先天性中枢性低換気症候群(CCHS)の診断・治療・管理法の確立

文献情報

文献番号
201324102A
報告書区分
総括
研究課題名
先天性中枢性低換気症候群(CCHS)の診断・治療・管理法の確立
課題番号
H24-難治等(難)-一般-064
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
早坂 清(国立大学法人山形大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木綾子(国立大学法人山形大学 医学部)
  • 長谷川久弥(東京女子医科大学東医療センター)
  • 鈴木康之(独立行政法人国立成育医療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,050,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天性中枢性低換気症候群(CCHS)は,呼吸中枢の形成および自律神経系の分化・誘導に重要な役割を有しているPHOX2Bの遺伝子異常が病因である.臨床的にCCHSを疑われた症例におけるPHOX2B遺伝子変異の有無による臨床的特徴およびPHOX2B変異を有する症例では,遺伝子型と臨床型の関係を明らかにすること,さらにCCHSにおける炭酸ガス換気応答試験の詳細な検討,長期にわたる呼吸管理の実態調査を行うことにより,日本におけるCCHSの診断・治療・管理に関する情報を整理し,国内における標準的な医療の普及および患者家族の会の支援を目的とする.
研究方法
1)PHOX2B 遺伝子変異の有無による臨床的特徴および遺伝型と臨床型の関係について:遺伝子検索を施行した主治医にアンケート調査し,回収した60例について解析した.変異を検出した92例を対象に変異型と臨床型との関係について,解析した.
2)CCHSにおける炭酸ガス換気応答試験の検討: CCHS 5例を対象とし,アイビジョン社の呼吸機能測定装置を用い,Readらによる再呼吸法にて測定した.比較対象は,正常新生児,無呼吸発作を呈する早産児23例,特発性無呼吸発作児19例と比較した.青年期測定については,文献と比較した.
3)呼吸管理方法の検討ついて:日本に導入される可能性が高いSynaps社のNeu Rx®との違いを検討した.医療経済的側面では現在の各種の呼吸治療管理方法を検討した.
結果と考察
1) PHOX2B 遺伝子変異の有無による臨床的特徴および遺伝型と臨床型の関係について
 遺伝子変異を有する症例では,診断時に睡眠時高炭酸ガス血症,低酸素血症を認め,生涯人工呼吸管理を必要としていた症例が多かった.遺伝子変異を認めなかった症例では,睡眠時高炭酸ガス血症,低酸素血症を認めたものが少なく,人工呼吸器から離脱している症例が多かった.これらの情報は診断のうえで,参考となる.
 変異と臨床型との関係では,アラニン伸長数に比例して自律神経症状の合併頻度が高いことが確認された.25PARMは軽症で,不完全浸透を示し未発症例も存在する.しかし,低酸素脳症によると考えられる精神運動発達遅延例が多く,非典型的な経過のために,診断および治療が遅れるためと考えた.NPARMsでは重症例が多いが,c.590delGの新規変異例では,軽症型であった.遺伝子型と病型との関係は臨床に有用な情報を提供すると考える.
2)先天性中枢性低換気症候群(CCHS)における炭酸ガス換気応答試験の検討
 乳児期CCHSの4測定の平均は2.7 mL/min/kg/mmHg (-0.2~7.0)であった.正常新生児の基準値は40.4±14.8,修正29週から36週までの早産児23例の平均は23.9±8,9,特発性無呼吸発作児19例の報告例では19.2±9.8であり,CCHSの炭酸ガス換気応答値は極めて低値であり,正常新生児とは,オーバーラップしている症例はなかった.青年期における2測定の平均は0.01L/m2/min/mmHg (-0.04~0.02)であった.正常成人の報告では0.74~1.26L/m2/min/mmHgであり,青年期測定においてもCCHSでは炭酸ガス換気応答値は低値であった.
 無呼吸発作を呈するCCHS以外の疾患として早産児と特発性無呼吸発作児との比較を行ったが,CCHSの炭酸ガス換気応答値はこれらの症例に比しても低値であり,呼吸中枢障害が重篤であることが示唆された.また,CCHSの呼吸中枢障害は永続的であることが確認された.
3)呼吸管理方法の検討ついて
 我が国で唯一,横隔神経ペーシングを用いて呼吸管理されているCCHSの20歳の男性について要約を示し,現在の問題点を示した.更に,各種の呼吸管理法について医療コストを比較検討した.横隔神経ペーシングは,気管切開人工呼吸管理(TPPV)やマスクによる非侵襲的人工呼吸管理(NPPV)と比較し,1/4~1/3分の医療費になると推定した.各種呼吸管理法による安全性と予後について文献的考察を行い,症例数を増やしての詳細な検討と管理指針の確立の必要性が考えられた.
結論
 国内における新生児医療の水準は高い状況であるが,CCHSに関しては医療者に周知されていない.診断に関する知識の伝達と安全かつQOLを高める治療方針の確立と周知が求められる.特に,非典型例では,新生児期に遺伝子や呼吸機能解析による診断が予後を決定することが示唆されており,知識の普及が必要と考える.

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201324102B
報告書区分
総合
研究課題名
先天性中枢性低換気症候群(CCHS)の診断・治療・管理法の確立
課題番号
H24-難治等(難)-一般-064
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
早坂 清(国立大学法人山形大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木綾子(国立大学法人山形大学 医学部)
  • 長谷川久弥(東京女子医科大学東医療センター)
  • 鈴木康之(独立行政法人国立成育医療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天性中枢性低換気症候群(CCHS)は,呼吸中枢の形成および自律神経系の分化・誘導に重要な役割を有しているPHOX2Bの遺伝子異常が病因である.アラニンの伸長変異 (PARMs)が90%以上,非アラニン伸長変異(NPARMs)が約10%である. PARMsの殆どは,突然変異によると考えられてきたが,最近,約25%は変異のモザイクの親からの遺伝であることが報告され,確認する必要がある.また,臨床的にCCHSを疑われた症例におけるPHOX2B遺伝子変異の有無による臨床的特徴およびPHOX2B遺伝子変異型と臨床型の関係を明らかにすること,さらにCCHSにおける炭酸ガス換気応答試験の詳細な検討,長期にわたる呼吸管理の実態調査を行うことにより,日本におけるCCHSの診断・治療・管理に関する情報を整理し,国内における標準的な医療の普及および患者家族の会の支援を目的とする.
研究方法
1)PARMsの遺伝形式について:fragment analysisによる鋭敏なモザイクの検出法の確立を試み,PARMs 45症例の両親におけるモザイクの有無を解析した.
2)PHOX2B 遺伝子変異の有無による臨床的特徴および遺伝型と臨床型の関係について:遺伝子検索を施行した主治医にアンケート調査し,回収した60例について解析した.変異を検出した92例を対象に変異型と臨床型との関係について,解析した.
3)CCHSにおける炭酸ガス換気応答試験の検討: CCHS 5例を対象とし,アイビジョン社の呼吸機能測定装置を用い,Readらによる再呼吸法にて測定した.比較対象は,正常新生児,無呼吸発作を呈する早産児23例,特発性無呼吸発作児19例と比較した.青年期測定については,文献と比較した.
4)呼吸管理方法の検討ついて:日本に導入される可能性が高いSynaps社のNeu Rx®との違いを検討した.医療経済的側面では現在の各種の呼吸治療管理方法を検討した.
結果と考察
1)鋭敏なモザイクの検出法の確立し45名の両親を検索した.1名はlate-onset CCHSの親から,9名は無症状の体細胞モザイクの親から遺伝していることを確認した.22%は遺伝により,遺伝子解析は遺伝カウンセリングに有用な情報を提供する.
2)遺伝子変異を有する症例では,睡眠時高炭酸ガス血症,低酸素血症を認め,生涯人工呼吸管理を必要としていた症例が多かった.遺伝子変異を認めなかった症例では,睡眠時高炭酸ガス血症,低酸素血症を認めたものが少なく,人工呼吸器から離脱している症例が多かった.
 変異と臨床型との関係では,アラニン伸長数に比例して自律神経症状の合併頻度が高いことが確認された.25PARMでは,低酸素脳症によると考えられる精神運動発達遅延例が多く,非典型的な経過のために,診断および治療が遅れるためと考えた.c.590delGの新規変異例では,軽症型であった.遺伝子型と病型との関係は臨床に有用な情報を提供する.
3)乳児期CCHSの4測定の平均は2.7 mL/min/kg/mmHg (-0.2~7.0)であった.正常新生児は40.4±14.8,修正29週から36週までの早産児23例の平均は23.9±8,9,特発性無呼吸発作児19例では19.2±9.8であり,CCHSの炭酸ガス換気応答値は極めて低値であり,正常新生児とは,オーバーラップしなかった.青年期における2測定の平均は0.01L/m2/min/mmHg (-0.04~0.02)で,正常成人は0.74~1.26L/m2/min/mmHgであり,青年期においてもCCHSでは炭酸ガス換気応答値は低値であった.
 無呼吸発作を呈する早産児と特発性無呼吸発作児との比較を行ったが,CCHSの炭酸ガス換気応答値はこれらの症例に比しても低値であり,呼吸中枢障害が重篤で永続的であることが示された.
4)呼吸管理方法の検討ついて
 横隔神経ペーシングを用いて呼吸管理されているCCHSの20歳の男性について要約を示し,現在の問題点を示した.更に,各種の呼吸管理法について医療コストを比較検討した.横隔神経ペーシングは,気管切開人工呼吸管理(TPPV)やマスクによる非侵襲的人工呼吸管理(NPPV)と比較し,1/4~1/3分の医療費になると推定した.各種呼吸管理法による安全性と予後について文献的考察を行い,症例数を増やしての詳細な検討と管理指針の確立の必要性が考えられた.
結論
 国内における新生児医療の水準は高い状況であるが,CCHSに関しては医療者に周知されていない.診断に関する知識の伝達と安全かつQOLを高める治療方針の確立と周知が求められる.特に,非典型例では,新生児期に遺伝子や呼吸機能解析による診断が予後を決定することが示唆されており,知識の普及が必要と考える.

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201324102C

成果

専門的・学術的観点からの成果
先天性中枢性低換気症候群の病因はPHOX2B遺伝子変異であり,症例の90%以上にはポリアラニン伸長変異(PARM),10%以下には非ポリアラニン伸長変異(NPARM)が検出される.25PARMでは,未発症のものも存在し,発症には他の遺伝的素因もしくは環境因子の関与が考えられる.今回,発症者には男児が女児の3倍多く検出された.発症に性差が存在するという新しい知見が得られた.また,NPARMでは重篤であることが知られているが,軽症な1つの変異を含め,新規の変異を4種検出した.
臨床的観点からの成果
先天性中枢性低換気症候群の診断には,生理学的な呼吸機能検査および遺伝子診断がある.前者には,新生児を対象とし技術的な困難さがあるが,簡便な生理学的検査法を確立した.また,遺伝子診断はシステムを確立していれば,簡便で遠方の症例でも診断可能である.国内の多くの施設に遺伝子診断サービスを提供してきた.本症では,遺伝子型と臨床型の関係が明らかにされており,診断により治療方針が決定され,合併症についても情報が得られる.本研究は,国内の新生児医療の向上に大きく貢献してきた.
ガイドライン等の開発
症例数が少なく,現在は主治医の考えで個別に診断治療が行なわれている.欧米の医療と比較し高度とは言えない.ガイドラインというよりも,治療指針の作成が急がれるが,未だ準備段階である.

その他行政的観点からの成果
行政に対しては,特にない
その他のインパクト
患者の会を支援し,医療や病態について講演し,問題点について討論した.医療支援の問題点などについても情報を確認した.

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2016-06-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
201324102Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,265,000円
(2)補助金確定額
5,265,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,067,871円
人件費・謝金 0円
旅費 840,030円
その他 2,142,099円
間接経費 1,215,000円
合計 5,265,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-