希少難治性心疾患由来iPS細胞を用いた左心低形成症候群の予後因子の解明に関する研究

文献情報

文献番号
201324124A
報告書区分
総括
研究課題名
希少難治性心疾患由来iPS細胞を用いた左心低形成症候群の予後因子の解明に関する研究
課題番号
H25-難治等(難)-一般-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
王 英正(岡山大学病院 新医療研究開発センター 再生医療部)
研究分担者(所属機関)
  • 佐野俊二(岡山大学医歯薬学総合研究科 心臓血管外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
単心室循環を示す左心低形成症候群は1万人に1人の頻度で年間約1,000人が出生し、極めて予後が不良の希少難治性心疾患である。一方、乳幼児における心臓移植の実績がない我が国では、生後直後より3期にわたる心臓手術が唯一の治療法であり、5年生存率は約60%と限界がある。このため、標準外科的治療後の中長期における生命予後を予測する方法を開発することは、治療戦略上、心臓移植適応候補者を選定する面からも重要な研究課題である。
本研究では、申請者らがこれまでに樹立してきた6株の疾患特異的iPS細胞(左心低形成症候群5株と二心室心1株)を心筋細胞に分化誘導させ、網羅的遺伝子解析で得られた左心低形成症候群に固有な心臓発生転写因子群の発現パターンに注目し、心臓手術後の継続的な臨床疫学調査データと照合することで、術後心不全の再発や心不全死の独立予後規定因子を解明する。
研究方法
iPS細胞作製技術は、既に疾患を発症した患者の体組織細胞を初期化することで、疾患発症前に遺伝子情報をリセットでき、かつ継時的に疾患発症にかかわる遺伝子発現異常を網羅することができる。
1.申請者らは5株の疾患特異的iPS細胞を用いて、単心室心の解剖発生学的異常を規定する4つの転写因子群(Nkx2.5, isl1, Tbx5, Hand2)の発現が著明に低下し、収縮能が著しく障害されていることを明らかにした。
2.本研究では、初年度に10株以上の新規左心低形成症候群由来のiPS細胞を樹立し、流入や流出路閉鎖を伴う重篤性が高い本疾患の心臓発生異常に関わる分子制御機序について網羅的に解明する。
3.心臓手術後における心不全症状の再燃や心不全死の有無を中心に、iPS細胞の機能解析した全症例に関する房室弁逆流の遅発性発症や蛋白漏出性腸症の合併について追跡調査する。
4.本研究班を共同研究拠点とし、疫学調査成果を評価後、「次世代遺伝子解析による希少難治性循環器疾患の診断治療法の開発」研究班に情報提供し、予後診断ガイドラインを作成する。

結果と考察
先天性心疾患由来の心臓手術中に余剰となった右心房由来の少量組織を用いて、疾患特異的iPS細胞の樹立に成功した。解析対象とする単心室症である左心低形成症候群のiPS細胞を5株、比較対照として、二心室心である総肺静脈還流異常症1株と京都大学で樹立した201B7細胞をコントロール細胞とした。樹立した各iPS細胞のOCT4とNANOGのプロモーター領域におけるDNAの脱メチル化解析ならびに網羅的遺伝子解析において、コントロール細胞の胚性幹細胞と同様の初期化形態を示していることを確認した。左心低形成症候群由来のiPS細胞は二心室心由来の細胞に比し心筋細胞に分化する速度が遅く分化度も低い。この分化制御機構を調べるために、ダイレクトシークエンス法用いて、NKX2-5、HAND1、NOTCH1の遺伝子変異を解析した結果、NKX2-5で1か所、NOTCH1で5か所の同義一塩基多型(SNPs)を認めた。さらに、ChIP解析によるエピジェネティック解析では、左心低形成症候群由来iPS細胞においてH3K4me2とacH3が減少する一方、H3K27me3は二心室心より有意に増加していた。また、網羅的遺伝子解析でNKX2-5、HAND1/2、TBX2、NOTCH1、HEY1/2といった複数の心臓初期転写因子群に発現量の異常を同定した。うち、NKX2-5、NOTCH1、HAND1について、gain及びloss of functionの検討を加えた。心筋特異的構造蛋白であるトロポニン-T及びNPPAのプロモーター解析では、NKX2-5、NOTCH1、HAND1の一過性過剰発現により活性が相乗的に上昇し、二心室心由来iPS細胞ではこれらを個別に抑制するshRNAの導入により、プロモーター活性が有意に低下した。
結論
本研究の成果によって、通常の二心室心に比べ単心室心である左心低形成症候群由来のiPS細胞では、左室流出路、中隔形成や弁形成に重要な各種転写因子群の発現量の低下が確認された。本研究成果により、NKX2-5, HAND1, NOTHCH1の発現調節が疾患発症に重要であることが明らかとなった。今後は得られた研究成果に基づき、登録した左心低形成症候群症例の長期予後を追跡する。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201324124C

成果

専門的・学術的観点からの成果
これまで各種転写因子群の遺伝子欠損モデルの表現型解析で報告された表現型とは一部類似しているものの、ヒトにおける左心低形成症候群における臨床病態像は単一の遺伝子の発現異常だけでなく、複合的な転写因子群(NKX2-5, HAND1, NOTCH1)の密接で一連の発現調節との相関関係が臨床病態の形成に関与していることが明らかとなった。
臨床的観点からの成果
得られた研究成果を元に、今後各症例の長期臨床像の予後を追跡しつつ、流出路、中隔形成ならびに弁形成などといった心臓内における各種部位の発生に基づく臨床病態像や臨床疫学調査との関連を詳細に探求する。さらに、本研究期間内で樹立した各種疾患特異的iPS細胞を駆使して、難治性疾患の長期的臨床疫学調査研究に応用する革新的予後診断法の開発に向けた応用研究を行う。
ガイドライン等の開発
該当なし。
その他行政的観点からの成果
該当なし。
その他のインパクト
1.希少難治性心不全に対する心臓内幹細胞を用いた再生医療 岡山大学知恵の見本市2013
2.子どもの難治性心不全に対する幹細胞移植療法の取り組み 公開セミナーはあとネット兵庫

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
13件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
2件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

特許の名称
詳細情報
分類:
特許の名称
Preparation for treating heart disease used in cell therapy
詳細情報
分類:
特許番号: US8414924 B2
発明者名: Hidemasa Oh
権利者名: 京都大学
出願年月日: 20081009
取得年月日: 20130409
国内外の別: 米国
特許の名称
細胞移植療法に用いられる心疾患治療薬 
詳細情報
分類:
特許番号: 特許第5496675号
発明者名: 王 英正
権利者名: 京都大学
出願年月日: 20081009
取得年月日: 20140314
国内外の別: 日本

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ogata T, Naito D, Nakanishi N et al.
MURC/Cavin-4 facilitates recruitment of ERK to caveolae and concentric cardiac hypertrophy induced by α1-adrenergic receptors.
Proc Natl Acad Sci U S A. , 111 (10) , 3811-3816  (2014)
doi: 10.1073/pnas.1315359111.
原著論文2
樽井俊、佐野俊二、王 英正
心筋幹細胞を用いた先天性心疾患に対する心筋再生医療 
月刊循環器 , 3 (9) , 69-76  (2013)
原著論文3
Kobayashi J., Yoshida M., Tarui S. et al.
Directed Differentiation of Patient-Specific Induced Pluripotent Stem Cells Identifies the Transcriptional Repression and Epigenetic Modification of NKX2-5, HAND1, and NOTCH1 in Hypoplastic Left Heart Syndrome.
PLOS One , 9 (7) , e102796-  (2014)
10.1371/journal.pone.0102796.
原著論文4
Kobayashi J., Sano S., Oh H.
Epigenetic modification in congenital heart diseases by using stem cell technologies
Stem Cell Epigenet , 2 , e550-  (2015)

公開日・更新日

公開日
2014-04-25
更新日
2018-05-22

収支報告書

文献番号
201324124Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
11,700,000円
(2)補助金確定額
11,700,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 8,760,250円
人件費・謝金 0円
旅費 229,750円
その他 10,000円
間接経費 2,700,000円
合計 11,700,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-