新しい新生児代謝スクリーニング時代に適応した先天代謝異常症の診断基準作成と治療ガイドラインの作成および新たな薬剤開発に向けた調査研究

文献情報

文献番号
201324109A
報告書区分
総括
研究課題名
新しい新生児代謝スクリーニング時代に適応した先天代謝異常症の診断基準作成と治療ガイドラインの作成および新たな薬剤開発に向けた調査研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-071
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
遠藤 文夫(熊本大学 大学院生命科学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 新宅 治夫(大阪市立大学 大学院医学研究科)
  • 呉 繁夫(東北大学大 学院医学系研究科)
  • 小国 弘量(東京女子医科大学 小児科学)
  • 大浦 敏博(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 高柳 正樹(千葉県こども病院)
  • 大竹 明(埼玉医科大学 小児科)
  • 山口 清次(島根大学 医学部)
  • 杉江 秀夫(自治医科大学 小児科学)
  • 深尾 敏幸(岐阜大学 大学院医学系研究科)
  • 太田 孝男(琉球大学 大学院医学研究科)
  • 奥山 虎之(国立成育医療研究センター 臨床検査部)
  • 中村 公俊(熊本大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成25年度の本研究は、先天代謝異常症の診断基準作成と治療ガイドラインの作成などを目指して、平成24年度に引き続いて実施した継続研究である。旧奨励研究班における実態調査などの研究成果をもとにした研究を組織し、25年度においてもこれを継続した。
平成25年度における研究の対象疾患はアミノ酸代謝異常症、有機酸代謝異常症、脂肪酸カルニチン代謝異常症、ケトン体代謝異常症、尿素サイクル異常症、GLUT1欠損症、ビオプテリン代謝障害、糖原病、コレステリルエステル転送障害である。これらの対象疾患は平成24年度の対象疾患と同様である。
本研究においては、まず新しい新生児代謝スクリーニング時代に適応した先天代謝異常症の診断基準作成と治療ガイドラインの作成を目指すとともに、これらの研究は将来において新薬の治験、新規治療法の開発をめざし、とくに患者登録制度、バイオバンクなどの新しい枠組みに発展させていくものとして位置付けている。
研究方法
ガイドラインの策定と対象疾患については、本研究の対象疾患はアミノ酸代謝異常症(呉・中村)、ビオプテリン代謝障害(新宅)、尿素サイクル異常症(遠藤・高柳)、有機酸代謝異常症(山口)、脂肪酸代謝障害(山口・深尾)、高乳酸血症(大竹)、ケトン代謝障害(深尾)、グルコーストランスポーター1(GLUT1)欠損症(小国)、糖原病(杉江)、コレステリルエステル転送障害(太田)である。診断基準の策定の全体的な方針は分担研究者の深尾(岐阜大学小児科学教授)が主に担当した。深尾は先天代謝異常学会のガイドライン策定委員会の委員長としても、学会と厚生労働科学研究の間の橋渡しなどに関与し、取りまとめを行った。各分担研究者と研究協力者は平成24年度に策定した診断基準について、学会(日本先天代謝異常学会及び日本小児科学会)内での議論を中心となって進めた。同様に治療ガイドラインの作成には上記のように班員及び研究協力者が参加した。
結果と考察
本研究班は先天代謝異常症の明確な診断基準、治療ガイドラインを示すことで、担当医や患者会への情報提供を行うものである。小児希少難病の患者会ネットワークに関する研究班(奥山班)の成果を活用しながら患者会と協力し臨床研究を推進することとした。
平成25年度には希少難病である先天代謝異常症を治療する際の、学会で認定された治療ガイドラインを作成することを目指した。とくに、最近のスクリーニング事業の発展によって疾患の症状が発症する前にスクリーニング検査によって発見される疾患が増加している。これらの疾患を対象とした治療ガイドライン作成は、スクリーニング検査の効果判定においても重要である。とくに公費による多項目新生児スクリーニングが多くの自治体で実施されるようになった状況においては、全国的に均一な診断のための環境を整備する必要性があると考えた。その観点から、多くの診療施設で応用可能な統一的な診断基準の策定を目指した。とくに専門家の集団である日本先天代謝異常学会の学会内委員会での共同作業を進めることで、学会が認定するところの診断基準の策定を目指した。
これまで多くの専門医及び研究者が厚生労働科学研究において、先天代謝異常症の研究に取り組んできた。その中にはそれぞれの立場からの研究成果として優れた診断基準、あるいは治療基準などの提案がみられている。これらの研究成果をみると、希少な先天代謝異常症の診断には代謝物の化学分析、欠損の疑いのある酵素に関する酵素活性の測定、疾患責任遺伝子の変異解析、あるいは病理診断などにおいて、全国的なネットワークを活用した取り組みが必須である。このような特殊診断技術を有する専門施設及び専門家の連携を有機的に組織していく必要がある。本研究においてはこれまでの構築されてきているこのような診療協力体制をさらに発展させることができた。
ガイドライン案については平成25年度の研究で各分担研究者が日本先天代謝異常学会ガイドライン策定委員会(深尾敏幸委員長)と共同で取りまとめたガイドライン案は巻末に示した。
結論
ガイドラインの作成は始まったばかりであり、今後は診断基準に基づく患者発生状況の調査の実施、ガイドラインの適正度を検証していく作業、これまでに対象とした疾患以外のガイドラインの作成を行いながら、患者登録制度にも協力し、継続可能は難病対策を確立していく必要がある。同時に国際的な交流を通して、海外との共同で、エビデンスレベルの高いガイドラインの作成を目指す必要があると考えられた

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

文献情報

文献番号
201324109B
報告書区分
総合
研究課題名
新しい新生児代謝スクリーニング時代に適応した先天代謝異常症の診断基準作成と治療ガイドラインの作成および新たな薬剤開発に向けた調査研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-071
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
遠藤 文夫(熊本大学 大学院生命科学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 新宅 治夫(大阪市立大学 大学院医学研究科)
  • 呉 繁夫(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 小国 弘量(東京女子医科大学 小児科学)
  • 大浦 敏博(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 高柳 正樹(千葉県こども病院)
  • 大竹 明(埼玉医科大学 小児科)
  • 山口 清次(島根大学 医学部)
  • 杉江 秀夫(自治医科大学 小児科学)
  • 深尾 敏幸(岐阜大学 大学院医学系研究科)
  • 太田 孝男(琉球大学 大学院医学研究科)
  • 奥山 虎之(国立成育医療研究センター 臨床検査部)
  • 中村 公俊(熊本大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究においては、まず新しい新生児代謝スクリーニング時代に適応した先天代謝異常症の診断基準作成と治療ガイドラインの作成を目指すとともに、これらの研究は将来において新薬の治験、新規治療法の開発を目指し、とくに患者登録制度、バイオバンクなどの新しい枠組みに発展させていくものとして位置付けている。
先天代謝異常症の診療においては、欧州、米国においても診断方法、治療方法の確立の遅れ、専門医療施設の不足、専門医の不足が指摘されている。それぞれの疾患の希少性及び疾患数が多いことに大きな要因がある。さらに診断基準及び治療ガイドラインの確立も、国際的にみてもごく一部の疾患でしか整備されていない。
研究推進にあたっては他の研究班(厚生労働科学研究)との連携を密にとることを実現してきた。平成25年度の研究では、24年度の研究に引き続いて小児疾患の移植治療の研究を進めている加藤班とも協力し、さらに奥山班(厚生労働科学研究)における患者登録の推進とも連携した研究を実施した。最終的には希少難病治療のコンソーシアム形成する方向での研究と位置付けた。
対象疾患としてアミノ酸代謝異常症、有機酸代謝異常症、脂肪酸カルニチン代謝異常症、ケトン体代謝異常症、尿素サイクル異常症、GLUT1欠損症、ビオプテリン代謝障害、糖原病、コレステリルエステル転送障害を取り上げて、我が国における診断治療の標準化を目指した診断基準及び治療ガイドラインの策定を目指した
研究方法
本研究の対象疾患はアミノ酸代謝異常症(呉)、ビオプテリン代謝障害(新宅)、尿素サイクル異常症(遠藤・中村)、有機酸代謝異常症(高柳)、脂肪酸代謝障害(山口・深尾)、高乳酸血症(大竹)、ケトン代謝障害(深尾)、グルコーストランスポーター1(GLUT1)欠損症(小国)、糖原病(杉江)、コレステリルエステル転送障害(太田)である。診断基準の策定の全体的な方針は分担研究者の深尾が主に担当した。
診断基準は主に平成24年度の研究で作成した。またガイドラインについては主に平成25年度の研究でその案を示した。これらは各分担研究者が日本先天代謝異常学会ガイドライン策定委員会(深尾敏幸委員長)と共同で取りまとめた「学会認定された疾患の診断基準」とガイドライン(案)としてまとめた。
結果と考察
平成24年度の研究では、診断基準の作成に主な努力を傾注した。そして、これまで診断基準が策定されていない疾患について、本研究において診断基準を策定し、関連する学会との意見交換を通して、最終的に学会が公認するところの診断基準の策定を行った。
とくに我が国において実施されている先天性代謝異常症の新生児マス・スクリーニングの対象疾患は極めて重要である。そこで本研究は、優先的に取り組むべき疾患として、新たな新生児マス・スクリーニング対象疾患であるアミノ酸代謝異常症、有機酸代謝異常症、脂肪酸代謝異常症を取り上げた。
平成25年度は研究開始2年目となり、ガイドライン作成へと予定通りに進めることができた。
また各分担研究者の各自の研究部分では、昨年度に引き続き、わが国における患者発生状況などを踏まえた研究が有効に推進できたと考える。いずれも稀で重篤な疾患であり、かつ成人期への移行の問題が多くなっている。今後の研究では成人期以降の問題を解決するための方策を具体的に立案し実施体制を整えていくことが重要である。
予算の有効な執行については当初の研究計画通り、各分担研究者がそれぞれの研究に有効に予算を執行したことに加え、会議を開催するうえで有効に利用することができた。
患者会との連携については奥山班との共同において、患者からの声を直接聴取することができ、これを研究に応用できた。
結論
ガイドラインについては、第1案を作成することができた。今後学会内部での幅広い検討などとともに、改良点を見つけ出し、さらに改善されたガイドラインの作成を進める必要がある。昨年度に作成した診断基準とともに、実際の臨床の現場で有効な活用ができていくかどうかというところも、十分に検証して行く必要があり、研究継続していく意義は大きい。特に重症度分類については、さらに詳細な検討を重ね、患者と家族の辞退を反映するものに近付けていく努力を継続しなければならないと考える。
この研究で策定した診断基準は研究分担者と学会の策定委員会が緊密な議論を交わすことで完成した。その後、学会のホームページにも掲載し、広く意見を求め、最終的に学会認定基準とすることができた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-03-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201324109C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究においては、まず新しい新生児代謝スクリーニング時代に適応した先天代謝異常症の診断基準作成が達成できた。次に治療ガイドラインの作成を進めた。診断基準と治療ガイドラインの作成は、将来において新薬の治験、新規治療法の開発を目指し、とくに患者登録制度、バイオバンクなどの新しい枠組みに発展させていくものとして学術的に大きな意義がある。またここで推進した患者登録も同様に学術的には将来への有用な成果である。
臨床的観点からの成果
我が国において、新生児代謝スクリーニング時代に適応した先天代謝異常症に対して初めて学会で承認される診療ガイドラインが作成されていることの臨床的な意義は大変大きい。新生児マススクリーニングは平成25年度末にはほとんどの自治体で開始されている。今後、全国の新生児が、同じ基準で診断、治療を受けることのできる基準が示された意義は大きい。
ガイドライン等の開発
24年度では新生児代謝スクリーニング時代に適応した先天代謝異常症の診断基準青作成し、25年度には診療ガイドラインの策定を行った。対象疾患はアミノ酸代謝異常症、ビオプテリン代謝障害、尿素サイクル異常症、有機酸代謝異常症、脂肪酸代謝障害、高乳酸血症、ケトン代謝障害、グルコーストランスポーター1(GLUT1)欠損症、糖原病、コレステリルエステル転送障害である。今後は疾患の追加と適切な時期に継続して改定していくことなど、意義を高めていきたい。
その他行政的観点からの成果
タンデムマスを用いた新生児マススクリーニングは平成25年度から全国で実施されている。このスクリーニングで見出される難病に対して、統一した診断基準と有益な治療ガイドラインを示すことができることは大変重要である。
その他のインパクト
今後はガイドラインに基づく診療を普及させることで、対象疾患においては最新の治療を通して、予後の改善がはかられる。今後作成される予定の成人期へ移行した患者の診療向けた長期のガイドラインなどへの基礎となる。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
51件
その他論文(和文)
49件
その他論文(英文等)
32件
学会発表(国内学会)
101件
学会発表(国際学会等)
35件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shintaku H, Ohwada M.
Long-term follow-up of tetrahydrobiopterin therapy in patients with tetrahydrobiopterin deficiency in Japan.
Brain Dev. , 35 (5) , 406-410  (2013)
原著論文2
Yamazaki T, Murayama K,Ohtake A. et al.
Molecular diagnosis of mitochondrial respiratory chain disorders in Japan: Focusing on mitochondrial DNA depletion syndrome.
Pediatr Int , 56 (2) , 180-1897  (2014)
原著論文3
Ohtake A, Murayama, K, Mori M. et al.
Diagnosis and molecular basis of mitochondrial respiratory chain disorders: exome sequencing for disease gene identification.
Biochim Biophys Acta (General Subjects on Special Issue: Frontiers of Mitochondria.) , 1840 (4) , 1355-1359  (2014)
原著論文4
Ihara K, Yoshino M, Hoshina T. et al.
Coagulopathy in patients with late-onset ornithine transcarbamylase deficiency in remission state: A previously unrecognized complication
Pediatrics , 131 (1) , e327-e330  (2013)
原著論文5
Shafqat N, Kavanagh KL,Fukao T. et al.
A structural mapping of mutations causing succinyl-CoA:3-ketoacid CoA transferase (SCOT) deficiency.
J Inherit Metab Dis. , 36 (6) , 983-987  (2013)
原著論文6
Fukao T, Aoyama Y, Murase K. et al.
Development of MLPA for Human ACAT1 Gene and Identification of a Heterozygous Alu-mediated Deletion of Exons 2 and 3 in a Patient with Mitochondrial Acetoacetyl-CoA Thiolase (T2) Deficiency.
Mol Genet Metab , 110 , 184-187  (2013)
原著論文7
Fukao T, Maruyama S, Ohura T. et al.
Three Japanese patients with beta- ketothiolase deficiency whoshare a mutation, c.431A>C (H144P) in ACAT1: subtle abnormality in urinary organic acid analysis and blood acylvcarnitine analysis using tandem mass spectrometry.
JIMD reports , 3 , 107-115  (2012)
原著論文8
Kido J, Nakamura K,Endo F. et al.
Current status of hepatic glycogen storage disease in Japan: clinical manifestations, treatments and long-term outcomes.
J. Hum. Genet , 58 (5) , 285-292  (2013)
原著論文9
Yamamoto A, Nakamura K,Endo F. et al.
VLCAD deficiency in a patient who recovered from VF, but died suddenly of an RSV infection.
Pediatr Int , 55 (6) , 775-778  (2013)

公開日・更新日

公開日
2017-06-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201324109Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
23,400,000円
(2)補助金確定額
23,400,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 10,628,341円
人件費・謝金 4,433,881円
旅費 2,120,100円
その他 817,678円
間接経費 5,400,000円
合計 23,400,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-