文献情報
文献番号
201324150A
報告書区分
総括
研究課題名
ヤング・シンプソン症候群の病因・病態の解明と治療法開発のための基盤整備に関する研究
課題番号
H25-難治等(難)-一般-034
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
黒澤 健司(地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立こども医療センター 遺伝科)
研究分担者(所属機関)
- 升野光雄(川崎医療福祉大学医療福祉学部医療福祉学科)
- 近藤達郎(社会福祉法人聖家族会重症心身障害児施設みさかえの園むつみの家)
- 水野誠司(愛知県心身障害者コロニー中央病院)
- 安達昌功(地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立こども医療センター 内分泌・代謝科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
2,616,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
ヤング・シンプソン症候群は、顔貌異常、先天性心疾患、甲状腺機能低下症、重度精神遅滞、骨格異常、外性器異常、尿路奇形を特徴とする先天奇形症候群で、2011年にヒストンアセチル化酵素KAT6Bの異常が原因であることが判明した(Clayton-Smith, 2011; Simpson, 2012; Campeau, 2012)。当研究班でもexome解析により同様の結果を得た(2012)。7家系7症例で疾患特異的変異を確認した。この間、全国調査で追加5症例を確認、発生頻度を少なくとも10-20万出生に1例と推定し、患者家族への情報還元を目指ウェブ上にホームページを開設、平成23年度には、診断基準を作成、ウェブ上の情報公開、医療管理指針作成、生体試料保存として5家系の株化リンパ芽球の保存、を達成した。当研究組織は、臨床遺伝学・臨床奇形学(Dysmorphology)の専門家集団で、希少疾患の病因遺伝子単離から医療管理までを目指す包括的研究である。KAT6Bは、histone acetyltransferase(HAT)活性を有し、本症の病態を解明することはヒストン修飾因子を原因とする多くのヒトの発生異常の研究に有用な情報を与えてくれる。本研究は、疾患特異的iPS細胞技術を用いた神経難病研究拠点の支援を受けてヤング・シンプソン症候群疾患特異的iPS細胞を樹立し、エピゲノム変化も含めた多様な病態を解明することを目標とした。
研究方法
1)患者臨床情報データベース作成: 既に遺伝子解析でKAT6B変異を確認した7症例ならびに、遺伝子診断で変異未検出例の臨床症状をまとめ、genopype-phenotype correlationを構築し、データベースを作成する。2)診断未定例の再評価:変異Hot spotであるexon 18以外にKAT6B全exon 領域を含む形の変異スクリーニング体制を次世代シーケンサーを用いて構築する。3)自然歴に基づいた医療管理プロトコールの作成:平成24年度までに作成された合併症に対する医療管理プロトコールを再度見直す。4)患者および患者家族への情報の還元:平成22―24年度研究で得られた情報をインターネット上に公開し、医療サイドに対して潜在症例の再評価を呼び掛ける。一方で患者および患者家族に対しては生活管理を含めた適切な情報還元を行う。5)疾患特異的iPS細胞の樹立:既に平成22-24年度研究でリサーチリソースとして生体試料5症例の保管がなされている。これを用いて、疾患特異的iPS細胞技術を用いた神経難病研究拠点の支援により、ヤング・シンプソン候群疾患特異的iPS細胞を樹立し、モデル動物では検証し得ないエピゲノム変化も含めた多様な病態を解明する。6)Exome解析による病因遺伝子の同定:第2の責任遺伝子を想定し、exome解析を変異未検出例で進める。
結果と考察
Exome解析・マイクロアレイ染色体検査を駆使し、新たなKAT6B変異のほかに、ゲノム再構成によるKAT6B微細欠失症例を検出した。これで典型例8例全てにKAT6Bの変異を検出し、さらに2例のハプロ不全発症例を経験した。変異解析で得られた確定症例を中心として、内分泌学低特性、患者家族への情報の還元の検討と疾患理解の一つの方法としての「症候群カード」の作成、本症候群を含めた先天異常疾患の地域ベースでのサポート体制の在り方、などをまとめた。依然として病態の解明は今後の課題であり、症例をさらに増やして遺伝子型-表現型の相関関係を明らかにし、さらにiPS細胞やモデル動物による病態の解析が重要と考えられた。iPS細胞の樹立は既に複数症例でリンパ芽球株化が樹立し、保管されているので、早急に進めるべき課題である。患者家族の理解を得たことは、研究の加速に極めて有意義と思われた。診断がつかずに原因不明のまま潜在しているヤング・シンプソン症候群症例の診断を迅速に進める必要がある。
結論
Exome解析・マイクロアレイ染色体検査を駆使し、新たなKAT6B変異のほかに、ゲノム再構成によるKAT6B微細欠失症例を検出した。これで典型例8例全てにKAT6Bの変異を検出し、さらに2例のハプロ不全発症例を経験した。依然として病態の解明は今後の課題であり、症例をさらに増やして遺伝子型-表現型の相関関係を明らかにし、さらにiPS細胞やモデル動物による病態の解析が重要と考えられた。
公開日・更新日
公開日
2015-06-30
更新日
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