文献情報
文献番号
201324120A
報告書区分
総括
研究課題名
重症好酸球性副鼻腔炎の診断基準作成と治療法確立に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H25-難治等(難)-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
藤枝 重治(国立大学法人福井大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 野口 恵美子(筑波大学 医学医療系)
- 玉利 真由美(理化学研究所 統合生命医科学研究センター)
- 飯野 ゆき子(自治医科大学附属さいたま医療センター)
- 石戸谷 淳一(横浜市立大学附属市民総合医療センター)
- 春名 眞一(獨協医科大学 医学部)
- 平川 勝洋(広島大学大学院 医歯薬保健学研究院)
- 氷見 徹夫(札幌医科大学 医学部)
- 岡野 光博(岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科)
- 吉川 衛(東邦大学 医学部)
- 鴻 信義(東京慈恵会医科大学)
- 浦島 充佳(東京慈恵会医科大学)
- 三輪 高喜(金沢医科大学 医学部)
- 小林 正佳(三重大学 医学部)
- 近藤 健二(東京大学 医学部)
- 意元 義政(福井大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本邦における鼻副鼻腔疾患は、ウイルス感染とそれに続発する細菌感染による好中球浸潤を主体とする炎症病変が中心であった。それに対し抗菌薬の開発、マクロライド少量長期投与、内視鏡鼻副鼻腔手術(ESS)の改良で対応し、治癒率を有意に向上しえた。しかし一方で、ESS後も鼻茸の再発を起こしやすく、ステロイド内服のみに反応する難治性の副鼻腔炎が増加してきた。この疾患は粘膜に著しい好酸球浸潤を認めるので好酸球性副鼻腔炎(ECRS)と命名された。これまでこのECRSに関する明確な診断基準が存在せず、それぞれの施設で診断されていた。本研究では、診断基準、重症度分類を作成することを目的に大規模疫学調査を行った。
研究方法
全国15施設で共同研究を行った。平成19年1月1日から平成21年12月31日までの3年間で行った副鼻腔炎手術症例を抽出し、データシートを作成した。症例の抽出は、鼻茸もしくは鼻粘膜の病理組織があるものとした。病理組織において浸潤している好酸球数を400倍視野で計測した。エンドポイントとしてESS術後に鼻茸・副鼻腔炎の再発を認める(再発性)、術後処置や内服を行っても鼻茸・副鼻腔炎の状態が最終診断日に改善していない(難治性)を定義した。データシートから再発、難治性に関し多変量Cox比例ハザードモデルで有意な項目を選出した。組織中好酸球数に関して、特定の好酸球数以上・未満で再発、難治性で有意差が得られるところをcut-off値とし、その値を調べた。そしてcut-off値以上群と未満の群で再度多変量解析し、step wise法により変数を絞り込みROCカーブを書き(AUC =0.8)、臨床上使いやすいように重み付けを整数として、有意な変数のみを残した。最終的な診断基準を決定した。
結果と考察
データシートは3251例集まった。その中で術前ステロイド内服があったり、不明だったりした症例、再発調査が不能あったり、観察期間が28日未満だったりした症例を除外した。最終的に1716例を解析対象とした。対象症例の再発率は、カプランマイヤー法により72ヵ月で50%であった。最初の1年で20%が再発し、次の1年で10%、その後各年に5%ずつの再発率であった。再発に関して多変量Cox比例ハザードモデルで解析すると、アスピリンアレルギー合併(ハザード比:3.25, p=0.001)、NSAIDsアレルギー合併(2.20, p=0.039)、気管支喘息合併(1.43, p=0.004)、血中好酸球率10%以上(1.52, p=0.032)、篩骨洞優位な陰影(2.06, p<0.001)が有意であり、症状に関する項目はすべて除外された。難治性に関しても同様に解析すると、血中好酸球率5%以上(1.86, p=0.036)、篩骨洞優位な陰影(2.15, p=0.008)が有意な項目となった。組織中の好酸球数に関しては、400倍視野あたり70個以上の好酸球を認めると最も有意に再発に差を認めた。
好酸球性副鼻腔炎の最終診断基準項目は、両側病変:3点、鼻茸あり:2点、篩骨洞優位な陰影:2点、末梢血中好酸球率2-5%:4点、5-10%:8点、10%:10点のうち、各症例において11点以上をECRSと診断するように決定した。11点以上をECRSとすると感度83%、特異度66%、陽性的中率62%、陰性的中率85%であった。さらに重症度を反映する因子として、因子Aと因子Bを作成した。因子Aは末梢好酸球数5%以上とCTにて篩骨洞優位な陰影の項目であり、両方認めれば因子Aにおいて1点する(片方では0点)。因子Bは気管支喘息の合併・既往、アスピリンアレルギーの合併、NSAIDアレルギー合併であり、いずれかを認めれば因子Bにおいて1点とする。因子AとBの合計で、0点は低リスク群、1点は中等度リスク群、2点は高度リスク群とした。この分類にて再発率は、低リスク群23.4%、中等度リスク群31.1%、高度リスク群51.8%であり、4群間で有意な差を認めた。最終診断は、手術などで採取された鼻茸や鼻粘膜において、400倍視野で70個以上の好酸球浸潤を認めればECRS確定とした。
好酸球性副鼻腔炎の最終診断基準項目は、両側病変:3点、鼻茸あり:2点、篩骨洞優位な陰影:2点、末梢血中好酸球率2-5%:4点、5-10%:8点、10%:10点のうち、各症例において11点以上をECRSと診断するように決定した。11点以上をECRSとすると感度83%、特異度66%、陽性的中率62%、陰性的中率85%であった。さらに重症度を反映する因子として、因子Aと因子Bを作成した。因子Aは末梢好酸球数5%以上とCTにて篩骨洞優位な陰影の項目であり、両方認めれば因子Aにおいて1点する(片方では0点)。因子Bは気管支喘息の合併・既往、アスピリンアレルギーの合併、NSAIDアレルギー合併であり、いずれかを認めれば因子Bにおいて1点とする。因子AとBの合計で、0点は低リスク群、1点は中等度リスク群、2点は高度リスク群とした。この分類にて再発率は、低リスク群23.4%、中等度リスク群31.1%、高度リスク群51.8%であり、4群間で有意な差を認めた。最終診断は、手術などで採取された鼻茸や鼻粘膜において、400倍視野で70個以上の好酸球浸潤を認めればECRS確定とした。
結論
初診時もしくは術前に臨床スコア11点以上をECRSと診断する。因子Aと因子Bの合計点で重症度が決定できる。この診断基準でどの科でも診断でき、手術前のインフォームドコンセントに十分な価値があり、術後の治療向上に寄与できる。また下気道の病態への影響もこの臨床スコアを用いて検討可能である。
公開日・更新日
公開日
2015-06-30
更新日
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