繊毛障害による先天異常疾患群の患者データベース構築と臨床応用のための基盤研究

文献情報

文献番号
201324116A
報告書区分
総括
研究課題名
繊毛障害による先天異常疾患群の患者データベース構築と臨床応用のための基盤研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-078
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 雅之(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第二部)
研究分担者(所属機関)
  • 岩崎 裕治(東京都立東部療育センター)
  • 大野 耕策(山陰労災病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、繊毛障害による先天異常スペクトラムの疾患群の実態調査を行ない、病因・病態を解明し診断基準の策定と普及をめざした研究である。
 これまでに、①有馬症候群の臨床疫学的研究と診断基準の策定、②臨床症状・経過に関する臨床データの集計・解析と③研究リソースの収集およびその管理を行った。診断のために、繊毛障害による先天異常症候群(ジュベール症候群、デカバン症候群、セニール・ローケン症候群、COACH症候群)の遺伝子診断を確立し、未知である有馬症候群の原因遺伝子を明らかにすることが必要である。
研究方法
東京都立東部療育センターで管理している生体試料(血液由来DNAと線維芽細胞)は研究協力施設(遺伝子解析グループ)へ提供した。Agilent社ヒトCGHアレイで全ゲノムのcopy number variation(CNV)を調べ、異常がなかったものについて、エキソーム解析を行なった。また、ジュベール症候群の既報告24遺伝子について、ターゲットシークエンス解析を開発した。
 一方、27名のジュベール症候群患者で、AHI1、NPHP1、CEP290(Nephrocystin-6)、TMEM67(MKS3)、RPGRIP1Lの5つの遺伝子解析についてWAVE核酸フラグメント解析を行い、変異が疑われたDNA試料は直接シークエンス法による解析を行った。
 これらの遺伝子解析は、当該施設の倫理問題検討委員会の承認のもと行なった。
結果と考察
1. 検索した患者に病的なCNVは明らかなものはなかった。エキソーム解析とサンガー法による遺伝子配列検査で異常を認めた。
 ジュベール症候群の既報告24遺伝子について、全遺伝子のprimer setを作成した。3例の解析を行なったが、ターゲットシークエンス解析として利用できることを確認した。また、27例中ジュベール症候群の臨床症状を示した17例の中で、AHI1遺伝子変異を1例、MKS3遺伝子変異を1例、RPGRIP1L遺伝子変異を2例に認めた。
  今回検索したジュベール症候群27例中4例に、既知5遺伝子の片側アリルのみの変異を同定した。これらの塩基置換はこれまでに報告されているSNPにはなく、疾患の原因と関係する変異の可能性がある。AHI1、MKS3、RPGRIP1L変異を認めた4例は腎機能障害や網膜機能障害を認めないジュベール症候群であったが、AHI1遺伝子変異では若年性ネフロン癆をきたす可能性があり、RPGRIP1L遺伝子変異でも腎病変や網膜異常を伴う例がある。今後、他の疾患との分子遺伝学的な関係を明らかにして、繊毛障害の病態の全体像を解明する。
2. 診療支援
本研究班では、東京都立東部療育センター内にホームページ(「ジュベール症候群の窓」)を開設し、さまざまな情報発信を行なっている。今年度はこのホームページを利用して新たな患者情報の収集を行い、同施設内に患者データベースを構築した。まず、有馬症候群7例およびジュベール症候群16例の患者登録を行い、これらをモデルとし他の対象疾患の患者登録を始めた。また、コンソーシアムを組織し、症例検討会、診断相談やアドバイス等の診断支援を行なった。その結果、新たに有馬症候群1名とジュベール症候群2名の紹介受診と診断等に関する問い合わせが5件あり、それぞれに疾患の情報(文献なども含めて)提供や診断についてのアドバイスを行った。生体試料は4家系の血液由来DNAと1家系の線維芽細胞を追加し、これらの試料について管理を行った。
 ホームページを通し、繊毛障害による疾患の情報提供と学会参加型のシンポジウムなどの普及活動をすすめ、より広く繊毛障害関連疾患の実態を調査する必要がある。こうした取り組みを継続することで、早期診断と早期療育の導入、および医療的管理により、合併症の軽減と予防をはかり、質の高い医療・介護支援を全国へ普及させる。さらに日本小児科学会、日本小児神経学会、日本先天異常学会と連携をはかり、診断基準の提言を行う。
結論
未知疾患症例で遺伝子異常がみつかり、病因性があるものと考えられた。また、症例の追跡によって原因遺伝子変異と臨床症状の関連を明らかにし、予後因子を探索する。
 患者データベースを作成し、ホームページを通じて情報発信、情報収集、診断診療支援を行った。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

文献情報

文献番号
201324116B
報告書区分
総合
研究課題名
繊毛障害による先天異常疾患群の患者データベース構築と臨床応用のための基盤研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-078
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 雅之(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第二部)
研究分担者(所属機関)
  • 岩崎 裕治(東京都立東部療育センター)
  • 大野 耕策(山陰労災病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、①繊毛障害に起因する先天異常症候群の診断基準の策定、②全国疫学的調査により、有病率と臨床症状・経過に関する臨床データの集計・解析と研究リソースの収集、③既知原因遺伝子の解析と有馬症候群の原因遺伝子の同定と先天異常症候群の病態を解明することである。これら遺伝子診断と原因遺伝子の同定は先天異常症候群の診断に役立つだけでなく、病態理解に重要な役割を果たす。さらに、これらの結果から診断基準を作成し、関連学会の支援のもとに診断支援体制を作り、診断の標準化と普及、科学的な治療法や療育法、療育システムの構築を行い、医療の経済的効率化につなげる。
研究方法
(1)先天異常疾患群の診断基準作成と患者データベースの構築:患者数調査と実態調査を行ない、診断基準策定のための症例検討会(小児科医、病理医、腎臓医、遺伝医等)を設置し、疑い例を含む症例の多方面からの専門医による詳細な検討を行なった。主治医への聞取り等により正確な臨床診断を行った。この結果から、有馬症候群の診断基準を検討し、データベースを作成した。さらに、ホームページを作成し、生体試料の収集を行った。
(2) ジュベール症候群およびその関連遺伝子解析と有馬症候群原因遺伝子の同定:先天異常疾患群のDNA解析を、既知の先天異常疾患群の25原因遺伝子(資料2)について次世代シークエンサーによる遺伝子解析を行った。また、27名の患者DNAでAHI1、NPHP1、CEP290、TMEM67、RPGRIP1Lの5つの遺伝子解析についてWAVE核酸フラグメント解析を行った。
(倫理面への配慮)本研究を実施するにあたり、関連する指針や法を遵守した。本研究は、当該施設に設置されている倫理委員会等の必要な審査機関へ申請を行い、承認の後に行なった。
結果と考察
(1)先天異常疾患群の診断基準の策定と患者データベースの作成:患者数を明らかにし、診療状況の把握を行なった。症例検討会での検討結果、有馬症候群の診断基準(資料1)を改訂した。また、診断および研究のための生体試料の収集を行った。疾患情報のためのホームページを作成し、有馬症候群の診断基準の掲載と診断助言サービスの案内を行なった。
 これまでの調査から、有馬症候群8例とジュベール症候群15例の異同を明らかにし、改正した有馬症候群の臨床診断基準(資料1)を日本小児科学会誌に投稿した。今後、日本小児科学会、日本小児神経学会、日本先天異常学会と連携をはかり、診断基準や診療ガイドラインなどの提言を行う予定である。
(2) 診療支援:本研究班では、ホームページを開設し情報発信を行なっている。このホームページを利用して新たな患者情報の収集を行い、患者データベースを構築した。まず、有馬症候群7例およびジュベール症候群16例の患者登録を行い、これらをモデルとし、対象疾患の患者登録を始めた。
(3) 繊毛障害による先天異常疾患群の遺伝子解析、病態解明
有馬症候群の病的なCNVは明らかなものはなかった。エキソーム解析の結果、遺伝子異常を認め、サンガー法により確認した。また、27例中ジュベール症候群の臨床症状を示した17例の中で、AHI1遺伝子変異を1例、MKS3遺伝子変異を1例、RPGRIP1L遺伝子変異を2例に認めた。AHI1、MKS3、RPGRIP1L変異を認めた4例は腎機能障害や網膜機能障害を認めないジュベール症候群であったが、AHI1遺伝子変異では若年性ネフロン癆をきたす可能性があり、RPGRIP1L遺伝子変異でも腎病変や網膜異常を伴う例があり、今後の経過観察が必要である。
 今後、遺伝子解析を進め、先天異常症候群の有病率や臨床症状・臨床経過のバリエーションなどの実態を明らかにし、遺伝学的な背景から診断の標準化をねらう。これは疾患体系を生物学的に分類するだけでなく、診断を分かりやすくすることが期待できる。また、類縁疾患との関係を明確にでき、臨床研究の基盤を作ることにもつながる。特に、早期診断は腎機能の保存のために重要であり、生命予後を改善するのみならず、医療費と家族・介護者への負担の軽減が期待できる。
結論
繊毛障害に起因する先天異常症候群のデータベースを構築し、有馬症候群の診断基準を改訂した。また、ホームページを作成し、情報発信と診断支援を行なっている。
 有馬症候群の原因遺伝子候補がみつかり、病因性があるものと考えられた。また、既知25遺伝子のターゲットシークエンス解析を確立した。
 今後、これらの遺伝子解析と症例の追跡によって原因遺伝子変異と臨床症状の関連を明らかにし、予後因子を探索する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201324116C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1. 有馬症候群の原因遺伝子の同定:有馬症候群の症例を解析し、原因遺伝子の候補を同定した。
2. ジュベール症候群27例の遺伝子解析:AHI1、NPHP1、CEP290、TMEM67、RPGRIP1Lの5遺伝子について変異解析を行い、4例に片側アリルのみの変異を同定した。
3. 繊毛障害による先天異常疾患群の遺伝子診断の開発:既報告25遺伝子について、ターゲットシークエンス解析を確立した。
臨床的観点からの成果
1. 繊毛障害による先天異常疾患群の患者データベース:患者データベースを構築し、これを基に疫学データを解析した。
2. 診断支援:小児科医、病理医、腎臓医、遺伝医等によるコンソーシアムを組織し、症例検討会、診断相談等の診断支援を行なった。その結果、新たに有馬症候群1名とジュベール症候群2名の診察と助言を行なった。また、診断等に関する問い合わせが10件あり、疾患の情報提供や診断についての助言、指導を行った。
ガイドライン等の開発
1. 診断基準:繊毛障害による先天異常疾患群のうち、有馬症候群8例とジュベール症候群15例の異同を明らかにし、有馬症候群の臨床診断基準を改正し、診断の手引きを作成した。
その他行政的観点からの成果
1. 難治性疾患のバイオバンクの構築:繊毛障害による先天異常疾患群患者の生物試料(血液、髄液、DNA、繊維芽細胞など)の収集と管理を行った。
その他のインパクト
1. ホームページ:「有馬症候群とジュベール症候群の窓」という本研究班のホームページを立ち上げて、疾患情報の公開とデータベースの登録案内、診療支援の紹介などを行なった。また、診断基準と研究成果の一部を公開した。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Itoh M, Iwasaki Y, Ohno K, et al.
Nationwide survey of Arima syndrome: Revised diagnostic criteria from epidemiological analysis
Brain Dev , 36 , 388-393  (2014)
doi.org/10.1016/j.braindev.2013.06.005
原著論文2
Itoh M, Iwasaki Y, Hayashi M, Arima M.
Reply to the Letter: “Nationwide survey of Arima syndrome: Revised diagnostic criteria from epidemiological analysis”
Brain Dev , 36 , 89-89  (2014)
doi.org/10.1016/j.braindev.2013.08.012
原著論文3
岩崎裕治, 伊藤雅之, 大野耕策, 他
有馬症候群の全国調査と診断基準の検討
小児科学会雑誌  (2014)

公開日・更新日

公開日
2014-05-21
更新日
2018-05-22

収支報告書

文献番号
201324116Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,500,000円
(2)補助金確定額
6,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,100,124円
人件費・謝金 270,000円
旅費 518,520円
その他 2,111,356円
間接経費 1,500,000円
合計 6,500,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
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