文献情報
文献番号
201324119A
報告書区分
総括
研究課題名
痙攣性発声障害に関する調査研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H25-難治等(難)-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
兵頭 政光(高知大学 教育研究部医療学系臨床医学部門)
研究分担者(所属機関)
- 湯本 英二(熊本大学 医学部)
- 久 育男(京都府立医科大学 医学部)
- 大森 孝一(福島県立医科大学 医学部)
- 西澤 典子(北海道医療大学 心理科学部)
- 城本 修(県立広島大学 保健福祉学部)
- 松本 宗一(高知大学 教育研究部医療学系臨床医学部門)
- 熊谷 直子(高知大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,050,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
痙攣性発声障害は、発声器官に器質的異常や運動麻痺を認めない機能性発声障害の一つで、発声時に内喉頭筋の不随意的、断続的な痙攣による発声障害をきたす。このため、患者は仕事や社会生活をおくる上で極めて大きな支障をきたす。しかし、本疾患の患者実態は不明で診断基準も国内はもとより海外においても確立されていないことから、耳鼻咽喉科医においても十分に認知されておらず、患者は複数の医療機関を転々とすることも多い。そこで、本研究は大規模な全国調査により本疾患の実態把握を行うとともに、その臨床像を明らかにすることを目的とした。
研究方法
まず、アンケート調査の際の参考にする目的で、痙攣性発声障害の代表的な音声データを収録したCDを作成した。一次調査として、全国の日本耳鼻咽喉科学会専門医制度認可研修施設、ならびに本症患者の診療実績を有すると思われるその他の医療機関の計655施設に対して、過去2年間に受診した患者数(疑い患者を含む)、およびこれらの患者の年齢および性別に関するアンケート調査を郵送法にて行った。次いで、本症の患者(疑い患者を含む)の受診があると回答した医療機関を対象に二次アンケート調査を行った。調査の内容は、①患者の年齢・性別、②病型(内転型・外転型・混合型の別)、③初診・再診の別(初診の場合には初診日)、④症状、⑤症状発現から初診までの期間、⑥初診までの他の医療機関受診の有無とその数、⑦治療の有無(有りの場合にはその内容)、などとした。
結果と考察
一次アンケートでは、平成26年1月30日時点で369施設(56.3%)より回答が得られた。過去2年間の患者数は0(最少)~457例(最多)と施設間のばらつきが極めて大きかった。患者数はのべ1,746例で、このうち確実と思われる例が1,224例あった。病型と性別が把握できた1,534例についてみると、性別は男性298例(19.4%)、女性1,236例(80.6%)で、男女比は約1:4.2と女性に多かった。病型別の患者数は内転型1,430例(93.3%)、外転型88例(5.7%)、混合型およびその他16例(1.0%)であった。年齢は最年少が12歳、最高齢が91歳であり、平均年齢は男性が39.0歳、女性が38.8歳であり、男女間で差を認めなかった。年齢別では20歳代が30.6%と最多で、次いで30歳代が28.5%、40歳代が15.2%の順であった。
二次アンケートでは、1,282例について回答が得られた。症状は内転型では声の詰まりや努力性発声が特徴的で、一方、外転型では失声や声が抜ける、息がもれるなどの症状が特徴的であった。症状発現から医療機関受診までの期間は1カ月~46年と極めて幅があり、中央値は3年0カ月であった。5人に1人は10年以上の罹病期間を要していた。当該医療機関を受診するまでに、76.0%の患者は他の医療機関を受診しており、これらの重複受診例を除くことで2年間の新規患者数は内転型1,012例、外転型62例、混合型7例の合計1,081例と推計された。治療では86.3%の患者が痙攣性発声障害に対して何らかの治療を受けており、そのうち44.2%が音声治療を、45.5%がA型ボツリヌス毒素の内喉頭筋内注入療法を、24.1%が手術治療を受けていた。
山崎らは全国の大学病院を対象としたアンケート調査により、本邦での痙攣性発声障害の有病率をベル麻痺と対比することで、人口10万人あたり0.94人と推計した。今回の調査では2年間に0.86人/10万人の新規患者がいることが明らかとなり、このことから有病率は山崎らの報告よりもかなり高いことが推測された。臨床像では従来の報告の通り若年女性に多く、大半が内転型であった。発症から本症の診断までに半数以上が3年以上を要しており、本症の診断の困難さ、あるいは認知度の低さを示している。治療ではA型ボツリヌス毒素の内喉頭筋内注入療法を受けている例が多かったが、本治療あるいは手術治療はほとんどが限られた数施設のみで行われていた。本症の診断基準および治療指針の確立、治療法の普及が望まれるところである。
二次アンケートでは、1,282例について回答が得られた。症状は内転型では声の詰まりや努力性発声が特徴的で、一方、外転型では失声や声が抜ける、息がもれるなどの症状が特徴的であった。症状発現から医療機関受診までの期間は1カ月~46年と極めて幅があり、中央値は3年0カ月であった。5人に1人は10年以上の罹病期間を要していた。当該医療機関を受診するまでに、76.0%の患者は他の医療機関を受診しており、これらの重複受診例を除くことで2年間の新規患者数は内転型1,012例、外転型62例、混合型7例の合計1,081例と推計された。治療では86.3%の患者が痙攣性発声障害に対して何らかの治療を受けており、そのうち44.2%が音声治療を、45.5%がA型ボツリヌス毒素の内喉頭筋内注入療法を、24.1%が手術治療を受けていた。
山崎らは全国の大学病院を対象としたアンケート調査により、本邦での痙攣性発声障害の有病率をベル麻痺と対比することで、人口10万人あたり0.94人と推計した。今回の調査では2年間に0.86人/10万人の新規患者がいることが明らかとなり、このことから有病率は山崎らの報告よりもかなり高いことが推測された。臨床像では従来の報告の通り若年女性に多く、大半が内転型であった。発症から本症の診断までに半数以上が3年以上を要しており、本症の診断の困難さ、あるいは認知度の低さを示している。治療ではA型ボツリヌス毒素の内喉頭筋内注入療法を受けている例が多かったが、本治療あるいは手術治療はほとんどが限られた数施設のみで行われていた。本症の診断基準および治療指針の確立、治療法の普及が望まれるところである。
結論
痙攣性発声障害の疫学に関する全国調査を実施し、過去2年間に全国で1,081例(0.86人/10万人)の新規患者がいることが確認できた。このことから、実際の有病率は従来報告されていたよりも多いことが推測される。臨床像としては、20~40歳代の女性に多く、内転型が約93%を占めていた。症状では内転型は声の詰まりや努力性発声、外転型は失声や声が抜けるなどが特徴的であった。治療は一部の医療機関で、A型ボツリヌス毒素の内喉頭筋内注入療法や甲状軟骨形成術Ⅱ型などが集約的に行われていた。今後、これらの調査結果などを基にして、診断基準の作成や治療指針の確立につなげてゆきたい。
公開日・更新日
公開日
2015-06-30
更新日
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