脂肪萎縮症に関する調査研究

文献情報

文献番号
201324098A
報告書区分
総括
研究課題名
脂肪萎縮症に関する調査研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-060
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
海老原 健(京都大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 中尾 一和(京都大学 医学研究科)
  • 伊藤 裕(慶應義塾大学 医学部)
  • 柳瀬 敏彦(福岡大学 医学部)
  • 望月 弘(埼玉県立小児医療センター 代謝内分泌科)
  • 安達 昌功(神奈川県立こども医療センター 内分泌代謝科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,050,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 脂肪萎縮症は予後不良な希少難病であるにもかかわらず認知度が低く、研究の進んでいない疾患である。その希少性のために実態調査も十分には行われておらず、診断基準も存在しない。このため脂肪萎縮症に対する医療の標準化など脂肪萎縮症の診療環境整備は遅れていた。一方、これまで脂肪萎縮症に対する確立した治療方法は存在しなかったが、脂肪萎縮症に伴う代謝異常に対してレプチン補充治療が2013年に薬事承認され市販が開始された。今後、医療費助成や適正な保険診療の実施には診断基準の整備が喫緊の課題である。
 脂肪萎縮症は、全身性のものや部分性のもの、また原因により先天性のもの後天性のものがあり、多種多様な疾患である。本研究では脂肪萎縮症の実態調査を行い、我が国における脂肪萎縮症の病型の傾向を把握するとともに、標準化治療に向けた脂肪萎縮症の診断基準の整備を行う。
 脂肪萎縮症は数百万人に1人とも言われる希少疾患で我が国における患者数は数百人程度であると考えられる。したがって症例数の上では個々の症例を把握管理することは十分可能であると考えられる。そこで本研究の実態調査で見出された症例については患者登録を行い主治医と連携することにより継続的なデータ収集を行う。また治療経過をモニターすることにより適正な治療指導を行い、診療環境ならびに患者予後の向上が期待できる。
研究方法
1)脂肪萎縮症の実態調査
網羅的な調査を行うために、ある一定病床数以上の病院を対象にアンケート調査を行う。また回答率の向上とより詳細な調査の実施のために調査は、症例の存在と簡単な質問から成る1次調査と、1次調査で存在の明らかになった症例に対して行うより詳細な2次調査の二段階で実施する。
2)先天性症例に対する原因遺伝子の検索
近年、先天性全身性脂肪萎縮症の原因遺伝子としてはセイピン遺伝子やAGPAT2遺伝子、カベオリン1遺伝子、PTRF遺伝子が、先天性部分生脂肪萎縮症の原因遺伝子としてはLMNA遺伝子やPPARG遺伝子、ZMPSTE24遺伝子、AKT2遺伝子が相次いで報告されている。そこで本研究では上記実態調査で見出された先天性症例を対象に血液からゲノムDNAを採取し原因遺伝子の検索を行う。上記既知遺伝子に異常を認めない症例についてはさらに全ゲノム解析などにより原因遺伝子の解明を試みる。
3)脂肪萎縮症センターの設立
上記実態調査で見出した症例については症例登録を行い、主治医と連携することにより、治療経過のモニタリングを実施し継続的なデータ収集を行う。さらに適正な治療法の提案を行い、脂肪萎縮症に関する医療環境や予後の向上に努める。
4)病型分類ならびに診断基準の策定
脂肪萎縮症は大きく、全身性脂肪萎縮症と、部分性脂肪萎縮症に分類される。また、それぞれに先天性のものと後天性のものが存在する。この分類を我が国での実情に基づき再検討する。またそれぞれの病型分類に応じて診断基準を策定する。病型分類や診断基準の策定に際しては日本内分泌学会および日本肥満学会より選出された委員による合同委員会を立ち上げ作業を行い、それぞれの学会の承認を得る。
結果と考察
1)脂肪萎縮症の実態調査
1年目は分担研究者との連絡体制の強化と調査への準備を行った。2013年7月に脂肪萎縮症に伴う代謝異常の治療薬としてレプチン製剤が市販開始された。メトレレプチンには市販後全例調査が義務付けられており、今後、製薬企業と協力して脂肪萎縮症の実態を含め調査することとなった。現在調査進行中である。
2)先天性症例に対する原因遺伝子の検索
既知の原因遺伝子に付いては先天性全身性脂肪萎縮症12例を対象に遺伝子変異の検索を進め、10例でseipin遺伝子にホモ接合体変異が確認された。現在、既知遺伝子に変異の確認できなかった原因不明の症例について全ゲノム解析を実施中である。
3)脂肪萎縮症センターの設立
現在把握している患者情報や、上記1)の調査で得られた情報のデータベース化を行い、患者登録システムを構築予定である。
4)病型分類ならびに診断基準の策定
これまでの調査研究や知見を基に脂肪萎縮症の病型分類を行うとともに診断基準を策定した。また、脂肪萎縮症の診断に際し有用な検査に付いてもまとめた。今後関連学会である日本内分泌学会や日本肥満学会で委員会を立ち上げ学会の承認を目指す。
結論
上記の各調査や研究はスタートしたばかりであるが、本研究により有意義な準備ができた。脂肪萎縮症合併症治療薬であるメトレレプチンが市販され、今後、脂肪萎縮症に対する医療費助成などを考える上でますます脂肪萎縮症の診断基準の策定が望まれる。本研究によりその素案が作成され、今後の活用が期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201324098B
報告書区分
総合
研究課題名
脂肪萎縮症に関する調査研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-060
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
海老原 健(京都大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 中尾 一和(京都大学 医学研究科)
  • 伊藤 裕(慶應義塾大学 医学部)
  • 柳瀬 敏彦(福岡大学 医学部)
  • 望月 弘(埼玉県立小児医療センター 代謝内分泌科)
  • 安達 昌功(内分泌代謝科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 脂肪萎縮症では重度のインスリン抵抗性糖尿病や高中性脂肪血症、脂肪肝など種々の代謝異常を合併し、平均寿命は30~40歳とも言われる予後不良な疾患である。これまで脂肪萎縮症に対する確立した治療方法は存在しなかったが、脂肪萎縮症に伴う代謝異常に対してレプチン製剤が劇的な改善効果を示すことが明らかとなり、2013年3月レプチン製剤が薬事承認され、同年7月より市販が開始された。しかしながらレプチン製剤は薬価が高額であることから、効果が期待できる症例においても患者の経済状態を理由にレプチン治療を断念するケースが市販開始後、後を絶たない。この不幸な状況を打開するためには脂肪萎縮症が難病に指定され医療費助成の対象となることが必要である。一方、難病として医療費助成の対象となるための条件として希少性と整備された診断基準が求められている。脂肪萎縮症は数百万人に1人とも言われ、我が国における患者数は数百人程度であると考えられ、その希少性に疑問の生じる余地はない一方で、その希少性のために認知度が低く診断基準も作られてこなかった。
 脂肪萎縮症は、全身性のものや部分性のもの、また原因により先天性のもの後天性のものがあり、多種多様な疾患である。本研究では脂肪萎縮症の実態調査を行い、我が国における脂肪萎縮症の病型分類を行うと同時に、脂肪萎縮症の診断基準の整備を行う。
 また、本研究の実態調査で見出された症例については患者登録を行い主治医と連携することにより継続的なデータ収集を行う。
研究方法
1)脂肪萎縮症の実態調査
網羅的な調査を行うために、ある一定病床数以上の病院を対象にアンケート調査を行う。また、2013年7月に脂肪萎縮症に伴う代謝異常の治療薬としてレプチン製剤が市販開始されたが、今回の薬事承認には市販後全例調査が義務付けられており、今後、製薬企業と協力して脂肪萎縮症の実態を含めた調査を実施する。
2)先天性症例に対する原因遺伝子の検索
近年、先天性全身性脂肪萎縮症の原因遺伝子としてはセイピン遺伝子やAGPAT2遺伝子、カベオリン1遺伝子、PTRF遺伝子が、先天性部分生脂肪萎縮症の原因遺伝子としてはLMNA遺伝子やPPARG遺伝子、ZMPSTE24遺伝子、AKT2遺伝子が相次いで報告されている。本研究では上記実態調査で見出された先天性症例を対象に血液からゲノムDNAを採取し原因遺伝子の検索を行う。上記既知遺伝子に異常を認めない症例についてはさらに全ゲノム解析などにより原因遺伝子の解明を試みる。
3)脂肪萎縮症センターの設立
上記実態調査で見出した症例については症例登録を行い、主治医と連携することにより、治療経過のモニタリングを実施し継続的なデータ収集を行う。さらに適正な治療法の提案を行い、脂肪萎縮症に関する医療環境や予後の向上に努める。
4)病型分類ならびに診断基準の策定
脂肪萎縮症は大きく、全身性脂肪萎縮症と、部分性脂肪萎縮症に分類される。また、それぞれに先天性のものと後天性のものが存在する。この分類を我が国での実情に基づき再検討する。またそれぞれの病型分類に応じて診断基準を策定する。
結果と考察
1)脂肪萎縮症の実態調査
2013年7月に脂肪萎縮症に伴う代謝異常の治療薬としてレプチン製剤が市販開始された。今回の薬事承認には市販後全例調査が義務付けられており、今後、製薬企業と協力して脂肪萎縮症の実態を含め調査することとなった。現在調査進行中である。
2)先天性症例に対する原因遺伝子の検索
既知の原因遺伝子に付いては先天性全身性脂肪萎縮症12例を対象に遺伝子変異の検索を進め、10例でseipin遺伝子にホモ接合体変異が確認された。現在、既知遺伝子に変異の確認できなかった原因不明の症例について全ゲノム解析を実施中である。
3)脂肪萎縮症センターの設立
現在把握している患者情報や、上記1)の調査で得られた情報のデータベース化を行い、患者登録システムを構築予定である。
4)病型分類ならびに診断基準の策定
これまでの調査研究や知見を基に脂肪萎縮症の病型分類を行うとともに診断基準を策定した。また、脂肪萎縮症の診断に際し有用な検査に付いてもまとめた。今後関連学会である日本内分泌学会や日本肥満学会で委員会を立ち上げ学会の承認を目指す。
結論
 本研究事業で提案する診断基準により脂肪萎縮症が医療費助成の対象疾患に指定される一助になることが期待される。また、承認されたレプチン製剤の適応疾患は脂肪萎縮症であるが、診断基準は適正な保険診療の実施にも役立つことが期待される。さらに、本研究事業で行った我が国における脂肪萎縮症の実態把握や診断基準の整備は医療の適正化に貢献するのみならず脂肪萎縮症研究を加速させることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201324098C

成果

専門的・学術的観点からの成果
脂肪萎縮症は全身性あるいは部分性に脂肪組織が消失する疾患で、それぞれに先天性のものと後天性のものが知られている。先天性脂肪萎縮症の原因遺伝子が近年相次いで報告されているが、いまだ原因不明の症例も多数存在する。脂肪萎縮症は数百万人に1人とも言われる極めて希少な疾患であるため、これまで十分な調査がなされてこなかった。本研究では脂肪萎縮症の病型分類を行い、診断基準案を策定した。今後、調査や研究において役立つものと期待される。
臨床的観点からの成果
脂肪萎縮症は脂肪組織の消失とともに重度の糖尿病や高中性脂肪血症、非アルコール性脂肪肝炎など様々な代謝異常を発症する予後不良な難治性疾患である。これまで脂肪萎縮症において脂肪萎縮そのものに対する根治療法は存在しなかったが、近年、脂肪組織より分泌されるホルモン、レプチンの有効性が証明され、2013年3月レプチン製剤が薬事承認され、同年7月市販が開始された。本研究での脂肪萎縮症の病型分類および診断基準案の策定はレプチン製剤の適正使用に役立つものと期待される。
ガイドライン等の開発
これまでの調査研究や知見をもとに脂肪萎縮症の病型分類を行うとともに診断基準を策定した。また、脂肪萎縮症の診断に際し有用な検査に付いてもまとめた。今後関連学会である日本内分泌学会や日本肥満学会で委員会を立ち上げ学会の承認を目指す。
その他行政的観点からの成果
これまで脂肪萎縮症の治療法は存在しなかったが、脂肪萎縮症に伴う代謝異常に対しレプチン製剤が2013年7月より市販開始された。しかし薬価が高額であるため、効果が期待できる症例においても経済状態を理由に治療を断念するケースが後を絶たない。この不幸な状況を打開するためには脂肪萎縮症が難病指定され医療費助成の対象となることが必要である。しかし脂肪萎縮症はその希少性のために認知度が低く、診断基準も作られてこなかった。脂肪萎縮症の病型分類および診断基準案の策定は脂肪萎縮症の難病指定への道を開くものである。
その他のインパクト
難病として医療費助成の対象となるための条件として希少性と整備された診断基準が求められており、本研究事業で提案する診断基準により脂肪萎縮症が医療費助成の対象疾患に指定される一助になることが期待される。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
10件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
20件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
T.Kusakabe,K.Ebihara, T.Sakai,etal
Amylin improves the effect of leptin on insulin sensitivity in leptin-resistant diet-induced obese mice.
Am J Physiol Endocrinol Metab , 302 , E924-E931  (2012)
10.1152/ajpendo.00198.2011
原著論文2
N.Yamada-Goto,G.Katsuura, K.Ebihara,etal
Impairment of fear-conditioning responses and changes of brain neurotrophic factors in diet-induced obese mice.
J Neuroendocrinol , 24 , 1120-1125  (2012)
10.1111/j.1365-2826.2012.02327.x.
原著論文3
D.Aotani,K.Ebihara, N.Sawamoto,etal
Functional Magnetic Resonance Imaging Analysis of Food-Related Brain Activity in Patients with Lipodystrophy Undergoing Leptin Replacement Therapy.
J Clin Endocrinol Metab , 97 , 3663-3671  (2012)
10.1210/jc.2012-1872
原著論文4
M.Iwanishi,K.Ebihara,T.Kusakabe,etal
Premature atherosclerosis in a Japanese diabetic patient with atypical familial partial lipodystrophy and hypertriglyceridemia.
Intern Med , 51 , 2573-2579  (2012)
10.2169/internalmedicine.51.7461
原著論文5
L.Miyamoto,K.Ebihara,T.Kusakabe,etal
Leptin activates hepatic 5' AMP-Activated Protein Kinase through sympathetic nervous system and α1 adrenergic receptor: A potential mechanism for improvement of fatty liver in lipodystrophy by leptin.
J Biol Chem , 287 , 40441-40447  (2012)
10.1074/jbc.M112.384545
原著論文6
S.Odori,K.Hosoda,K.Ebihara,etal
GPR119 expression in normal human tissues and islet cell tumors: evidence for its islet-gastrointestinal distribution, expression in pancreatic beta and alpha cells, and involvement in islet function.
Metabolism , 62 , 70-78  (2013)
10.1016/j.metabol.2012.06.010.
原著論文7
N.Yamada-Goto,G.Katsuura,K.Ebihara,etal
Intracerebroventricular administration of C-type natriuretic peptide suppresses food intake via activation of the melanocortin system in mice.
Diabetes , 62 , 1500-1504  (2013)
10.2337/db12-0718.
原著論文8
M.Ida,M.Hirata,K.Ebihara,etal
Early changes of abdominal adiposity detected with weekly dual bioelectrical impedance analysis during calorie restriction.
Obesity , 21 , E350-E353  (2013)
10.1002/oby.20300.
原著論文9
M.Noguchi,K.Hosoda,K.Ebihara,etal
In Vitro Characterization and Engraftment of Adipocytes Derived from Human Induced Pluripotent Stem Cells and Embryonic Stem Cells.
Stem Cells Dev , 22 , 2895-2905  (2013)
10.1089/scd.2013.0113.
原著論文10
M.Aizawa-Abe,K.Ebihara,C.Ebihara,etal
Generation of leptin deficient Lepmkyo/Lepmkyo rats and identification of leptin responsive genes in the liver.
Physiol Genomics , 45 , 786-793  (2013)
10.1152/physiolgenomics.00040.2013.

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
-

収支報告書

文献番号
201324098Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,265,000円
(2)補助金確定額
5,265,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,225,341円
人件費・謝金 299,900円
旅費 115,180円
その他 409,600円
間接経費 1,215,000円
合計 5,265,021円

備考

備考
21円は利息のための差異

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-