診断未定多発奇形・発達遅滞の実態把握と病因・病態の解明に関する研究

文献情報

文献番号
201324094A
報告書区分
総括
研究課題名
診断未定多発奇形・発達遅滞の実態把握と病因・病態の解明に関する研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-056
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
黒澤 健司(地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立こども医療センター 遺伝科)
研究分担者(所属機関)
  • 小崎 健次郎(慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター)
  • 小崎 里華(国立成育医療研究センター 第一専門診療部)
  • 大橋 博文(埼玉県立小児医療センター遺伝科)
  • 岡本 伸彦(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター遺伝診療科)
  • 水野 誠司(愛知県心身障害者コロニー中央病院・愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所)
  • 山本 俊至(東京女子医科大学統合医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
平成24年度研究分担者川上紀明(国家公務員共済組合連合会名城病院整形外科)は、平成24年度研究終了により、平成25年度研究には参加していない。

研究報告書(概要版)

研究目的
 原因が不明で診断がつかない多発奇形・発達遅滞症例はMCA/DD・ID(developmental delay・intellectual disability)と記述される。診断名がないために疾病統計に表れることがなく、具体的な発生頻度の評価や病態把握もなされない。発達遅滞に対しては養育・教育環境の整備が必要であり、患者および患者家族の負担は病名のある希少難病の場合と差はない。本研究は、このMCA/DD・IDの診断法の確立と原因を解明し、病態を把握し、発生頻度を推定し、診断アルゴリズムの有用性検証、具体的な診断指針と医療管理指針作成を目的とする。
研究方法
①MCA/DD・ID症例に対するマイクロアレイ染色体検査導入のアルゴリズムの確立:分担研究施設遺伝外来初診症例を対象にマイクロアレイ染色体検査をおこない。変異検出率や診断の状況、その後の医療管理状況をまとめた。②診断未定多発奇形・発達遅滞の患児家族支援に関する研究:埼玉県立小児医療センターで開催された先天異常症候群の集団外来をまとめた。集団外来参加家族へアンケート調査を行った。③マイクロアレイ染色体における日本人正常集団のコピー数バリアント(Copy Number Variant , CNV)データベースの基盤整備:健常な両親のCNVデータを集積し、病的意義のないCNV領域を特定した。専用ソフトウェアを作成し、症例ごとに粗データファイル(エクセル形式)から個人情報を削除し、CNV領域の情報のみを取り出し、bedファイルとしてアセンブルし、CNV領域のbedファイルをヒト参照配列(hg19)に統一した後、データベースUCSC genome browser上で可視化した。④マイクロアレイ染色体検査で検出したゲノム再構成を手掛かりとした病態の解明:詳細な臨床記録とともに症例ごとにまとめた。
結果と考察
マイクロアレイ染色体検査の検出率は、神奈川こども医療センター(14%)、埼玉県立小児医療センター(11%)、愛知県心身障害者コロニー(9.5%)、国立成育医療研究センター(16.2%)、と従来報告されている検出率10-15%とほぼ一致した値であることを確認できた。海外報告および国内施設での実施結果がほぼ一致していることは、臨床検査としての普遍性を証明した。我が国ではまだ保険収載となっていないマイクロアレイ染色体検査の臨床検査としての早期の導入の根拠となる。また、その解析プロセスのアルゴリズム、臨床検査報告の在り方などを提示することができた。病態の把握では、実施施設から報告された各症例はゲノムベースで疾患の成り立ちが検討可能となっている。また、標準となる正常集団のCNVデータの蓄積基盤確立の可能性も明らかにできた。診断のみならず病態の把握の点でもマイクロアレイ染色体検査は極めて有用であることが判明した。メンデル遺伝形質の病因解明としても有用であることが分かった。マイクロアレイ染色体検査は既に海外では、通常の診療に組み込まれつつ、日本でも早急に採用すべきと思われた。
結論
 診断や原因が明らかにされていない、しかも遺伝的異質性が極めて高く、その医療負担が決して少なくない診断未定の多発奇形・発達遅滞の臨床検査としてマイクロアレイ染色体検査は早期に導入すべきである。また、次世代シーケンス技術との組み合わせが今後期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

文献情報

文献番号
201324094B
報告書区分
総合
研究課題名
診断未定多発奇形・発達遅滞の実態把握と病因・病態の解明に関する研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-056
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
黒澤 健司(地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立こども医療センター 遺伝科)
研究分担者(所属機関)
  • 小崎 健次郎(慶應義塾大学医学部 臨床遺伝学センター)
  • 小崎 里華(国立成育医療研究センター 第一専門診療部 遺伝診療科)
  • 大橋 博文(埼玉県立小児医療センター 遺伝科)
  • 岡本 伸彦(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター 遺伝診療科)
  • 水野 誠司(愛知県心身障害者コロニー中央病院・愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所)
  • 山本 俊至(東京女子医科大学 統合医科学研究所)
  • 川上 紀明(国家公務員共済組合連合会名城病院 整形外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
川上紀明分担研究者(国家公務員共済組合連合会名城病院整形外科)は、平成24年度研究のみ参加。

研究報告書(概要版)

研究目的
 原因が不明で診断がつかない多発奇形・発達遅滞症例はMCA/DD・ID(developmental delay・intellectual disability)と記述される。診断名がないために疾病統計に表れることがなく、具体的な発生頻度の評価や病態把握もなされない。発達遅滞に対しては養育・教育環境の整備が必要であり、患者および患者家族の負担は病名のある希少難病の場合と差はない。本研究は、このMCA/DD・IDの診断法の確立と原因を解明し、病態を把握し、発生頻度を推定し、診断アルゴリズムの有用性検証、具体的な診断指針と医療管理指針作成を目的とする。
研究方法
①MCA/DD・IDの発生頻度ならびに解析として用いるマイクロアレイ染色体検査の需要を評価した。②MCA/DD・ID症例に対するマイクロアレイ染色体検査導入のアルゴリズムの確立:分担研究施設遺伝外来初診症例を対象にマイクロアレイ染色体検査をおこない、マイクロアレイ染色体解析による変異検出率や診断の状況、その後の医療管理状況をまとめた。③診断未定多発奇形・発達遅滞の患児家族支援に関する研究:埼玉県立小児医療センターで開催された先天異常症候群の2年間の集団外来をまとめた。集団外来参加家族へアンケート調査を行った。④次世代シーケンサーのデータからCNVとしてのデータ処理の可能性を種々のプログラムを用いて検討した。⑤マイクロアレイ染色体における日本人正常集団のCNVデータベースの基盤整備:健常な両親のCNVデータを集積し、病的意義のないCNV領域を特定した。専用ソフトウェアを作成し、症例ごとに粗データファイル(エクセル形式)から個人情報を削除し、CNV領域のbedファイルをヒト参照配列(hg19)に統一した後、データベースUCSC genome browser上で可視化した。⑥マイクロアレイ染色体検査で検出したゲノム再構成を手掛かりとした病態の解明:詳細な臨床記録とともに症例ごとにまとめた。
結果と考察
MCA/DD・IDは遺伝的異質性が極めて高く、全ゲノムを対象とするマイクロアレイ染色体検査での解析が診断検査として最も有用であった。マイクロアレイ染色体検査を実際に診断として用いた場合の陽性検出率も、施設やプラットフォームが異なるにもかかわらず、海外報告とほぼ一致(10-15%)したことは、臨床検査としての普遍性を証明した。マイクロアレイ染色体検査適応症例、つまりMCA/DD・IDは少なくとも500出生に1例と考えられ、検査需要推定の参考データとなった。マイクロアレイ染色体検査により検出された疾患特異的CNVが、従来原因不明とされてきたメンデル遺伝病形質の原因解明の手掛かりとなることが明らかになった。診断のみならず病態の把握の点でもマイクロアレイ染色体検査は極めて有用であることが判明した。データの集約により日本人のCNV多型データベースの構築が可能であることが確認された。マイクロアレイ染色体検査は我が国においても早急に臨床検査として導入すべき遺伝学的検査であると考えられた。原因が依然として明らかとなっていない約9割におよぶ症例集団への対応、生体試料を用いた分子レベルでの病態解明、次世代シーケンスの導入などが今後の課題となる。
結論
 診断や原因が明らかにされていない、しかも遺伝的異質性が極めて高く、その医療負担が決して少なくないMCA/ID・DDは500出生に1例であり、その診断検査としてマイクロアレイ染色体検査は有用である。保険収載となっていない日本においては臨床検査としてマイクロアレイ染色体検査を早期に医療の中に導入すべきである。また、次世代シーケンス技術との組み合わせも今後期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201324094C

成果

専門的・学術的観点からの成果
診断未定多発奇形・発達遅滞(MCA/DD・ID; multiple congenital anomalies/developmental delay・intellectual disability)は遺伝的異質性が極めて高く、全ゲノムを対象とするマイクロアレイ染色体検査での解析が診断検査として最も有用であることを確認した。解析の適応症例は少なくとも500出生に1例で、検査需要推定の参考データを提示した。診断のみならず病態の把握の点でもマイクロアレイ染色体検査は有用なことを確認した。
臨床的観点からの成果
マイクロアレイ染色体検査により検出された疾患特異的CNVが、従来原因不明とされてきたメンデル遺伝病形質の原因解明の手掛かりとなることが明らかになった。データの集約により日本人のCNV多型データベースの構築が可能であることが確認された。
ガイドライン等の開発
診断未定多発奇形・発達遅滞(MCA/DD・ID; multiple congenital anomalies/developmental delay・intellectual disability)の診断アルゴリズムを提案し、マイクロアレイ染色体検査の適応を明らかにした。
その他行政的観点からの成果
診技術としてのマイクロアレイ染色体検査適応症例の発生頻度を明らかにすることにより、検査需要などの医療負担の推定に必要な参考データを提示した。
その他のインパクト
マイクロアレイ染色体検査の対費用効率については、極めて安定した陽性検出率から確認することができた。研究の効率を考える上で、複数の施設を比較検討したことは極めて意義深いと思われた。我が国の多発奇形・発達遅滞症例の医療の向上の基盤整備の一部とした。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
9件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
25件
学会発表(国際学会等)
16件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kurosawa K, Enomoto K, Tominaga M, Furuya N, et al.
Spastic quadriplegia in Down syndrome with congenital duodenal stenosis/atresia.
Congenit Anom (Kyoto) , 52 , 78-81  (2012)
原著論文2
Enomoto K, Kishitani Y, Tominaga M, et al.
Expression Analysis of a 17p Terminal Deletion, including YWHAE, but not PAFAH1B1, associated with normal brain structure on MRI in a young girl.
Am J Med Genet Part A , 158A , 2347-2351  (2012)
原著論文3
Ishikawa A, Enomoto K, Tominaga M, et al.
Pure duplication of 19p13.3.
Am J Med Genet Part A , 161A (9) , 2300-2309  (2013)
原著論文4
Yagihashi T, Kosaki K, Okamoto N, et al.
Age-dependent change in behavioral feature in Rubinstein-Taybi syndrome
Congenit Anom (Kyoto) , 52 , 82-  (2012)
原著論文5
Okamoto N, Fujii T, Tanaka J, et al.
A clinical study of patients with pericentromeric deletion and duplication within 16p12.2-p11.2.
Am J Med Genet Part A , 164A , 213-219  (2014)
原著論文6
Okamoto N, Ohmachi K, Shimada S, et al.
109 kb deletion of chromosome 4p16.3 in a patient with mild phenotype of Wolf-Hirschhorn syndrome
Am J Med Genet Part A , 161A , 1465-1469  (2013)
原著論文7
Takeuchi T,Hayashida N,Torii C, et al.
1p34.3 deletion involving GRIK3:Further clinical implication of GRIK family glutamate receptors in the pathogenesis of developmental delaly.
Am J Med Genet Part A , 164A (2) , 456-460  (2014)
原著論文8
Kuroda Y, Ohashi I, Tominaga M, et al.
De novo duplication of 17p13.1-p13.2 in a patient with intellectual disability and obesity.
Am J Med Genet Part A , 164A (6) , 1550-1554-  (2014)
原著論文9
Kuroda Y, Ohashi I, Saito T, et al.
Refinement of the deletion in 8q22.2-q22.3: The minimum deletion size at 8q22.3 related to intellectual disability and epilepsy.
Am J Med Genet Part A , in press  (2014)

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
2016-06-29

収支報告書

文献番号
201324094Z