カムラチー・エンゲルマン病の治療法の確立:新規遺伝子探索、モデル構築、分子標的治療薬の探索 

文献情報

文献番号
201324117A
報告書区分
総括
研究課題名
カムラチー・エンゲルマン病の治療法の確立:新規遺伝子探索、モデル構築、分子標的治療薬の探索 
課題番号
H25-難治等(難)-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
木下 晃(長崎大学 原爆後障害医療研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 蒔田 芳男(旭川医科大学 医学部教育センター)
  • 古庄 知己(信州大学 医学部附属病院遺伝子診療部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 Camurati-Engelmann disease(CED、カムラチ・エンゲルマン病)は常染色体優性遺伝性の希少な骨系統疾患である。過剰な膜性骨化による頭蓋骨・長管骨の肥厚が特徴であり、多くは10歳前後で発症し下肢痛、筋力低下、痩身、難聴の症状が観察される。本邦における患者数は把握されていないが、50名程度であると推測されている。治療法はまだ確立しておらず、成人期の骨痛にはステロイドの経口投与が行われている。
 報告者はtransforming growth factor β1遺伝子(TGFB1)がCEDの責任遺伝子であることを報告した。しかし発症機序の詳細はわかっておらず、キメラマウスが不妊の表現系を示し、モデルマウスも完成していない。またTGFB1に変異が同定されないCED患者(CED type II)も存在している。
本研究では、(1)CED患者の経過観察、特にこれまでに報告されていない幼児の観察を行う、(2)国内医療機関を対象にしたアンケートによる国内患者数の推定、(3)新規CED患者を集積し、変異解析を行う、(4)発症機序の解明と治療法の確立を目指して、実験モデル系(患者由来iPS細胞、遺伝子改変モデルマウス)の開発を目指す。
研究方法
(1) CED患者の経過観察:親子例・弧発例・乳幼児を含む大家系の患者の経過観察を行った。
(2) 国内患者数の推定:国内医療機関(計2531施設)にアンケート用紙を送付し、回答を得た。
(3) 新規CED患者の変異解析: CEDが疑われる新規患者から、血液(DNA)を採取しTGFB1の変異解析を行った。
(4) 実験モデル系の開発
(i) TGFB1に変異をもつCED患者のiPS細胞を京都大学iPS細胞研究所・戸口田教授のもとで作製した。
(ii) ゲノム編集技術CRISPR/Cas9法を用いて、CED患者で最も高頻度で同定されるR218C変異(218番目のアミノ酸がアルギニンからシトシン)をマウス受精卵内で相同組み換えにより導入する。
結果と考察
(1) CED患者の経過観察
親子例: 母親はプレドニンを不定期に服用しているが、感音性難聴が進行している。その男児(11歳)はプレドニンの少量療法を6歳時より開始した。この療法により改善し、水泳も可能で体育の授業にも参加できる状態に回復している。
弧発例: 男児(7歳)筋力低下が著しく、車いすを併用している。痛みも強く活動性に制限が大きいため、プレドニンの少量療法を開始した。十分な効果が見られており、活動性が維持されている。
大家系:罹患男性2人、罹患女性2人、非罹患女性1人の0-2歳の成長データを入手し、成長曲線を作成した。0-2歳において、罹患男性の身長は-2~-1SD程度で推移、体重は-2.5~-1SDで推移した。罹患女性の身長は-1~0.5SDで推移し、体重は-0.5~0SDで推移したが、非罹患女性も身長・体重ともに-1SD程度で推移したので、軽度成長障害が疾患特異的とは言えなかった。
(2) 国内患者数の推定: 1470施設から回答を得ることができた。CEDが疑われる16症例が報告されたが、このうち13症例が新規だと考えられる。この結果から、国内の新規患者は30症例程度であり、既知の患者とあわせて60名程度のCED患者がいると考えられる。
(3) 新規CED患者の変異解析: CEDが疑われる2名の患者のTGFB1変異解析をサンガー法で行った。しかし、両名とも変異は同定されなかった。
(4) 実験モデル系の開発
(i) CED患者由来iPS細胞の作製: R218H変異を持つ患者から血液を採取し、iPS細胞クローンを樹立した。
(ii) CRISPR/Cas9法によるCEDモデルマウスの作製: マウス受精卵にTgfb1を標的にするguide RNA、Cas9 mRNA、相同組換え用のドナーオリゴをインジェクションし、仮親に移植した。妊娠は確認されたが、胎生13日めから次々に流産し、野生型マウス1匹のみが誕生した。
結論
 乳幼児期からの患者の経過観察は世界で初めてである。またこれまでの報告の通り、ステロイドの少量服用は対症療法としては有効であるが、病態の進行を止めることはできない。治療法の開発は急務である。
 アンケート調査から国内のCED患者は60名程度であることが判明した。本研究立ち上げ時に50名程度と予測していたが、非常に近い数値が得られた。
 新規CED患者のTGFB1の変異解析の結果は陰性であった。今後、上記の国内患者と合わせてエキソーム解析を行い、新規原因遺伝子を行う。
 iPS細胞は骨芽細胞に分化誘導し、治療法の開発に向けた研究を行う。遺伝子改変マウスは条件を再検討し、研究モデル系を確立させる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201324117C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 カムラチ・エンゲルマン病(CED)は過剰な膜性骨化による骨皮質の肥厚を特徴とする骨系統疾患であり、transformng growth factor β1遺伝子(TGFB1)が責任遺伝子である。非常に稀な疾患であり、患者間で表現系が異なることから、本邦における患者数は不明であった。
 本研究では国内医療機関を対象にした疫学調査を行った。国内の患者数は把握済みの患者を含めて60名程度であることが推定された。

臨床的観点からの成果
 本研究では、これまでにフォローしている患者(母子例、家族例、弧発例)の経過観察を行った。CEDの確立した治療法はなくステロイド服用による対症療法のみである。小児ではステロイドの服用は病態を改善し、QOL向上の効果があった。しかし、成人では症状の進行を止めることはできなかった。また、これまでに報告の無かった乳幼児期の患者の成長曲線を作成したが、疾患特異的な成長障害は確認できなかった。乳幼児期からの介入は効果が期待できる。
ガイドライン等の開発
 レントゲン所見と共に、TGFB1遺伝子の変異解析によって、CEDの確定診断としている。しかし患者の中には、TGFB1遺伝子に変異が同定されない患者もまた存在している(CED type II)。この遺伝的ヘテロジェナイティーを明らかにするためには、次世代型シーケンサーを用いたエキソーム解析が必要である。本研究でも患者からの承諾が得られ次第にエキソーム解析を行う。新規責任遺伝子を同定することで、より正確な診断基準を作成する。
その他行政的観点からの成果
CEDは非常に稀な常染色体優性遺伝病(本研究結果から国内の患者数は60名程度であると推定されている)であるが、その症状は進行性であり、患者のQOLの向上を目指した治療法の開発と確実な診断法の確立は急務である。
その他のインパクト
研究ではCEDの治療法や治療薬の開発を目指した実験モデル系の開発を行った。京都大学iPS細胞研究所・戸口田淳也教授のもとで、TGFB1遺伝子にR218H変異をもつCED患者由来のiPS細胞クローンを樹立した。今後はこの細胞を用いたCEDの発症機序の詳細を明らかにし、治療薬の開発を目指す。また、新規ゲノム編集技術CRISPR/Cas9法を用いたCEDモデルマウスの作製を試みたが、全て発生途中で死亡し、成功していない。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
18件
その他論文(和文)
7件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2014-06-04
更新日
2018-06-18

収支報告書

文献番号
201324117Z