肺静脈閉塞症(PVOD)の診断基準確立と治療方針作成のための統合研究

文献情報

文献番号
201324095A
報告書区分
総括
研究課題名
肺静脈閉塞症(PVOD)の診断基準確立と治療方針作成のための統合研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-057
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
植田 初江(独立行政法人国立循環器病研究センター 病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 松原 広己(独立行政法人国立病院機構岡山医療センター循環器科)
  • 佐藤 徹(杏林大学医学部 循環器内科)
  • 羽賀 博典(京都大学医学部附属病院 病理診断部)
  • 田邉 信宏(千葉大学大学院医学系研究科 呼吸器内科学)
  • 平野 賢一(大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科)
  • 坂尾 誠一郎(千葉大学医学部 呼吸器内科 )
  • 岡 輝明(公立学校共済組合関東中央病院 病理科)
  • 北市 正則(国立病院機構近畿中央胸部疾患センター 臨床検査科)
  • 中西 宣文(独立行政法人国立循環器病研究センター 肺循環科)
  • 木曽 啓祐(独立行政法人国立循環器病研究センター 放射線部)
  • 岸 拓弥(九州大学大学院医学研究院先端心血管治療学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肺静脈閉塞症(PVOD)は、特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)の約10%と考えられている非常に稀で予後不良な疾患である。しかし今まで日本ではPVODに特化した全国調査はなく実態は不明である。これまでPVODを臨床的に診断できる基準はなく、剖検や移植摘出肺における病理組織でのみ診断可能とされてきたことから、臨床上IPAHと診断された中にPVODが少なからず含まれていると考えられ、実際のPVODはこれまでの報告より多いと推定される。本研究の目的は日本におけるPVODの実態調査や剖検例等の検討から臨床診断基準を確立し、PVOD患者の診断治療を発展させることである。
研究方法
1) 肺移植、剖検、生検により病理でのPVODの確定診断を得た症例について生存例では患者同意を取得後、26例をデータベースに登録、臨床データ(心カテーテルデータ、胸部CT像、%DLCO、血液ガス分析データ、肺血流シンチグラム)を収集し、IPAH症例のデータと比較した。PVODの臨床的特徴を解析するため、肺動脈性肺高血圧症(PAH)、肺気腫合併肺線維症(CPFE)との比較や、慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)における静脈病変の解析を行った。培養肺動脈由来血管平滑筋細胞の特徴の解析やCTEPHにおける病変の組織細胞の分離培養により、多方面から肺高血圧症の特徴の解析を行った。肺血流シンチを用いて、PVODの鑑別診断のために血流分布の不均一性のデータ評価法としての肺血流シンチ・フラクタル解析の有用性について検討した。これらの研究をもとに、PVODの臨床診断基準案の確立を目的として、班員がそれぞれ詳細な検討を行った。
2) これまで集積された「膠原病合併肺高血圧症について」のアンケートの回答では、現在治療中の膠原病合併PH症例のうちPaO2低下および%DLCO低下を認める症例が約10%存在する結果を得た。この結果を発展させ膠原病合併PHの中からPVOD類似症例を発掘するため、アンケート結果をさらに詳細に解析した。3) 佐藤は抗腫瘍剤ソラフェニブをPVODの症例に投与し、血行動態やNYHA心機能などの改善を認めたが、薬剤投与の有効性について今年度も引き続き検討した。
結果と考察
1)①病理組織学的にPVODと確定診断した症例についてIPAH剖検例の臨床データと比較した。%DLCO, PaO2がPVODとIPAHの間で有意差を持って異なっていることが明らかとなった。②PVODの臨床データをスコア化し、PVOD診断基準案を作成しPAHとPVODの鑑別を可能とした。
③臨床調査個人票に基づく日本でのPVOD/PCHの頻度は0.9%で、IPAHに比して男性優位で、現在のWHO 機能評価分類が重症であった。また肺動脈楔入圧が有意に高値であった。
④CTEPH患者の末梢肺組織において病理学的に肺動静脈のリモデリングが存在することを確認した。
⑤PVOD症例、正常例、CTEPH症例について肺血流シンチグラフィー画像においてフラクタル解析で評価したところ、Box counting法とPixel counting法による階層的な解析でPVODを鑑別できる可能性が示唆された。以上からPVODを早期に発見し、肺移植適応へと導けるような臨床診断基準案を班員で検討した。また、PVODの病理組織変化について詳細に検討し、臨床診断基準案に盛り込むべき肺の病理所見案を提案した。2)これまで得られた膠原病合併肺高血圧症例アンケート調査結果からは、膠原病合併肺高血圧症の約10%で%DLCO 55%以下の低値を認めた。%DLCO低下、PaO2低値、胸部CT像データからは強皮症が最もPVODに類似していると考えられた。
3)佐藤はPVODと診断された3例の症例に対してソラフェニブを投与し、全例で非侵襲的検査、心カテーテル検査による血行動態指標が改善し、有効性が認められた。
考察:本研究班では臨床医、病理医、放射線科医による多角的なPVOD症例の解析により、PVOD臨床診断基準案を作成した。臨床症状、肺機能、肺血流シンチ、胸部CTなどの間接的所見からPVODを積極的に疑える症例をとらえることが有効な治療にもつながると確信する。抗悪性腫瘍剤の投与については今後さらに検討が必要であるが、PVODの有効治療となり得る可能性が示唆されている。どの症例が移植等の積極的な治療を選択すべきか、あるいは内科治療を期待できるか治療後のfollowを含め調査し、肺移植以外にもPVODの進行抑制に有効な治療法を見つけることで、全国の施設で共通の治療が受けられるよう情報を共有すべきである。
結論
難治性疾患PVODについて、臨床診断基準案を作成した。今後さらに症例の登録・解析を進め、臨床診断基準を作成し、広く学会等に周知していく。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

文献情報

文献番号
201324095B
報告書区分
総合
研究課題名
肺静脈閉塞症(PVOD)の診断基準確立と治療方針作成のための統合研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-057
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
植田 初江(独立行政法人国立循環器病研究センター 病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 松原 広己(国立病院機構岡山医療センター 臨床研究部)
  • 佐藤 徹(杏林大学医学部 循環器内科)
  • 羽賀 博典(京都大学大学院医学研究科 病理診断科)
  • 田邉 信宏(千葉大学大学院医学研究院 呼吸器内科学)
  • 平野 賢一(大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科)
  • 坂尾 誠一郎(千葉大学医学部呼吸器内科)
  • 岡 輝明(公立学校共済組合関東中央病院 病理科)
  • 北市 正則(国立病院機構近畿中央胸部疾患センター 臨床検査科)
  • 中西 宣文(独立行政法人国立循環器病研究センター 肺循環科)
  • 木曽 啓祐(独立行政法人国立循環器病研究センター 放射線部)
  • 岸 拓弥(九州大学大学院医学研究院先端心血管治療学)
  • 高木 弥栄美(独立行政法人国立循環器病研究センター 肺循環科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本における肺静脈閉塞症,PVODの実態調査や剖検例等の検討から臨床診断基準を確立し、PVOD患者の診断治療を発展させることを目的とした。
研究方法
1. 肺移植、剖検、生検により病理でのPVODの確定診断を得た症例について生存例では患者同意を取得後、26例をデータベースに登録、臨床データ(心カテーテルデータ、胸部CT像、%DLCO、血液ガス分析データ、肺血流シンチグラム)を収集し、IPAH症例25例のデータと比較した。肺静脈病変について、単位面積あたりの閉塞数を求めた。肺移植時の摘出肺や剖検肺について病理組織学的に検討した。PVODと、病理組織学的に類似する変化をきたす肺毛細血管腫症,PCHの臨床診断のための評価法を作成し、スコア化された評価法を用いてPVOD/PCHと全身性強皮症について比較検討した。右心カテーテルデータや胸部CT像によるPVODの鑑別診断の可能性を検討した。慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症, CTEPHにおける末梢血管病変の検討やCTEPHにおける病変の組織細胞の分離培養により、多方面から肺高血圧症の特徴の解析を行った。肺血流シンチグラフィーを用いて、PVODの鑑別診断のために血流分布の不均一性のデータ評価法としての肺血流シンチ・フラクタル解析の有用性について検討した。
2. 膠原病合併肺高血圧症の中からPVOD類似症例を発掘するため、膠原病合併PH症例アンケート結果を詳細に解析した。膠原病に関連するPAH剖検例を集積し検討を行った。
3. 肺移植以外の有効な薬物治療の検討
佐藤は抗腫瘍剤ソラフェニブをPVODの症例に投与し、PVODに対する薬剤投与の有効性について検討
した。
結果と考察
各班員の研究をふまえ検討し、下記の臨床的診断基準案を作成した。
基本概念
PVODは特発性の肺高血圧症を呈する病態であるが、病変の場が肺動脈(前毛細血管)側ではなく肺静脈にある疾患であり、難治性である。
確定診断 病理組織像が絶対的診断となる
1. 肺内の肺静脈(特に小葉間静脈)の内腔狭窄または閉塞
2. 肺静脈壁の肥厚
臨床的診断(案)
1. 臨床所見が特発性肺高血圧症と類似している
(1-1) 呼吸困難などの臨床症状があること
(1-2) 胸部X線所見で多くの場合、明白な異常陰影がないこと
(肺線維症など、間質性肺疾患と総称される肺疾患を除外)
(1-3) 右心カテで肺高血圧の所見がある
2. 検査所見(以下の項目の組み合わせ)
a. 酸素飽和度の低下(とくに運動負荷後)
b. 肺機能検査:拡散能(%DLCO)の著明な低下
c. 胸部高解像度CT(HRCT):小葉間隔壁の肥厚、粒状影、索状影、
    小葉中心性スリガラス様影(centrilobular ground glass opacity)、
縦隔リンパ節腫大
d. 肺血流シンチ:亜区域性の血流欠損(とくに上葉)
3. 肺動脈性肺高血圧治療による肺うっ血/肺水腫
4. 男性に多く、喫煙歴を認めることが多い
鑑別診断
特発性肺動脈性肺高血圧症, 原因の明らかなPVOD,慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症(末梢型)

PVODは進行性、難治性で発症から死亡まで2-3年と言われ、現在肺移植治療が唯一の根治的な治療法である。しかし、日本での移植治療はドナーの慢性的な不足のため、患者のほとんどが移植に至らず死亡している。どの症例が移植等の積極的な治療を選択すべきか、あるいは内科治療を期待できるかなど治療後のfollowを含め調査し、肺移植以外にもPVODの進行抑制に有効な治療法を見つけることで、全国の施設で共通の治療が受けられるよう情報を共有すべきである。今後PVOD臨床診断基準を作成して、日本呼吸器学会、日本循環器学会、日本病理学会等で発表し、PVOD疾患についての診断と治療法の選択のためのガイドラインを確立し公表することで、日本でのPVOD治療の標準化が図られるものと考えられる。また、膠原病合併肺高血圧症の中に静脈閉塞があることを周知できるよう膠原病専門医との連携を深め、PVOD臨床診断基準により膠原病専門医が膠原病合併肺高血圧症、特に強皮症の中からPVOD類似症例を発掘できれば早期治療へとつながるであろう。
結論
本研究班では、肺循環疾患を治療している全国の病院の臨床医・病理医・放射線科医と、PVOD症例の多施設共同登録研究を進めてきた。病理学的に確定診断されたPVOD症例臨床データ所見のPAHとの比較解析を中心に、多角的にPVODの病態の解明を行った。また膠原病合併PH症例の調査からPVOD類似例を抽出し、病理所見を検討した。さらに、肺移植以外の薬物治療の有効性の検討を行った。PVOD臨床診断基準については班会議で検討し、臨床診断基準案を策定した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201324095C

成果

専門的・学術的観点からの成果
病理学的に肺静脈閉塞症(PVOD)と確定診断された症例について特発性肺動脈性肺高血圧症との比較解析を進めた。評価結果をふまえてPVOD臨床診断基準案を作成し、ガイドラインの作成準備を行った。膠原病合併肺高血圧症のアンケート調査も継続しPVOD類似症例について検討した。WHO肺高血圧国際会議でもPVODの治療法は未だコンセンサスが無く、本研究の成果を国内の学会で周知させることは重要である。また、患者向けホームページ等の活用や、海外へも発信することは有意義である。
臨床的観点からの成果
現在肺移植が唯一の根治的治療法であるPVOD症例について呼吸器科・病理・循環器内科医による多施設共同登録研究を行った。%DLCO、PaO2の低下と胸部CT所見が臨床診断基準として有用と考えた。また膠原病合併肺高血圧症例中約10%が肺静脈閉塞の合併を伴うことが示唆された。PVODはWHOでも肺動脈性肺高血圧の亜型に分類され基礎疾患による違いは明らかになっていない。臨床診断基準により肺高血圧専門施設以外でも病初期より鑑別でき対象となる患者への薬物治療の介入や肺移植治療の適応判定などが可能になる。
ガイドライン等の開発
呼吸不全に関する調査研究班内の分科会PVODガイドライン(GL)編集ワーキンググループにおいて、GLの策定を進めてきた。臨床診断基準の主要項目としては①右心カテーテル所見がPAHの診断基準を満たす②PVODを疑わせる胸部高解像度CT(HRCT)所見があり、かつ慢性肺疾患や膠原病疾患を除外できる③選択的肺動脈血管拡張薬による肺うっ血/肺水腫の誘発を挙げている。主要項目と病理診断所見を含む副次的項目の組み合わせで診断できるよう今後も検討を続ける。
その他行政的観点からの成果
PVODは世界的にも稀な予後不良な難病で、肺移植のみが根治的治療である。100万人に0.2人と言われるものの、疫学的報告は皆無で発症の実態が把握されておらず、データに基づく適切な行政施策が望まれる。本研究では初めての全国規模の登録システムを用いて情報を収集することで、PVODの実態を明らかにし、膠原病合併肺高血圧症中にPVOD類似例があり、潜在患者数は報告より多いことが推定された。本研究によりPVODの診断、治療のガイドラインを確立することで医療経済的にも無駄を省き、患者の幸福につながる。
その他のインパクト
本研究からPVODの実際の患者数は報告よりも多いと考えられる。患者が施設間格差なしに的確な治療を受けられるようPVODの臨床診断基準を確立し、全国の呼吸器内科ばかりでなく膠原病内科、一般内科にも広く情報を発信することが重要である。肺移植必須症例と内科治療可能症例を鑑別できるようPVODの治療選択指針を発表し、膠原病合併肺高血圧症からもPVODを鑑別、抽出できるようになれば、本研究は今後の治療に大きく貢献するものであると考える。

発表件数

原著論文(和文)
17件
原著論文(英文等)
29件
その他論文(和文)
40件
その他論文(英文等)
21件
学会発表(国内学会)
41件
学会発表(国際学会等)
14件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
日本肺高血圧・肺循環学会編の肺静脈閉塞症(PVOD)肺毛細血管腫症(PCH)診療ガイドライン(2017年9月刊行)に本研究での成果が反映されている。
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2014-06-03
更新日
2018-05-22

収支報告書

文献番号
201324095Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,500,000円
(2)補助金確定額
6,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,864,568円
人件費・謝金 1,107,140円
旅費 758,135円
その他 1,272,030円
間接経費 1,500,000円
合計 6,501,873円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
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