田 修一(信州大学医学部 内科学)
- 犬塚 貴(岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座 神経内科)
- 上坂 義和(虎の門病院 神経内科)
- 上野 聡(奈良県立医科大学 神経内科)
- 大井 清文(いわてリハビリテーションセンター 診療部)
- 大越 教夫(筑波技術大学 保健科学部保健学科)
- 大竹 敏之(東京都保健医療公社荏原病院 神経内科)
- 尾方 克久(独立行政法人国立病院機構東埼玉病院 臨床研究部)
- 勝山 真人(京都府立医科大学 医学研究科)
- 川井 元晴(山口大学大学院医学系研究科 神経内科)
- 菊地 修一(石川県 健康福祉部)
- 吉良 潤一(九州大学医学研究院 神経内科)
- 楠 進(近畿大学医学部 神経内科)
- 久留 聡(独立行政法人国立病院機構鈴鹿病院 神経内科)
- 小池 亮子(独立行政法人国立病院機構西新潟中央病院 統括診療部)
- 近藤 良伸(愛知県 健康福祉部健康担当局健康対策課)
- 齋藤 由扶子(独立行政法人国立病院機構東名古屋病院 診療部)
- 鹿間 幸弘(山形県立河北病院 神経内科)
- 嶋田 豊(富山大学大学院 医学薬学研究部和漢診療学)
- 下田 光太郎(独立行政法人国立病院機構鳥取医療センター 神経内科)
- 杉浦 嘉泰(福島県立医科大学医学部 神経内科学講座)
- 杉本 精一郎(独立行政法人国立病院機構宮崎東病院 神経内科)
- 高嶋 博(鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科)
- 高田 博仁(独立行政法人国立病院機構青森病院 診療部神経内科)
- 高橋 美枝(医療法人高田会高知記念病院 神経内科)
- 高橋 光彦(北海道大学大学院保健科学研究院 リハビリテーション)
- 瀧山 嘉久(山梨大学大学院医学工学総合研究部 神経内科)
- 田中 千枝子(日本福祉大学 社会福祉学部)
- 津坂 和文(労働者健康福祉機構釧路労災病院 神経内科)
- 椿原 彰夫(川崎医科大学 リハビリテーション医学教室)
- 峠 哲男(香川大学医学部 看護学科健康科学)
- 豊島 至(独立行政法人国立病院機構あきた病院 神経内科)
- 鳥居 剛(独立行政法人国立病院機構呉医療センター 神経内科)
- 中野 智(大阪市立総合医療センター 神経内科)
- 狭間 敬憲(大阪府立病院機構大阪府立急性期・総合医療センター 神経内科)
- 長谷川 一子(独立行政法人国立病院機構相模原病院 臨床研究センター神経内科)
- 蜂須賀 研二(産業医科大学 リハビリテーション医学)
- 濱野 忠則(福井大学医学部附属病院 神経内科)
- 波呂 敬子(松山赤十字病院 神経内科)
- 平田 宏之(名古屋市衛生研究所)
- 平野 照之(大分大学医学部 神経内科)
- 廣田 伸之(大津市民病院 神経内科)
- 藤村 晴俊(独立行政法人国立病院機構刀根山病院 臨床研究部)
- 舟川 格(独立行政法人国立病院機構兵庫中央病院 神経内科)
- 舟橋 龍秀(独立行政法人国立病院機構東尾張病院 精神科)
- 寳珠山 稔(名古屋大学大学院医学系研究科 リハビリテーション療法学)
- 牧岡 幸樹(群馬大学医学部附属病院 神経内科)
- 松尾 秀徳(独立行政法人国立病院機構長崎川棚医療センター 神経内科)
- 松永 秀典(大阪府立病院機構大阪府立急性期・総合医療センター 精神科)
- 水落 和也(横浜市立大学附属病院 リハビリテーション科)
- 溝口 功一(独立行政法人国立病院機構静岡富士病院 神経内科)
- 三ツ井 貴夫(独立行政法人国立病院機構徳島病院 臨床研究部)
- 撫井 賀代(大阪府 健康医療部保健医療室健康づくり課)
- 武藤 多津郎(藤田保健衛生大学医学部 脳神経内科)
- 森田 光哉(自治医科大学医学部 内科学講座神経内科)
- 森若 文雄(北祐会神経内科病院 神経内科)
- 矢部 一郎(北海道大学大学院医学研究科 神経内科)
- 山下 賢(熊本大学大学院生命科学研究部 神経内科)
- 雪竹 基弘(佐賀大学医学部 内科)
- 吉田 宗平(関西医療学園関西医療大学 神経内科)
- 里宇 明元(慶應義塾大学医学部 リハビリテーション医学)
- 鷲見 幸彦(独立行政法人国立長寿医療研究センター 脳機能診療部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
85,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
キノホルムによる薬害であるスモンは視覚障害や下肢の感覚障害と運動障害を主症状とし、同剤の禁止により新規患者発生はなくなったが、既発患者は発症後40年以上経過した現在においてもこれらの症状は持続している。さらに高齢化と合併症により、患者の医学的、福祉的状況が悪化している。本研究では、全国のスモン患者の検診を行い、神経学的および全身的病態,療養や福祉サービス状況を調査し、その実態を明らかにし、恒久対策の一環として寄与することを目的とする。また、キノホルムの神経毒性について検討する。
研究方法
原則として各都道府県に一人以上配置された班員により、患者の検診を行い、各地区及び全国のデータを集積・解析して、医学的福祉的状況を把握し、対症療法の開発や療養状況の悪化予防を行う。
また、スモン患者に対する検診は過去25年にわたって行われており、これをデータベース化し、時系列的解析を行うことにより、障害者の身体的、機能的、福祉的予後を明らかにする。さらに,近年の基礎医学的知見の発達を基に、キノホルムの神経毒性についても検討を行う。
医療・福祉関係者に、スモンなどの難病、および薬害についての啓発を行うための市民公開講座を開催する。患者・家族も参加した形で行う。
研究成果を、患者の療養に資するために冊子を作成配布し、スモン患者に還元する。
また、スモン患者に対する検診は過去25年にわたって行われており、これをデータベース化し、時系列的解析を行うことにより、障害者の身体的、機能的、福祉的予後を明らかにする。さらに,近年の基礎医学的知見の発達を基に、キノホルムの神経毒性についても検討を行う。
医療・福祉関係者に、スモンなどの難病、および薬害についての啓発を行うための市民公開講座を開催する。患者・家族も参加した形で行う。
研究成果を、患者の療養に資するために冊子を作成配布し、スモン患者に還元する。
結果と考察
1.全国スモン検診で686名を診察し、683名について解析した。患者の障害要因はスモン単独とするものは少なく、スモン+併発症(合併症)ないしはスモン+加齢が併せて約80%を占めるようになって来ており、その併発症も高齢化との関連性が強い疾患が多かった。
2.薬害救済基金よりの健康管理手当を受給している全スモン患者1738人を対象にアンケート調査を行い、1027人から回答が得られた(回収率59%)。過去に検診歴のない未受診群の方が全盲の比率が高く、認知症も多かった。医療機関への受診状況は既受診群の方が高かった。介護状況は、未受診群で「介護を必要としない」の比率が高かった。検診率を向上させるためには、検診の意義や必要性をアピールすることや訪問検診の拡充などの対策が必要であると考えられた。
3.1988~2011年度データに2012年度と過去(1977~1987年度で延べ人数3,984人)のデータを追加して更新した。データベース全体では、延べ人数29,016人と実人数3,789人となった。
4.キノホルムは痛み反応に関与することが知られる神経ペプチド前駆体VGFの発現が上昇することを見出され、転写因子c-Fosの発現誘導を介して神経ペプチド前駆体VGFの発現を誘導することが明らかとなった。
5.スモン患者の家族形態は単身および2人世帯が7割に迫り、独居者は大都市でより多い傾向がみられた。独居者のADLは、大都市と地方で大きな差はみられなかったが、大都市で障害の強い例が多く、地方で外出可能な例が多い傾向がみられた。医療制度・福祉サービスおよび介護サービスの利用率は地方の方が低い傾向を示したが、必要なのに介護者がいない例は都会に多かった。多様な対人系サービスの利用促進策が必要と考えられた。
6.12年間のスモン患者の基本移動動作能力の観察では、80歳代の年齢群が5年前の80歳代の年齢群より高い運動能力指数を示した程度は、他の年齢世代よりも高かった。抗重力筋動作は 10 年間に遂行不能例の増加が認められ、長期間の運動感覚障害の蓄積による変化が考えられた。同じ年齢群でも高齢者群(75~84 歳)では、発症時の年齢による影響が推察された。
7.スモン患者の骨量の低下および下肢筋肉量の低下が認められた。今後の高齢化に伴い、骨粗鬆症の予防や、筋力の維持が重要であることが示唆された。
8.スモンにおけるうつ症状は約3割にみられ、身体感覚障害についての周囲の理解不足が、うつ症状を引き起こすストレス要因となることが考察された。また、不眠やうつ症状への対処として内服薬を使用することを危険視するという周囲の環境が、症状の持続に影響を与えている可能性が考えられた。ストレス緩和と適切な対処行動がとれるように支援していくことで、スモン患者のメンタルヘルス向上に寄与する可能性が考えられた。
9.スモンの風化防止策として、患者・患者家族や行政関係者を対象とした『スモンの集い』を行った。 また、患者向けの「スモンの集い2012」を全患者に配布した。
2.薬害救済基金よりの健康管理手当を受給している全スモン患者1738人を対象にアンケート調査を行い、1027人から回答が得られた(回収率59%)。過去に検診歴のない未受診群の方が全盲の比率が高く、認知症も多かった。医療機関への受診状況は既受診群の方が高かった。介護状況は、未受診群で「介護を必要としない」の比率が高かった。検診率を向上させるためには、検診の意義や必要性をアピールすることや訪問検診の拡充などの対策が必要であると考えられた。
3.1988~2011年度データに2012年度と過去(1977~1987年度で延べ人数3,984人)のデータを追加して更新した。データベース全体では、延べ人数29,016人と実人数3,789人となった。
4.キノホルムは痛み反応に関与することが知られる神経ペプチド前駆体VGFの発現が上昇することを見出され、転写因子c-Fosの発現誘導を介して神経ペプチド前駆体VGFの発現を誘導することが明らかとなった。
5.スモン患者の家族形態は単身および2人世帯が7割に迫り、独居者は大都市でより多い傾向がみられた。独居者のADLは、大都市と地方で大きな差はみられなかったが、大都市で障害の強い例が多く、地方で外出可能な例が多い傾向がみられた。医療制度・福祉サービスおよび介護サービスの利用率は地方の方が低い傾向を示したが、必要なのに介護者がいない例は都会に多かった。多様な対人系サービスの利用促進策が必要と考えられた。
6.12年間のスモン患者の基本移動動作能力の観察では、80歳代の年齢群が5年前の80歳代の年齢群より高い運動能力指数を示した程度は、他の年齢世代よりも高かった。抗重力筋動作は 10 年間に遂行不能例の増加が認められ、長期間の運動感覚障害の蓄積による変化が考えられた。同じ年齢群でも高齢者群(75~84 歳)では、発症時の年齢による影響が推察された。
7.スモン患者の骨量の低下および下肢筋肉量の低下が認められた。今後の高齢化に伴い、骨粗鬆症の予防や、筋力の維持が重要であることが示唆された。
8.スモンにおけるうつ症状は約3割にみられ、身体感覚障害についての周囲の理解不足が、うつ症状を引き起こすストレス要因となることが考察された。また、不眠やうつ症状への対処として内服薬を使用することを危険視するという周囲の環境が、症状の持続に影響を与えている可能性が考えられた。ストレス緩和と適切な対処行動がとれるように支援していくことで、スモン患者のメンタルヘルス向上に寄与する可能性が考えられた。
9.スモンの風化防止策として、患者・患者家族や行政関係者を対象とした『スモンの集い』を行った。 また、患者向けの「スモンの集い2012」を全患者に配布した。
結論
スモン患者の現状は、本来の視覚障害、運動障害、感覚障害に加えて、様々な身体的随伴症状が加わり、患者の医学的状況や生活の質の低下を来たしてきており、良好な健康状態の維持が必要である。今後も引き続き、検診活動の場を通してや、検診結果に基づいた医療および福祉面の指導と啓発が必要である。
公開日・更新日
公開日
2015-06-30
更新日
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