多発性内分泌腫瘍症診療の標準化と患者支援,新たな治療開発に関する研究

文献情報

文献番号
201324091A
報告書区分
総括
研究課題名
多発性内分泌腫瘍症診療の標準化と患者支援,新たな治療開発に関する研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-053
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
櫻井 晃洋(札幌医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 今井 常夫(愛知医科大学 乳腺内分泌外科)
  • 内野 眞也(野口病院 外科)
  • 岡本 高宏(東京女子医科大学 内分泌外科)
  • 小杉 眞司(京都大学大学院医学研究科 健康管理学)
  • 執印 太郎(高知大学医学部 泌尿器科学)
  • 鈴木 眞一(福島県立医科大学 甲状腺内分泌学)
  • 福嶋 義光(信州大学医学部 遺伝医学・予防医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多発性内分泌腫瘍症(MEN)は複数の内分泌臓器に異時性に良性,悪性の腫瘍や機能異常が多発する常染色体優性遺伝性疾患であり,病型からMEN1とMEN2に分類される.本症の原因遺伝子は明らかにされているが,変異によって特定の臓器にのみ病変が発生する理由や一部の病変が悪性化する機序についてはいまだ不明な点が多い.本研究の目的はMENについて,1)実態把握ならびに診断・治療の標準化を実現し,2)患者・家族が不安なく病気と向き合い生活できる医療体制と支援環境を整え,3)根治療法のない本症の克服に向けた研究の基盤を整備する,ことにある.

研究方法
上記研究目的に記載した個々の目標をいくつかのカテゴリーにまとめ,以下に具体的な研究方法を述べる.
①臨床データベースの解析,維持,更新
日本人患者の臨床的特徴と,わが国における診療実態を明らかにするため,先行研究から継続して全国の専門医に,学会や研究班ホームページ (http://men-net.org) を通じて症例登録を依頼する.
②診療指針の作成・公開・改訂
上記データベースで得られた日本人患者特有の臨床所見や海外からの論文報告の内容を反映させた本症の診断指針を作成するため,まず原案を研究班の全員で作成し,さらに日本内分泌学会臨床重要課題委員会による査読を受ける.
③診療ネットワークの充実と可視化
集約的な診療が可能となる「ハブ&スポーク型」ネットワークを構築するため,全国の専門医に本症患者の受け入れ可否を調査する.
④遺伝学的検査と機能解析の実施
日本人患者の遺伝子変異データベースを構築・維持するため,新規登録患者や血縁者に対する遺伝学的検査を引き続き推進する.
⑤生体試料のバンキングと基礎研究の推進
独立行政法人医薬基盤研究所との連携により,患者の生体試料収集を進め,広く研究者に提供する体制を整える.
⑥患者・家族支援,社会への発信
患者会と研究班が共通のホームページを運営し,また意見を共有できるよう,患者・家族会の会員に本研究班の研究協力者としての参加を依頼する.市民向けシンポジウムを開催する.
結果と考察
本研究班ではさまざまな活動を行っているが,その基本にある理念は「ネットワーク」である.稀少疾患の情報を適切に収集・解析し,そこから信頼できるエビデンスを導きだし,すべての医療者が参照できるような標準的医療の形を提示できること,すべての患者が等しく質の高い医療を受けられるようにすること,これらの実現のためには多くの医療者,多くの医療機関が協同するネットワークが不可欠である.
 ネットワークには「情報」のネットワーク,「診療」のネットワーク,「研究」のネットワーク,「人材」のネットワークが想定される.本研究班では,「情報」のネットワークとして,患者データバンクの構築と解析や遺伝学的検査の実施,診療指針の作成を進めてきた.「診療」のネットワークとしては,診療実態調査とともに,地区ごとの診療のハブ&スポーク化を進めている.これはまだ未完成であり,今後完成させる必要がある.「研究」のネットワークとしては,本症の発症機序を明らかにし,有効な治療法,病因に即した有効な治療薬の開発のための基礎研究の推進を目的として,患者から提供された末梢血より細胞株を樹立し,多くの研究者が利用できるようにした.「人材」のネットワークとしては,特に患者・家族のネットワーク化支援をここで強調しておきたい.本研究班では患者調査のほか,患者会の活動の支援,さらに一般市民も対象とした勉強会などを開催し,本症の認知度を高めるよう努めてきた.
 本研究班の活動終了後もこうした活動は継続していく必要があり,基礎研究の推進と両輪のごとく進めていくことによって,将来の本症患者に対するよりよい医療の提供が可能となる.
結論
本研究班では日本内分泌学会をはじめとした関連学会の支援を受け,世界最大級のMEN臨床データベース構築,遺伝子解析の推進を順調に遂行できた.稀少疾患といえども科学的根拠に基づいた診療指針を提示することが重要であり,こうした成果を診断指針や診療ガイドブックに反映させることができた.また本症の啓発を目的としたシンポジウムの開催や患者・家族会との連携など,いずれも順調に推進することができた.今後は患者の経過を長期的に追跡し,長期予後を明らかにしていくとともに,本症の克服に向けた基礎研究に対する支援体制の維持が重要である.

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

文献情報

文献番号
201324091B
報告書区分
総合
研究課題名
多発性内分泌腫瘍症診療の標準化と患者支援,新たな治療開発に関する研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-053
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
櫻井 晃洋(札幌医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 今井 常夫(愛知医科大学 乳腺・内分泌外科)
  • 内野 眞也(野口病院 外科)
  • 岡本 高宏(東京女子医科大学 内分泌外科)
  • 小杉 眞司(京都大学大学院医学研究科 健康管理学)
  • 執印 太郎(高知大学教育研究部医療学系臨床医学部門 泌尿器科学)
  • 鈴木 眞一(福島県立医科大学 甲状腺内分泌学)
  • 福嶋 義光(信州大学 遺伝医学・予防医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多発性内分泌腫瘍症(MEN)は複数の内分泌臓器に異時性に良性,悪性の腫瘍や機能異常が多発する常染色体優性遺伝性疾患であり,病型からMEN1とMEN2に分類される.本症の原因遺伝子は明らかにされているが,変異によって特定の臓器にのみ病変が発生する理由や一部の病変が悪性化する機序についてはいまだ不明な点が多い.本研究の目的はMENについて,1)実態把握ならびに診断・治療の標準化を実現し,2)患者・家族が不安なく病気と向き合い生活できる医療体制と支援環境を整え,3)根治療法のない本症の克服に向けた研究の基盤を整備する.
研究方法
上記研究目的に記載した個々の目標をいくつかのカテゴリーにまとめ,以下に具体的な研究方法を述べる.
①臨床データベースの解析,維持,更新
日本人患者の臨床的特徴と,わが国における診療実態を明らかにするため,先行研究から継続して全国の専門医に,学会や研究班ホームページ (http://men-net.org) を通じて症例登録を依頼する.
②診療指針の作成・公開・改訂
上記データベースで得られた日本人患者特有の臨床所見や海外からの論文報告の内容を反映させた本症の診断指針を作成するため,まず原案を研究班の全員で作成し,さらに日本内分泌学会臨床重要課題委員会による査読を受ける.
③診療ネットワークの充実と可視化
集約的な診療が可能となる「ハブ&スポーク型」ネットワークを構築するため,全国の専門医に本症患者の受け入れ可否を調査する.
④遺伝学的検査と機能解析の実施
日本人患者の遺伝子変異データベースを構築・維持するため,新規登録患者や血縁者に対する遺伝学的検査を引き続き推進する.
⑤生体試料のバンキングと基礎研究の推進
独立行政法人医薬基盤研究所との連携により,患者の生体試料収集を進め,広く研究者に提供する体制を整える.
⑥患者・家族支援,社会への発信
患者会と研究班が共通のホームページを運営し,また意見を共有できるよう,患者・家族会の会員に本研究班の研究協力者としての参加を依頼する.市民向けシンポジウムを開催する.
結果と考察
本研究班ではさまざまな活動を行っているが,その基本にある理念は「ネットワーク」である.稀少疾患の情報を適切に収集・解析し,そこから信頼できるエビデンスを導きだし,すべての医療者が参照できるような標準的医療の形を提示できること,すべての患者が等しく質の高い医療を受けられるようにすること,これらの実現のためには多くの医療者,多くの医療機関が協同するネットワークが不可欠である.
 ネットワークには「情報」のネットワーク,「診療」のネットワーク,「研究」のネットワーク,「人材」のネットワークが想定される.本研究班では,「情報」のネットワークとして,患者データバンクの構築と解析や遺伝学的検査の実施,診療指針の作成を進めてきた.「診療」のネットワークとしては,診療実態調査とともに,地区ごとの診療のハブ&スポーク化を進めている.これはまだ未完成であり,今後完成させる必要がある.「研究」のネットワークとしては,本症の発症機序を明らかにし,有効な治療法,病因に即した有効な治療薬の開発のための基礎研究の推進を目的として,患者から提供された末梢血より細胞株を樹立し,多くの研究者が利用できるようにした.「人材」のネットワークとしては,特に患者・家族のネットワーク化支援をここで強調しておきたい.本研究班では患者調査のほか,患者会の活動の支援,さらに一般市民も対象とした勉強会などを開催し,本症の認知度を高めるよう努めてきた.
 本研究班の活動終了後もこうした活動は継続していく必要があり,基礎研究の推進と両輪のごとく進めていくことによって,将来の本症患者に対するよりよい医療の提供が可能となる.
結論
本研究班では日本内分泌学会をはじめとした関連学会の支援を受け,世界最大級のMEN臨床データベース構築,遺伝子解析の推進を順調に遂行できた.稀少疾患といえども科学的根拠に基づいた診療指針を提示することが重要であり,こうした成果を診断指針や診療ガイドブックに反映させることができた.また本症の啓発を目的としたシンポジウムの開催や患者・家族会との連携など,いずれも順調に推進することができた.今後は患者の経過を長期的に追跡し,長期予後を明らかにしていくとともに,本症の克服に向けた基礎研究に対する支援体制の維持が重要である.

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201324091C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究班では日本内分泌学会をはじめとした関連学会の支援を受け,世界最大級のMEN臨床データベース構築,遺伝子解析の推進を順調に遂行できた.これらを英文学術雑誌に報告した.また患者から提供された試料から細胞株を樹立し,広く研究者に提供できるよう公開した.
臨床的観点からの成果
データベースによって得られた成果をもとに診断指針や重症度分類を作成し,また診療ガイドブックを上梓することができた.また本症の啓発を目的としたシンポジウムの開催や患者・家族会との連携など,いずれも順調に推進することができた.
ガイドライン等の開発
個別の病変から本症を効率的に診断するためのフローチャートを作成,公開した.また客観的な患者ケアの基礎情報を得るための重症度分類を作成した.
その他行政的観点からの成果
本症の診療基盤となる医療機関を地区ごとに設定し,全国を網羅する診療ネットワークの基盤構築を進めた.
その他のインパクト
第36回日本遺伝カウンセリング学会学術集会(2012年6月),第19回日本家族性腫瘍学会学術集会(2013年7月)で市民公開講座を開催した.また患者・家族や一般市民を対象とした「多発性内分泌腫瘍症シンポジウム」を開催した(2013年9月,東京).

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
16件
その他論文(和文)
38件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
60件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
5件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
2018-06-11

収支報告書

文献番号
201324091Z