HTLV-1関連希少難治性疾患における臨床研究の全国展開と基盤整備

文献情報

文献番号
201324145A
報告書区分
総括
研究課題名
HTLV-1関連希少難治性疾患における臨床研究の全国展開と基盤整備
課題番号
H25-難治等(難)-一般-029
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
岡山 昭彦(宮崎大学 医学部 )
研究分担者(所属機関)
  • 川上 純(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)
  • 藤田 次郎(琉球大学大学院医学研究科)
  • 鴨居 功樹(東京医科歯科大学大学院・医歯学総合研究科)
  • 山野 嘉久(聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター)
  • 渡邉 俊樹(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
  • 相良 康子(日本赤十字社九州ブロック血液センター)
  • 前田 隆浩(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)
  • 青柳 潔(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)
  • 岩永 正子(東京慈恵会医科大学 総合健診・予防医学センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
15,770,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HTLV-1関連希少難治性疾患の疾患特異性を患者調査および無症候性キャリアとの比較を用いて明らかにする。また首都圏を含む患者調査や全国医療機関アンケートを行うことで、医療現場におけるHTLV-1関連希少難治性疾患の認知や今後の医療への影響を調査する。さらにHTLV-1高浸淫地域住民健康調査との連携研究、病態を解析するための基礎的研究を行う。
研究方法
1)疾患コホート研究:HTLV-1関連希少難治性疾患患者のコホート研究を拡大して行い、またJSPFADのサポートを得て、患者群と無症候性キャリアの比較検討を行った。2)全国調査研究:HTLV-1感染の認知度、診療への影響を評価するために、全国の主なリウマチ診療施設に対する全国アンケート調査を行った。3)HTLV-1高浸淫地域住民コホート連携研究:長崎県で確立されている住民健診と連携して、疾患マーカーとHTLV-1の測定を同時に行い、これら地域におけるHTLV-1感染の疾患発症へのインパクトを明らかにすることを試みた。4)病態解明研究:参加する各研究者の専門研究として、HTLV-1関連希少難治性疾患の病態解明について実験的検討を行った。本研究は「疫学研究に関する倫理指針」に従って研究対象者への説明と同意取得を行い、倫理審査を申請し承認を得た。
結果と考察
約800名の関節リウマチ患者におけるHTLV-1陽性率は8.2%と高かった。HTLV-1陽性リウマチ患者は陰性患者よりも病勢が強く治療抵抗性であるか否かという疑問については今回の検討では一定の結論を得ることができなかった。HTLV-1感染のウイルス学的検討では、リウマチ患者群はウイルス量の多い群と少ない群のヘテロな集団であった。またリウマチ患者と無症候性キャリアのcase-control研究では、HTLV-1抗体価やプロウイルス量はリウマチ患者で低い傾向を示した。全国のリウマチ診療施設の調査結果では、ATLやHAMの発生をみた経験のある施設は全体の5%程度あり、リウマチ診療において一定の割合でHTLV-1関連疾患の発症があることが示された。治療の影響に関しては、ぶどう膜炎患者において経口ステロイドを使用した場合にはプロウイルス量が高い傾向があり、HAM合併患者では生物学的製剤でHAMの悪化を認めた症例が報告された。HTLV-1とリウマチ以外の疾患との関連については、シェーグレン症候群、慢性肺疾患、動脈硬化、骨粗鬆症などについて検討し、それぞれの疾患への関与を疑わせる所見が臨床的あるいは基礎研究の結果から得られた。リウマチ診療施設に対する全国アンケートの結果から、HTLV-1抗体検査の実施状況については全国で3割、九州では6割の施設でリウマチ診療に関連した検査の経験があることが示された。今後リウマチ診療においてHTLV-1抗体の測定が必要か否かという問いに対しては約7割の施設がわからないと回答しており、リウマチ診療とHTLV-1感染について情報提供・ガイドラインが必要との意見が多く寄せられた。これらの結果より、HTLV-1感染が慢性炎症性疾患の診療に影響を及ぼす可能性が示唆され、診療現場への情報提供のニーズがあることが明らかとなった。今後さらに前向き研究や病態解析研究を行うことで、慢性炎症性疾患患者診療時にHTLV-1のスクリーニングを行うべきであるか、あるいはHTLV-1陽性患者の診療にどのような注意を払うべきであるか、といった疑問に答えられるエビデンスを得ることができるものと期待される。
結論
本研究によりHTLV-1感染により慢性炎症性疾患の診療が影響される可能性、逆に慢性炎症性疾患の合併やその治療のためHTLV-1関連疾患の発症や予後が変わる可能性があることが示唆された。また全国のリウマチ疾患診療施設のアンケートからHTLV-1感染についての情報提供のニーズがあることも明らかとなった。しかし現時点では慢性炎症性疾患患者診療時にHTLV-1のスクリーニングを行うべきであるか、あるいはHTLV-1陽性患者の診療にどのような注意を払うべきであるか、といった疑問に答えられるエビデンスは不十分であり、今後さらなる検討が必要である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201324145C

成果

専門的・学術的観点からの成果
リウマチ性疾患におけるHTLV-1感染率がendemic areaでは8%と高いことが示された。またウイルスマーカーの解析からHTLV-1陽性患者はヘテロな集団であることが推察された。さらにシェーグレン症候群、慢性肺疾患、動脈硬化、骨粗鬆症などについてHTLV-1感染の病態への関与を疑わせる所見が得られた。これらの成果の多くが今回の検討で初めて示されたものであり、国際的な情報発信が可能である。
臨床的観点からの成果
慢性炎症性疾患の診療がHTLV-1感染により影響を受ける、あるいはHTLV-1関連疾患の発症が疾患の合併やその治療により影響を受ける可能性が示された。またリウマチ性疾患の診療において一定の頻度でATLやHAMの発症がみられていることが始めて示され、診療現場においてHTLV-1感染に関する情報提供のニーズがあることが判明した。
ガイドライン等の開発
リウマチ性疾患の診療現場においてHTLV-1感染に関するガイドライン作成のニーズがあることが判明した。今後その作成のために必要なエビデンス構築を行う必要がある。
その他行政的観点からの成果
本研究により、リウマチ性疾患の診療において一定の頻度でATLやHAMの発症がみられていることが初めて示された。今後その評価を行い、リウマチ性疾患の診療時にHTLV-1感染のスクリーニングを行い、陽性者には特別な注意が必要かという、重要な問題提起を行った。
その他のインパクト
今回得られた成果を、専門学会などとも協力して必要に応じてホームページやキャリア指導の手引にも反映させ、診療側、患者会、一般国民への情報提供を行う予定である。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
13件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
22件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2014-06-02
更新日
2018-06-11

収支報告書

文献番号
201324145Z