文献情報
文献番号
201324121A
報告書区分
総括
研究課題名
炎症性動脈瘤形成症候群の新規診断法の確立に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H25-難治等(難)-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 恭子 (今中 恭子)(三重大学 大学院医学系研究科(基礎医学系講座修復再生病理学分野))
研究分担者(所属機関)
- 阿部 淳(国立成育医療研究センター・免疫アレルギー研究部)
- 佐地 勉(東邦大学 医療センター大森病院)
- 白石 公(国立循環器病研究センター 小児科学)
- 松下 竹次(国立国際医療研究センター 小児科学)
- 廣江 道昭(国立国際医療研究センター 循環器内科学)
- 武田 充人(北海道大学 大学院医学研究科)
- 市田 蕗子(富山大学 医学薬学研究部)
- 須田 憲治(久留米大学 医学部)
- 吉兼 由佳子(福岡大学 医学部)
- 青木 浩樹(久留米大学 循環器病研究所)
- 吉村 耕一(山口大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
炎症性動脈瘤形成症候群は全身性急性汎血管炎に続発し、大動脈や、冠動脈など血管壁の 破壊、不可逆的な著しい拡張をおこす。ほとんどが小児期に発症し、川崎病に合併することが多い。特に冠動脈に瘤を形成すると生命予後に直結する重篤な疾患であるが、動脈瘤の形成を防止する根本的な治療法はもとより、形成を予知する指標すら確立していない。本研究班では、動脈瘤、特に冠動脈瘤を形成する全身性炎症疾患患者の実態調査と、冠動脈病変の病勢を評価し動脈瘤形成を予知するバイオマーカーの探索を目的とし、特に,細胞外マトリックスタンパクのひとつ、テネイシンCの有用性を評価し,その分子機能を解明して新しい治療法の開発を目指すことを最終目的とした。
研究方法
1. 関連疾患である川崎病等小児有熱疾患患者を症例登録し、経時的に採血して血清テネイシンCの測定ができた79例について前向き研究を行い、冠動脈病変、他の臨床指標と対比した。2. 川崎病急性期剖検例を用いて冠動脈瘤形成過程のテネイシンCの発現と組織変化を対比した。3.カンジダアルビカンス菌体抽出液投与によるマウス炎症性動脈瘤モデルを作成した。4.テネイシンCノックアウトマウスを用いてストレス下の血管におけるテネイシンCの分子機能を解析した。
結果と考察
血清テネイシンC値は川崎病急性期に上昇し、現在炎症マーカーとして用いられている白血球数・好中球%・CR P値同様、活動性炎症の指標となる活動性炎症の指標となる可能性が確認できた。さらに、経過中に血清テネイシンC値が再上昇した群は動脈瘤形成の頻度が低いことが明らかになり、動脈瘤形成予知マーカーになる可能性が示唆された。また、川崎病急性期ヒト剖検例、および炎症性動脈瘤形成モデルマウスの織学的解析で、急性炎症期に、炎症細胞浸潤部位に発現が見られるだけでなく、瘤形成期に中膜でのテネイシンC発現上昇がみられ、炎症制御だけでなく、血管壁のストレス応答に関わることが示唆された。さらに、テネイシンC欠損マウスに強い負荷をかけると、大動脈壁の解離・瘤形成を生じ、テネイシンCが炎症反応を抑制し,マトリックスの産生をあげて組織修復,補強を促進することが明らかになった。これらの結果は、血管炎から動脈瘤形成にいたる病態で、急性期に炎症に伴って発現したテネイシンCは、治療後、炎症の沈静化を反映して減少するが、修復期に再び発現して冠動脈拡大に対し保護的に働く可能性を示し、血中テネイシンCレベルが動脈瘤形成の予知マーカーになる可能性を理論的に支持すると思われた。今回の研究では、本症候群の関連疾患である川崎病の症例登録および検体収集によって、テネイシンCの病態診断マーカーとしての有用性を示唆する結果が得られた。しかしながら、現在の標準治療を施行された川崎病症例では、冠動脈病変をみとめても動脈瘤形成にいたる頻度は低く、本研究班が対象とする動脈瘤形成について、テネイシンCが予知マーカーとして有用かどうか統計学的に有意性を検証するためにはさらに多くの川崎病症例登録に基づく大規模研究が必要である。本疾患は、本邦で初めて報告され、先進国の小児の後天性循環器疾患として最も多い川崎病ときわめて関連の強い疾患であり、さらに、現在、成人への移行期医療、さらに成人から高齢期に達した患者の病態診断と治療が大きな課題となっている。今後、成人循環器疾患を含め、複数の関連学会と連携して規模を拡大した多施設共同研究によるレジストリ構築が必要と思われる。また、組織検体の入手が著しく制限される心血管疾患では、稀少なヒト病理検体と動物モデル,特に遺伝子改変動物を用いたモデル実験とを対比し統合して解析する必要がある。今回我々の確立した炎症性動脈瘤モデルマウスの組織変化,およびテネイシンC発現は,ヒト剖検例の組織所見との類似点が極めて多く、新しい診断法の有用性評価や治療法のためのシミュレーション実験のみならず、詳しい病態解析やそれにもとづいた新しい治療法の開発にも極めて有用と思われる。
結論
テネイシンCは,川崎病など小児有熱性疾患に伴う動脈瘤形成の新しい病態診断マーカーとして有用であると思われる。
公開日・更新日
公開日
2015-06-30
更新日
-