インプリント異常症のエピゲノム分子機構と生殖補助医療との関連

文献情報

文献番号
201324148A
報告書区分
総括
研究課題名
インプリント異常症のエピゲノム分子機構と生殖補助医療との関連
課題番号
H25-難治等(難)-一般-032
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
有馬 隆博(東北大学 大学院医学系研究科 )
研究分担者(所属機関)
  • 仲井 邦彦(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 岡江 寛明(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 龍田 希(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 坂本 修(東北大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
2,770,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生殖補助医療(ART)の普及により、本来非常に稀であるゲノムインプリンティング異常疾患の発生頻度の増加が世界中で報告されている。本研究では、1)インプリント異常8疾患(RB、TNDM、PGL、BWS、AS、PWS、SRS、PHP1b)について、全国規模の実態調査 2)患者検体の収集と遺伝子診断を行い、発症機序と影響を受ける遺伝子を解析 3)遺伝子型と臨床型に基づいた診断手順を作成 4)新規メチル化解析システムの構築 5)ART治療法とメチル化異常との関連について、分子生物学的アプローチにより、リスク要因について評価する事を目的とした。
研究方法
【1】先天性ゲノムインプリンティング病8疾患に関する全国多施設質問票調査
全国病院の小児科および産婦人科を対象として、大学病院/一般病院の別、病院の病床数で層別化した層化無作為抽出による抽出調査を実施した。依頼状・診断基準・調査票を対象科に送付し、受療患者数(新患および再来)の報告を依頼した。第1次調査で「患者あり」と報告された診療科には依頼状・診断基準とともに第2次調査票を随時送付した。
【2】DNAの回収とメチル化インプリントの解析
先天性ゲノムインプリンティング病患者のDNAを抽出し、インプリント遺伝子8領域のメチル化解析を行った。これには、DNA多型を利用したBisulphite PCRシークエンス法を用い、正確に評価し、結果は医療機関の主治医に郵送で報告した。
結果と考察
【1】先天性ゲノムインプリンティング病8疾患に関する全国調査
調査対象施設総数3153施設のうち、1602施設(有効回収率56.2%)から有効回答があり、報告患者総数は2837人であった。その内訳は、BWSが288人、ASが576人、PWSが1536人、SRSが213人、TNDMが42人、PHP1bが15人、PGLが0人、Rbが167人であった。2837例のうち21.2%にあたる601例の第2次調査票が回収された。このうち不適格率は見られなかった。
BWS、SRSの疾患は、それぞれ8.6%、9.5%が不妊治療を受けていた。平成17年度のIVF+ICSIの出生児は全出生児の0.86%であることから、SRSとBWSでは約10倍リスクが高い事が判明した。
【2】疾患患者DNAを用いたインプリント遺伝子のDNAメチル化の解析
SRSの場合、ART治療を受けた患者では、6例中5例において、1) 複数のインプリント領域で異常を認めた。2) これらの症例は全例、精子型と卵子型DMRの両方に異常を認めた。3) また、同一症例で、高メチル化と低メチル化を示し、4) またその程度は、完全型ではなく、モザイク型を示す事が特徴にみられた。BWSは1例しかART後の症例は解析出来なかったが、SRSの場合と同様の傾向が見られた。
結論
SRSの場合、ART治療を受けた患者では、6例中5例において、1) 複数のインプリント領域で異常を認めた。2) これらの症例は全例、精子型と卵子型DMRの両方に異常を認めた。3) また、同一症例で、高メチル化と低メチル化を示し、4) またその程度は、完全型ではなく、モザイク型を示す事が特徴にみられた。BWSは1例しかART後の症例は解析出来なかったが、SRSの場合と同様の傾向が見られた。つまり、受精以降のプロセス(受精卵培養、凍結胚操作など)で、異常が起こり、疾患発症を導いた可能性が推察される。弧発性小児がんRbについては、現在も詳細な調査を継続している。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-03-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201324148C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ARTと非ARTにより発症した先天性インプリンティング異常症のメチル化変異について網羅的に解析した。その結果、ART群では、複数のインプリント領域で高メチル化と低メチル化が混在し、モザイク異常を示すことより、その発症は受精以降であることが推測された。この事実は、ART治療のうち、受精卵培養が発症に関わる可能性が高いことを示している。さらに症例を増やし、検討が必要である。
臨床的観点からの成果
先天性インプリンティング異常症をART群と非ART群に分類した場合、SRS、BWSでは、ART群で約10倍その頻度が高いことが判明した。またその大部分は体外受精あるいは顕微授精であった。さらにこれらのほとんどはエピ変異を原因とすることも明らかとなった。ART群と非ART群の臨床症状の大きな違いは認められないが、特徴はみられた。
ガイドライン等の開発
日本糖尿病学会にて新生児一過性糖尿病(TNDM)の診療ガイドラインの承認完了。日本小児がん学会にて網膜芽細胞腫(Rb)の承認手続き中。
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
新聞掲載(2013年4月30日朝日新聞)、
第31回日本受精着床学会総会・学術講演会、日本人類遺伝学会 第58回大会、第58回日本生殖医学会 学術講演会・総会、第54回日本卵子学会、第116回日本小児科学会学術集会、日本生殖再生医学会第8回学術集会にてシンポジウム発表

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2014-04-22
更新日
2018-06-11

収支報告書

文献番号
201324148Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,600,000円
(2)補助金確定額
3,600,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,809,760円
人件費・謝金 915,480円
旅費 44,760円
その他 0円
間接経費 830,000円
合計 3,600,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2014-04-04
更新日
2015-06-30