メビウス症候群の自然歴に基づく健康管理指針作成と病態解明

文献情報

文献番号
201324099A
報告書区分
総括
研究課題名
メビウス症候群の自然歴に基づく健康管理指針作成と病態解明
課題番号
H24-難治等(難)-一般-061
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
升野 光雄(川崎医療福祉大学 医療福祉学部 医療福祉学科)
研究分担者(所属機関)
  • 黒澤 健司(神奈川県立こども医療センター 遺伝科)
  • 松井 潔(神奈川県立こども医療センター 総合診療科)
  • 大山 牧子(神奈川県立こども医療センター 新生児科 )
  • 相田 典子(神奈川県立こども医療センター 放射線科)
  • 二宮 伸介(倉敷中央病院 遺伝診療部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
メビウス症候群は、先天性顔面神経麻痺と先天性外転神経麻痺を特徴とするが、他の脳神経麻痺や四肢形態異常を伴うこともある。多くは孤発例であるが、30家系ほどの家族例の報告がある。本研究の目的は、1)メビウス症候群の診断基準を改訂する。2)正確な自然歴に基づいた診療ガイドラインを作成する。3)中枢神経系画像と臨床像との関連を明らかにする。4)原因解明のためゲノム解析による責任遺伝子同定をめざす。5)患者の生体試料を収集(ゲノムDNA・細胞株の樹立)・保存し、将来の治療開発への基盤を整備することである。
研究方法
1)診断基準の改訂
メビウス症候群の類縁疾患も含めた全国二次調査(過去5年間)症例と小児専門病院(過去24年間)の典型症例における臨床像と医療管理の調査(平成23・24年度)をもとに昨年度本研究班で作成したメビウス症候群の診断基準について、用語の修正と説明を補足し一部改訂した。
2)自然歴に基づいた診療ガイドライン作成
本研究班で明らかにした正確な自然歴に基づき、鑑別診断、ライフステージに応じた医療的ケアと療育のポイントをまとめて小児期診療ガイドラインとした。
3)中枢神経系MRI画像所見の検討
全国二次調査症例のうち、MRIによる中枢画像解析の協力が得られ画像が提供された16例(典型例13例、先天性外転神経麻痺を伴わない不全例3例)には脳幹の形態と信号異常を、2mm以下の3D画像が撮像された14例(典型例11例、不全例3例)では第6・第7脳神経の形態について検討した。
4)責任遺伝子同定に向けた戦略
メビウス症候群類縁疾患を含むcongenital cranial dysinnervation disordersで確認されている8個の責任遺伝子およびその遺伝子と機能的にクラスターあるいはネットワークを構成する代表的な44遺伝子(GenomeNetで検索)の計52候補遺伝子をHaloPlex・次世代シークエンサーにより典型例17例に解析した。更に全エクソーム解析に着手した。
結果と考察
1)診断基準の改訂
本研究班で作成したメビウス症候群の診断基準について、平成25年4月17日に日本小児遺伝学会理事会で承認を得た。さらに補助項目の中枢神経系画像診断の用語をより明確な表現にし、鑑別診断の周産期脳障害に説明を追加した。
2)自然歴に基づいた診療ガイドライン作成
本症の症状は、先天性顔面神経麻痺・外転神経麻痺に限局した例から、新生児期より濃厚な医療を必要とする例まで幅が広い。重症例の症状は類似しており積極的な医療的ケアを行うことでQOLの改善、発達・発育の促進が得られる。重症例も徐々に医療的ケアから離脱でき、発達も緩徐ではあるが確実に伸びていく。そのためには早期診断が必要で、神経学的所見と画像検査が重要である。本症に類似した「メビウス様症候群」を呈する疾患も同様に幅が広く医療的ケアは類似している。鑑別診断、ライフステージに応じた医療的ケアと療育のポイントをまとめ、小児期診療ガイドラインを作成した。
3)在宅医療管理支援のためのツール作成
気管切開の管理について必要な電動吸引器の比較と使用法の動画を家族が理解できるように作成し、本研究班のホームページに閲覧可能とした。
4)中枢神経系MRI画像所見の特徴
16例(典型例13例、不全例3例)中、典型例9例が脳幹奇形と診断された。第6・第7脳神経をthin sliceで評価できた14例(典型例11例、不全例3例)全例で異常が認められ、第7脳神経の片側または両側の欠損/低形成が全例で、第6脳神経の同様異常は典型例10例で認められた。
5)責任遺伝子同定に向けた戦略
典型例17例のいずれにもメビウス症候群類縁疾患の原因として既知の8遺伝子およびクラスターを形成する44遺伝子、計52遺伝子に有意な変異は認めず、全エクソーム解析では3例に共通する遺伝子変異は認められなかった。
結論
1)本研究班によるメビウス症候群の診断基準について日本小児遺伝学会の承認を得た。今年度はさらに用語の修正と説明を補足し一部改訂した。
2)診断基準に基づき明らかとなった典型例と不全例の周産期歴・発達歴も含めた自然歴を踏まえた診療ガイドラインを作成した。
3)在宅医療における気管切開の管理に必要な電動吸引器の比較と使用法の動画を作成し、本研究班のホームページから閲覧可能とした。
4)新生児科・小児科受診例では、第6・第7脳神経の欠損/低形成とともに形態異常などの脳幹異常が高い頻度で認められた。
5)責任遺伝子同定のためのゲノム解析システムを整備し、全エクソーム解析を継続中である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201324099B
報告書区分
総合
研究課題名
メビウス症候群の自然歴に基づく健康管理指針作成と病態解明
課題番号
H24-難治等(難)-一般-061
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
升野 光雄(川崎医療福祉大学 医療福祉学部 医療福祉学科)
研究分担者(所属機関)
  • 黒澤健司(神奈川県立こども医療センター 遺伝科)
  • 松井 潔(神奈川県立こども医療センター 総合診療科)
  • 大山牧子(神奈川県立こども医療センター 新生児科)
  • 相田典子(神奈川県立こども医療センター 放射線科)
  • 二宮伸介(倉敷中央病院 遺伝診療部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
メビウス症候群は、先天性顔面神経麻痺と先天性外転神経麻痺を特徴とするが、他の脳神経麻痺や四肢形態異常を伴うこともある。多くは孤発例であるが、30家系ほどの家族例の報告がある。本研究の目的は、1)メビウス症候群の診断基準を作成し、関連学会の承認を得る。2)メビウス症候群の正確な自然歴を把握する。3)正確な自然歴に基づいた診療ガイドラインを作成する。4)中枢神経系画像と臨床像との関連を明らかにする。5)原因解明のためゲノム解析による責任遺伝子同定をめざす。6)患者の生体試料を収集(ゲノムDNA・細胞株の樹立)・保存し、将来の治療開発への基盤を整備することである。
研究方法
1)診断基準作成と学会承認
メビウス症候群の類縁疾患も含めた全国二次調査(過去5年間)症例と小児専門病院(過去24年間)の典型症例における臨床像と医療管理の調査(平成23・24年度)をもとに作成したメビウス症候群の診断基準について、平成24年12月に日本小児遺伝学会理事会へ承認申請した。
2)自然歴の把握
診断基準をもとに典型例(20例)と先天性外転神経麻痺を伴わない不全例(7例)に分類し、自然歴を明らかにした。
3)自然歴に基づいた診療ガイドライン作成
小児期の自然歴に基づき、鑑別診断、ライフステージに応じた医療的ケアと療育のポイントをまとめて診療ガイドラインとした。
4)中枢神経系MRI画像所見の検討
MRIによる中枢画像解析の協力が得られた16例(典型例13例、不全例3例)には脳幹の形態と信号異常を、2mm以下の3D画像が撮像された14例(典型例11例、不全例3例)では第6・第7脳神経の形態について検討した。
5)責任遺伝子同定に向けた戦略
マイクロアレイCGH解析によるスクリーニングを典型例19例に行った。メビウス症候群類縁疾患で確認されている8個の責任遺伝子およびその遺伝子と機能的にクラスターあるいはネットワークを構成する代表的な44遺伝子(GenomeNetで検索)の計52候補遺伝子をHaloPlex・次世代シークエンサーにより典型例17例に解析した。更に全エクソーム解析に着手した。
結果と考察
1)診断基準作成と学会承認
メビウス症候群の診断基準について、平成25年4月に日本小児遺伝学会理事会で承認を得た。さらに補助項目の中枢神経系画像診断の用語をより明確な表現にし、鑑別診断の周産期脳障害の説明を追加した。
2)メビウス症候群の自然歴
新生児科・小児科受診例では、先天性顔面神経麻痺と外転神経麻痺以外に呼吸障害、哺乳障害、嚥下障害、精神運動発達遅滞などの頻度が高く、濃厚な医療管理を要していた。先天性外転神経麻痺を伴わず、四肢形態異常の頻度が低いメビウス症候群の不全例7例の特徴を明確にした。
3)自然歴に基づいた診療ガイドライン作成
本症は、先天性顔面神経麻痺・外転神経麻痺に限局した例から、新生児期より濃厚な医療を必要とする例まで幅が広い。重症例の症状は類似しており積極的な医療的ケアを行うことでQOLの改善、発達・発育の促進が得られる。鑑別診断、ライフステージに応じた医療的ケアと療育のポイントをまとめ、小児期診療ガイドラインを作成した。
4)在宅医療管理支援のためのツール作成
重症例の在宅医療ケアで必要となる気管切開とその管理方法、電動吸引器の比較と使用法の動画を作成し、本研究班のホームページから閲覧可能とした。
5)中枢神経系MRI画像所見の特徴
16例(典型例13例、不全例3例)中、典型例9例が脳幹奇形と診断された。第6・第7脳神経をthin sliceで評価できた14例(典型例11例、不全例3例)中、第7脳神経の片側または両側の欠損/低形成が全例で、第6脳神経の同様異常は典型例10例で認めた。
6)責任遺伝子同定に向けた戦略
マイクロアレイCGH解析では、典型例19例に病因となるゲノムコピー数異常は認めなかった。典型例17例で52候補遺伝子に有意な変異は認めず、全エクソーム解析では3例に共通する遺伝子変異は認めなかった。
結論
1)本研究班によるメビウス症候群の診断基準について日本小児遺伝学会の承認を得た。さらに用語の修正と説明を補足し一部改訂した。
2)診断基準に基づき明らかとなった典型例と不全例の周産期歴・発達歴も含めた自然歴を踏まえた診療ガイドラインを作成した。
3)メビウス症候群の重症例の在宅医療ケアで必要となる気管切開とその管理方法、電動吸引器の比較と使用法の動画を作成し、本研究班のホームページから閲覧可能とした。
4)新生児科・小児科受診例では、第6・第7脳神経の欠損/低形成とともに形態異常などの脳幹異常が高い頻度で認められた。
5)責任遺伝子同定のためのゲノム解析システムを整備し、全エクソーム解析を継続中である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201324099C

成果

専門的・学術的観点からの成果
メビウス症候群は、先天性顔面神経麻痺と先天性外転神経麻痺を特徴とするが、他の脳神経麻痺や四肢形態異常を伴うこともある。多くは孤発例であるが、30家系ほどの家族例の報告がある。類縁疾患も含めた日本の実態は明らかではなく、全国基幹病院と小児専門病院における調査により、先天性外転神経麻痺を伴わず、四肢形態異常の頻度が低いメビウス症候群の不全例7例の特徴を明確にした。これは海外でも報告されておらず、病因究明と臨床診断において重要な所見である。
臨床的観点からの成果
全国基幹病院と小児専門病院における調査により、メビウス症候群の診断基準を作成し、日本小児遺伝学会の承認を得た。診断基準は、「1)先天性・非進行性顔面神経麻痺および先天性・非進行性外転神経麻痺(片側性も含む)。2)除外項目:他の神経筋疾患を原因としない」とし、診断のポイント、補助項目、鑑別診断についても記載した。診断基準と鑑別診断も含めた小児期診療ガイドラインを医療・保健・教育・療育・福祉関係者と当事者に公開することにより、早期診断と適切な医療管理を可能にし、患者家族のQOL向上に寄与できる。
ガイドライン等の開発
メビウス症候群は、先天性顔面神経麻痺・外転神経麻痺に限局した例から、新生児期より濃厚な医療を必要とする例まで幅が広い。重症例の症状は類似しており積極的な医療的ケアを行うことでQOLの改善、発達・発育の促進が得られる。重症例も徐々に医療的ケアから離脱でき、発達も緩徐ではあるが確実に伸びていく。鑑別診断、ライフステージに応じた医療的ケアと療育のポイントをまとめ、小児期診療ガイドラインを作成した。これはメビウス症候群以外の脳幹機能障害を呈する児にも広く活用できる。
その他行政的観点からの成果
メビウス症候群の診断基準および自然歴に基づく小児期診療ガイドラインを作成し、これまで診断がなされていなかった症例の再評価を可能とした。必要とされる具体的な医療的ケアの内容から生涯にわたる医療負担を推定することで厚生労働行政政策形成の参考資料となる。指定難病と小児慢性特定疾病の対象疾患となり、医療費助成制度の利用が可能となった。指定難病:告示番号133 メビウス症候群(平成27年7月)。小児慢性特定疾病:染色体又は遺伝子に変化を伴う症候群 29.メビウス(Moebius)症候群(平成30年4月)。
その他のインパクト
研究成果をホームページに公開した。メビウス症候群の診断基準とライフステージに応じた医療的ケアと療育のポイントをまとめた診療ガイドラインを医療・保健・教育・療育・福祉関係者に提示することは、患者・家族には疾患の正しい理解と安心した養育環境の実現をもたらし、診療ガイドラインに基づいた早期診断・早期治療により、患者の長期的生命予後の向上が期待できる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
1件
総説
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
研究成果のホームページによる公開

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Masuno M, Watanabe A, Naing BT, et al.
Ehlers-Danlos syndrome, vascular type: A novel missense mutation in the COL3A1 gene.
Congenit Anom (Kyoto) , 52 (4) , 207-210  (2012)
原著論文2
Ishikawa A, Enomoto K, Tominaga M, et al.
Pure duplication of 19p13.3.
Am J Med Genet A , 161 (9) , 2300-2304  (2013)
原著論文3
Matsui K, Kataoka A, Yamamoto A et al.
Clinical characteristics and outcomes of Moebius syndrome in a children’s hospital.
Pediatric Neurology , 51 (6) , 781-789  (2014)

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
2018-06-11

収支報告書

文献番号
201324099Z