中枢・末梢連合脱髄症の診断基準作成と臨床疫学調査の実施による治療指針の確立

文献情報

文献番号
201324093A
報告書区分
総括
研究課題名
中枢・末梢連合脱髄症の診断基準作成と臨床疫学調査の実施による治療指針の確立
課題番号
H24-難治等(難)-一般-055
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
吉良 潤一(国立大学法人九州大学 大学院医学研究院 脳神経病研究施設神経内科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 錫村 明生(名古屋大学環境医学研究所神経免疫学)
  • 楠 進(近畿大学医学部神経内科)
  • 飛松 省三(九州大学大学院医学研究院神経生理学分野)
  • 河村 信利(九州大学大学院医学研究院神経内科学分野)
  • 松下 拓也(九州大学大学院医学研究院神経内科学分野)
  • 松瀬 大(九州大学大学院医学研究院神経内科学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,276,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
中枢・末梢連合脱髄症(Combined central and peripheral demyelination、 CCPD)は、中枢神経と末梢神経を侵す希少な難治性脱髄性疾患である.前年度はCCPDの全国臨床調査を行い,またCCPD症例における血清抗neurofascin抗体を,cell-based assay,Rat recombinant NF155 protein ELISAで測定した.本年度はより精度の高い抗体検査法を確立すべく,1) Flow cytometryを用いた抗NF155抗体・抗NF186抗体測定系,2) Human recombinant NF155 proteinを用いたELISA法,について測定を行った.
研究方法
1) Flow cytometryを用いた抗NF155抗体・抗NF186抗体測定系
定性的なcell-based assayよりも情報量が多く多検体の処理が可能な抗NF抗体測定系をflow cytometryを用いて開発した.
Negative controlのHEK293細胞とGFP-NF155発現細胞を1:1で混合し,20倍に希釈したヒト血清と抗原抗体反応を行い,続いて蛍光2次抗体のAlexa 647 anti-human IgG antibodyで二次染色を行った.フローサイトメーターを用いて,染色後の細胞の蛍光強度を測定した.今回はGFP-NF155発現細胞におけるAlexa647の蛍光強度と通常のHEK細胞におけるAlexaa647の蛍光強度の比(ratio)もしくは差(delta)をとって評価した.なお,カットオフ値は健常対照の平均+5SDとした.
2) Human recombinant NF155 proteinを用いたELISA法
より特異的な抗原抗体反応を確認する目的で,抗原をR&D systems社の rat recombinant NF155 proteinからOriGene社のhuman recombinant NF155 protein へ変更してELISA法を施行した.
CCPD 5 例,CIDP 13 例,GBS 12 例,MS 17 例,健常対照 10 例に対してELISA法で抗NF155抗体を測定した.
結果と考察
1) Flow cytometryを用いた抗NF155抗体・抗NF186抗体測定系,2) Human recombinant NF155 proteinを用いたELISA法,の双方ともに複数のCCPD,CIDP,GBS,MS,その他のニューロパチー,健常者を対象に評価した.前年度の結果では,7例のCCPD症例で血清抗neurofascin抗体を測定したところ,陽性率はcell-based assayで71%(5/7),Human recombinant NF155 proteinを用いたELISA法 (cut-off値 0.435)で86% (6/7)であった.しかし,Flow cytometry法を利用して抗NF155抗体を測定した結果,前年度までに報告したCCPD症例で血清が確保できた6例のうち,陽性は2例のみであった.その他の炎症性脱髄性疾患,健常対照はいずれも陰性であった.また,後に新規で測定したCIDP症例で1例陽性となった.抗NF155抗体陽性の2症例はいずれも抗NF186抗体価は陰性であった.Human recombinant NF155 proteinを用いたELISA法では,前年度までに報告したCCPD症例で血清が確保できた5例のうち,陽性は2例にとどまった.残りの3症例は以前のrat recombinant NF155 proteinで測定した際に陽性であった症例であった.陽性の2例はflow cytometry法で陽性を確認した症例であった.その他の炎症性脱髄性疾患,健常対照は1例を除きいずれも陰性であった.
結論
いずれの検査系においても前回抗NF155抗体陽性であった患者の一部は陰性となった.Western blot法の結果を併せると,今回の検査結果が真を得ている可能性が高い.CCPD症例におけるNF155抗体の陽性率は当初考えていたよりも低い可能性がある.上記の測定系において,CCPD症例のみならず,CIDP症例1例でも血清抗NF155抗体が陽性となった.今後はCCPD症例での測定を進めていくとともに,CIDP症例においても測定を行っていく予定である.

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-03-02
更新日
-

文献情報

文献番号
201324093B
報告書区分
総合
研究課題名
中枢・末梢連合脱髄症の診断基準作成と臨床疫学調査の実施による治療指針の確立
課題番号
H24-難治等(難)-一般-055
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
吉良 潤一(国立大学法人九州大学 大学院医学研究院 脳神経病研究施設神経内科学分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
中枢・末梢連合脱髄症(Combined central and peripheral demyelination: CCPD)は,中枢神経と末梢神経を侵す希少な難治性脱髄性疾患であり,原因不明で診断基準も存在しない.私たちはCCPDと考えられる患者で,中枢・末梢神経に共通して存在するneurofascinに対する血清抗体価が極めて高いことを発見した.本研究ではCCPD診断における抗neurofascin抗体の有用性を確認するとともに,CCPDの診断基準を暫定的に定め,全国臨床調査を実施した.また,CCPD症例に対して抗neurofascin抗体を測定し,他の神経疾患と比較するとともに,感度の高い測定方法についても検討する.
研究方法
CCPDの診断基準を暫定的「MRIもしくはVEPで中枢神経に脱髄病巣を有し,末梢神経伝導検査で,脱髄所見を認める症例」と定め,平成19年1月1日から平成23年3月31日の期間にかけて,神経内科医もしくは小児神経専門医を受診し,上記診断基準を満たした症例を対象とした全国アンケート調査を実施した.一次調査の回答率は 50.3% (672/1332)で,施設 41施設において,55症例が確認された.症例を有する施設に,詳細な情報を得るためのアンケート用紙を送付したところ,38施設 (92.7%)から返信があり,結果,52症例 (94.5%)の臨床情報を得た.その後,不適格症例14例を除外し,最終的に38症例で検討した.
抗体測定に関しては,まず最初にCCPD(7例)のほか,CIDP,MS,NMO,GBS,その他の末梢神経疾患,健常者の血清中における抗NF155抗体の陽性率を,Rat recombinant NF155 proteinを用いたELISA法およびcell-based assayで確認した.次にその結果を踏まえ,定性的なcell-based assayよりも情報量が多く多検体の処理が可能な抗NF抗体測定系として,Flow cytometryを用いた抗NF155抗体・抗NF186抗体測定を行った.さらに,より特異的な抗原抗体反応を確認する目的で,Human recombinant NF155 proteinを用いたELISA法による抗体測定を行った.
結果と考察
全国臨床調査では38症例が確認された.発症時の平均年齢は32.3±14.2歳で,男女比は1:2.8であった.初発症状は中枢神経症状,末梢神経症状,同時または連続発症は,それぞれ34%(13/38),45%(17/38),21%(8/38)であった.臨床症状は何らかの筋力低下,感覚障害が約90%で確認され,視力障害を45 %に認めた.髄液蛋白は71 % (27/38)で上昇している一方で,オリゴクロナールバンドの陽性率は7.7%(2/26)にとどまった. MRI上大脳病変は71% (27/38),脊髄病変は74% (28/38)に認めた.治療はステロイドおよび,大量免疫グロブリン療法を中心に行われ,限定的であるが効果を認めた
抗体測定では,7例のCCPD症例で血清抗neurofascin抗体を測定したところ,陽性率はcell-based assayで71%(5/7),Rat recombinant NF155 proteinを用いたELISA86% (6/7)であった.しかし同じCCPD患者群のうち血清の得られた6例でFlow cytometry法を利用して抗NF155抗体を測定した結果,陽性は2例のみであった.また,後に新規で測定したCIDP症例で1例陽性となった.抗NF155抗体陽性の2症例はいずれも抗NF186抗体価は陰性であった.Human recombinant NF155 proteinを用いたELISA法でも,同じCCPD患者群のうち血清が確保できた5例のうち,陽性は2例にとどまった.陽性の2例はflow cytometry法で陽性を確認した症例であった.その他の炎症性脱髄性疾患,健常対照は1例を除きいずれも陰性であった.
以上より,CCPDの臨床像と抗NF155抗体の陽性率を確認した.
結論
全国調査の結果から,CCPD発症にはMSやCIDP,GBSとは異なる病態生理が関連している可能性があり,MSとの治療効果の違いもみられ,CCPDを他疾患と鑑別することは重要である.抗neurofascin抗体はCCPDにおける有用な診断ツールになりうるが,CCPDに占める抗体陽性割合は,当初想定していたよりは低い可能性がある.またCIDP症例での陽性例も確認され,抗neurofascin抗体の意義については引き続き検討が望まれる.明確な診断基準作成には更なる症例の蓄積が必要と考える.

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-03-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201324093C

成果

専門的・学術的観点からの成果
中枢・末梢連合脱髄症(CCPD)暫定診断基準を「① MRI上明らかなT2高信号病巣を脳(白質)もしくは脊髄にみとめる.あるいは視神経にMRIまたは視覚誘発電位(VEP)で異常をみとめる.② 末梢神経伝導検査で脱髄に合致する伝導遅延・伝導ブロック・時間的分散をみとめる.③ 原因疾患が明らかでない.」とし全国臨床疫学調査を行った. その結果,40症例(男11,女29)を確認し臨床的特徴を英文論文にまとめ発表した。
臨床的観点からの成果
平均発症年齢は31.7±14.1 歳,感覚障害,筋力低下を90%以上に,視力低下を約半数でみとめた.髄液蛋白は82.5%の症例で上昇している一方で,オリゴクローナルバンドの陽性率,IgG index上昇率はそれぞれ7.4%,18.5%にとどまった.ステロイド,大量免疫グロブリン静注療法,血漿交換はそれぞれ83.3%,66.7%,87.5%の症例で有効であったが,インターフェロンβの再発予防効果は10%にとどまった.以上のようにCCPDの臨床的特徴を明らかにした。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kawamura N, Yamasaki R, Yonekawa T, et al.
Anti-neurofascin antibody in patients with combined central and peripheral demyelination.
Neurology , 81 (8) , 714-722  (2013)
10.1212/WNL.0b013e3182a1aa9c
原著論文2
Ogata H, Matsuse D, Yamasaki R, et al.
A nationwide survey of combined central and peripheral demyelination in Japan.
J Neurol Neurosurg Psychiatry. , 87 (1) , 29-36  (2016)
10.1136/jnnp-2014-309831
原著論文3


公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
2018-06-11

収支報告書

文献番号
201324093Z