ミトコンドリア脳筋症MELASの脳卒中様発作に対するタウリン療法の開発

文献情報

文献番号
201324106A
報告書区分
総括
研究課題名
ミトコンドリア脳筋症MELASの脳卒中様発作に対するタウリン療法の開発
課題番号
H24-難治等(難)-一般-068
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
砂田 芳秀(川崎医科大学 医学部神経内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 後藤 雄一(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター神経研究所 疾病研究第2部)
  • 古賀 靖敏(久留米大学 医学部小児科学)
  • 太田 成男(日本医科大学大学院医学研究科 加齢科学)
  • 萩原 宏毅(帝京科学大学 医療科学部)
  • 村上 龍文(川崎医科大学 医学部神経内科学)
  • 大澤 裕(川崎医科大学 医学部神経内科学)
  • 西松 伸一郎(川崎医科大学 分子生物学1)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
70,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
MELASはミトコンドリアtRNALeu(UUR)遺伝子のクローバーリーフ領域の一塩基変異によるが、われわれは世界に先駆け、正常tRNALeu(UUR)のアンチコドン1文字目がタウリン修飾を受け、一方、MELASの変異tRNALeu(UUR)ではこの修飾が欠損し転写障害が惹起されることを発表した。さらにタウリンを大量投与するとモデル細胞のミトコンドリア機能障害が改善、2例のMELAS患者の反復する脳卒中様発作が抑制されることからMELASの基本病態をtRNALeu(UUR) アンチコドン1文字目のタウリン修飾異常症と提唱した。タウリンは、すでに1987年に高ビリルビン血症とうっ血性心不全を適応とした薬事承認をうけ、これまで重篤な副作用報告はなく安全性の高い薬剤と考えられている。本研究は、MELAS病態へのタウリンの関与という独創的知見から、MELAS脳卒中様発作の再発抑制のためタウリン大量経口投与の医師主導治験を実施して国内薬事承認を目指している。
研究方法
治験を実施するに先立って、ミトコンドリア病調査研究班、日本神経学会、日本小児神経学会のバックアップを受けMELAS全国疫学調査を実施し、それぞれの専門医認定施設(合計911施設)の診療部長宛ての全国MELAS一次アンケート調査を実施した。これまで最大のMELAS患者:291名(小児科68名/神経内科223名)が集計され、このうち過去2年間に2回以上の脳卒中様発作のあった脳卒中様発作反復患者数は83名(小児科33名/神経内科50名)で全MELAS患者数に占める比率は、小児科が高率であった。二次調査は過去1年間で2回以上の脳卒中様発作があった28症例(神経内科14例/小児科14例)を対象に実施し、アルギニン併用が多い実態が明らかとなった。さらに二次・三次調査により本研究実施の障害となる項目について確認をおこない最終的にはアルギニン非併用:2例;アルギニン併用例:11例が選択された。全ての候補症例の平均発作回数は 3.08回であった。この疫学調査の結果を勘案し、本研究ではタウリン投与の対象となる目標症例は、過去1.5年間で2回以上、かつ1年で1回以上の脳卒中様発作を反復したA3243G-及びT3291C-MELAS15症例とした。これに基づき、試験薬タウリン多施設共同・オープン・Phase III試験のプロトコルを作成した。
結果と考察
PMDAおよび実施医療機関のIRB承認を得て平成25年9月に治験計画届を提出した。GMP基準試験薬タウリン(KN-01)については企業から供与をうけ、平成25年10月から平成26年1月までに全10患者10医療施設で治験薬の投与を開始した。投与期間は1年間で、平成27年1月初旬までを脳卒中様発作の観察期間とした。効果は、100%レスポンダー率(脳卒中様発作の完全抑制)を主要評価項目とする。脳卒中様発作の定義は、以下の①~⑥の発作時突発性局所神経徴候(①片麻痺あるいは単麻痺 ②皮質性感覚障害(感覚消去) ③皮質性視覚障害(閃輝暗点、皮質盲) ④失語 ⑤失行 ⑥失認)のいずれかを有するものとし、かつ頭部MRIの核酸強調画像で異常信号域が認められるもの、とした。副次評価項目としては、ミトコンドリア病重症度スコア(JMDRS)、50%レスポンダー率、特殊検査(血中・髄液の乳酸値、ピルビン酸値、乳酸/ピルビン酸比、タウリン値)、画像検査(頭部MRI検査)などについて検討する。薬効モニタリングについては血清・白血球を用いたミトコンドリア遺伝子変異率、プライマー延長法によるtRNALeu(UUR)タウリン修飾率、ウエスタンブロットによるミトコンドリアのLeu(UUR)-rich蛋白質であるND6蛋白質量測定についてアッセイ系を構築し、それぞれ任意検査としてFirst-in man での解析によるPCT取得を目指している。安全性については自覚症状、他覚所見及び各検体検査を総合し、治験責任医師及び治験調整医師がタウリン自体の有害事象か判定することにした。
結論
ミトコンドリア病に対して保険適応を獲得した薬剤は世界的に皆無である。既に高ビリルビン血症と心不全を適応として薬事承認されているタウリンによる治療が確立できれば、厚生労働行政の課題である希少難病対策の一翼を担える。日本で遺伝子変異が同定され RNA修飾異常というユニークな病態が発見された疾患MELASの独創的な病態介入療法として、厚生労働科学研究費補助金事業と我が国の医薬品開発力の卓越性を世界にアピールし国際標準化治療としたい。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201324106Z